東方鏡華録   作:Crimson Wizard

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作者は設定厨なので色んな解釈が出来る東方は設定を練るのが難しい。
逆によく投稿してるオバロなんかはレベルなんかの指標が有ってかなり描きやすいです。


第八話

 

今も心は現代人のつもりでいる俺からすると、時間という概念は相対的なものだという認識でいる。

だが、仮に同じ時間の流れの二点間を何度も繰り返し続け、老化という現象が存在しないのならそれは最早変化していないのと変わらない。

観測者が時間を認識出来るのは観測者以外にも時間という概念が存在しているからだ。

 

周囲も俺と同じ様に時が流れるにつれ変化し続ける為に俺もその変化を認識出来る。

何故こんな答えの出ない哲学じみたことを考えているのか。

 

俺はこの刻の牢獄を破らなければ死ぬ事すら出来ないからだ。

外部からの攻撃とは考えづらい。そもそも、仮に外部からの攻撃だったとしても俺が認識出来ないのなら対処のしようが無い。

初めの頃は何か絡繰りがあるものだと考えて色々な事を試したが、結局実を結ばなかったから俺は今ここに居る。

 

外敵で無いのならばどの道対処のしようが無い。

物理的な現象でない以上、自力でこの刻の牢獄を抜け出すのは不可能だ。

……だが、俺にはあと二つだけこの事態を対処可能かもしれない手札が存在する。

 

一つ目は未だに具体的な案は浮かばないが魔虚羅だ。どうにかしてこの時間のループを魔虚羅に攻撃として認識させることがが出来れば、

少なくとも魔虚羅だけはこのループから逃れることが出来る。仮にこの時間の流れの外に術者が居るのならばそれで対処が可能だ。

 

二つ目はあのメイドから貰った懐中時計だ。最初は気付かなかったが、同じ時を繰り返しているにも関わらずこの時計だけは時間が進み続けている。

一度この時計を壊してみたが、意識を失って雑木林に戻ってきた時には元通りになって俺の手にあった。

だが、懐中時計の秒針は明らかに違う位置にあった。つまりこの時計だけは時間のループによる影響を受けていない。

 

今はこれだけが唯一の希望だ。だが、幾ら考えてもこの時計を使って時間のループを抜け出す具体案が浮かばない。

体感では既に100年以上の時をこの時間の流れの中で過ごしている。……あくまで体感だが。

 

最初の頃は諦めて暇つぶしをしたりもしたが、結局やる事が無くなるといつも時間のループを抜け出す方法を考えていた。

 

「……この時計の秒針をずらしてみるか。」

 

何故俺は100年もの間この考えに至らないのか。考え過ぎのせいか、俺は典型的な視野狭窄に陥っていた。

 

俺は懐中時計の秒針を少し進めてみる。暫く待ったが、何の変化も起きない。

 

「となると。」

 

俺は呪力を鋭く練って自身の首を斬り裂いた。視界は暗転し、徐々に意識が無くなっていく。……もう何度も経験した感覚だ。

 

 

 

 

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「……変わった。」

 

初めて雑木林以外の場所で目が覚めた。……ここは流石に知ってる。時計塔があるって事は、ロンドンだ。

今は……夕刻の6時頃か。

 

俺はベンチに座って新聞を読んでいる男の後ろに立つと、その新聞を覗き見る。

 

記事の見出しは……切り裂きジャック。具体的な年は把握していないが、恐らく1880年代頃の事件だった筈だ。

くそ、男の手が邪魔で日付が見えない。

 

「すみません、日付けを忘れてしまいまして、今日は何日だったでしょうか?」

 

元々あまり得意では無かった上に殆ど忘れかけている拙い英語で男に話し掛ける。

 

「……今日か?今日は3日だ。4月の3日。」

 

男は着物を着ている俺を物珍しそうに眺めた後に今日の日付けを口にした。

 

「あー、ありがとうございます。」

 

……辛うじて聴き取れた。4月の3日。年度も聞きたかったが、流石に今は何年かと質問すれば怪しまれる。

まあその内分かるだろう。これで時間のループを抜け出せたと考える程俺は愚かじゃない。流石に二度もぬか喜びしたくはないからな。

 

そして、今日は寝ようと思ったが布団が無い。俺は仕方なくベンチに横になると目を瞑る。……流石に4月のイギリスは寒いな。

寒さに凍えながらも、俺は初めて事態が進展した事で少し舞い上がっていたのか目を瞑って数分程経つと眠気が襲ってきた。

 

 

 

 

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「……やはりと言うべきか。」

 

残念ながら、再び目を覚ますと4月3日の午後6時頃に戻っていた。

俺はどうせ時間がループする事を知っているので、多少怪しまれながらもベンチの男の新聞を覗き込んで年度を確認した。

 

新聞の記事では1891年の2月14日となっている。どうやら2ヶ月ほど前の新聞らしい。

 

現状を把握して少し進展があった事に安堵した俺は男の隣のベンチに腰を掛ける。

実は時間をループし始めてかなり経ってから気付いた事なのだが、恐らく、この世界には呪術師が存在しない。

 

異能はある。それは確認済みだ。呪霊……というか妖怪の存在も確認出来た。だが、どれだけ文献を漁ってみても呪術師の痕跡は発見出来なかった。

どうせ時間が巻き戻るからと、貴族の屋敷に乗り込んで確認した情報なので信憑性は高い。

一応、平安京にも退治屋は居たし、妖怪の死体の近くに術師の残穢の様なものも確認出来た。それと……この世界には恐らくだが独自の呪術体系がある。

 

使用者はそれを呪術と呼ばず、霊力と呼称していた。金を積んで目の前で使って貰うと、反転術式による正の呪力に近い力である事が判明した。

それは固有の能力……つまり術式の様なモノではなく、才能があれば継承する事も可能な技術である事が分かった。

 

俺はこの時点で俺の元居た世界とは別の世界である事を確信した。

それと同時にやはり妹紅の存在が色々と俺の疑問を増やしたが、今は並行世界の様なものであると考えている。

なので、慧音と一緒に居た妹紅はこの世界の妹紅とは別人であるという事になる。……そうでなくては説明がつかないのだ。

 

そして……最も迅速に情報を集める手段も確立した。……と思っていた。

何処の都市にも、アングラな世界は存在するものだ。そして、そこではコネと暴力が立場を決める。

 

ある程度裏の有力者と協力的な関係を築き、目新しい情報があったら直ぐに知らせて貰う事になっている。

その代価として、俺は情報料としてその場で幾つか依頼を受けている。

 

……と、一日やってみて気が付いたが、どうせ時間がループするのだから有力者と関係を築いた所で意味は無いのだ。

どうやら同じ時間を過ごし続けている影響か、俺は少し頭が弱くなっているらしい。これ以上馬鹿になるのは御免だ。

俺は再び懐中時計を手に取った。

 

今度は以前よりも少しだけ。秒針を動かす。そして手慣れた動作で自分の首を掻き斬る。

もう何度経験したかも分からない視界の暗転を受け入れて、俺は再び意識を失った。

 

 

 

 

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俺は目が覚めるとそこがロンドンのままである事を確認し、ゴミ箱を漁って新聞を探す。

……あった。記事の見出しでは1892年の9月になっている。時間帯は……丁度昼頃か。

 

少し誤差はあるかもしれないが、今回は場所も変わらず、時間も凡そ一年と半年程度しか経過していない。

俺はやはりこの懐中時計こそが鍵だと言う事を確信した。

これがあれば、少なくとも同じ時間に囚われ続ける事は無い。あのメイドにはキスのひとつでもしてやりたい位だ。

 

「……あの時の吸血鬼!」

 

路地裏からメインストリートを眺めていると、見覚えのある服装をした吸血鬼と、それに日傘を差すメイドの姿が目に入る。

 

俺の声を聞いたのか、吸血鬼は笑みをたたえて此方を振り向く。

 

「……あれ、まだ残党が居たのかしら?確かに全員殺したわよね?」

 

「ええ、その筈です。……!あの懐中時計はっ!」

 

メイドが俺の手にある懐中時計を目にして驚愕の声を上げる。吸血鬼は次第に興味深そうな目付きへと変わった。

 

「……見る限りだと日本人かしら。咲夜、あなたの懐中時計は無くなってはいないのよね?」

 

「ええ、この通りここに有ります。……ですが、あれはどう見ても同じ物。」

 

吸血鬼は此方に視線をやりながら口を開く。

 

「あなた、存在が不安定よ。私も見た事ないわ……二重に存在する様に見えて、どちらも本物。分岐点も同じ様に枝分かれしている。興味深いわね。」

 

「あんた、俺にパフェを奢った時の記憶は無いのか?」

 

……まあ無いからこの反応なのだろうが。会った事のある人物に毎回初対面の様な反応されるのはやはり何度経験しても慣れないな。

 

「……それは並行世界の私かしら?それとも未来の私?」

 

この時代に並行世界という概念が浸透しているとは思えない。やはりこの吸血鬼も鍵の一つだ。

 

「俺には分からんが、幻想郷って言えば伝わるか?」

 

俺がそう言うと吸血鬼は更に笑みを深くして俺の手を掴んだ。

 

「じゃあ未来の私かもしれないわね。とりあえず家に来なさい。」

 

先程から、メイドの持つ懐中時計と俺の持つ懐中時計が奇妙な反応をしている。秒針が磁石のS極とN極の様に反発し合っているのだ。

 

「こんな事は今までに一度も……でも、」

 

メイドは先程からブツブツと独り言を呟いており、吸血鬼もそれを面白そうに眺めている。

 

「はいはい、咲夜。考えるのは後でも出来るわ。今はとりあえず客人を案内しましょう。」

 

「……そうですね。」

 

未だに懐中時計と俺を交互に見ては首を傾げているメイドを面白そうに見ながら吸血鬼は言った。

 

「私はレミリア・スカーレット。奇妙な人間、あなたの名前を聞かせて頂戴。」

 

「……禪院鏡華だ。」

 

俺が名乗ると吸血鬼───レミリアは笑みを浮かべながら満足そうに頷いた。

 




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