4大陸の内の1つ、サナス大陸。このレムナントで最も大きな大陸の西部には、かつて行われた略奪や資源の乱獲によって荒廃した土地ばかりが広がっている。故にこの地に住まう人々はテントでの移動生活を強いられており、過酷な環境を生き延びた者は互いに尊敬すべき者として接する仲間として扱われる。
そんな過酷な世界で生まれた1人の少女は、故郷の荒れ果てた世界と、同じ大陸の豊かな国との差異に憂いを抱いていた。少女は求めたのである、豊かな自由を。少女は辟易していたのである、貧しい不自由を。
故に少女は、豊かな国に行く方法を考えた。足らぬ頭と過酷な世界で生きてきた経験を頼りに知恵を絞り、ようやくひり出した悪知恵を使って彼女はシェイド・アカデミーに目をつけられた。
少女への評を取り繕うことなく言うのならば、欲に正直。その欲が満たされる為ならば、どのような手段であれ実行する躊躇いの無さも持ち合わせている。ある意味厄介な、しかし強かな人物像である事には違い無い。
年月が経ち、少女はようやく自由への切符を手に入れた。座学は彼女自身も少しばかり目を瞑りたくなるぐらいの成績ではあったが、実技成績はその汎用性の高いセンブランスにより、トップクラスを叩き出した。これにより異例の事態ではあるが、シェイド・アカデミーからの推薦状を受け取ることが出来、晴れて彼女はビーコン・アカデミーへの入学が決定した。
これから始まる豊かで平和な人生に胸を踊らせていた彼女だったが、そんな彼女の前に立ち塞がったのは、同じ時を過ごした仲間たちだった。比較的砂嵐が落ち着いている頃合に、彼女の前に彼らは立ちはだかった。
「どういうつもりなんだ、フィービー」
「一体なんのつもり? 御祝いって雰囲気じゃ無さそうだし、皆目が怖いよ」
「惚けるな! 何でシェイドじゃなくて、ビーコンに行くんだ!?」
「何でって、行きたかったからだけど」
「ッ、そんな簡単に!」
「いやあのさ、何で皆は私のビーコン行きに反対なワケ? 別に良いじゃん私が何処に行こうが、皆には関係ないでしょ?」
フィービーと呼ばれた少女のルビーのような瞳が疑念を向ける。まるで当たり前のように言ってのけた彼女のそんな態度に、腹を立てたらしい1人が叫ぶ。
「ふざけるな! 何で略奪者の奴等が居る場所に行こうとする!? 俺たちが今こんな辛い生活をしなきゃならなくなった、元凶の居る場所なんかに!」
「あー、そういうヤツ?」
その発言に対し、フィービーは彼らが何を言いたいのか
どこか呆れた面持ちのまま、半開きになった瞼から覗かれる赤い目が、この過酷な地ヴァキュオで育った同胞を無機質に見つめる。
「言っとくけどさ、私別にそういうの気にしない方なのよ」
「なに?」
「まぁ確かにヴァキュオは他の王国から豊富にあった資源を乱獲されたりしてこうなったけどさ、そこでアンタ達の言う略奪者だけを責めるって思想はよく分からないのよね。だってそれ、私たちより前に生きてた人達が怠惰に暮らさず、他の王国から資源を守るための力をつければ良かったのに、それをしなかったからこんな結果があるんでしょ?」
「……だとしても!」
「だとしてもも、へったくれも無いでしょ。私たちの今の暮らしは、むかーしむかしに怠惰に暮らした私たちより前の人達が生み出したツケが回ってきてるから。個人的にはそう思うのだけど?」
何人かは思うところはあったのだろう。彼女への風当たりは弱まったものの、それでもまだ言いたげな彼らを見やって、フィービーも右側頭部を軽く指で叩きながら発言を再開した。
「…………もしかしてさ、私がヴァキュオを出て別のアカデミーに行こうとしてる事が、裏切り行為だと思い込んでる?」
砂塵を運ぶ風の音だけが静かに木霊した。その反応に兎に角心底呆れ返ったのか、天を見上げて他の者にも聞こえるぐらい大きく長く溜め息を吐いて、彼女にとっては何とも馬鹿馬鹿しい理由への第一声が叫ばれた。
「バッカじゃないの!? 思い込みもここまで来ると、いっそ清々しいわねアンタ達! そんな事で裏切られたとか思われてたなんて心外よ!」
「けど!」
「けども何も無いわよ! 私はね、ヴァキュオの生活に今もウンザリしてるのよ! オシャレは出来ないし真面な御飯なんて食べれやしない! 生きるのに精一杯で友だちとショッピングなんて以ての外で、恋バナなんてちっとも出来やしない! こんな不自由な暮らしを続けるのは、もうたくさんなのよ!」
「だから他のハンターの仕事を奪って、シェイド・アカデミーに自分の存在を誇示したのか」
集団の中を掻き分けて新たに先頭に立ったのは、薄いピンクがかった橙の肌に暗褐色の模様が入ったトカゲのファウナスだった。成人男性の太もも程の太く短い尻尾を携えた彼女は、フィービーに対して敵対的な視線を崩さなかった。
「なに、悪い?」
「いや、そういった方法でシェイドに目を付けられるようにしたのは中々頭を捻ったと思うし、褒められた方法では無いにせよアンタの意思を非難するつもりは毛程もない。でも……」
トカゲのファウナスの彼女は徐に自身の武器であるウルミを取り出し、取っ手を口に運びそれを噛むと、ウルミの刀身に雫が伝わっていく。再度武器を手に持って構えると、フィービーにゆっくりと歩み寄り始める。
当のフィービー本人はというと、先程の彼女の行動を見て僅かに後ずさった。
「アンタは自分の願望を叶える為に、
「ちょ、ちょっと待ってよ。それは洒落になんないから一旦落ち着いt」
「落ち着けだと? 物凄く落ち着いているじゃないか。ただ歩いているだけなのに何を怖がっている?」
「なら普通武器は持たないんじゃ無いかな!?」
「あぁそう。話を戻すが、仕事が出来ないハンターの中には私の両親も居てな。それにヴァキュオに居るハンターの中でも噂になっていたんだ、仕事をしようとしたら先に誰かが仕事を奪っていて、報酬が貰えなかった事態がな」
トカゲのファウナスは自身の毒を流し込んだウルミを、フィービーに向けて振るった。
「ちょぉぉおおっ!?」
フィービーは振るわれたウルミの刀身をバク転で避け、そのまま距離を取る。絶対に当たってはならないと知っているからこそ、この慌てようを隠そうともしない。
「ちょっ、ホントに洒落にならないってば!」
「何だ、もう忘れたのか? 私の毒は死には至らない弱い毒だというのに」
「よく覚えてるわよ! もう2度と当たりたくないから避けてるんでしょうが!」
「だがお前は受けなければならん立場にあるとは思わんか?」
1歩、トカゲのファウナスがフィービーに向かって動く度に、彼女はまた1歩後ずさる。2人の間は縮まらないが、追い詰められているのはフィービーの方であった。
「ヴァキュオに生きるハンターは、この荒れ果てた地で生き残るためにハンターをしている者が多い。フィービー、お前は生きるために必要な物を奪って権利を得た。それ相応の報復は覚悟しておくべきだということもな」
「それが今だって言いたいわけ? というか、こんな事してもただの鬱憤ばらしにしかならないわよ」
「不平不満を晴らしたいのが私だけとも思うなよ? お前はヴァキュオに住まう全てのハンターに迷惑をかけたんだ、私1人にやられるぐらいどうって事無いだろう」
「ぜーったい、いや!」
「文句は受け付けん!」
毒の染み込んだウルミの刀身が振るわれる。刃はフィービー目掛けて凪ぐように向かってくるが、身体を縮めて前方へと回避すると彼女は勢いのままトカゲのファウナスに目掛けて蹴った。
トカゲのファウナスは蹴りを危なげなくバックステップで回避したあと、ウルミを勢い付けるために左足を軸に左回転を行い、ウルミの刀身をフィービーの頭上目掛けて振り下ろす。側転で避けられたが、すぐに刀身を引き寄せて再度彼女目掛けて振るう。
防戦一方かと思われるフィービーであったが、トカゲのファウナスから距離を取った所でセンブランスを発動する。彼女の肩に夜空の星が猫の形も持った何かが現れると、フィービーの色彩が赤、白、黒のみに変わった。直後、フィービーは上に向かって
「逃げるな卑怯者ッ!」
「戦略的撤退って言うんだよこういう時は! 2度と会うことは無いかもだから、じゃあーねぇー!」
物理的に届かない距離を取ったフィービーは、1度落下を止めたあと今度はヴェイルの方角に向かって高速で落下して行った。
落ちていく彼女へ向かって忌々しげな様子を隠すことも無く、トカゲのファウナスは自身の武器を収める。彼らはただフィービーの行く先を見続けるだけしか出来なかった。
場所は変わって、ヴェイル王国ビーコン・アカデミー。5年前に良い拾い物をしたオズピンの目にとまっていたのは、今年入学する生徒の一覧であった。その中の1人、シェイド・アカデミー直々の推薦を貰ってヴァキュオからビーコン・アカデミーへの入学をもぎ取った、『フィービー・カトゥルス』その人を今は見ている。
彼女に関する情報の幾つか、主にパーソナルデータや経歴等に関するものとセンブランスを使ったグリム退治活動の記録を入手し、改めて資料を確認していたところに扉のノック音が耳に入った。
「どうぞ」
『失礼します』
扉が開かれ、部屋に入ってきたのはビーコン・アカデミーの教師であるグリンダ・グッドウィッチ。彼女は部屋に入り、オズピンに頼まれていた調査の報告を始めた。
「オブリー・マルホッグに関する情報ですが、手掛かりは見つかりませんでした。他国の戸籍情報も確認してみましたが、彼の両親と思しき人物さえ居ません。その痕跡さえも」
「そうか。ご苦労だった、グリンダ。この5年、手間をかけさせた」
「全くです。急に奇妙な子どもを連れてきたと思ったら、あの子をビーコンで預かると言った挙句、身辺調査をしろと」
「容赦が無いな」
「そう言われるだけの事を頼んだのです。これぐらいは甘んじて受け止めて下さい」
「それもそうだな」
短いやり取りを終えて、ふと彼女の視線はオズピンの見ていた今年入学する予定のフィービーに向けられた。
「1つ聞いても?」
「構わないが、フィービー・カトゥルスの事か?」
「えぇ。なぜ彼女の入学を承認なされたのか、常々考えてまして」
「強いて言うならば、良い刺激になるからだな」
「随分と評価しているのですね。私には、彼女が生徒に悪影響を及ぼすのではと」
「否定はしない、その可能性もあるだろう。とはいえ良い機会とも捉える事が出来る」
「というと?」
「影響が良かれ悪しかれ、彼女のような人物と関わりは学びを得る。ヴァキュオに住まう人間の思想や思考、そんな彼女とどう向き合うのか。いい勉強になると私は思うんだ」
「……言い分は理解しました。ただ、悪影響を及ぼしかねない人物よりも、良い影響を与えるような人物であれば生徒の意識向上にも繋がるのではと個人的には思います。例えば、今年入学してくるアイアンウッドの息子の──」
「いや、正直なところ彼は劇薬の類だと考えている」
「劇薬? 彼がですか?」
「ジェイムズから
オズピンは机の上に置かれたココアの入ったマグカップを持ち、最後の1口を飲み干そうとした。しかしやって来た味わいが想像と違うものだと感じた途端、口に含んでいたココアをマグカップの中に戻してしまった。
「オズピン?」
「ああ、大丈夫だ。ココアに塩が入ってたらしい。多分だが、最後の1口を狙ってあの子が入れたようだ」
グリンダが辺りを見回す。そして先程入室の際に通った扉の方を見れば、ぱたんっと閉まる扉を捉えた。大きな溜め息をついて彼女はイタズラの主犯であるオブリーを捕まえに、オズピンに一礼して部屋から退出した。
残されたオズピンはマグカップの中の塩入りココアを飲んだ。最後の1口であったがために、塩の味が口の中に広がっていくが、これ以上飲まなくて良いので、少し困った顔で空になったマグカップの中を覗く。
机の上にそれを置いたあと、読んでいた資料に視線を戻しページを捲った。ハウル・アイアンウッドの項目を一瞥したあと、次にある人物の情報が掲載されたページを見た。
『サクラ・ウカノ』について纏められたページであった。
「毒を食らわば皿まで、とあるが2人分の劇薬では皿まで食べ切れる自信が無いのだがね」
そう呟くようにこぼれ出た愚痴は、歯車の回る部屋の中に広がっていった。
RWBYOC:その3
『フィービー・カトゥルス』Age17
身長167cm 体重59kg
金髪 褐色 赤目 美少女のグループ(自称)
天真爛漫 お転婆娘 甘いもの好き
センブランス:重力操作