東方鏡華録   作:Crimson Wizard

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第九話

 

あれから俺はレミリアに案内されるまま紅魔館……だったか。ロンドン郊外にある結界に隠された西洋風の屋敷に来ている。

夜だったら分からなかったかもしれないが外装の全てが紅く塗られており、玄関に当たる空間の上辺りが時計塔の様なデザインになっている。

 

「……趣味が悪いな。」

 

「聴こえてるわよ?」

 

レミリアに小言を言われるが、俺は事実を言ったまでだしな。

 

「何でこんなロンドンの近郊に建てたんだ?少し知識がある奴には却って目立つだろ?こんな結界。」

 

俺がそう問うとレミリアは少し自慢気に口を開いた。

 

「まず、この建物は少なくとも1000年は前から存在するわ。だからロンドンより年上なの。」

 

ロンドンが都市として成立するより以前からこの建物は存在したって事か。

 

「……目立つのはどうしてるんだ?」

 

「余程の馬鹿で無い限り、夜の王と謳われる吸血鬼の館に侵入する奴なんか居ないわよ。」

 

それもそうか。確かに前の世界でも吸血鬼っぽい呪霊は居た。

どちらかと言えば食屍鬼だったか?まあ日本に居たってことは日本でもそれだけ恐れられているって事だしな。

前見たやつはここまで知性を感じさせる見た目をしてはいなかったが。

……いや、そもそも平安時代に吸血鬼の伝承は無いか。

 

「改めて、紅魔館へようこそ。人間が来るのは久しぶりね。」

 

俺はそのままレミリアに案内されて客間へと連れてこられた。メイドは未だに懐中時計を眺めてぼーっとしている。

 

「さて、あなたを連れて来たのは興味本位だけれど……実際咲夜の懐中時計を持っているのも気になるし、少し話を聞かせてくれないかしら?」

 

「前に一度話した気がするんだがな。」

 

あれはレミリアでは無かったか?何度も時間がループしすぎて誰と何を話したのか記憶が曖昧になってきている。

俺は前世についても軽く触れながら、ありのままの出来事を口にした。

 

「なるほどね。それで懐中時計は咲夜に貰った、と。」

 

レミリアはふむふむと頷きながら少しだけ何かを考える素振りを見せ、再び口を開いた。

 

「まず、結論から言いましょう。あなたの時間がループしているのは、十中八九……神かそれに類する妖怪の仕業で間違いないでしょうね。」

 

確かに呪霊にも似た様な術式を持った奴は存在した。……だが、あれは自身の領域のみを対象とした縛りがあって初めて成り立っている。

無差別に相手を時間の檻に入れるような規格外の呪霊は見た事がない。

 

「信じられないのは分かるわ。確かにあまりにも都合が良過ぎる、強力無比な力だわ。でもね、実際にそういう能力持ちは居るの。

まず、私の身近な例で例えてあげる。そこに居るメイド、咲夜は時間を操るという能力を持っているわ。」

 

……は?確かに何らかの体術を修めているであろう立ち姿だが、見る限りでは普通の少女だ。

 

「自分の目で一度見てみたら理解せざるを得ないでしょう。咲夜、時間を止めて実際に見せてあげなさい。」

 

「畏まりました。」

 

咲夜と呼ばれたメイドは指を鳴らすと、次の瞬間には俺の真後ろに立っていた。この時点で転移の術式でも使わないと有り得ないが……

 

「私に触れていて下さい。」

 

そう言われ、俺の手を握ったままメイドは能力を発動する。

 

「……確かに止まってるな。」

 

レミリアも、話しながら紅茶を呑んでいる姿勢のまま固まっている。

 

「他にも、こんな使い方が出来ます。」

 

メイドはそう言うと俺の手を離して能力を発動したのか、一瞬だけまた俺の視界から消える。

そして再び現れたと思うと、自身の周囲にまるで壁の様にナイフを纏って現れた。

 

俺は咄嗟に身体に呪力を纏うがナイフが俺に当たる事はなく、ナイフを仕舞ったメイドが俺の前で一礼する。

 

「……成程な。時間を止めてナイフを設置したのか。」

 

それもただ浮かせるだけじゃない。投擲しながら時間を止めて、ナイフを全て同じ向きに揃えたという訳だ。

 

「他にも、亜空間を創り出したり空間を引き延ばすなんて事も出来るわよ。」

 

再びレミリアが得意気に語り出す。……何でそんなに得意気なんだ?

 

「なんで自分の事の様に語ってんだ?メイドの能力だろ?」

 

「メイドは私の所有物だから、この能力も実質私のモノって訳。ね?咲夜。」

 

「はい。私の全てはお嬢様の物です。」

 

とんだジャイアニズムだな。それを受け入れてるメイドもメイドだが。……ね?じゃねえんだよ。

だが、今ので分かった。恐らくただの時間停止ならば魔虚羅による適応で俺にも耐性が出来る筈だ。今の時間停止は明確に攻撃だと認識出来るからな。

 

流石にループとなると魔虚羅の適応も分からないが、少なくとも俺は無理だな。まず魔虚羅の適応が追い付くまでにかなり掛かるはずだ。

……まあ五条悟の無下限程では無いと思うが。

 

「まあこの通り、反則級の能力ってのは割と有り触れているモノなのよ。

それに私の妹はありとあらゆるものを破壊する程度の能力ってのを持っているわ。結界なんかも全くの無駄よ。」

 

概念系の能力って事か。単にこの世界のバランスが可笑しいだけな気がしてきた。

ありとあらゆるものを破壊出来るのなら、理論上は五条悟の無下限すらも突破出来てしまうでは無いか。

 

聴く限りだと俺の魔虚羅も適応まで持つのか怪しい。……まあ恐らく大丈夫だとは思うが。

 

「そろそろ現実を受け入れなさい……禪院鏡華。目を逸らすだけでは、事態は何時までも好転しないわ。」

 

「分かってる。だがどうすればいい?術者の居場所も分からないんじゃ、其奴を叩く事も出来ない。」

 

「……日本だと月読命、聖神、来訪神、御年神、大年神。海外だとクロノス、カイロス、ホーラ、サートゥルヌス、ズルワーン、アイオーン。」

 

「それって」

 

少し強引に俺の言葉を遮ってレミリアが話を続ける。

 

「パッと私が思い浮かぶ限りでもこれだけ時間にまつわる神が居るのよ?……どう?少しは希望が見えて来たかしら?」

 

……俺に神を殺せって言うのか。いいさ、やってやろうじゃないか。

 

「でも、あなた程度の実力で神を殺すなんて大言壮語もいい所だわ。」

 

「あのさ、希望を持たせといてやる気を出した瞬間に出鼻を挫くのは大概性格悪いぞ?」

 

俺にも分かってるさ。宿儺に殺される程度の実力じゃどう頑張っても神は殺せないだろう事くらい。

 

「じゃあ、神を相手にどうする訳?言っとくけど、日本の神より海外の神の方が面倒臭いからね?海外は基本的に一神教だし、

その分話を盛ったり能力を付け足したりして格を保とうとするのよ。で、実際そういう情報が出回るとその情報源を知らない人間は

それが事実だと信じ込む。すると周囲の人間によって歪められた信仰が噂になって、実際そういった神格が増えてたりする訳。」

 

……何でもありだな。情報が出回る前の古い伝承に上手いこと書かせればインフレし放題じゃないか。

 

「まず、神ってどうやったら死ぬんだ?」

 

「……いいわ。教えて上げましょう。まず日本の神が相手なら、そいつを祀ってる社、神具なんかを全て破壊する。」

 

罰当たりにも程があるだろ。

 

「その時点で、その神は自身に上手く人間の信仰が届かなくなる。神の代名詞でもある神力の補充が儘ならなくなるわ。

次に、そいつの信者を皆殺しにする。……あら。そんな顔をしても、あなたも解放されたければ殺るしかないのよ。」

 

これは流石に弟の縛りに引っ掛かりそうだな。人を助けろの真逆じゃないか。

 

「日本の神が相手ならその時点であなたに対して能力を使う余裕はない筈よ。

ただ、日本に比べて時間を司る神が多いギリシャなんかの神となると、流石にそうはいかないわ。日本の神の様に信仰を得て

行動している神は確かに多く居るわ。でも北欧やギリシャの神は伝承そのままに個として完結している奴らも多いのよ。」

 

「それはつまり、信仰が無くても存在出来るってことか?」

 

呪霊で考えると、畏れられなくても存在を維持できるって事か。相当ヤバいな。

 

「概ねその認識で間違っていないわ。まあ、相手はどうでもいいのよ。要はあなたが神を殺せる手段を持ってればいい訳だしね。」

 

「いや、海外の神って割とピンキリじゃないか?」

 

「そうだけど、あなたはそのキリが相手だったとしても殺す手段を持っているの?」

 

魔虚羅による適応で殺す以外の手段は……極ノ番ならキリの方は殺せるかもな。

 

「ピンに当たらなければ殺せる筈だ。まあ、それでも代償はかなりでかいが。」

 

「そういえば、あなたの能力は結局どんなの?聞いてなかったわね。」

 

俺の能力……つまり術式。

 

名前は……そうだな、簒奪呪法とでも呼ぼうか。やたらと三という数字に縁がある事だしな。

効果は術式の奪取。生涯三つまで術式を奪い、それを自身の術式として使用する事が出来る。

 

生涯三つまで、と言ったがそれは基本的に取り替えが出来ない為だ。

自身の生得領域に直接奪った情報が上書きされる為、術式が三つを超えるとそれ以上術式を発動出来なくなる。

要はキャパの問題だ。だが、それには一応抜け道が存在する。

 

俺の術式の極ノ番、その名を───放伐。その効果は呪霊操術のうずまきと酷似している。

術式一つを失うという縛りを発動させて放つ呪力の塊。その威力は平安京を丸ごと吹き飛ばして尚余りある。

更に縛りを追加すれば神を殺す事も不可能では無いはずだ。

 

その極ノ番を使用した後は術式自体が消える為、再び術式を奪取する事が出来るようになる。

 

ちなみに術式反転は禅譲という。俺の持っている術式を相手の生得領域に直接刻む事で譲渡する事が出来る。

術式反転は触れていなければ発動出来ない事になっている。

 

……待て。今気付いたが、何故この世界で縛りが有効なんだ?

っ駄目だ、考える事を増やしている場合じゃない。今はやめとこう。今は俺の術式の話だった。

 

俺はレミリアに術式の概要と現在奪取済みの十種影法術と赤血操術の事を説明した。

 

「へぇ。中々悪くないわね。特に、血を操るというのは吸血鬼的にポイント高めね。」

 

「お前の趣味を聞いてる訳じゃねえよ。」

 

「まあ確かに強力ではあるわね。で、その極ノ番とやらで殺しきれなかったらどうするの?」

 

「そん時は大人しく死ぬさ。」

 

……いや、死ねないから困ってるんだったな。

 

「その手数の多さは確かに応用が利くし良いと思うけど、決定打に欠くのは宜しくないわね。」

 

「それは自分でも分かってる。だから今は火力不足を補える術式持ちを探している所だ。」

 

「そうなの。……あれ、もうこんな時間。今日は泊まっていきなさい。あなたの事は暫く家で面倒を見てあげるわ。」

 

……俺の話を聞いてたのか?俺が意識を失うと時間が巻き戻るんだぞ?

 

「さっきも言ったが、俺は夜を越えられないんだ。」

 

「それは無いわ。あなたはこの屋敷にいる限りその神とやらの影響は受けない筈よ。」

 

どういう事だ?何か根拠があって言っているんだろうが。

 

「そんな顔をしないでも、説明してあげるから落ち着きなさい。まず、前提としてこれはあなたが屋敷に居る間のみの話よ。

ウチの敷地外で意識を失ったらまず間違いなく時間が巻き戻るだろうから注意しなさい。

それで……あなたがここに居られる根拠だけど、まず咲夜よ。」

 

メイドは頭に?を浮かべているが、俺には何となく伝わった。

 

「この懐中時計か?」

 

「そう。それは咲夜の能力が発現する切っ掛けになった懐中時計。それ自体に時間に干渉する効果があるから、

咲夜の懐中時計の効果とあなたの懐中時計の効果が互いに能力を打ち消し合う筈なの。だから……なんて言うのかしら。」

 

レミリアは上手い喩えが思い浮かばないのか、頭を掻きむしりながら俺への説明を考えている様だった。

 

「その懐中時計自体に時間に干渉する効果がある事は説明したわね?そして、実際その懐中時計はあなたをループから解き放った。

で、そんな時空間に直接干渉する強い効果が反撥し合う訳だからあなたは時間による干渉を跳ね除けれる訳。

分かりやすく説明すると、今私に向けて微弱な風が吹いているとするでしょ?そして全く同じ方向から私に向けて強風が吹いたとしたら、

私は果たしてその微弱な風を感じ取る事が出来るかしら?そういう事よ。

より近く、より強い効果に掻き消される筈だから外部からの影響は受けないって事。」

 

磁場とかで例えた方が良かったかしら。レミリアはそう言っているが、何となくニュアンスは理解出来た。

 

「何となくだが、理解した。それじゃあとりあえず世話になるって事でいいか?」

 

「いいわよ。私も暇潰しは欲しかった所だし。」

 

暇潰しの道具な訳か。まあ俺に得しかないから別にいいんだが。

 

「宜しく頼む。」

 

レミリアの説明を聞いて、俺は正直な所かなり期待している。それと同時にもし夜を越えられなかったら。また期待を裏切られたら。

そう考えると、俺は夜を迎えるのが何時もより恐ろしく感じるのだった。

 

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