「おい、兄ちゃん。寄ってきな。俺らと一緒に呑もうぜ。」
「悪いが、今は持ち合わせが無いんだ。また今度にしてくれ。」
歩く度に誰かしらに絡まれるので、俺が勝ったら情報をくれと言って色々と話を聞いた所、どうやらここは幻想郷という結界の中の地底という所らしい。
本当に訳が分からない。呪術廻戦にそんな設定は無かったはずだ。
もしかしてこれから新刊で判明する情報なのか?まあ、とにかく理由は分からんが今度は神や妖怪のいる世界に飛ばされたらしい。
てか、ここを歩いていると思うんだが、一級から特級クラスの呪霊……じゃなくて妖怪か。がめちゃくちゃ居るんだが。
もしかして羂索の目的が達成された未来とかに飛ばされたのか?
「あの後五条悟がどうなったのかは気になるが……」
俺が気にした所でなぁ……それより自分の事を気にしないと。
「よう、お前が噂の人間か?」
ん?今度は女か。虎杖が好きそうなケツとタッパがデカい女だな。何か体操服みたいなのを着てるが。見る限りだとこいつも鬼か。
「なんで噂になってんのかは知らんが、人間なのは間違いないさ。」
「私とも喧嘩をしてくれないか?ここ最近は骨のある奴が居ないんで持て余してるんだ。欲求不満って奴さ。」
それ多分だが欲求不満の使い方間違えてるぞ。
俺は先程から絡まれ過ぎて少し対応に慣れて来ている。こういう勝負は受けるだけ受けて式神を出してトンズラするのが一番いい。
「別にいいが、俺にメリットが無いとな。」
「めりっと?」
そっか……現代語は通じないのか。というか、平安に居たのに現代語が染み付いてる俺も俺だな。
「要するに、何か俺が得をしなくちゃ戦う意味が無いだろ?」
「そういうもんかね?昔だったら問答無用で襲い掛かってたけど……まあいいさ。じゃあもしアンタが勝ったら、私に何でも命令していいぞ。」
見る限りこいつも特級クラスの実力があるだろうに、それだと割に合わないんだよな。まあ問答無用で襲い掛かってくるよりは良いか。
「じゃあとりあえず地上に出たいからそれを手伝って貰おうか。」
「もう勝った気で居るのかい?鬼を嘗めると痛い目見るよ?」
「別に嘗めてる訳じゃないさ、さっきまで呪いの王とかいう化け物と戦ってたから感覚がおかしくなってるんだ。」
鬼みたいな呪霊は見たことがあるが、ここまで自我がハッキリしている奴は見た事がない。少なくとも土着神クラスなのは間違いないな。
「ああ、大層な名前の割に小賢しい事ばかりする奴だろう?」
「知ってるのか?両面宿儺って言うんだが。」
「勿論知ってるさ。鬼神と言われた男だからね。だが、私達とは相容れない存在さ。目的の為なら平気で嘘を吐く。」
鬼というのは嘘を嫌うらしい。妖怪の癖に何言ってんだと思わなくも無いが、確かに宿儺は使える物なら何でも使いそうだ。
「そうは言うが、結局世の中勝った方が正義だろ?お前らは負けたからここに居る。」
「……まあその通りさね。だが、私達は自分に嘘を吐いてまで勝とうとは思わないね。」
まあ、確かにプライドは大事なもんだ。プライドがない奴はなんたらとかいう名言があったよな。
「まあいい、俺が勝ったら俺を地上に出してくれ。」
「私にその権限は無いんだが、まあ出来る限りのことはやるさ……約束しよう。その代わり、私が勝ったらアンタを喰わせてくれ。」
そういう所はちゃんと妖怪してるのな。まあ、別に死んだ後なら好きにしてくれて構わないけどな。
「死んだ後なら好きにしてくれ。」
「よし来た。一つ忠告しておこう。私は本気で戦って負けた事は二回しかないよ。」
「二回も負けたの間違いだろ?まあ俺も一回負けてるんだが。」
宿儺相手だと本気を引き出す前にやられたからな。悔しいと言えば悔しいさ。
「言ってくれるねぇ。まあいい、何処からでも掛かってきな。」
先手は譲り、あくまで自然体か。数百年は確実に生きてるだろうに今までもこのスタイルで二回しか負けた事が無いんだったらそりゃあ強いよな。
「じゃあ遠慮なく……円鹿。」
俺は片方の手で頭部を作り、もう片方の手で角を見立てる。
すると人の数倍近い体躯と四つ目が特徴の鹿の式神が召喚された。
「ほう?それで突進させるのかい?」
「違ぇよ。」
俺は赤血操術の赤鱗躍動による身体強化と呪力による身体強化を掛け合わせて鬼に殴り掛かる。
「おっと。」
鬼は軽く腕を上げていとも容易くそれを防ぐ……が流石に重かったのか数m程後退する。
「マジか……」
全く効いてない事は無いが、思ってた以上に手応えが無さすぎる。
「今度はこっちから行くぞ?」
鬼は大きく拳を振り上げて俺の方へとそれを振り下ろす。それだけで暴風が巻き起こり埃や砂が飛んでくる。
俺は咄嗟に自身の影へと潜ってやり過ごした。
「……受けたら死ぬな。」
恐らくフィジカルだけなら宿儺より上。今の所攻撃は分かりやすいテレフォンパンチのみだが威力を考えると迂闊に距離を詰めれない。
「────赤血操術──百歛、穿血!」
俺は血のビームを放ちながら次なる一手を考える。下手な式神は破壊されるだけだ。
俺の勝算は円鹿を引っ込め肉弾戦で決着を着ける事だけだ。流石に円鹿を破壊されるのは痛い。
だが俺一人では宿儺をも超える力を持つ相手の攻撃を捌ききれない。
となれば、
「────布瑠部由良由良。」
俺は魔虚羅を召喚した。幸い相手の攻撃手段は全て打撃だ。魔虚羅の適応が追い付かない事は有り得ない。
俺は魔虚羅を盾に極限まで身体強化をした身体で鬼を殴るが、ダメージの蓄積が思った以上に遅い。
魔虚羅に出来た隙をカバーするように俺が打撃を入れていく。
姑息と言われるかもしれないが、これが式神使いの戦い方だ。
「はっ!」
相手は全ての攻撃を避ける事すらしなかったが、それが仇となって俺の攻撃が奴を苦しめる。
黒閃…… それは打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。
呪力と赤鱗躍動による身体強化から放たれる黒閃は流石に奴にも効くみたいだな。
「っ今のは痛かったねぇ。」
なんでピンピンしてるんだよ。鬼ってのはこんなのばっかなのか?
相手が喋っている隙にも俺はどんどん打撃を打ち込んでいく。三回程黒閃が決まった所で奴はようやくふらついた。
「はぁ……久しぶりだねえ。ここまでやれる奴は。」
俺が息を整えながら魔虚羅を盾に時間を稼いでいると突如俺達の間に亀裂が走り、そこから女が現れる。
「……紫。私の喧嘩の邪魔をするってんなら幾らお前でも容赦しないよ?」
「あなたこそ何を言っているの?周りを見てから物を言いなさい。あなた達のせいで地底は滅茶苦茶よ。」
そう言われて周りを見渡すと、確かに建物は倒壊し、土は捲れてクレーターが出来てしまっている。
「……今回は私が悪いね。せめて場所を変えるべきだった。」
「理解してくれて良かったわ。それと、自分で壊した物は自分で直しなさい。」
「はぁ、分かったよ。」
俺は蚊帳の外かよ。
「……そろそろいいか?」
「……あなたとはまだ会う予定では無かった筈なのにね、何処ぞの馬鹿鬼が好き勝手やってくれたせいで私の計画も全部白紙よ。」
「悪かったって言ってるじゃんか。そろそろ許してくれよ。」
「まあいいわ……私は八雲紫。幻想郷の管理者をしているわ。本来地底は私の管轄では無いのだけれどね。」
どうやら俺達が暴れていたせいで地底の管理者とやらが間に入ってこられなかったらしい。
「俺は禪院鏡華だ。とりあえず地上に出してくれないか?」
「はぁ……あなたも大概図々しいわね。いいわ、とりあえず色々と知りたい事もあるでしょうし連れて行ってあげる。」
八雲紫と名乗った女がそういうと俺の足元の空間がパクリと裂けたが、俺は咄嗟に鵺を召喚してぶら下がった。
「……もう!そこは大人しく入っときなさいよ。その先は地上よ。落ちても問題ないわ。」
この先が地上だと?うわ、目玉がある。気色悪い。
「そいつの言ってる事は嘘じゃないよ。地上に帰りたいんだったら大人しく言う事を聞いときな。」
先程の鬼がそういうので、俺は意を決して裂け目へと飛び込んだ。