ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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サンダース、プラウダ、黒森峰が登場します。


憎悪の醸成

「本当にうまくいくでしょうか?」

 

不安そうに眉根を寄せる優花里に、みほも物憂げに顎を引く。

あれから会長室を退室した5人は車庫に向かっていた。

 

「今日の練習中に爆発を再現してみよう。私はヘッツァーを単独運用する訓練という名目で出る」

 

角谷はそう言った。

あの爆発の再現を行えば、自分達を元の世界に送り返せる筈だと言うのだ。

鏡像世界であれば、今頃『そちらの世界』の角谷も同じ結論に至り、送り返す作戦に移っていると思われ、全く同じタイミングで入れ替わる筈だ、と。

 

「正直、分からない」

 

と、みほはゆっくりと言った。「でも、ここから脱出しないといけないのは、確かだね」

 

「何かピースが1つ抜けているような気がするが・・・」

 

麻子が言った。「とりあえずやってみよう。問題があるなら、その時に修正すればいいだけだ」

 

「冷泉さんって本当、落ち着いていますねえ」

 

華が感心しながら言うと、麻子も

 

「華さんも意外と腰が据わっている。あとは沙織が騒ぎ立てなければ完璧だ」

「なんとか頑張るから」

 

ポルシェティーガーの車庫前を通り過ぎようとすると、自動車部のナカジマがこちらに気付いて走り出て来た。

 

「待って下さい隊長!」

「ん?」

 

みほ達が立ち止まると、ナカジマは敬礼して

 

「大洗に栄光あれ!」

「あ、うん」

 

あんこうチームも合わせて答礼してから、みほは「どうしたの?」

 

「お待ちかねの劣化ウラン弾がやっと完成したんです!夜通し頑張りましたよ!」

 

みほは演技に徹する事にした。

並行時空の人物が相手とは言え、親しいチームメイトにこのような態度を取るのは気が進まなかったが、選択の余地は無い。

 

「ご苦労様。で、その後の進捗は?」

「今日中に生産ラインに乗せられると思います。ただ・・・数には限りがあるので、それだけはご了承願いたく・・・」

 

ナカジマが遠慮がちに頭をカキカキしながら、上目遣いでこちらを見る。

 

「いえ、まずは完成して良かったです。引き続き、作業を頑張って下さい」

「隊長」

「なんでしょう?」

「あの時ペナルティを免除してくれたのは、チャンスを与えてくれたからですよね?」

 

昨日の出来事か、とみほは瞬時に察すると、

 

「ええ。貴重な人材ですからね。やれば出来るじゃないですか。これからも期待していますよ」

「はい。自動車部にお任せ下さい!」

 

みほ達が立ち去ると、ポルシェティーガーの陰からウサギチームが顔をのぞかせた。

澤にはまだ拷問のダメージによる疲労が顔に残っていたが、執念が彼女の両足に力を与えていた。

 

5人が戻って来る様子の無い事を今一度確かめると、ナカジマは車庫に戻り、

 

「で、約束の・・・」

「はい、どうぞ」

 

澤が左手に持っていた、中身に厚みがある茶封筒をナカジマに差し出すと、スズキ、ホシノ、ツチヤが一斉に声を上げた。

ナカジマが代表して受け取り、中身を覗き込むと、他の自動車部の3人も互いに頭をぶつけながら中身を見て顔を輝かせた。

 

「よっし。こっちも約束を果たさないとね」

「何発積み込めますか?」

「75mm砲用が2発。37mm砲は間に合わなかったよ」

「それで構いません。弾頭を練習弾の帯にするのを忘れないで下さい」

「もちのろん!分かってるよ!」

 

ナカジマは台車の上に寝かせてある劣化ウラン弾を右手のスパナで振って示しながら言った。

 

 

 

その頃、下が海原のどこか上空を、サンダース高校の校章をペイントしたC-5Mスーパーギャラクシー輸送機が飛行していた。

貨物室には、サンダースの他にプラウダと黒森峰の戦車が収容されており、それぞれがパレットの上で固定されている。

 

「あーもう、うろちょろされたら集中出来ないんですけどお!?」

 

苛立たし気に機長席から振り向いてプラウダ高校チーム隊長のカチューシャを睨みつけたのは、サンダースの現隊長のアリサだった。

カチューシャはコクピット内で後ろ手に組みながら、カツカツ足音を立てて前後を行ったり来たりしていたのだった。

 

カチューシャもアリサを睨み返す。

 

「このカチューシャ様が何しようと勝手でしょ!?」

「あんた、どこの飛行機に乗せて貰ってると思ってんのよ?今すぐ下りて貰ってもいいですかあ?ちびっ子八重歯!」

 

カチューシャの顔が怒りでみるみる紅潮し、アリサに向かって右の人差し指を突き付けた。

 

「このカチューシャ様にそんな口を利くなんて!立場をわきまえるのはそっちよ!」

「へえ?大学選抜との試合で真っ先に逃げ出したのはどこの誰でしたっけ?」

「うるさいわね!あんたの隊長が引き際を見誤ったのよ!」

「その妄言を今すぐ撤回しろ!この生意気チビガキめが!」

「なんですって!?」

 

カチューシャがアリサに詰め寄ろうとした瞬間、後ろから子供目線に膝を屈めた現副隊長のクラーラが両肩に手を乗せてそっと引き留めた。

 

「カチューシャ様。今は大洗が相手です。目的は西住みほの首・・・そうですよね?」

 

クラーラの手の力が僅かにかかり、カチューシャは何度も荒々しい深呼吸で自制心を総動員した。

やがて体から力を抜くとクラーラに向き直り、静かな口調で

 

「・・・ノンナの仇を取るわよ」

 

クラーラはカチューシャの視線を受け止め、頷いた。

 

「はい、カチューシャ様」

「あいつが泣いて土下座しても、絶対許さないから・・・!」

 

その様子を見ていたアリサも、悲し気に目を伏せながら、

 

「ノンナの事は・・・気の毒だったわ」

 

カチューシャは肩越しに、

 

「あんたの名砲手よりはまだマシよ。戦場で散れたのだから・・・そっちの方は・・・」

 

アリサの両目に憤怒と憎悪の炎がめらめらと激しく燃え上がり、煮えたぎった鍋のような口調で

 

「・・・あの隊長、なぶり殺しにしてやる・・・!」

 

その時、

 

「みほに止めを刺すのは私だ」

 

黒森峰女学園チーム隊長の西住まほだった。

柳生十兵衛の如く左目に黒の眼帯をしているが、それが威厳のアクセントを与えている。

 

「それが事前に決めた取り決めの筈だぞ」

 

アリサが薄ら笑いを浮かべてまほを見返し、

 

「それって、実の妹だから、せめてもの情けって事かしら?」

「こっちにはあいつに仕返しする当然の理由があるのよ!?あっさりと息の根を止めようだなんて・・・!」

 

カチューシャも鼻息荒く言い返すが、

 

「お前達がみほをどう扱おうと勝手だが、最後は私の前に生きたまま引きずり出せ。ハッキリと、意識を保った状態でな」

 

すると、アリサとカチューシャが残酷な笑みで互いに顔を見合わせた。

 

「そ、そうね!それでいいのよ!」

「輸血してでも生かしておかなきゃねえ・・・」

「カチューシャ様。あと1時間です」

 

クラーラが腕時計の表示を確かめながらそう言った。

 

 

 

続く

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