さて、パフェも食い終えた事だしそろそろ店を出るか。
俺は先程言われたこの先訪れる苦難とやらが気になりながらも町をふらつく。
「流石に平安よりは発展してるな。」
まあそれでも都なんかと比べると流石に見劣りするな。そんな事を思っていると、ふとすれ違った女に物凄い形相で見られた。
……また妖怪か?
「お前!鏡華か!?鏡華だろ!」
誰だ?平安の人間……って訳でもないな。知らない顔だ。
「誰だ?心当たりは無いんだが。」
白い服に赤いもんぺ。その上から大量に貼られた札。腰まである白い長髪……悪いが全く心当たりが無い。
「そんな筈ないだろ!私と過した日々を忘れたのか!?」
女は半狂乱になりながら俺の胸倉を掴んでくる。
どうしようかと半ば混乱していると、集まってきた野次馬の中から角の生えた女が出て来た。
「貴様!妹紅に何をしている!……ん?」
女は怒鳴りながら出て来たが、俺が胸倉を掴まれてされるがままになっているのを見ると困惑した表情を浮かべる。
「……どうにかしてくれ。まるで心当たりが無いんだ。」
俺のその発言を受けて、女は困惑しながらも白髪女を宥めにかかる。
「おい、どうしたんだ?その男と何かあったのか?」
「……慧音。慧音には前話したことがあったよな。鏡華の事。」
……俺の記憶が飛んでるのか?もしかして死んだ時に記憶が抜け落ちてるのか?
「ああ。お前が妖術を教えたやったという男だろう?」
「そうだ。ある日突然居なくなったんだ。……そして今、何故かここに居て本人は私の事を覚えていない。」
有り得ない。俺はこんな女と一緒に居た覚えは無い。妖術とやらもさっぱりだ。
「すまんが、本当に心当たりが無いんだ。記憶が抜け落ちてるなんて事もない筈だ。」
「……いいさ。今はお前が生きてただけで。だが、なんで生きてる?あれから不老の術でも使ったのか?」
「いや、俺の記憶だと俺は20年そこらしか生きてない。だが、少し特殊な事情があって平安の世を生きていた記憶もある。」
やはり俺の記憶が抜け落ちているというのが自然な考え方だろうか。八雲紫や通りすがりの吸血鬼に言われた言葉が頭を過る。
憐れだなんだと言われた記憶がある。
それに八雲紫の俺を見る目……あれも憐れみの目だった。もしかして、俺は実際この女と一緒に居たんじゃないか?
彼奴らには記憶が無い事を憐れまれていたのでは?
俺は考えている内に段々と自分の記憶が信用ならなくなってきた。
「……とりあえず、ここでは何だ、家に来なさい。」
「ああ。」
慧音と呼ばれた女がそう言うので、俺は大人しく後を着いて行く。
それにしても、尋常ではない顔をしていた。あの女はそれほど俺と親しかったという事か?
「ここだ。貧相で悪いが、まあ入ってくれ。」
普通の家だな。それに先程から白髪女は慧音と呼ばれた女の服を握って俯いたままだ。何もしていない筈なのに罪悪感すら湧いてくる。
「お茶を入れよう。……少し待っていてくれ。」
そう言って慧音と呼ばれた女は席を立つ。居間には俯いたままの白髪女と俺の二人が残された。
「……なあ、俺とお前は親しかったのか?」
二人して黙り込んでいる空間に耐えきれなくなった俺は白髪女に話を振る。
「……ああ。十年以上も一緒に居たさ。私がまだ未熟な頃、妖怪に殺されかけていた時にお前に救ってもらったのが始まりだった。」
……まあ助けて貰わなくても死ななかったんだがな。そう言って女は再び語り出した。
「最初はお前に突っかかったっけな……なんで助けたって。あの頃は私も周りが見えて無かったんだ。
死にたくて死にたくて堪らなくて。自棄になってたんだ。本当は何か縋るものが欲しかったのかもな。」
悪いが、俺はお前の独白が聞きたい訳じゃない。俺は無言で女に話の続きを促す。
「それで、仲良くなるうちにお前に呪術ってもんを教えて貰ったんだ。聞いた事のない術だった。
結界や式神なんかの基礎的なものだけだったが、やけに教え方が上手いから誰かに教えるのは初めてじゃ無いのかもなんて思ってたな。
一緒に都を観光したり、鵺だったか?お前の式神で海を渡ったりしたんだ。……その後、私がまた一人になりたいって我儘を言ってさ。
一年くらい別々に行動したんだけど、結局私の方が耐えきれなくなって……また二人で旅をしたんだ。
それで、その一年の間に学んだ妖術を私がお前に教えてやったんだ。そしたらなんて言ってたっけ。術式無しでなんたらかんたらって。
なんか怒ってたよな。ああ駄目だ。……懐かしいな。なんで覚えてないんだよ、鏡華……」
女はそこまで言った後に泣き崩れてしまった。
……だが、鵺。それで海を渡ったと言った。これで確定してしまった。俺とこの女は実際一緒に居たのだろう。
「……すまん。」
訳が分からないままつい謝ってしまったが、そこで話を立ち聞きしている慧音と呼ばれた女に気付いた。
いかんな、周りを警戒する癖が無くなってきてる。段々と平和ボケしてきている証拠だ。
「すまない、少し入りずらくてな。」
「……俺は気にしてないさ。」
正直、少し助かったとさえ思っている。
「私にも何が何だか分からない。だが、鏡華と呼ばれる男の話なら何度も聞かされたさ。
だから、妹紅に話してやってくれないか。平安の記憶がどうとか言ってただろう?もしかしたら記憶が無い理由が分かるかもしれない。」
「別に良いが……まず俺は、一度死んだんだ。今で言う平安に生まれてさ……特に語る事は無いさ。
俺の記憶だと生涯一人だったし。悪いがそこの女と会った記憶は無い。そして、呪術師として戦って負けた。
その筈だったんだが、死んだと思ったら別の時代に飛んでたんだ。それが昨日だ。」
俺はありのままを語った。此奴らが聞きたいのは平安の話だろうが、実際俺は何もしていないので語る事が無い。
退治屋として多少名を揚げたが、それから宿儺に殺されるまでに誰かと一緒に居た記憶は無い。
「待て、じゃあお前の体感ではつい昨日まで平安時代に居たということか?」
「そうだ。そして此方では何故か出会う人物全員に憐れまれる。俺にも何が何だか分からないさ。」
八雲紫も、通りすがりの吸血鬼も。結局何も教えてくれなかったしな。
「……すまん、無駄話をさせただけだったな。」
「いいさ。そこの女の話で鵺って言ってただろ?それは俺しか知らない筈なんだよ。
だから俺とそこの女が一緒に居た事を疑ってる訳じゃない。俺にはその記憶が無いから混乱してるだけなんだ。」
「……話は分かった。取り敢えず、そろそろ日が暮れる。今日は泊まっていきなさい。聞く限り、寝る場所もないんだろう?」
「ああ。助かる。……慧音?で良かったか?」
俺が色々と考え込んでいるうちに、慧音は白髪女に膝枕をしていた。
「ああ。私が慧音で、こいつは妹紅。……悪いが、今はそっとしておいてやってくれ。」
「分かってる。」
それから俺は夕食を馳走になり、少し早いがそのまま寝床に入った。
……筈だった。
恐らく月曜日までは休みの筈なのでバンバン投稿していきます。