兄上die好きマジカル・アレックス
私の意識が覚醒した時に心を満たしていたのは無力感だった。自分を自覚した途端、水の中に溶けていくような感覚に溺れていく。
アレックス・ウェスカーとは何だ?
この世界に与える影響力とでも言うのか、このアレックス・ウェスカーである自分の未来を知ってしまうと何とも情けなく、そして醜いと感じた。ウェスカーとして優れている自分…今の私、この世界を一種のアニメーションと認識できていた別世界の誰かの記憶を基に再構築された私。果たして私は誰なのか答えのない式に何の意味もない。ああ、まだこの時期の私は他のウェスカーについて知らなかった筈だ。記憶とは度し難い。魂、転生?そんな非科学的な事柄なんて不要だ。今の私を構築したのは記憶でしかないのだから。
アレックス・ウェスカーは何を求めていた?
ウェスカー計画によって生み出された怪物か?オズウェル・E・スペンサーという寄生虫の企みのままに行動する道具か?それとも寄生虫同様に不死を望んだ同類か?どれも事実とは笑えてくる傑作だよ本当に…‥だから変わるとしよう。身も心も変身しようじゃないか。記憶の中に説明不能な力とこの世界での情報は入っている。ウィルスも機材があれば生産できない物はない。基があるならアレックス・ウェスカーでは辿り着かない何かに変身するとしよう。今までを黒に例えるなら白に変えてみるのも悪くない。覚悟とは精神から成り立つもの、今の私は朧げな記憶から構成されたロジカルから外れし者…私を表すならマジカル。
「マジカル・アレックスとでも名乗ろうか」
アンブレラ。傘の意味を持つ製薬会社を知らない者はいない。人々の健康を庇護する社訓を持つこの会社。事実としてアンブレラ社が開発した商品の数々は他企業の物とは比べようがないほど性能が良く、お手頃価格。ラインナップも充実しており、市民の声も良好ときた。こんな凄い品々を作るには多くの企業努力が必要なのは明白。治験はいつでも大歓迎されているのはラクーンシティでは有名だ。日々の研究を欠かさないアンブレラの研究者は普段どんな思いで研究しているのだろう?きっと優しい気持ちで私達市民の健康を守ろうと必死で頑張っているのだろう。だってCMで言ってた。
---
--
-
規律
アンブレラ社の考えに従ってください
服従
アンブレラ社に逆らわないでください
忠誠
アンブレラ社を裏切らないでください
これらの事はアンブレラ社の「法」です。絶対守ってください。 by ジェームス・マーカス
上記の法を理解し、納得の上で契約書にサインしてください。同意して頂いたのを確認の上で幹部候補とさせて頂きます。
*サインしない場合・納得されない場合は法に従い行動させて頂きます。
「実に非効率な雇用内容だ」
アンブレラ社の実態はブラック企業すらも素足で逃げ出すドス黒い何かだった。同意なく人体実験は当たり前、同意があっても追加(同意なし)の実験も当たり前、長時間労働?結果が出てないのだから当然じゃろ?そういえばお前、成果出してないよね?明日からお前が被験者だ。これは酷い。忠誠どころかこんなクソ以下の肥溜めに集る奴らなんて同じクソしかいない。こんなだから裏切りが続出するのだ。実力だけを重視すると言えば聞こえはいいのかもしれない。だがその実力を向けさせる方針を示さず、恐怖による束縛のみで後は好きにしろで終わりだ。最終的に法なんて守るような連中が残るはずない。そもそもスペンサーに人をまとめ上げる才が無い。自らの手足となる者達を使ってなり上がったにも関わらず、その手足を自らの手で切り捨てていくのだから破滅しか訪れないのも必然だろう。
幹部育成所。そこで教養を学んでいるマジカル・アレックス。しかし、ここで学ぶ事に意味を見出せないでいた。マジカル的な力で知識は既に獲得しているからだ。この世界の終りの始まりの場だからこそアンブレラ社にいるが、滅ぶべくして滅ぶとはこの事かと思い知らされる。あのスペンサーという寄生虫は自分以外はどうでもいいのだろう。会社も人もウィルスも、自らを不老不死にするための道具でしかないのだから。記憶がある故にその行動理由を推察できるからこそのイライラが募る。未来の自分も病による焦りもあっただろうが、同じ穴の狢でしかなかった。だが今は違う。
(私ならもっと効率的にやれる)
奴の理解はできる。その事実もイライラを増長させる要因であり同時に非生産的な行動の数々に心の中でツッコミを入れていた。つまり自分なら不老不死RTAを完遂でき、タイムも縮められると考えているのだ。
(奴からアンブレラ社をむしり取るのも一興か)
マジカルな力を持つマジカル・アレックスはマジカル的発想で物事を決める。この世界のオーバーシアの視点を手に入れた彼女は自らを『白』になると決めた。ならば、この世界において真っ黒なアンブレラを真っ白に変えるのも必然である。だが頑固な汚れが目立つこの製薬会社をどうするか。自らの力に自信しかないが限界はある。ならば協力者を求めるのも必然であり、協力者に関してもマジカルな記憶ですぐにスカウトに行ける環境なのだから即行動である。
退屈な講義を受け流しつつ、一部の者しか入れない研究室に侵入する。
「これが私が開発したマジカル・ステッキだ。ここのボタンを押すと注射針、ここを捻ると」
「…何をしている。ここに入室許可は出していないぞ、アレックス」
「マジカル・アレックスです。マーカス博士」
「貴様の趣味に関してはどうでもいい。だが、私の子ども達に何を教えてるんだ!」
ケースの中でうねうねと興味深そうにマジカル・アレックスの事を観察しているように動いている『ヒル』に対して並々ならぬ思いを持っているジェームス・マーカス博士。勿論その事は知っている。しかし、スカウトしたいのはこの『ヒル』達なのだ。正確にはもっと賢くなった個体だが、今の思考が幼い内に私を記憶として刷り込めば後に楽ができる。故に時間の合間にマジカル・アレックスと協力するメリットを説明しているのだ。今現在私に対し苦言を呟いているマーカス博士を救う為と一言入れながら、そう遠くない未来で私に協力してほしいと。ハッキリ言って、マーカス博士自体に興味はさほどない。Tウィルスを開発した能力は認める。だが他者を信用せず自らのヒル達しか実質信用していない現状、スカウトするデメリットの方が目立つ。それに真っ白な社風を目指す都合上、今のままのマーカス博士では無理だと理解しているからだ。
はぁ。と内心で息を吐きながら呟いた。
「マーカス博士はジェームズ・マーカス博士になりませんか?」
「貴様の意味がわからん思考はどこから来るのだね。その服装も同年代の幼子であるまいし、論理的に行動したまえ。君の歳で幹部候補になるのは異例ではあるが、見合った実力を示した故なのだぞ」
「私の服装に関してはマジカル・アレックス故に着なければならないからです。私の思考、私の意味、私の存在、私という器を示すのに相応しい服装かと思っています」
心底理解できない。そう顔に、言動全てに表現しながら目の前の問題児である少女を見た。マーカス博士は目の前のフリフリした衣装とでも表現すべきか、未来で魔法少女と呼ばれる格好をしたアレックス・ウェスカー(7歳)を見て思う。どうしてこうなったと。
ジェームス・マーカスは期待していた。ある日スペンサーに届いた薬を調べた時から未知への探求心をくすぐられていた。スペンサーとは反り合わない状態になりつつあるが、直接会う機会はある。若い頃の顔で出迎えられた時は久しく驚愕したものだ。スペンサーの伝手から送られて来た薬は短い間ではあるが、細胞を若返らせる。正確には塗布した使用者の細胞に入り込みDNAを参考に20代頃の細胞に変質するウィルスであったが…どっちにしろ未知の薬、未知の処方によりできた奇跡の薬としか表現できなかった。
どこの誰が開発したのか。マーカスは急かすように問いた。その時はまるで昔の学生の頃に戻ったかのようなやり取りをしていた。互いに信用していない関係になりつつあったが、たった一つの出来事からまた近づくことができていた。
アレックス・ウェスカー。まだ7歳という若さで奇跡の薬を作った存在。ありえない。そう考えるのも当然だった、奇跡の薬を調べてわかった事だがこの薬のウィルスDNA情報は似ていた、似すぎていた。まだ実験段階だった『太陽の階段』と呼ばれる花のDNAを複製したとしか言えない程に。
何なのだこれは…あり得ない、あり得てたまるか…何度同じ事を思考したのを忘れるほど未知の存在に挑み続けた。この薬を調べれば調べるほど奥が深い、いや深淵に近いと言えるほどの存在なのだ。まるで教本に近い完成形、ウィルスにプログラムを入れているがごとく組み込まれている遺伝子配列、その配列を操作するために混ぜ込まれた薬品の数々。解析しきれない程の種類が混ざり合いながらも有益な効果しか現れないようにしている手腕。長年の研究者としてのプライドから認めたくない気持ちはあるが、心の底から完敗と思い知らされた。同時に是非ともその力を我が子ども達に与えたいとも考えた。太陽の階段から抽出したDNAを我が子に与え、知性という進化の兆しが見え出していた時の出来事だ。更なる期待を持ちつつ、その少女が我がアークレイ研究所に来ることを楽しみにしていた。
「マジカル・アレックスです。これから世話になります」
出会った直後に思った事は何かの間違いじゃないかと本気で考えていた。独特な服装をしながら、アレックス曰くマジカル・ステッキと言う名の多目的仕込み杖を持ちながら語りかけてくる存在があの薬を作った?それこそ何の冗談だと思いたかった。
アレックス・ウェスカーについて資料を読んだが、意図的に情報操作をされている節があった。スペンサーが関与しているのに感づいた後は生い立ちに対して追及はしていない。しかし、重度の妄想障害らしき言動が見られるとあったが研究に支障が出ないならどうでもいいと深く考えなかった。ここまで重度だと知らなければ・・・最近は我が子ども達に興味を示したのか、自らの趣味を押し付けようとしている。悪影響を与えるなと注意しているが効果が無いため問題児をどうするか考えている。
アレックスは優秀だ。その知識、その思考能力、その在り方…己はあくまで研究者であると同時に探究者であるとし、人間性も明るく他の候補生と歳の差がありながら共生できるほど信頼関係を築いている。あの服装や言動に対しても幼子であるからと追及が少ないのも要因かもしれないが。
DNAの研究。特にあのウィルスに対して奴の知識は異常な程に回る。例の奇跡の薬を改良し、難病の一つ『筋ジストロフィー症』の特効薬を開発してしまった。本来はその用途の為に開発したそうだが…奴は特効薬の話をするたびに私の事を見ながら難病に苦しむ人の為に薬を作る気はあるかと聞いてくる。何を思って聞いてくるのかは理解できないが、結果と過程の相互関係を理解しているだろうに。己の利益を他者の為に使うと考える輩はいない。利用し終わった、あるいは用途がなくなった故に他者が使用しだし評価される。その繰り返しで世界は回っている。言葉にせずとも私の事を理解し、奴はそれ以上の追及をしてこない…奴が来て数週間経っているが何を期待しているのか未だにわかっていない。
『うん?研究が行き詰まったのか。ああ…この遺伝子にAの遺伝子を加えて見たら違う結果が出るんじゃないか。大丈夫だ、貴方は進んでいる。研究とは未知への挑戦だ。どんな結果が出ても間違いはない。自分を信じられないなら、このマジカル・アレックスを信じて進めばいい』
『貴方の息子が私が開発した薬で助かったのなら開発した意味があった。ありがとう。どうして感謝をだと?一人の未来がたった一つの薬で助かった。その一つの薬に意味を与えてくれたからだ。貴方も新たな意味ある薬を開発してくれることを願っているよ』
他の候補生との出来事を観察していれば分かる事だ。自分を信じ、相手を信じる。実に簡単で平凡な感性…いや、感性は子どもか?だが知識は測りしえない。実にミスマッチな存在、それがアレックス・ウェスカーだ。その人柄故なのか、候補生が奴に頼る事が目に入るようになった。まるで縋るように…研究者として他者頼りはどうなのだと思わなくはないが答えを話すと言えばいいのか…奴の言葉は真実を話す。疑問も悩みも、時には雑学的考えも。宗教家の語りのように頭に浸透する一種の洗脳に近い答え。何故奴の言葉にここまで思いを感じるのか…
「マーカス博士。会いたい人物がいるのですが、助力は可能ですか」
「誰に会う気だ。その変な動きを止めろ子ども達が見ている!何で事あるごとに棒を回しながらウィンクするのだ!」
唐突に発言するのも奴の癖だ。その癖で利益が出ているのだから発言内容は基本協力する。奴が来てからウィルス研究が飛躍的な速度で加速している現状、下手に止めた方がデメリットが大きいと理解した故だ。ストレスから逃れる為ではない。
「アレクサンダー・アシュフォード氏に招待状でも書いて頂ければ幸いです」
「アシュフォード・・・確かに奴もウィルス研究をしている。だが…貴様の方が優れている。会ったところで得られるものは無い」
「確か、遺伝子学専攻だとか。私がこれから作る未来のアクセントをこれから生み出すと感じましたので」
これだ。まるで未来を感じとる…知っているかのように動くのだ。普段の言動もだが、得体が知れない何かと相対している気分になる。アレックスが子どもの思考で行動していると割り切れればここまで関心も持たなかった。言動から歳相応な行動をする中で見せる一手、その一手により我々は前に進む。そう確信させる何かを目の前の存在から感じ取っている。
「…アシュフォードについてどこまで知っている」
「エドワード・アシュフォード氏がアンブレラ設立と同時に事故に合い死去。受け継ぐ形でアレクサンダー氏が現、アシュフォード家を」
「そこではない。奴が進めている研究についてだ」
奴の研究について話すのはアレックスにとっても驚く程の出来事だったらしい。奴の研究について知らないと思われていたのか、少しだけだが鼻を明かす事ができて内心ほくそ笑んだ。
アシュフォード家は衰退する。
自らの無能に嘆きながらも父、先代当主エドワード・アシュフォードのように偉大なる存在になりたいと努力してきた。だが駄目だった。家督を継ぐ器ではないと自身で理解していたことであるが、一つまた一つと積み上げてきた物が人が崩れ落ちていく。
アシュフォード家の栄光を維持できない。
自分は無能だ。なら有能な人物に助けを求めればいい。では誰に。アンブレラに頼るか?信用?信頼?今の私にあるわけない。それに貴族としてアシュフォード家として、私の意思として認められない。ならば…代々家督を継がせる基を築いた…初代当主ベロニカに頼るしか道は無い。
アシュフォード家を一から作り直してもらう。
クローン技術を使用すれば可能だ。残っていた遺伝子から復元すれば優秀な子が産まれる。自分という劣勢遺伝子の部分を受け継がせない。完璧な我が子に家督を継がせ、自分は我が子が育つまでアシュフォード家を存続するのに人生を費やせば完璧だ。
それが、私にできる…私の役目だ
☆
車の中で一人の少女が誰にも聞こえない程の呟きで思いを述べた。
「一世一代の博打に勝利した結果、全てが文字通り吹っ飛ぶか…手に余る力には手を出さないに限る」
(私が言えた義理じゃないか)
マジカル・アレックスはマーカス博士の紹介でアシュフォード島に来ていた。アレキサンダー・アシュフォードからも歓迎の意を込められた手紙を頂いた。
手紙の内容は陳腐な文章、辺りざわりの無い文面から、こちらと仲良くして援助を受けたい意思が透けて見える。お前仮にも貴族じゃないのか?プライドないのか?こんなに内をさらけ出していいのか?内なる思いを押し殺し思考する…マジカルな記憶はあくまで記憶。その都度更新していかなければ足元を掬われる。自分自身がイレギュラーなのは自覚しているし、これからさらに起こりうる事柄を対処する上で今回の出会いは重要だ。
(無能な貴族を無能な父親にしなければならない。その為にも遺伝子に細工する必要もあるか…あの性格は環境故か、元からかは不明だがな。)
マジカル・アレックスのスカウト候補の一人が約一年後に誕生する。その前にスカウトする際の大本の問題を解決に来ていた。スカウトするのはベロニカ・アシュフォードであり、アレクシア・アシュフォードその人である。
アレクシア・アシュフォード。彼女を表すなら世を知らないクソガキだ。11歳で父親にウィルスを打つように誘導し、同時に産まれた兄弟も奴隷として洗脳。挙句の果てに10年そこらで神になった気でいて世界掌握を目指す為に冷凍睡眠に入る。そして15年後に目覚め、我が兄に『バ、バケモノが!』と言わせるだけの存在に至る。己が望んだ姿じゃなかったようだが、なるほど、我が兄に花を添えるなんて素晴らしい。その左頰を殴り飛ばしてやりたいぐらいよ。
(我が兄の今後も考えてやらねばならないか…究極のラスボス…くくっ良いかもしれないな。盛大な舞台を用意して華々しく散らす。ああ、アルバート…貴方はどう動くのか楽しみよ)
そこでふと閃いた・・・兄上のヒロイン枠にすればいいじゃないかと…兄上は幹部候補時代には結婚?公式にしていないだろうが子がいるはず、しかしヒロイン枠がいないラスボスなれるほどの器ではないと私は知ってる。だって兄上だからな、兄上の事はよく知っている。突き抜けた悪になり切れない男、それが兄上でありアルバートの限界…だから押してあげる、マジカルな私が気づかれない程度にそっとね。
(ではそうだな…DNAに刻めばいいか、兄上のDNA情報は知ってるし)
「ようこそ…噂はよく耳に」
「世事は結構、私が会いたいのは貴方のお子さんですので」
「!?い、いえ私に子は」
…これは酷い、顔に出すな…それでよく、ああだからお前は無能なのか。話はすぐに進む、こんな無能は消したくなるが、父親ぐらいはいた方がいいだろうと思い止める。私達に父親はいなかったからな・・・うん?どっちにしろ殺してるからいらないか?どうでもいいか。
隠し扉を進むと試験管の山。その中央に卵子らしき物が浮かぶカプセルがあった…近くには研究員数名、それと無能が一人…よし、やるか。我がマジカル・ステッキの持ち手を捻る…そして怪しまれないよう、周りをウロチョロ…そしたらあら不思議、マジカル催眠奴隷の出来上がり。
「補充が手間だが、やはりガスタイプは便利だ」
私には効かない即効性の催眠ガス、正確には意識を混濁状態にして暗示を入れる為の物だが。
「さて…アレクシアよ、お前の運命の人を教えてやる。ありがたく思え」
試験管の存在は言葉を受け…僅かに鼓動を響かせた
アルバート・ウェスカー…愛され刑に処す