1991年…ソ連の構成国であった東欧の小国は経済崩壊は秒読みと先立って独立に手を上げた。しかし、アンブレラの介入により持ち直してしまい、ソ連本土より襲来するソ連軍に蹂躙されていた。一種の見せしめとして蹂躙の手を緩めないソ連軍の猛攻に何とか耐えている状態である。
土煙が舞う戦場。銃声が響き、罵倒と悲鳴が辺りを包む。民衆は逃げまどい、国境に向けて歩みを止めない、止めてはならないと一人、また一人難民として逃げていく。その者達が無事に逃げてくれたことを願いながら、祖国を守るために最後まで戦う戦士達がいた。
撃ち方始め!
戦場の中心で華麗な姿を出しながら、泥で化粧をする女性が一人いた。号令を聞いた部下達がAKの引き金を引く。四角からの奇襲により多くの敵を排除できたことも束の間、また次の敵兵が来る。彼女達にとって日常になりつつある光景だった。
ソ連は諦めない、認めない。小国にやられるなんて認められない…こちらからの停戦合意を無視するだけでなく、無条件降伏以外認めない。この戦いは永遠に終わらないかもしれない、そんな不安を抱えながらも今日も引き金を引くしかない。
隊長の女性は周りを見る。歴史を感じるレンガ造りの町並みは最早ない、爆撃、戦車の砲による倒壊…まだ残っている教会が祖国に残る者達にとっての拠り所といった状態だ。
この国はもうお終いだ
何度も聞いた言葉だ。家族が友人が知り合いが、あの世に先んじて行ってしまった。実に不愉快な感情が心に残る、耳障りとも言えるかもしれない言葉の羅列。火薬の臭い、血の臭い、人が焼けた匂い、あまりの臭いに彼女の嗅覚は曲がってしまった。いや違う、戦士として完成してしまった。
第一に考えるのは、祖国の繁栄と継続
彼女にとって優先することは祖国の事だけだった。自らが血で汚れているのは百も承知、だからこそ祖国の為に屍となった同士の為に進まねばならない。彼女を動かすのは一種の妄信、突き進んだその先を見据え、今を感じる心に蓋をした。
誰も助けてくれないのなら、自分達で勝ち取るしかない
心折れた者達がいた。泣き崩れる者達がいた。復讐に燃える者達がいた。それらの者達をまとめ上げる人物が必要となった時、彼女は兵士として、戦士として、教官として動いていた。
「ベリコバ教官!東防衛線からの通信が」
「詳細な情報を報告しろ!敵は、今度は戦車か何師団来た!」
志願する者達に武器を配り、動きを教え、人を殺す意味を与えた。そうすることが祖国継続の意味になると信じて。
…ッギャァァァァーーバケモノ!?だ、誰か!…
銃撃の音を最後に無線からの通信が途絶えた。幻覚剤でも盛られたのか、ソ連ならば毒ガスの一つや二つは使用する可能性も視野に入れて動くしかなかった。日に日に迎撃する戦力も低下していき、まだ持っているのは支援が届いている為だ。ソ連の宿敵たるアメリカからの物資…西からの支援を受け取る事に抵抗が無いわけではない、だが小国である我々が生き残るには手を借りるしかないジレンマを持ちながらも今を繋ぐしかないのだ。
「ッ直ちに班を分ける、動ける者は私に続け!」
少しの休憩も恋しくなる戦場に戻る。彼女は思う、祖国を守る力が欲しいと、この絶望的な状況を好転する切っ掛けを手に入れたいと胸に抱きながら銃を片手に歩みをまた始めた。
彼女が東防衛線に着いた時、違和感を感じていた。銃撃による死者も道中見たが、まるでクマにでもやられたような傷跡もあれば、戦車の体当たりでも食らったのかと言わんばかりに叩き潰された者達の残骸があった。ここで重要なのは…敵味方問わず死者がいた事だ。
「…静かすぎる。罠か、総員警戒しろ」
ガスではない。それどころか、敵自体の姿が見えないのだ。手分けして辺りを探索させ、自分は地下駐車場に足を進めた。敵襲が来たならば、爆撃から逃れる為にまず市民は地下に逃げる。防空壕に避難するのは日常の一つ、逆に言えば相手側からも狙いどころがバレている危険な場所だ。待ち伏せなんてよくある事、市民の犠牲をこの目で見たことは数知れず…警戒を解かず構えながら地下へと進む。
電線が逝ったか、暗闇からの奇襲に注意しなければ
地下駐車場は暗闇が広がっていた。AKの直線状をライトで照らし、左右に警戒しつつ慎重に進んで行く…丁度中心付近まで進んだところで、駐車されていた車の影から全身傷だらけのソ連兵が倒れているのを発見した。
銃を構えつつ、ゆっくり近づく。意識はあるが、もう助からないとわかるぐらいには傷が酷く…道中で見た獣に襲われたような傷跡から血がにじみ出ていた。
ライトの光を浴び、浅い息をしながらもこちらを覗く兵士に問いかける。
「何があった」
…答えない。当然であるが、敵兵に情報を軽々と教える兵士はいない。
「…私はべリコバ、君の味方だ。君を助けに来たんだ、道中で敵味方問わず負傷している者達がいた。何があったのか教えてくれ」
優しく問いかけると…その兵士は目線を上下に動かし、涙を流した。
極限状態において自らの味方とは頼もしく、同時に依存する対象となる。自らの死が近くまで迫ってきているなら尚更であろう…負傷した兵士は浅い息のまま、単語を発し始めた。
せーーーいぶーー
「なに…なんて」
せいーーーぶつーーへいーーき
生物兵器…べリコバがその単語を理解した時、地下駐車場に何か引きずる音が響き始めた。その音は当初は小刻みだったが、数秒も経たずに高速に響きだした。
ッ!
それを避けれたのは長年の戦士としての経験。自分の背後から猛獣の如く迫って来る何かを勘で理解し横に避けた、喋っていた兵士はその何かに頭をぶちまけられ絶命…そして、食べられている。
ライトで照らし、瞬時にAKを向けた銃身が僅かに揺れる。それを視界に収めた時、理解するより前に自分は後退していた。
長く鋭利な爪、全身の皮膚を剥がされた獣の如く赤い外見、生物として破綻している脳が露出した構造…この世の生物ではない怪物がそこにいた。
シャアァァァ!
威嚇音なのだろうか…こちらを認識したのか反転し、長い舌を伸ばし始めた。ライトで照らされた顔面には目が無く、どうやって認識しているかを勘で理解した。近くにあったコンクリートの残骸を掴み、遠くに投げる…
ガン…
シャァァ!
奥の方から音を感じ取り、その怪物は高速で向かっていった…思った通り、音で感知していたようだ。早く、けれどゆっくり後退していく。
(あれが生物兵器…)
ソ連兵が言っていた事が正しいならば、ソ連が生み出した生物兵器なのだろう。実に名状し難い生物を生みだしたものだと感心してしまう、通常の精神であれば狂ってもおかしくない状況でありながら、彼女の精神は多少の動揺はあれど平常であった。
(敵味方の識別もできない兵器ではな、種がわかれば対処しやすいのもマイナスだ)
後退を続け、出口まで戻ることができてからやっと銃を下ろした。
「一体だけではないだろう…同士は対処できたかっッ!」
頭上から影が見え、瞬時にしゃがむ事で回避できた。
「っ今度は爬虫類擬きか!」
キシャァァァ!
次に現れたのは全身が緑色の鱗に覆われた、どこか爬虫類を連想させる二足歩行の怪物だった。先ほど見た怪物同様に鋭利な爪を持ち、人間の首ぐらいなら容易く切り裂くだろうと予想が付いた。
今度の相手は目もあり、こちらを認識した上で襲ってきた…逃げられそうにない。そう判断すれば早かった、AKから弾が飛び出し、目の前の怪物目掛けて炸裂する。
腹部を狙った個所から血液をまき散らしながらも数メートルも瞬時に後退し、こちらの隙を狙い出した。断末魔に程遠い唸り声を出している。効いてはいるが、肉体の耐久度が桁違いに高いようだ。
相手に合わせる時間が無い。音を立てた事で、もう一匹の奴もすぐに来る。今も後方からあの存在の足音が聞こえ出している。それだけではない、こうも連続で遭遇するという事はもっと師団レベルで投入されている可能性も考えられた。
(手分けするべきではなかったか)
ほんの数秒の思考…その僅かな隙を見逃さず、緑色の怪物の爪が迫る…
「あら、近づく手間が省けたわ」
「キシャァァァ!?」
怪物の爪が迫る中、彼女はあえて爪の根元まで自分で近づいて攻撃を躱しつつ懐からコンバットナイフを取り出し、勢いのまま脳天に突き刺した。そのまま彼女は巴投げを行い、後方から来る怪物に合わせぶち当てた。重なるように倒れ、赤い怪物はカエルのように踠くが起き上がれず、がむしゃらに暴れている。どうやら、先ほどの一撃で緑色の方は倒せたようだ。
「連携する知能も無いのに、相方を頼っちゃ駄目よ」
銃弾を的確に当て完全に頭部を破壊し、赤い怪物も動かなくなる…数回ほど銃先で突くなどして確認を行い、完全に殺したことを認識した。その後、近くの建物内に潜伏し新手が来るか待機する。
その場を離れる案もあったが、先ほどの生物兵器は何かしらの特性を活かした個体類であると判断した為だ。赤いのは聴覚、緑は筋力といった具合に役割があると推測した…つまり、嗅覚や視覚などを特化した個体がいる可能性を考え迂闊に動けなかったのだ。
まだ二体だったから対処もできた、これが群を成して襲ってくれば・・・数の暴力を受けることになる。
(…銃音がしない。私のところだけ来た、は期待しすぎか…)
部下たちの練度を考慮しつつ、先ほどの怪物達が複数体現れた場合対処できるか・・・言うまでもない。元は市民上がりの者もいる、醜悪な存在を認識した時点で逃げ出すか、混乱か、正常に状況を判断する前にやられるがオチだろう。
この怪物たちが防衛線を超え首都にまで雪崩込んだ場合を考える。迎撃に動いたとして、動揺混乱によるラインの突破は確実。収まったとしても総崩れの軍団ではまともに対処できず死体の山を築く…
「そこでソ連軍が救済として登場かッ!」
怪物たちに蹂躙された都市にソ連軍が登場。生物兵器の対処システムも確立しているだろう部隊で逃げまどう市民を助けて回る・・・生物兵器の事も戦争による精神的負荷が生み出した幻覚とでも噂を流して情報処理で終いだ。
これは実験だ。我々の祖国は都合の良い実験場として使用されたのだ。ソ連は裏切った我々を人ではない、モルモットとして扱っているのだ。こんな非人道的な行為を平然とやる存在に内なる怒りと共に悔しい気持ちが心を満たす。
私は何もできないのか
祖国の為に戦い、祖国の為に忠を尽くす。その為ならば如何なる事柄にも手を出そう。
あの生物兵器が祖国にあれば
大国と小国では技術格差もあるが、最後に物を言うのは人口だ。どんなに武器があろうと、それらを扱う人材がいなければ意味がない。現に我が祖国は数の暴力で蹂躙されているのだから。
あの生物兵器の利点は人間を消費しない事。何より屋内での戦闘において下手に訓練した兵士よりも厄介な存在になる…問題は敵味方を識別できない点だが、犠牲者が生まれればいい場面で使えばいいだけだ。そう…私達という邪魔者だけを排除できる時だけ使用すれば。
シャァァー! ガン!グシャ…
警戒を続けていると、遠くからあの赤い怪物の声が聞こえたと思うと…何かがぶつかり潰れたような音が聞こえた。それらの音が何度も聞こえ出し、ただ事ではないと意識する。
誰かが戦っている?一瞬思考したが、銃も使用せず、恐らく何かしらの手段であの怪物を潰して撃退している輩…人間技ではない。確認しに行くのはリスクが大きい、だが彼女は動いた。その存在がとても魅力的に思えた為に…
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廃墟の隙間からその存在を確認した時、彼女の中で一つの感情が動いた。
何と美しいのだろう
それは2メートルはある背丈、体格は背丈のわりに細く、両手は怪物たち同様の鋭利な爪が見て取れる。人のような容姿…白い肌、白い髪、女性のような乳房もある様は一種の人の進化の形とも思えた。
白い巨人の周りは赤い怪物の残骸で埋め尽くされている。中には緑色の個体も見えた・・・先ほどの戦闘音からして巨人が行ったのだろう、白い体に返り血が付着し、謎の色気すら感じられる。一種の幻想的光景がべリコバの視界に映っていた。
(…あれも生物兵器よね。味方同士で潰し合う、制御ができていない?そもそも規格からして違う個体)
あの美と強さを兼ね備えた存在に心奪われていたが、冷静になる。
(明らかに戦った怪物どもより強い存在。ソ連の兵器だと推測できるが…別の国、あるいは別組織が試験的に送り込んだ可能性もあるか…)
生物兵器ならば兵器を作る連中がいるのは当然だ。あれだけの存在を作る技術をソ連が独り占めできるだろうか?現在は全体的に復旧しだしているが、つい最近まで情報網が穴だらけの状態だったのだ。
(ソ連の機密情報を奪い、転用できる国と言えば・・・アメリカか)
敵対国だからこそ常に監視しているだろう相手。第一に疑惑が上がるのはアメリカ、その他付き従う国々。あとの可能性としてレジスタンス組織が挙げられるが、あれだけの存在に資金を投じるだけの組織力を持つとなると限られる。それに、ソ連が生物兵器を使用する事まで知った上で投入したとなると、ソ連と事を構えても問題ないと思っている者達だと予測できる。やはり、アメリカが一番怪しいのだ。
本格的に代理戦争をさせる気か!
現在も支援という形で我々に物資を送ってくれているが…両国の疲労を狙っているのは明らかだ。小国故に受け入れざる得なかった状況とはいえ、永続的に戦闘できるわけではない。ましてや勢いを回復しだしている大国と本格的にやり合えば、縁を切られる可能性が高かった。だが、あちらは民主主義。一方的に支援を打ち切るには民衆の声が強すぎる…ならば、相手側に問題が起こればいい。
(我々がソ連に対し挑発行為を行っていると見られるだろうさ)
生物兵器を発表するかはわからないが、ソ連側からしたら攻めていた小国に兵器情報が漏れるだけでなく転用されたように映るだろう。例え思惑を理解していても、我々が西側と手を組んだ事実は消せない。結局攻め入るのだ、裏切り者達の危険な小国として本格的に支援が追いつかない程。
推測の域を出ないが・・・最悪の可能性を考えると、彼女は覚悟を決めた。
AKの弾薬を確認し、標準を定める…目標はあの白い巨人だ。どんな思惑があろうとも、結局自分が生き残るのに邪魔になる。シンプルに考えた、敵を倒すただそれだけでいい。引き金に手をかけるその瞬間…
「何だとっ!?」
敵意でも感じ取ったのか、白い巨人がこちらに突撃してきた。このまま待っていれば、あの剛力か鋭利な爪で八つ裂きにされるのは容易に想像できた。
弾幕で牽制しつつ、場所を移動する。可能な限り障害物が多い場所を経由して・・・そう考えていた。
ドゴッ!
その音が聞こえた時、白い巨人が壁を突き破り一直線でこちらに向かってきているのを視認できてしまった。
「逃げさせてくれないか!」
ガァァァァ!!
壁を貫通して迫ってくるのを体をそらして回避する。回避しながら至近距離で弾を直撃させ、出血をさせることに成功する。
(7.62mmで貫通しない…表面に傷を負わせただけか)
直撃弾でありながら弾痕が残らず、当たった個所から蒸気が噴き出ると傷も瞬く間に回復していく。
こちらの有効打が無い状態、あちらの攻撃は実質一撃死ときた。絶望的な状況の中、彼女は笑う。
「素晴らしいじゃない、こんな兵器があるなんて!」
コンバットナイフを取り出し構える。AKの弾も残り少ない、残された対抗手段において接近戦も十分手段の一つである。例え相手が強靭な肉体であろうとも、血が出るなら殺せるはずだ…興奮気味な彼女はそう考え行動した。
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白い巨人との戦いは一撃も当たっては駄目、駄目押しに増援も期待できない状況での戦闘。絶望的状況にありながら、対面している彼女は興奮気味にコンバットナイフで切り続けていた。
黙って切り続けられているわけではない、彼女に向けて爪を拳を時には蹴りを…風が後から来るほどの速度で白い巨人もまた抵抗している。だがその攻撃を見切り、カウンター気味に各部位に傷跡を残していく。
(駄目だな、どの個所に攻撃しても回復してしまう。一撃で全壊させる何かが必要だ)
「グァァァ!」
この巨人は怒っているのか、徐々に猛攻が激しさを増していく。それでも攻撃パターンはほぼ変わらない為、まだ回避はできている。避けた先の鉄柱がひしゃげ、未来の自分を暗示させるように目に入る。場所を移しながら攻防を続けている中、廃墟ビル内に入りこんで現在戦闘している。
支える柱の数は数本と彼女は大まかに把握しつつ、敵の攻撃を誘導していく。柱を壊させ、ビルが揺れているのを直に感じる…問題はこの巨人の足止めをどうするか。
攻撃によりできた隙間から、ある物が見えた
(エレベーターか…どうやら上の階で止まっているようだ)
ビルの構造はエレベーターを中心に四方に柱がある典型的な作りとなっている。5階まであり、現在は1階のフロントにいた。支える柱も残り僅かとなり、強い衝撃があれば倒壊するだろうと予測できた。
「こっちよ」
「ガァァァ!」
エレベータを中心とした鬼ごっこを開始する。すぐに追いつかれるが、エレベータのシャフトが密着している状況が邪魔をして上手く動けない様子だ。
白い巨人は力任せに邪魔なシャフトごと腕を動かす。空洞となっている中に入れるぐらいには大穴を開けてくれた…その隙間にスライディングで入り込む。巨人もまたその図体に物を言わせ突撃してくる。
「お馬鹿さんっ!」
彼女は闇雲に入り込んだのではない、エレベータの重りが自分と対直上になるように入り込んだのだ。一早く上がり、後退しながら残ったAKの弾薬を使い切る勢いで重りに集中的に浴びせる。
ギィィィィ!! エレベータの非情ブレーキが火花を散りながら迫って来るのを白い巨人は気づいた
白い巨人も状況を把握したのか、逃げようとするが一足遅かった
―ーー
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エレベーターがハンマーの如く落下した衝撃でビルは倒壊を始めた。彼女は塵埃を浴びながらも楽々と脱出する。
「終わったか」
倒壊したビルを尻目に急いで首都に戻るように足を進める。敵はこれだけではないのだ、首都に向かっているであろう生物兵器について考えなければならなかった。
「嘘でしょ…既に量産されていたなんて」
歩みを始めた矢先…奴が、奴らが現れた
白い髪に白い肌、両腕の鋭利な爪・・・先ほど倒したばかりの白い巨人が2体現れた。別個体の筈だが、こちらを目の敵のように唸り声を上げながら向かって来る。彼女もどこか諦めを感じながらも構える。
ドゴーン!!
それは突然だった。白い巨人の片割れが突然爆発したように感じられた。もう一方の白い巨人が後方を見た瞬間、甲高い音が聞こえると同時に白い巨人の頭部が弾け飛ぶ。
何が起こったのか彼女は理解できなかった。仲間が生きていた可能性も考えたが、あのような強力な兵器はなかったはずだ。2体の巨人があっという間に駆除された・・・呆然と事実を受け入れていると、全身重武装の男が歩いて来た。
その男は使い終わったミサイルランチャーを捨てながら、こちらを発見したのか近づいて来る。見えるだけでも全身を覆う機械の体、まるでSF映画から飛び出て来たような装備に思考を放棄してしまった。
もう片方の腕には、到底人間では扱えないような重量10kg以上はあるだろう巨大な銃から煙が出ている。白い巨人の頭部を打ち砕いたのはあれだろう。
貴方…何者なの…
その男が目の前まで来ると、聞きたいことは山ほどあったが…ただそれだけの言葉しか出てこなかった。
「私はアメリカ合衆国 第44代大統領アダム・ベンフォードだ」
目が覚めた時、私は夢でも見ているのではと感じた。歳が若返り、腰痛も出始めた肉体からまだ活気あふれていた頃の50代の肉体になっていたのだ。ラジオから当時流れていた『NIRVANA』の曲が聞こえ、これは現実なのだと改めて理解する。
神は私に何を期待されている
奇跡としか思えない現実。この現象に意味があるとアダムは考える…いや考えるまでもない、バイオテロを防げという事だろう。生前で成し得なかった罪を清算しろということだろう。我らが祖国、アメリカで生まれた汚点を消せとアメリカが、神が告げている。
まだ官僚高官の時代、頼れる友人であったレオンはまだ学生だ。ならば、もう一人の友人に頼るしかない。この奇跡を信じてくれるか不明だが、互いに協力関係にはなれるだろう。
「シモンズ…力を貸してくれ」
過去の世界だと当初は思ったが、元凶であるアンブレラの影響力が桁違いに跳ね上がっていた。なぜソ連と共同声明しているのだ、なぜ慈善活動を積極的に行っているのだ、なぜ…多くのイレギュラーが重なり、自らの力だけでは防げないと改めて理解した。
「…アダム、君の話を信じるとしてもアンブレラの現状を理解しているだろう?経済的にも世論的にも敵に回した方が不利益を生む。わかっていて伝えに来たのか」
シモンズとは30年来の友人だ。今の時点では10数年来であるが大した違いはない、彼の人となりは理解している。アメリカを思うのはいいのだが、アメリカ・ファースト過ぎる故に時々相対する場面が尽きなかった・・・ラクーンシティ事件の真相を公表する事に最後まで反対し、最後の時まで合う事はできなかったのは悔いの一つだ。
「私は…祖国を第一に考える」
「ほう、君からそのような言葉が出るのは意外だよ」
「だからこそ、ファミリーの力を貸してくれ」
「・・・それは未来の私が教えたのか?」
「正確には偶然知ってしまっただな」
アンブレラとの繋がり、政府の動きを把握していくにつれ組織的動きが目立っていた。その背景を調べていくとたどり着いたのが…シモンズの創り出した秘密組織「ファミリー」だった。
飽きれたように手で催促するシモンズに言葉を続ける。
「アメリカを第一に考えるなら、アンブレラを潰すしか方法が無い」
「どうやって」
「…現在のアンブレラはソ連と大々的に繋がっている。今のうちにB.O.W.、バイオテロに関わる事を公にすればいい」
「なるほど、今なら悪名高いソ連を道連れにできると?…それだけか」
シモンズを納得させるにはアメリカに利益を齎せばいい。
「私はアンブレラが建設中、あるいは隠蔽している施設等の場所を把握している…奴らの科学力は利益にならないか?」
その言葉を聞き、やっと聞く態勢にシモンズはなった。
「生物兵器は確かに厄介だ。しかし、制御が難しく実際にバイオテロが起こった後の処理には浄化作戦が基本となっているほどだ」
「だろうな。それほどの感染力なら尚更だ…だが、有益でもある」
「…確かに、兵器として被害を広げる物としての利益は計り知れない」
実際に闇オークションで販売されているぐらいには手軽に購入できてしまうB.O.W.。使い捨て兵器としたら破格な代物だろう。
「だがなシモンズ…そのバイオテロを防ぐ、事前に解決することができれば被害が少なくなる。現状なら、共通の敵がいる」
「アメリカが指導する役割を得られるか…いいのかね?君が嫌う爆弾をアメリカに持ち込む結果になるが」
アダムは思いはあれど…揺らがない意思で答えた。
「私こそがアメリカだ」
私は甘すぎた。他国との連携、民衆の未来の為、良きアメリカを取り戻す為…その為ならば、祖国が不利益を被っても良いと行動していた。だが結果はどうだった?友とは仲違い、祖国にバイオテロが発生、民衆が巻き込まれたかどうかはわからない…だが全てが裏目に出ていた。
「利益を度外視すれば破滅が待っている。身をもって体験したからな…今になって君からの忠告を思い出したよ」
「アダム、今の君とならいい酒が飲めそうだ」
♦
輸送機の中、降下地点までアダムは装備を確認して待機していた。
『A、調子はどうかな』
「良好だ」
『君の戦闘経験を統合し作り上げたオペレーション、そして幾多の戦場を渡り歩いた君の頭脳、そしてその機体、これが負けるとは思えないが』
アンブレラを含む裏組織、多くのB.O.W.との戦い、そして技術力の吸収と強化を繰り返すうちに作り上げられた対化物用兵器、通称『AC(アダム・コア)』。アダム専用のパワード・スーツである。
数々の戦闘を繰り返していく彼らの前にある少女が現れた。その少女は不思議な服装を着ており、髪や肌も白く、まるで絵本などから出て来た人物だと思う程、完成された美を内包していた。
『消えなさい、イレギュラー』
少女の命令で攻撃をしてくるB.O.W.タイラントの女性版が迫って来たのはつい最近の出来事だ。その時にはACを完成させていた為、少し手間取ったが対処すると少女は複数の個体を出して逃走。
『大きすぎる…修正が必要ね』
あの少女の事を考えていると、シモンズから今回のミッションを改めて聞く。
『ブリーフィングを行う。今回のミッションは、東スラブで発生したB.O.W.の排除が優先だ。まだ公にされては困る、生き残りは可能な限り排除しろ…もう一つは』
「…言わなくてもいい、理解している。ウェスカーの血族はこの世から抹殺しなければならない。肝心の本人については」
『まだ報告は上がっていない』
アダムが生きていた世界でバイオテロが流行った原因の一つ。アルバート・ウェスカーの『ウロボロス計画』に当てられた者達について考えても反吐が出る。
『降下地点周辺に例のタイラント擬きが確認されている。ソ連製のB.O.W.も多数だ、つまりいつも通りだ。全てぶっ潰せ』
その言葉を聞き、笑いながら降下の準備をする。どんなミッションであろうと完遂させる。
…なぜなら私は未来のアメリカ合衆国大統領だからだ…
スベトラーナ・ベリコバ…あったかもしれない、ソ連が崩壊した後の東スラブ共和国の大統領…そんな彼女の前に、偉大なる未来のアメリカ合衆国大統領アダム・ベンフォードと出会う。大統領魂は惹かれ合う、その運命は如何に。それを予期した存在、それらを排除する少女軍団、ACに乗り込み、アダムの戦いの火蓋が切られた。