来て欲しくなかったが、遂にこの日が訪れてしまった。
……俺は今日、この屋敷を出る。
「じゃあ、忘れ物は無いわね?」
レミリアが手ぶらの俺を見てそう言う。
必要最低限の食糧は影に収納しているし、元々持っていた荷物も全部纏めている。
「ああ、世話になった。」
「鏡華、あなたが目的を達成出来ないまま、孤独に耐えられなくなったらまた来なさい。私が面倒を見てあげるわ。
……まあ、その時は正式に私の下に着いてもらうけどね。確かに短かったけれど、あなたは紅魔館の一員だったんだから。」
俺はレミリアの気遣いに少し感動している。こいつが優しいのは身内相手だけだ。
こうまで言ってくれてるという事はこの半年で俺もレミリアの身内に入れたのだろう。
「まあ、出来れば魔神とやらを討伐してからまた会いたいもんだな。……で、咲夜。これ、本当にいいのか?」
俺の手元には二つの懐中時計がある。一つは咲夜の所有物だ。
「ええ。それはまた会った時に返してもらうわ。」
正直、かなり有難い話だ。全ての元凶である魔神とやらを見つけるまでは時間をループし続けならきゃならないモノだと思ってたからな。
ちなみに、咲夜のまた会った時というのは比喩表現じゃない。
こいつはどうやら強力過ぎる能力の弊害か、十代後半に入ってから歳をとっていないらしい。
まあかなり含みのある言い方だったので無条件に歳をとらない訳でも無さそうだが。
「幸いな事にこの館の住人達には寿命が無いわ。あなたが生きてさえいれば、いつかまた会えるわ。」
「鏡華さん!あなたがいる間は咲夜さんが優しかったんです!お願いだから行かないでください!」
美鈴は相変わらず昼寝をして侵入者を逃しては咲夜に怒られている。
そもそも本気でこいつが警戒していれば侵入者を見逃す筈がないと思うんだが……まあいいか。
皆に見送られながら門まで来た訳だが……まだ美鈴が腰に縋りついてきている。正直鬱陶しい。
「ちょっと美鈴!鏡華とは暫く会えなくなっちゃうんだから、きちんとお見送りしなきゃ駄目でしょ?」
普段は部屋に引き篭っているフランも今日は見送りに来てくれたらしい。
というか、今度いつ会えるか分からないのも吸血鬼からすれば暫く程度の時間らしいな。俺ら人間とは時間の流れ方が違うらしい。
「美鈴……あなた、妹様に説教されてる姿、本当に情けないわよ。」
咲夜が絶対零度の視線を美鈴に向けながらそう言う。
「うっ、分かりましたって!……また会いましょう鏡華さん。あなたと一緒にいて楽しかったのは本当です。」
「ああ、お前も昼寝は程々にな。」
「はい。程々にお昼寝させて頂きます。」
……そういう意味じゃ無いんだがな。
「それじゃあ、何時までもここに引き留めていると日が暮れちゃうし、一言だけ。……また会いましょう。」
レミリアがそう言って手を叩くと、俺はいつの間にか紅魔館の結界の外に居た。
この演出、またパチュリーが絡んでるな。魔法というモノは割と何でも有りみたいだし……レミリアはこういう時異様に格好付けたがるからな。
さて……。とりあえずこの懐中時計がある限り俺は時間のループ現象から逃れる事が出来るはずだ。
暫くは時計を弄り回して例の魔神とやらを探そう。
どの時代のどの国に居るのかすら定かじゃないんだ。暫くは手掛かりを見付ける事に専念しよう。
その手掛かりも、そこら辺の人間からでは情報を得られそうにない。
これから行く土地に長く住んでいる人外辺りに話を聞いてみれば何か噂程度の手掛かりは得られるかもしれない。
レミリアに教わった事だが、いつの時代も人外には人外同士の繋がりがある……らしい。
俺は懐中時計を手に取ると、今度は秒針を巻き戻してみる。
かなりの時間を巻き戻すつもりで秒針をズラしたが、相変わらず秒針を動かすだけでは何も起こらない。
俺は呪力を練って自身の首を掻き斬ると、久し振りの視界の暗転を受け入れるのだった。
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そして俺が目を覚ますと、またしても知らない場所へと飛ばされていた。
「……日本か?」
少なくとも平安では無さそうだな。それにしても……また雑木林か。何か意味があるのだろうか。
というか、時代はともかく場所はどうやって決まってるんだ。
でも、なんでイギリスに飛んだのかすら未だに分かってないしなぁ。俺には知りようがないんだが……気になるものは気になる。
「まあとりあえず、宿を確保しなくちゃな。野宿はもう御免だ。」
時間のループは心配しなくてもいいが、俺も人間だ。風邪だって引くし飯を食わなきゃ死ぬ。
よって、宿の確保は最優先事項だ。
一応、レミリアに金になる宝石や金のインゴットを少し……いやかなりの量分けてもらった。
イギリスの通貨だと国によっては使えないだろうからというレミリアなりの気遣いだ。
だが……またしても何の因果か、雑木林を出ても何も無い。鵺を使って周囲数kmを見渡してみるが、本当に何も無い。
紅魔館を出たのは昼だったが、時間を巻き戻した影響か既にこの辺は日が暮れそうだ。
……嫌だぞ、もう野宿は嫌だ。
気温は今の所少し肌寒いくらいだが、夜になれば更に冷え込むだろう。
それまでに何としても人か集落を見付けなくては。
俺は夜を快適に過ごす為鵺と視界を共有し、また集落の捜索へと戻るのだった。