清廉で美しい天使の騎士が、剣を構えて告げた。
「終わりです。ハートモンワールドの扉は、今年も守られる」
「クククッ 俺達に倒せねぇハートモンなんていねぇんだよ」
巻物を周囲に浮かばせた、美しいローブと靴、帽子が見えない口で嗤う。
追い詰められた竜は、血を吐くかのように叫んだ。
「くっ 絶対正義の勇者、夏油傑! パーフェクトヒーロー、繰屋 匠!!」
「ダークドラゴモンっ」
「下がってろ、灯里!」
「止めだ、アークエンジェモン! ホーリーキャノン!」
「行け! マジカルグレイモン! マジカルキャノン!」
「「トドメ!! 絆バースト!! ハートキャノン!!!」」
少年二人の命により、2体のモンスターは必殺技を放った。
そうして、竜は吹き飛ばされて卵になる。
「ダークドラゴモン!!」
「お姉さん。貴方が、何を思って世界の滅亡に手を貸そうとしたのかはわからない。でも、世界って多分、そんなに捨てたものではないよ」
「貴方達に何がわかるのよ!!」
「わからない。だから、話そう」
「俺ら勇者だからね。助けるよ」
手を伸ばすと、躊躇の後、お姉さんは私の手を取った。
夢を見た。
随分と懐かしい夢だ。
「懐かしいな……」
小さい頃の、想像力がなせる大冒険である。
匠は……猿だから、関係はないか。
幸せな気分で、ニュースを見る。
『大変ですっ 首都上空に、巨大な浮遊大陸とてもいうべきものが現れました!! 多数の竜のような物が飛び交っています!』
ぶーっ!!!
「せ、世界の終わりだ!?」
「……カメラに映っているってことは、呪術ではなさそうねぇ」
「夏油様なら楽勝だし!」
「そうだよ、夏油様ならエイリアンだってやっつけられるよ」
「ええ……。ええ……!?」
テレビに齧り付いて見る。
どう見ても子供の頃に戦ったハートモンワールドの扉が全開だった。
今代の勇者が負けてしまったのだ。
夏油の頭に、セピア色に塗ったまま忘れていた記憶が溢れ出す。
「寝よう。まだ夢を見てるみたいだし」
「傑ちゃん、気持ちはわかるけど、これ現実よ?」
「はっはっは。そんなまさか。私は寝る」
「お言葉ですが、夏油様。こんな時こそ猿共に説法すべきです」
「それは」
話していると、空間に穴が空いて、某竜の任務のゲームに出てくるスライムのような、超有名落ちものパズルに出てくるぷよっとした生き物のような、まあるいぷよぷよっとしたものが夏油に体当たりを仕掛けた。
「すぐるー!」
「スラモン!?」
「呪霊!?」
「違うようですね」
「えっ 夏油様知り合い?」
「おやぬいぐるみが落ちた」
無理筋だ、と思ったが、夏油傑は押し切った。
「ぬいぐるみ?」「そう、ぬいぐるみ。最初から私が持っていたぬいぐるみ。そういうことで私は寝るよ」
そうして、私は寝室にスラモンを拉致して鍵をかけた。
「どうしたんだ、スラモン! 今代の選ばれし子供達は!?」
「負けた……。今こそ、君の力が必要なんだ、歴代最強の勇者、絶対正義の勇者、夏油 傑!」
「やめろ!? 希望の力なんてもう持ってないぞ!? そもそも、モンスターを進化させられるのは子供だけだろ!!」
ハートモンは、子供の未来を信じる心によって進化する。
今の夏油傑にそれをしろというのは酷で無理な話だった。
「君なら出来る! 絶対正義の勇者、夏油 傑!」
「だからやめろ! そういうのは悟に言えよ!」
「誰だよそれ! 僕のパートナーは、君だけだ、夏油 傑! そして世界を救えるのは、君と匠だけだ!!」
激昂してプルプルと震えるスラモン。
「〜〜っ そういうのは学生時代に卒業してんだよねぇ……!」
「今、歴代の勇者を歴代のパートナーモンスターが迎えに行ってる。急いで結界を張らないとなんだ。行こう、すぐる!」
「私は行かない……! 行けないよ」
「すぐる!」
「私はもう、あの頃のキラキラしてた生き物じゃないんだ……!」
「すぐる!」
そこで、夏油はあえてにこりと笑った。
「私は、両親を殺した。沢山の人を殺したんだ。これからも殺す。その果てに、選ばれし者だけの楽園を作る」
「え?」
「言ったろ。変わったんだ。昔友だった情けで、今は殺さないであげる。行きな」
スラモンは、叫んだ。
「見くびるな! すぐるが傷ついたのなんて、わかる! 僕は君のパートナーで、ハートモンスターだぞ! それで、君の中に、大切に隠した清らかな想いの欠片が残っているのもわかる! 君は戦える! 必要なんだ! 君が!!」
「ふざけるなよ。私は二度と君とハートコネクトなんてしない」
「すぐる……」
「帰ってくれ」
「すぐる。悪かったよ。でも、この世界が終わるなら、最後の時は君といたい。ずっと、ずっと会いたかった。君を思わない瞬間なんてなかったよ。僕をそばに置いて」
「スラモン……」
「君がつけた名前で呼んでよ」
「……ミライ。私は君を忘れていたよ」
「すぐる」
「それに、私といれば辛いものを見るよ」
「それでも君についていく」
夏油は、戸惑いがちにスラモンを抱きしめた。
そして、深い深いため息をついた。
ドアの前には気配がたくさん。
これ、説明しないって無理だろうなぁ……。
でも、火が出るほど恥ずかしい過去なのである。
子供の頃、異世界で勇者やってたなんて言えるはずがない。