王国から離れた村や町では、直接的な恩恵を受けることが出来ない。主にこのレムナントに出没する脅威である、グリムからの襲来に対する防衛策が働かない事も、ごく当たり前の事実であった。
そうした場所にはハンターが派遣され、報酬と引き換えに安全を確約する。しかし報酬が十全に払えない事もあり、ハンターを雇うための金が工面できない地域も確かに存在している。
しかし、何事も例外が存在するように。ハンターが雇われていない状態でありながら、グリムの被害報告が出てこない地域をオズピンはつい最近知った。
グリムの被害報告が一時的に無くなることはあるかもしれないが、その村ではグリムの被害報告が無い状態が、5ヶ月以上に渡って続いている。グリムの脅威に晒されやすい地域にも関わらず。
興味が湧いた。この目で確かめてみるのも良いかもしれないと、ビーコン・アカデミーの校長でもあるオズピンは、その村へと訪れた。何となしに考えた彼の行動は後に、良い原石が見つかった喜びと、これからのことについて板挟みになろうとは、誰1人として知る由もない。
村に着いたオズピンがまず目にしたのは、グリムの被害とは無縁そうな景観であった。人々が普通に暮らし平和を享受しており、とてもグリムの被害に苦しんでいた場所とは思えない場所がそこにあった。
何はともあれ、まずは調査である。そう広くは無い村を隅々まで渡り歩き、大人たちが働き、子どもたちが無邪気に遊ぶ姿を確認したあと、この村に建てられた小さな酒場に足を運んだ。
昼間であるため準備中の看板があったものの、彼は迷うことなく扉をノックした。少し待って、もう一度ノックをすると、酒場の中で足音がした。ドアが開かれると店主と思しき人物がオズピンを見やった。
「どちら様で?」
「はじめまして。少しばかりお時間をいただいても?」
「はぁ、何か?」
「実は私、現在グリム被害の調査をしているのですが……この村だけ被害報告が極端に少ないのが気になりましてね。ハンターを雇っていないにも関わらず、一体どうしてかと思ってお尋ねした次第です」
オズピンのその言葉のあと、少しの間が流れたところで、酒場の店主が勢いよく扉を閉めようとした。足を挟ませることで扉が閉まるのを防ぎ、僅かな隙間から覗くようにして、また尋ねる。
「まあまあ、そのように焦らなくても」
「か、帰ってくれ! 別にアンタには関係の無いことだ!」
「おや、何かやましい事でもあるのですか? 是非遠慮なく話してください。大丈夫、別に通報したりしませんから」
「あ、アンタこれ以上続けようってんなら営業妨害で──」
そのようなやり取りをしている2人であったが、店主が視線を下に向けた途端、間の抜けた声を出して1点を見つめた。何かと思い、オズピンもそちらを見やると、内心驚いた。
視線の先には、2つの覗き穴のある蟻の頭部のような白い被り物を被り、黒いローブを身につけた子どもらしき人物が居た。それだけなら少し変わった子どもと言えるが、その右手には熊型のグリムであるアーサの物と思われる骨を持ち、2つの覗き穴からは目では無く虚無のような黒だけがそこにあった。
その子どもはオズピンを見ると首を傾げて、まるで“誰?”と言っているかのよう。しかしオズピンは別の要因から、この子どもが只者では無いと感じ取った。
(気配がしなかった? この距離まで近付かれて、足音もせずここまで来たのか? 一体この子は──)
「は、早いなオブリー」
オブリーと呼ばれた子どもは店主の方に顔を向けると、その手に持っているアーサの骨を誇らしげに見せつけながら、その場でジャンプを繰り返す。
毒気を抜かれたかのように店主が溜め息をつくと、閉めようとしていた酒場の扉を開けた。
「入りな」
「おや、よろしいので?」
「もうここまで来たら、潔く全部話した方が良いだろ。それに、オブリーに飯を食わせてやんないといけないしな。村長を呼んで話もしたい」
「では、お邪魔するとしましょう」
「オブリー、村長を呼んでくるから先に入ってな。この人と話をしなきゃなんねぇからよ」
オブリーは空いている方の手を挙げて、大人2人の隙間を縫って酒場へと入って行き、オズピンも店内に入り村長と店主が来るまで、この無口な少年と待っていた。
少しして店主が村長を連れて到着し、村長がこれまでの事を説明した。
「教授ともあればご存知でしょうが、ここは以前グリムの被害に悩まされていた場所でした。しかしハンターを雇おうにも纏まった報酬を支払う事も出来ず、協会の方にも掛け合っては見たのですが無理だと言われて……そんな時に、この子と出会ったのです」
「話を遮って申し訳ありませんが、彼……彼女? は幾つですか?」
「性別は多分男の子でしょうが、歳も性別も詳しくは分かりません。この子を拾った時に、医者が言うにはおそらく12歳頃だろうとは。ただその医者でさえも、この子には分かりかねる事が多すぎると」
「ふむ、成程……失礼、続けてください」
「は、はい。この子を拾ってひと月もしない頃、グリムの群れが村にやって来ました。急いで村を捨てて逃げようとしましたが、それよりも早くグリムが村を包囲していて絶対絶命の時に、この子が助けてくれたんです」
村長とオズピンの間の席に座っているオブリーは、ローブの内側からヒビの入った楕円錐の刀身に持ち手がついた簡素な剣とも言い難い武器を店内で掲げる。オズピンは興味津々といった様子で、その武器を見ながら訊ねた。
「かなりボロボロな、この武器で?」
「いえ。それ以外にもセンブランスを発動してグリムを倒していました。以来、オブリーはグリム退治に精力し、私たちもそれに甘える事に」
オズピンは村長の体が小さくなっていく錯覚を覚えた。決して低くは無い背丈の持ち主ではあるが、オブリーに対する申し訳なさ等が勝ってしまい縮こまることしか出来なかったのである。
「とても助かっています。でも同時に、何とも情けないと今でも思っています。本来なら守るべき子どもにグリム退治をしてもらい、平和を享受している自分たちに。そして少しでもこの子の助けになればと、村の者皆で世話をすることにしたのです」
「事情は分かりました。しかし──」
「ええ、分かっています。このようなこと、罷り通って良いわけがありません。本来ならば正式にハンターを雇って解決すべき問題を、彼に押し付けていた。それが事実であり、罰を受けなければなりません。ですが──」
村長はおもむろに席を立ち、床に跪こうとしたところでオズピンも席を立って、村長の行動を妨害した。
「落ち着いて、私は別に罰を与えに来た訳じゃない」
「し、しかし」
「確かに普通の人間であれば、このような事態にある村の現状に対し何かしらの非難を投げるのでしょうが、生憎私は普通とはかけ離れてるものでして」
そう言ってオズピンはスクロールを取り出して自身の身分を明かそうとして、取り出したスクロールが一瞬で手から消え去ったことに気付く。
「ん?」
「こ、これオブリー!」
村長の視線の先を見やると、何といつの間にか酒場のテーブルの上に座ってオズピンのスクロールと思われるものを触っていたのだ。まるで初めて見たものに触れるかのように、おそるおそる手探りな様子で。
(やはり、この子は只者では無い。最初に会った時といい今といい、気配すら感じさせることなく動いていた。気配を遮断するセンブランスの持ち主なのか、いやだとしたら戦闘時にセンブランスを使用していたという村長の言葉と若干の齟齬が)
「も、申し訳ございません! すぐに返すように」
「あぁ、別に構いませんよ。好きに触らせても大丈夫ですから……彼はいつもこの様なことを?」
「いえ、ごくまれに。元々悪戯好きなのか、村に来て暫くしたあと、頻度こそ少ないですが被害に遭った者は多少居まして。ただ度を過ぎた事はしていない上に、謝りもするので叱るに叱れず」
そんな会話の終わりにオブリーが元の席に座り、オズピンにスクロールを返す。満足したのかはさておき、オズピンに向かって軽くお辞儀をしたあと店主が持ってくる料理を待とうとしていた。
不意に、オブリーは姿勢を正したあと急いで酒場から外へ素早く出て行った。剣とも言い難い武器を取り出しながら颯爽と駆けていく様子から、村長は異変を察知した。
「まさか、グリムが!?」
(グリムの反応を検知した? にしては私の方には何も……いや待て、この反応は)
直後、外から轟音が響いた。オズピンも村長と共に出て音の発生場所を探し、地中から顔を出したミミズに酷似しているグリムとオブリーが争う場面を目撃した。
「地中から……それにあのグリム、見たことも無い新種か」
「オズピン教授! 今すぐにここから避難してください! 私も村の者に避難するよう伝えに」
「いえ、私も彼に加勢しましょう」
「ですが!」
「なに、ご心配なさらずとも腕には自信がありますので。そうでなければ今頃、グリムの餌になっていた位には戦えます」
「!…………お願いします、あの子を!」
「ええ、お任せを」
すぐにオズピンはオブリーの元へと向かい、店主や村長と別れた。そしてオブリーとグリムの戦いを見るために、戦闘の渦中へと身を投げる。
ミミズのようなグリムが地中と地上を交互に移動する中、オブリーは本来人間が出来る筈のない2段ジャンプを用いて、地上に出てきたグリムの肉体を斬りつけていく。
身軽な動きでグリムにダメージを与えているが、グリムの肉体が全て地中へと入れば、オブリーに出来ることは待ちの姿勢を取るのみ。目視による判断がほぼ不可能なオブリーの立つ地面が、少しずつ危うい場所に変化している事にオブリーは気付いた。
ダッシュでその場から離れると、先程まで立っていた地面からミミズのようなグリムが現れた。あの場に留まっていれば一溜りも無かっただろうが、避けたことでこれ幸いと相手に隙が生まれた所を、自身のオーラで作られた塊を射出する。
グリム本体への着弾と着弾時の爆発が更にダメージが重なる。しかしオブリーの攻撃に対し、あまり効いている様子のないグリムは、そのまま地中を潜りまた姿を消した。待ちの姿勢を保ち、異変にいち早く気付けるように集中する。
オブリーの足元の地面から、僅かに土埃が舞った。すぐにその場で跳躍し地面から離れた瞬間、立っていた場所にグリムが現れオブリーを喰らおうとする。しかしオブリーの身につけたローブが、まるで翼のように変化すると1回の羽ばたきでグリムから逃れ、そのまま白いオーラを纏いながら落下攻撃を仕掛けた。
その攻撃が効いたらしく、グリムは初めて痛みに悶え、堪らず自身の肉体を何度も地面に叩きつけ始めた。破れかぶれな攻撃を避け損ない、勢いで家屋の壁を突き破って距離を空けてしまう。
間髪いれずグリムは喰らうべき対象であるオブリーに向かい、地上と地中を交互に移動しながら家屋ごと飲み込もうとした。
「試すような真似をしてすまない、オブリー君」
突如、グリムの頭部を得体の知れぬ衝撃が突き抜ける。大きく横に逸れ、慣性により家を倒壊しながらオブリーの手前で止まった。
オブリーが加勢に来たオズピンに視線を向け、それに気付いた彼は杖を地面についてオブリーの方に向き直る。
「今まで加勢できず、試すような真似をしてすまない。君の実力を量り、ついでにあのグリムの弱点を探っていた。君はすぐに休んd」
言いかけて、オズピンは言葉を止める。オブリーの体から白いオーラが発生し、傷を癒していく。全ての傷が完治すると、オブリーは立ち上がりオズピンに軽く一礼した。同時にグリムも意識を取り戻し、2人はすぐさま家屋から逃れて体勢を立て直す。
(さて、どう動く? 見たところオーラも殆ど残っていないはず。)
オズピンの見立てでは、1度引き姿を隠してグリムの弱点に一撃を当てて倒す。もしくはオズピンに任せて村民の避難を促す、他にも色々とあったが可能性が高いものとしてはこの2つだった。
オブリーはオズピンの予想とは裏腹にグリムへと突っ込み、一撃離脱を繰り返していた。と、オブリーを見ていたオズピンは気付く。
(オーラが回復している? 相手に攻撃、いやダメージを与える度に自らのオーラを回復させる能力もあるのか……!)
オーラが回復しきったところで、オブリーはオーラで形成された塊をグリムの頭部目掛けて放つ。幾度となく弱点を突かれた影響で、グリムは本日2度目のダウンを取られる。オブリーはグリムの頭部まで移動しながら、持っている武器にオーラを収束させていく。
そしてグリムの頭部目掛けて放たれたのは、3回攻撃の回転斬り。これが致命的であったらしく、グリムは身体を大きく仰け反らせたあと、その巨体が地へと叩き付けられる。ピクリとも動かなくなったことを確認し、オブリーは武器をしまった。
辺りに、オズピンの拍手が広がる。
「中々見応えのある戦闘だった。素晴らしいものを見せてもらったよ」
オブリーは近寄ってくるオズピンに向けて、改めて一礼をする。
「いやいや。新種を相手して生き残り、剰え倒したのは君の功績だ。私は手助けをしたまでさ。……ところでオブリー君、1つ君に聞きたいんだが」
オブリーはその言葉に首を傾げ、オズピンは続けて訊ねた。
「ビーコン・アカデミーに興味無いかい?」
RWBYOC2人目になります。こちらもゲームキャラから生み出しました。良ければ何のゲームから作られたのか、予想してくれると楽しめるかもしれません。
RWBYOC:その2
『オブリー・マルホッグ』Age12→17
身長152cm 体重53kg
常に2つの覗き穴のある蟻の頭部のような白い被り物を被っている
彷徨癖が目立つ イタズラ好き
喋れないので基本筆談か身振り手振り
センブランス:ホロウ