ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出 作:ミハイル・シュパーギン
角谷は再び椅子に座り込み、5人を見上げた。
「いいだろう、西住くん」
それから角谷は、この世界で起こっている事を再び話し始めたが、その内容は、鏡像世界に迷い込んだあんこうチームにとってはあまりにもショッキングで浮世離れしていた。
サンダース戦を突破した大洗が次に対戦したのは、やはり同じくアンツィオ高校であったが、結成仕立ての大洗の戦力でも豆戦車が数的主力のアンツィオ隊との実力差は歴然で、これを文字通り全滅させ、アンツィオ高校戦車道チームを消滅させたのであった。
アンツィオ高校はかつては強豪だったらしいが、度重なる敗北と戦死者の続出で戦力をすり減らして弱体化しており、今年の全国大会で再起を図っていたらしいが、その夢は最悪の形で結末を迎えたのである。
それから準決勝はプラウダ戦となり、大洗は初めて苦戦する事となる。
包囲され、猛砲撃を浴びて追い詰められ、降伏勧告を受けてあわや敗北に陥りかけたが、みほの機転と優花里・エルヴィンコンビ、及び麻子・園コンビによる破壊工作でプラウダ側の戦車の何両かを故障させて包囲網に穴を開けて脱出を成功させ、大洗のフラッグ車である89式中戦車とその護衛が陽動部隊として敵戦力を引き付けている間、あんこうチームとカバチームが隠れていたフラッグ車を見つけ出し、これを仕留めたのであった。
特にIS-2重戦車の破壊工作は試合に響いたようである。
「どうしてその時は乗員を・・・手にかけなかったのでありますか?」
「プラウダの連中は格闘戦に長けている。しくじれば返り討ちだ。だから戦車の破壊工作に作戦を変更したのさ。出来ればカチューシャを暗殺したかったがね・・・ああ、君達には失言だったかな?」
みほは角谷の質問に取り合わず、
「・・・続けて下さい」
「そうして我々は準決勝を突破し、決勝戦は最強の黒森峰女学園と当たった。正直真正面からでは勝てないと分かっていたから、我々は一計を案じた」
みほの胸がざわついた。
事実上実戦と同じ状況のこの世界で、重戦車運用をする黒森峰を相手に質・量ともに劣る大洗が真っ向勝負を挑めば間違いなくタダでは済まない。
しかしこの世界に迷い込んだ時は、河嶋と小山を除く全メンバーの存在を確認している。
つまり、生き残ったのだ。
「・・・まさか、お姉ちゃんを・・・?」
だが、角谷は首を横に振った。
「いいや。黒森峰は我々の侵入を警戒していた。だから学園艦には潜入出来ない。そこで、試合直前に黒校のメンバーに賄賂を渡す事にしたのだ」
「賄賂・・・お金、ですか?」
「ああ。その中にはエリカ副隊長も含まれていてね。試合中に裏切る事を約束させた。まあその情報をわざと隊長にも漏れるようにしておいて、互いに疑心暗鬼にさせたけどな。おかげで試合開始直後にはもう黒校は同士討ちを演じていて、そこを我々が突いてあっという間に壊滅させた。最後はポルシェティーガーが後ろからフラッグ車に『ズドン!」』と一発撃ち込んで、ゲームセット。我々は晴れて初出場にして初優勝を決めた、というわけ。あとエリカは、西住まほ隊長の手で粛清されたんだって」
「どこが晴れてなのよ・・・」
沙織が吐き捨てるように言ったが、角谷は平然と、
「それがこの世界なのさ。ところで、話を進めるとね、我々が優勝するまでは黒校、プラウダ、サンダース、聖グロの4校が幅を利かせていて、他の高校チームは連中によって好きに蹂躙されていた。だが我々が優勝した事で、状況が一変した」
「仕返しでもあったのか?」
「冷泉くんの言う通りだ。この4校、いわゆる強豪連合は、他の高校生チームを無理やり練習試合や親善試合と称して引っ張り出しては散々痛めつけてきたんだ。でも我々が優勝した事で・・・聖グロを除いてだが・・・強豪連合の権威は失墜した。我々との試合を通じて多数の有能な人材を失い、弱体化もした。それを今まで痛めつけられてきたチームが黙って見過ごす筈がない。共通の憎しみを持つ者同士で徒党を組み、次々と強豪の学園艦に乗り込んで報復攻撃を行ったのだ」
「聞くに堪えないでありますが・・・どうなったのでありますか?」
優花里は耳を塞ぎたい衝動を必死に自制していた。
「おかげで連中は更に人材を失って弱体化し、強豪連中から人材を集めていた大学選抜チームは彼女達を見限り、我々のような新世代から人材を集める事を検討し出した。当然、強豪側が黙っているわけがないよな・・・」
黒森峰、プラウダ、サンダースの3校は連合を組み、自分達の権威を回復しようと、大学選抜チームに戦いを挑んだのである。
しかも、セントグロリアーナ女学院にミカ隊長と副官のアキを殺され、報復の機会を窺っていた継続高校を抱き込んで。
対する大学選抜チームは、自軍に加え聖グロと大洗女子学園を加えた連合チームを組んでいた。
結果は、強豪連合+継続高校の敗北で、しかも継続高校は撤退の為の弾避けにされ、このチームも消滅の危機に晒されたが、辛うじて何名か生き残ったようである。
時間の流れとしては、『元の世界』と類似しているが、内容には多くの相違点があった。
例えば、大洗女子学園が廃校を今度こそ阻止する為に挑んだ対大学選抜チーム戦は、今まで甘い蜜を吸っていた強豪連合による名誉挽回を賭けた戦いであった。
ちゃっかり聖グロが生き残っている辺り、一度も大洗に負けた事が無い『こちら側の聖グロ』を表していると言える。
「この戦いでサンダースはケイ隊長を、プラウダはノンナを失った。我々は河嶋と小山が再起不能に陥ったが、それでも勝利して強豪連合を退けた。それもこちらの世界の西住くんの功労があってね。カール自走臼砲の導入を提案したのは傑作だったな。おかげで強豪連合の戦車隊がまとめて・・・」
「つまり、鏡像世界とは言えど、必ずしも両方の世界で同じ人物が生きているとは限らないという事でしょうか?」
みほが角谷がそれ以上言わないように遮る形で質問した。
「まあ、そういう事だろうな。我々の世界では、文字通り消滅したチームが幾つもある。青師団にアンツィオ、マジノにBC、それに知波単・・・あ、君達の世界は、その言い方だと違うようだね?」
「はい。砲弾についてもどうやら、規格が違うようですし」
「こっちでは通常弾と練習弾に分かれている」
「それはこちらでも同じですが、通常弾には殺傷能力があるようですね」
「君達の方は違うと?」
「はい。その為の規格が厳守されています。それに戦車の内部はカーボンで保護されていて、そうやって二重に安全措置が施されています」
「カーボンならうちらの戦車もそうなってるよ。練習弾を貫通させないようにね」
「西住殿」
優花里が横から所見を述べる。「どうやら我々の世界の通常弾と練習弾の威力が、一段階違うような印象を受けたであります」
「うん。私もそう思った」
「ははーん。君達の世界における通常弾は、我々の世界での練習弾という事なのか」
「変なところでキッチリしているんだな」
「練習で死者を出し合っていたら幾ら生徒がいても足りないよ」
相変わらず恐ろしい事を軽く言ってのける角谷に、麻子は皮肉を言う。
「鏡像の鏡を、狂ったの『狂』に差し替えるのがお似合いだな」
すると角谷は、大口を開けて豪快に笑った。
「なるほどうまいね!さすがは学園の首席!」
それから角谷は話題を変える。「じゃあ、十分に実感が湧いたところで、元の世界に帰る方法について話そっか」
続く