東方鏡華録   作:Crimson Wizard

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レミリアは作者的には前作主人公です。まあその前作はまだ書いてる途中ですが。


第五話

 

八雲紫の能力らしい気味の悪い空間から抜けると、そこには一昔前の町のような光景が広がっていた。

 

「うーん、幕末から大正頃……くらいまでか?随分バラけてるな。」

 

建築様式自体は比較的新しく、江戸時代末期頃くらいの建物が一番多いが……建築するのに明らかに現代の技術が使われてたりもする。

明治以降に日本に渡来したであろう少しモダンな喫茶店風の建物なんかもあるにはあるが、やっぱり見る限りだとどれも最近作り直されてるな。

軽く道を歩いた感じ、服装も基本的には着物だが、偶にジーンズを履いている人間とすれ違ったりもする。

 

「……今度はメイド服か。」

 

明らかに西洋人の格好をしたお嬢様っぽい子供に日傘をさして歩いているメイドなんかも居る。……てかあれ人間じゃねえな。

 

「そこの人間、少し話があるわ。」

 

……何でだ?何で俺はいつも特級クラスの化け物に目を付けられるんだ?

 

「お嬢様はあなたに興味がお有りの様です。宜しければ暫し付き合って頂けないでしょうか?」

 

「……じゃあそこの喫茶店奢ってくれ。」

 

美味そうなパフェがあるんだが、今は手持ちがないからな。

 

「そのくらいなら構わないわ。その代わり屋内にして頂戴。」

 

まあ日傘を差してるくらいだし日光が苦手なのは見りゃあ分かるが。もしかして吸血鬼とかか?

 

「それは好きにしてくれ。で、何を聞きたいんだ?」

 

「あなた……ただの人間には重すぎる運命に囚われているわ。咲夜、あなたは何か感じない?」

 

このメイドは咲夜っていうのか。てっきり名前も横文字かと思ってた。

 

「そうですね……なんて言うんでしょうか。少しシンパシー?を感じますね。」

 

「俺にか?」

 

「やっぱり。……少し同情するけど、そうね。一つ助言をするとしたら、何処に行けばいいのか分からなくなったら上を目指しなさい。」

 

上といっても単に北という訳では無いのだけれど。とお嬢様とやらは続けて言う。

 

「前にも似たような事を言われたんだが、何か視えてるのか?」

 

「ええ……私の能力だから、他者に伝えるのは難しいんだけど、あなたの運命は他の人間と違って定まっていないの。」

 

「逆に普通の人間は運命とやらが決まっているのか?」

 

「そうよ。ある程度分岐点は存在するけれど、大まかな流れは変わらないわ。

例えばあなたの人生を大きく左右する人物が居たとして、運命が分岐したとしてもその人物とは必ず何かしらの形で出会う事になるわ。」

 

……そんな人物に心当たりは無いな。俺には出会うべき人物も居ないってことか。それはそれで悲しいが。

 

「運命が定まっていないっていうのはアンタ的には有り得ない事なんだな?」

 

初対面の人間……人間?妖怪の話を真に受けるのもおかしな気がするが、こうも立て続けに似たような事を言われるとなぁ。

全く気にしないのもそれはそれで良くなさそうだし。

表現が抽象的過ぎて具体的に何を気を付ければいいのか分からないが、多少気に留めておくに越したことはないだろう。

 

「当然よ、私の能力は運命を操る程度の能力……いくら私でも形の存在しない物を操る事は出来ないわ。」

 

運命を操るか。それはまあ……随分と大層な力を持ってるな。俺は自分の術式すらも持て余してるってのに。

 

「もう少し具体的に教えてくれないか?その表現だと俺には対処のしようがないんだが。」

 

「……そうね。強いて言うなら、時間……かしら。」

 

時間……?駄目だ、全く分からん。時間を守れって事か?昔からあれだよな、占いとか、神託とか……

そっち系の人間は言葉選びが抽象的過ぎるんだよ。何を気をつければいいのか具体的に教えてくれた事は一度も無いしな。

 

「それと、これは私個人の意見だけど、あなたは存在自体が何処かおかしいのよ。なんて言うか……二重に存在しているとでも言うのかしら?

うーん……上手く言語化出来ないわね。あなたが別の世界から来た存在とかならまだ納得出来るんだけどね。流石にそんな訳は無いわよね。」

 

……やっぱり助言は気にした方が良さそうだな。適当言ってる雰囲気じゃねえし、言ってる事中ってるしな。

 

「まあ、本当にどうしようも無い時は天に身を委ねなさい。」

 

それ遠回しに死ねって言ってないか?いや、これから死ぬほど辛い事があるって事か?……どっちにしろ嫌だな。

 

「気には留めとくよ。じゃ、俺はこれ食うから。」

 

ふむふむ。チョコレートとかもちゃんとしてるな。うん、外の喫茶店と変わらないな。普通に美味いし。

 

「言いたい事はそれだけよ。……あなたがあまりにも不憫だったからね。」

 

不憫?本当にこれから何が起きるんだ。死んだ方がマシだなんて状況、悪い想像しか出来ないんだが。

 

「私からも一つ良いですか?」

 

メイドがお嬢様とやらにそう問うと、推定吸血鬼は軽く首肯して再び紅茶を飲み始めた。

 

「ではこれを。きっと何処かで役に立つ筈です。」

 

「……ああ。ありがとよ。」

 

これは……懐中時計?かなり良い物だと思うが、これを俺に渡す事には多分何か意味があるんだよな。

 

「じゃあ、私達はもう帰るわ。あなたを縛る運命の枷が破壊される事を願っておくわ。」

 

「……ああ。ご馳走様。」

 

結局、話を聞く限りだと本当にただの善意というか、同情から俺に話し掛けたように思える。

境界を操るだとか運命を操るとか反則級の能力を持つ奴らに何か不幸が起きると言われ続けると流石に不安が拭えないな。

 

くそ、パフェの味が分からなくなってきた。

 

 

 

 

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レミリア・スカーレットは、これまでの妖生で数奇な運命に囚われた人間を数多く見て来たが彼処まで運命が分岐している存在は初めて見た。

運命を操るという能力の性質上、占い師等として人間と関わって来た事のあるレミリアだが、嘘を吐いてまで彼に助言を与えたのは何故か。

 

運命を操る力を持つ私にしか分からないでしょうけど、あれは人間というよりも憑依した魂……此方で言う付喪神の様な存在に似ている気がする。

まあそれは在り方の話だからあくまで人間なのは間違いないのだけど……私にもよく分からないわね。

私の視る限りだと、あの人間の運命は過去にも現在にも未来にも存在した。そして普通の人間の倍以上の分岐点が存在した。

 

つまりこれから彼奴は過去か未来かに飛ばされるのだ。

 

「というか咲夜。あれをあげても良かったの?あなたの能力が覚醒した切っ掛けだし、思い入れのある品でしょ?」

 

「何故でしょうか?本当に他人の様な気がしないのです。私はお嬢様の様に運命は視えませんが、

もしかしたら何処かで会っていたのかも知れませんね。……まあ有り得ない話ですが。」

 

レミリアは珍しく咲夜の言葉に否定から入る。

 

「有り得なくは無いわ。別の世界線か、或いはこれからあなたと出会うのかもしれない。」

 

「……?先程出会ったばかりではありませんか?」

 

私は今生きている時間軸とは別の世界線が存在する事も、過去と現在と未来がそれぞれ同時に存在する事も知っている。

でも、彼はそうじゃない。

 

……刻の牢獄に囚われた哀れな人間。

自分を知っている人間が今いる世界の何処にも居ない。人との繋がりで生きている人間には想像もつかない苦痛でしょう。

 

「運命って儘ならないものね。」

 

レミリア・スカーレットは自身の司る運命というものの理不尽さを知るのだった。

 




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