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001
月日は巡り、新たな出会いの時期となったレムナント。全てのアカデミーでは新入生を迎え入れる頃、ビーコン・アカデミーに入学する新入生の間では様々な話が飛び交っていた。
本来17歳からの入学条件であるにも関わらず、飛び級により15歳から入学した天才少女が居るだとか。
ビーコン・アカデミー入学前に色々とやらかしたヤバい奴が居るだとか。
SDCの御令嬢が何故かビーコン・アカデミーに入学してくるだとか。
あのウカノグループの御令嬢が何故かビーコン・アカデミーに入学してくるだとか。
その内の1つ、件の天才少女『ルビー・ローズ』はというと、妹との入学という予想外の出来事に驚喜している姉の『ヤン・シャオロン』に抱きしめられている最中であった。
「ああうっそみたい! 大好きな妹とビーコンに通えるなんて今日って本当に最高!」
「お姉ちゃん、苦しいよ……」
「だって、あんたが自慢でしょうがないから!」
姉の喜びように反して、妹の方は素直に喜べるような表情をしていなかった。そも、ルビー・ローズがこの歳でビーコン・アカデミーに通う切っ掛けは、先日ダストショップの強盗騒ぎに居合わせて強盗犯を全滅──とは言わずとも退治し、取調室のような場所で女性から説教を受け、その後やって来たビーコン・アカデミー学長のオズピンに入学したい旨を言ったら、急にこうなっただけなのだから。
本人は仲の良い友人たちと一緒に入学するつもりであったのに、何の手違いなのかと疑いたくなる事なのは違いない。悪目立ちしたくないらしいが、こういったものは否が応でも目立ちやすいものである。
幾らかの会話の後、飛行艇内のホログラムからルビー・ローズが関わった悪党の名が聞こえる。指名手配犯であるローマン・トーチウィックに関する情報があればヴェイル警察まで、との発言のあと内容はファウナス権利団体の集会にホワイト・ファングが乱入する事件が語られる──前に、ホログラムが女性の映像に切り替わった。
『ビーコン・アカデミーへようこそ』
「誰あれ?」
『グリンダ・グッドウィッチです』
「ああ」
『皆さんは栄えある我がビーコン・アカデミーへ入学を許された、選ばれし生徒です』
ホログラムに映された彼女から続いた言葉は、ハンターを目指す生徒たちへ向けた、これから負う責務とアカデミーから彼らに渡せる経験について。それらが語り終わると、ホログラムが消えた。
そして生徒たちは窓の外を見る。ヴェイル王国の景色、多くの人が上空から見下ろしているその光景は何よりも格別な物に映っていた。
それ以外にも、空を飛んでいる誰かが居るようだ。
「お姉ちゃん、空飛んでる!」
「そりゃ飛んでるでしょ。何言ってるの?」
「そうじゃなくて人が飛んでる!」
「うっそマジで!? どこどこ?」
「あっちに行った!」
「えーどこよ!?」
「だからあっちだって!」
いつの間にか、殆どの視線は空を飛ぶ彼女に集まっていた。
002
ビーコン・アカデミーに1番速く到着したのは、1番先頭に居た飛行艇──ではなく入学する1人の生徒であった。いの一番に到着した彼女は、センブランスを使って早速探検を始めた。
それから少しあとに飛行艇が到着し、搭乗していた全生徒がビーコンに降り立っていく。中には降りないで足早に胃の中の物をスッキリしにいく生徒も居るようだが。
ルビーとヤンの2人も降り立ってビーコンを見上げた。待ちに待ったアカデミーを目の前に彼女らは昂りを隠せないでいる所に、上空から声が聞こえてきた。
「退いてどいてー!」
「え、うわぁああ!?」
「ちょちょちょちょ!?」
群衆の中心に落下している彼女から生徒たちは離れていき出来た空間の中心に衝突……するかと思いきや、一瞬だけ体色が変化すると全ての勢いが殺された様にギリギリで止まった。
体勢を整えたかと思えばまた色が変わり、今までの落下速度を無視したような軽い音が鳴る。落下してきた当人は、どこかあっけらかんとした様子で両腕を上に伸ばして自身を誇示し始めた。
「たらーん! 私、降・臨☆!」
「ちょっと! 危ないでしょアンタ!」
退避していたヤンが落ちてきた彼女へと詰め寄るものの、当の本人はキラキラと表情を輝かせてヤンに急接近する。
「あなた超かっこいい!」
「へっ?」
「ねね、名前なんて言うの? あ、私フィービー。フィービー・カトゥルスよ、よろしく!」
「あー……私はヤン、こっちは妹のルビー。ってそうじゃなくて! あんな風に落ちてきたら危ないでしょ!」
「大丈夫、避け無かったら当たる前に止まって退いてもらうつもりだったし。ねぇそれより、あなた何処から来たの!? 金髪は地毛? 私のは訳あって少し薄いけど同じ金髪だしお揃いだよね! その服どこで買ったの? もし良かったら一緒にその店に行ってみたいなぁ! このブレスレット結構おっきいね、ヤンにとっても似合ってる!」
「あー……」
中々のマシンガントークで会話の主導権を握り、ヤンが困り始めた。そのあとも尽きぬ興味に突き動かされるようにして聞いてくるので、明朗快活なヤンでさえも戸惑っている。
しかしそのマシンガントークが不意に止まったかと思えば、フィービーはハッとした表情を浮かべた。
「そうだ! 今から講堂に行こ! 待つのは面倒臭いけど、あなたや他の子たちと色んなお話しすれば時間も潰せるしお互いの理解も深められるから一石二鳥よね! よし決まり行こう!」
「ちょっと人の話をおおおお!?」
「おねえちゃーん!?」
フィービーの肩に猫のような何かが現れた次の瞬間、フィービーの全身の色彩が変化し彼女と彼女の周囲に居た生徒たちが浮き始めた。そのままヤンは他の生徒と同様にフィービーによって連れ去られていってしまった。
残されたルビーは遠くなっていくヤンとフィービーを見上げて呆然としていたのも束の間、現実を直視し慌てふためく。
「ど、どどどどうしよいきなり1人になっちゃったし、寮とか講堂とか場所分からないし、何をどうしたら」
ルビー・ローズ、早くもピンチに陥る。慣れ親しんだ友だちも居なければ、唯一頼れる姉もフィービーなる人物に連れ去られてしまっており、咄嗟に何をすれば良いのか考えがまとまらない様子を見せた。
ただ、そんな慌てふためいている彼女に手を差し伸べる者が居た。
「どうされましたか?」
「あ、えっと人とはぐれちゃって……わぁ」
そう言いながら背後に立っている人物と目を合わせようとして、ルビーは少しの驚きが混じった声を出す。自分より遥かに高い背丈にモフモフとした白い尻尾、真っ白な髪と頭の上にある獣耳の
「どちらに向かわれたかお分かりですか?」
「えっと……講堂、に?」
「講堂でしたら、あちらの方に進んでいくようにすれば辿り着きますよ」
「ありがとう、ございます」
「ついでなのですが、1つお尋ねしても?」
「はぁ」
やけに声が低いなと思いながらも、ルビーは目の前の
「失礼ながら、貴女はビーコン・アカデミーの入学生なのでしょうか?」
「あ、はい。そうです」
「ふむ、なるほど。あぁいえ少し疑問に思っただけでして、見たところ他の方々より年若いような雰囲気でしたので」
「あ、私は──」
「何をしてますの、ハウル?」
白狼のファウナスである
ハウルと呼ばれたファウナスは、ルビーから視線を離して
「どうやら道に迷われていた様子でしたので、案内を」
「あなたは
「今後長い付き合いになるであろう学友の方々との交流は欠かしてはならないでしょう。それに、先んじて確認する事も護衛の仕事ですよ」
「全く、その口は何時になったら閉じるのかしら?」
「それはボクにも分からない事ですね」
「はぁ……兎も角、行きますわよ。そちらの──ハウル、彼女まだ子どもじゃないの」
「ボクもワイス様も子どもですがね」
「そういう事を言って! ……いえ、これ以上は止めておく事にします。行きますわよハウル」
「かしこまりました。失礼、ボクはこれにて」
「あ、ありがとう」
話が終わると、ハウルと呼ばれたファウナスはワイスと呼ばれた彼女と、彼女の使用人と共に目的の場所に向かい始める。途中、ハウルはルビーの方を振り向いて一礼を済ませると、元の進路に戻っていった。
「優しそうな人だったなぁ」
「そうかしら」
「うひゃあっ!?」
独り言に答えられた事で驚いて後ろを振り向くと、ルビーの背後に頭頂部の黒いリボンが特徴的な人物が立っていた。驚いているルビーを他所に、その彼女は言葉を続けた。
「さっきの、SDCの令嬢だったわ」
「えーっと、ハウルっていうファウナスの方?」
「まさか。そのハウルって人と話をしていたワイスって呼ばれていた彼女の方よ。SDCに関係してそうな人間を信用するのはオススメしないわ」
「それってどういう?」
「SDCは労働者の問題や怪しげな取引先も多くて、かなり悪名高い世界有数のエネルギー会社よ。そこの令嬢の護衛ともなれば、あのファウナスも危ない繋がりを持った人物だと予想できる」
「でも道案内してくれたよ?」
「周囲との関係を良くしておけば、怪しい事をしても擁護されやすいのよ。覚えておくと良いわ」
「ちょっと、流石にそれは!──」
ルビーが彼女の発言に物申そうとしたが、その前に自身から離れていく彼女の背中が視界に映り、結局何も言うことが出来なかった。盛大に溜め息をつき、ハウルの言っていた方向へと歩こうとして呼び止められた。
「やあ」
「あー……どうも?」
「俺、ジョーン。何か困ってそうだったからさ、良かったら話聞くよ」
「ルビーよ」
近くに居る金髪の青年をルビーは見つめ、鼻に伝わる臭いで何かを思い出したかのように言った。
「もしかして船でゲロった子?」
003
「だからさ、みんな口に出さないけど乗り物酔いはよくある事なんだって!」
「だからごめんって。ゲロった子って印象が強かったからさ」
「ちょっと、人の痴態をほじくり返すなって! 俺にはジョーン・アークって名前があるんだから! 覚えやすくて言いやすい、女子にだってモテる!」
「本当?」
「マジだって! ──いや、いつかはモテたい。母さんがいつも……やっぱりなんでも無い」
講堂のある方に向かって歩いている2人は、意外にもお互い談笑をするぐらいには仲良くなっている。初めの印象こそ良いとも悪いとも言い難かったものの、初対面の人とここまで話せた事を知ればヤンは喜ぶであろう。
ジョーンの気落ちした様子を見て、ルビーは今自分が話せる話題について切り出した。
「えっとね、私はこの子」
そう言って、ルビーは自身の武器であるクレセント・ローズを大鎌形態で見せる。1歩下がって驚くジョーンも、その話題に乗った。
「それって鎌だよね?」
「変形もできるの。高火力のスナイパーライフルに」
「えっとつまり?」
「銃にも変形できるってこと」
「へぇ……それ凄いな!」
「あなたの武器はどんなの?」
「えっと、俺のはこの剣」
「おぉー」
「それから、盾さ」
「それで、どんな機能があるの?」
そう言いながらルビーが盾に触ると、盾が勝手に跳びジョーンが慌てて掴もうと四苦八苦した。盾を地面に落とすことなく掴むと、ジョーンは言葉を続ける。
「この盾、小さくなれるんだ。持ち運ぶのに辛くなったら、仕舞っておける」
「でも重さは変わらないでしょ?」
「あぁ、確かに……」
「えっと、へへっ。私、武器のことになると夢中になっちゃって、この子を作る時も凝りすぎちゃったんだ」
「待って、それ自作なの!?」
「そうだよ! シグナル・アカデミーじゃ皆自分で武器を作るから。あなたは違うの?」
「これは、お下がりでさ。ひいひい爺ちゃんが戦争で使ってたんだ」
「良いね、先祖代々の伝家の宝刀って感じで。最近は伝統を大切にしてる人って少ないし」
「伝家の宝刀ね、ははっ……」
歯切れが悪くなったジョーンをよそに、ルビーは1つ尋ねてみた。
「そういえばさ、さっきは何で声掛けてくれたの?」
「いや当たり前のことさ。母さんがいつも言ってる、“他人とはまだ見ぬ友達”って」
「へぇ。あ、講堂が見えてきた」
004
そうして講堂にまで辿り着いたルビーとジョーン。ルビーは辺りを見回してヤンの姿があるか確認すると、ヤンを見つけたと同時に向こうもルビーを見つけて手招きした。
「ルビー、こっちだよ! 場所取っておいたから!」
「ジョーン、また後でね。また入学式のあとで!」
「ねぇちょっと待って!」
その声は届かず、ルビーはそそくさとヤンの方に走っていった。
「はぁ。話してて楽しい子、もっと居ないかな」
ジョーンと別れたルビーはヤンの元まで辿り着き、先程まで別れていた姉にルビーは訊ねる。
「ねぇ、さっきの子は?」
「嵐みたいに色んな人の所行って、今どこにいるかさっぱり。ルビーこそどう? 入学初日に友達できた?」
「友達、かな? ちょっと話した子なら1人」
「おめでとうルビー! 1歩前進じゃーん!」
嬉しさのあまり、ヤンはルビーにハグをして頭を撫でた。ルビーは姉の胸の中で嬉しさ半分、困惑半分といった表情を浮かべている。
「お姉ちゃん、別にハグしなくても良いから」
「嬉しいのよ、可愛い妹が友達作ったって事がさ。他には誰と話したの?」
「他はえっと、大きくて白いファウナスの人に道案内してもらったりとか」
「それってあっちに居る?」
ヤンが視線を向けた方向を見ると、先程案内をしてもらった
「うん、そう」
「そっか。じゃあ私からもお礼言わなきゃ!」
「いいってお姉ちゃん!」
「はぁーい、そこの人ー!」
ルビーの制止も虚しく、ヤンはその白いファウナスであるハウルと、その傍に居たワイスの元へルビーを引っ張って近寄った。それに気付いたハウルとワイスの2人は、ヤンとルビーの方に視線を向ける。
「何の御用です?」
「そっちに居る
彼女、という言葉を聞いた途端にハウルが固まり、それを予想していたワイスが小さく溜め息をつく。その意味が分からないヤンとルビーは首を傾げたが、すぐにその意味を理解することになった。
「誤解するのも無理はありませんが、こちらに居るハウルは
「えっ、マジ?」
「マジですわ」
少しの間が訪れ、そしてヤンとルビーは驚いた。
「えぇー!? そんな
「うっ!」
「ええ。彼はこんな
「あのー、そこの彼がダメージ受けてるけど良いの?」
ヤンが心にダメージを受けて膝を地に付けたハウルを指さし、ワイスも彼の方を見るがあっけらかんとした様子を保っていた。
「面白いのでこのままで構いませんわ」
「ひ、酷い……苦しむボクを見て愉悦するなんて」
「いつもの飄々とした態度よりかは、余っ程可愛げがある今の方が良いですわ」
「しくしく……ワイス
「ちょっと! アカデミーでその呼び方はやめなさい!」
「え、なに? 姉弟なの?」
「違います! これはハウルが」
ワイスが何か言いかけたが、講堂内の喧騒に割って入ったスピーカーから発せられるオズピン学長の咳払いで止まり、集められた生徒一同はその1人の言葉に耳を傾けた。