010
新入生一同がとある場所に集まる。何やら地面に場違いな鉄の床が設置されている崖の上であり、崖下には木々の広がっているエメラルドフォレストと呼ばれる地帯を見下ろす事が出来る場所であった。
そして金属製の板の上に並び立つ10数名ほどの生徒たち。並び立つ生徒の前にオズピン教授とグッドウィッチ教授が、今回の試験についての概要説明を開始した。
「君たちはこれまで何年もの間、戦士として訓練してきた。そして今日、エメラルドフォレストで君たちの真価が試される」
「さて皆さんはクラスをチームで分けるという噂を聞いた人も多いでしょう。そう、その通りです。各自の所属チームは後ほど発表します──
「え、ホント!?」
ルビーの反応が聞こえたが、それに気にかける様子もなくオズピンが続けて話をする。
「今後ビーコンで過ごす間、チーム単位で行動することになる。従って皆、気のあったメンバーと組むのが一番だ」
「あぁぁぁ……」
「ということで、君達が森に着地した時に最初に目のあったメンバーと組む。それが今後4年間のパートナーだ」
「ええー!?」
「ほらね、やっぱり言った通りでしょ」
ショックの声を挙げたルビー、隣のライ・レンに話しかけるノーラ。大丈夫だろうかと覗き込むハウルと、何事かと覗き込むフィービーとオブリー。何事も無かったかのようにオズピンは話し続ける。
「ペアを組んだら、森の北端まで進むこと。道中には敵と遭遇することもあるだろう、行く手を阻むものは全て倒すんだ。でなければ命を落とすことになる」
その言葉を聴き、各々が反応する。怖がる者、気を引き締める者、特に問題ないと楽観する者と分かれていた。
「試験の間、君たちの様子はモニターで監視し評価するが、教師が介入することは無い。北へと進んだ先に寺院の遺跡があり、遺物であるレリックが置いてある。各ペアはその中から1つを選び、ビーコンクリフまで持ち帰る。持ち帰ったレリックの種類と順位によって君たちの成績が決まる。質問はあるか?」
「あの、先生質問が」
「よろしい!では位置について」
ジョーンの問いは無視され、全員がスタートの構えを取る。その中でハウルは構えに加えて、頭に着けているカチューシャの右側にあるボタンを押しながら声を発する。
「バイザー、オン」
すると、そのカチューシャからハウルの顔の上半分を覆うバイザーが展開され、まるでゴーグルのようにハウルの顔に貼り付いた。それを見ていたフィービーが訊ね、ハウルは答える。
「わぁ、ハウル何それ?」
「必要なものです」
幾人かの生徒が発射され、続けざまにサクラとオブリーが射出されていく。ようやくハウルの番──直後、ハウルは今までとは真逆の方向に飛ばされた。
一瞬、ハウルは何故と考えたがすぐにこれを仕組んだ誰かさんを飛ばされながら見た。
「ハウル!?」
「え、ハウルなんであっちに!?」
「おや、機械の故障だろうか。こういう事もあるだろうが、対処できるように訓練は積んであるだろう」
「ハウルー! 待っててー!」
ルビーはワンテンポ遅れてハウルが飛んで行った方向に振り向き、オズピンは何も気にしない様子でハウルが飛ばされた方向を見て、そう呟いた。
フィービーは発射されてすぐ、センブランスを発動してハウルが飛んで行った方へと
011
発射台によって後方へと飛ばされていくハウルは、体勢を整えながらある言葉を口にする。
「RN-03、アクティブ!」
その言葉を始動とし、ハウルの服の背中側のスリットから機械の翼が展開された。
「ふぃー、やったなあの陰険マン」
「ハーウールー!」
空中で立ち止まっているハウル目掛けて突っ込んで来たるはフィービー、しかしフィービーは速度の相殺をもせず彼の目の前で急停止する。立ち止まるハウルとは違い、フィービーはまるで浮かんでいるように体勢が安定していない。今も逆立ちのような体勢で話しかけようとしていた。
「わぁ! 何その翼超カッコイイ! あ、もしかして背中にあったスリットとか防具の意味ってそういう事だったんだ! ねぇねぇそれどうなってるのハウル!?」
「これについては移動中に話しますよ。それよりフィービー、貴女体勢が……」
「あぁこれ? 慣れてるから平気!」
「成程。では早速ですが」
「OK、行こう!」
「ちょっと待った」
「うん?」
早速向かおうとするフィービーを制止し、ハウルはある提案を持ちかけた。
「フィービー、貴女今はセンブランスを使って浮遊してる状態ですよね?」
「おー分かる!? 分かっちゃう!? あ、私のセンブランスはね【重力操作】なの! まぁあくまで自分とか、他の人や物の重力の向きを変えるだけだから、移動じゃなくて落下してるんだけどね!」
「ははっ、ご説明どうも。それよりセンブランスの維持でオーラを消費するでしょう、ボクの背中に捕まって少しでも温存しながら移動しましょう」
「大丈夫大丈夫! 使ったばっかりだし、このまま北の端まで向かって行こうよ!」
「いえ、力を温存しておいて突然の出来事への対処に専念してもらえると助かります。ボクのこの翼は大きすぎて、広い場所でないと上手く活用できないので。お願いします」
「ふぅん」
フィービーは顎に手を当てながら、ほんの少し考えたもののすぐに答えを出した。
「いいよ、分かった! じゃあ私には敬語無しでお願い! 堅苦しいの苦手でさ」
「了解。ならフィービー、ボクの背中に乗って。かなり速度が出るけど、しっかり掴まってて」
「だーいじょぶ、だいじょぶ! 速いのには慣れてるから! あ、ちょっと待ってね」
フィービーはそう言ったあと、空へと落ちて行く。少し落ちたところでセンブランスを解除し、地面へと落下していく途中で、ハウルの背中に掴まった。
「おっと」
「よーし、じゃあしゅっぱーつ!」
「OK、なら飛ばすよ!」
翼の羽に当たる小型の機械全てがスラスターとなってエネルギーが噴射され、フィービーとハウルは空を飛んだ。
「いぃやっほぉおい! さいっこー!」
「このまま森の北端まで行くよ! そこでレリックを回収して、一旦他の人の誘導作業に入る!」
「えー!? さっさと戻って行けばいいのにー!」
「地理把握の甘い人も居てね! 確かにすぐに戻って1位獲得したい気持ちは分からない訳じゃないけど! 誰かのサポートに回るのもハンターとして求められる力だよ! だからまぁ、ちょっとだけ付き合って!」
「むぅぅぅ…………しょーがないなーハウルは! 良いよ! 私もついて行ってしんぜよー!」
「ありがとう! 君最高!──なら更に飛ばすよ!」
「うおっひょぉおおおおい!」
機械の翼と繋がった全ての機械の羽から放出されるエネルギーが増加し、速度の上昇が発生した。これにより、ハウルとフィービーはどの生徒よりもいち早く指定の場所であった寺院の遺跡に到着することが出来たため、1番目にレリックを選ぶ権利が与えられた。
着地して2人が見たのは、開けた場所にポツンとある広場らしき遺跡と、その場所に似つかわしく無いチェスの駒であった。それぞれ白と黒の駒が揃えられており、まだ1つの欠けも無いようだ。
「これがレリック? チェスの駒じゃん」
「本物の
「えー、なになに? 何取った……って、ポーン!? 嘘でしょ信じられない!」
「?……レリックを取れば良いんだから、ポーンでも変わらないでしょ」
「レリックの
「そう?」
「そうだよ! ほらポーンをこっちに頂戴!」
ハウルは特に抵抗する事も無くポーンをフィービーに渡すと、彼女は空いたスペースにレリックを戻し、少し見て回ってレリックを取ってきた。
「じゃっ、ジャーン! 白のキーング!」
「キングねぇ……そんなガラじゃないんだけど」
「それはほら! これからハンターの中でレムナント最強を目指す志を宣誓してってヤツだよ!」
「ハンターとして活動するなら、ナイトとかの方が良いんじゃ?」
「もー細かいな! こういうのは雰囲気だよハウル! 直感が大事なの!」
「そういうもの?」
「そういうもの!」
ハウルはフィービーの手にある白のキングに一瞥はしたものの、駒の種類について頓着の無い彼にとっては瑣末事であったため、すぐにやろうとしていた事へと移り始める。
「ま、レリックについては一先ず置いといて。フィービー、今から誘導作業を始めるよ」
「でもさハウル、誘導って言っても何処に誰が居るのか分からないのにどうすんのさ?」
「それについてはご心配なく。今から面白い物を見せてあげるから」
フィービーが首を傾げて疑問を投げかけ、ハウルは彼女の問いに行動で答えた。ハウルは右翼を展開すると、羽にあたる機械が翼から離れ自立行動を開始した。その数およそ80。
「おっほぉ! 何これ!?」
「自律機動できるウィングビットさ。普段は飛ぶためのスラスターとして翼に収まってるけど、こうする事で索敵なんかも出来るようになってる。他にもビット同士が合体して武器にもなれたりするよ。因みに今はボクが操作してるけど、このビットの操作はオートとマニュアル両方できるようになってる」
「ほぇえ……」
「これを使って今から他の人たちを探すから、フィービーには見つけた人たちをここに運んだりしてきてほしい。いける?」
「OK、任せて! 人を運ぶのなんてお茶の子さいさいよ!」
「それは重畳。じゃ、捜索開始だ」
ハウルは翼から離れたビット全てを操作し、他生徒の捜索を開始した。
012
時は少し遡り、射出台から発射されたサクラは普段の装いと僅かに体から浮いている羽衣を飛ばし、木の枝に巻きつかせる。羽衣は自動的に収縮してサクラを引っ張り、彼女は木の枝に飛び移ることに成功した。
羽衣を使って地面へと降りていき、地に足を下ろしたところで北へ向かいながらのペア探しの時間となって暫くした頃。右肩に担いだ大玄翁と左手に持つ鎌を使って道を切り開いていた彼女の辿ったあとには、塵になりかけているグリムの残骸が残されていた。
どこか気怠げな様子で北へと向かっていた彼女であったが、草木と何かが擦れ合う音を聞いて視線をそちらへと向けると、蟻の頭部を模したような白い被り物をしているオブリーが顔を覗かせた。
お互いの視線? が合ったので、一応ペアは出来た事になったが両者ともに無言で立ち尽くしている。
「……あー、ひとまず北へと行くか」
オブリーは首を縦に振ったあと草むらから体を出し、サクラとともに北へと進んでいく。道中が無言であったものの交流すらまともに無かった訳では無い。
オブリーがスクロールを取り出して会話を試みてみたり、オブリーが無邪気な子どものようにあっちこっちに行ったりして虫や少し綺麗な石に興味を示したりしていたため、気まずいという雰囲気はすぐに消え去っていた為である。
そしてオブリーという存在そのものも、サクラの持っている知的好奇心を動かすのに一役買っていた。
「では、喋れぬのではなく元より発声器官が無いのか。かなり不便であろうに、対話はどうしておった?」
<身振り手振り、筆談とか。スクロールはオズピンに引き取られた後に買ってもらった。
「お主は一応村の警護をしておったのだろう、村はどうした?」
<オズピンがハンターを雇って村に駐留させてる。だから大丈夫。
「そうか。にしてもお主のフリック速度速いの、秒間何文字打てとるのじゃ?」
<分かんない。でも返信が早いとは言われる。
少し考えた上でそう答えたオブリーに対し、サクラは先程の入力速度と正確性を見て顎に手を当てながら訊ねた。
「お主、タイピングは速い方か?」
<わかんない。人と比べたこと無いし。
「では終わり次第、その速さを見せてもらいたい。それによってはお主に頼み事をする事になるかもしれん」
<何の頼み事?
「それは後で言うわい」
そのような会話のあと、2人は何かが飛来してくる音を聞き取り、武器を持って警戒態勢を取る。ただし待っていたのはグリムでは無く、何かの機械であったため疑問符が浮かび上がった。
その機械は2人の目の前に現れたかと思いきや、すぐに2人の真上に移動し、次の瞬間空に向かってレーザーを発射した。何か分からないまま警戒態勢を再度取ると、今度は何かが高速でこちらにやって来る音が耳に入った。
その音の正体が2人の居る場所の真上まで来た。色彩が変化しており近くに猫のような何かを浮遊させているフィービーであった。
「やっほー! フィービーちゃんの重力的輸送便でーす! 今なら目的地にひとっ飛び! どう?」
Volume1が書き終わったら、キャラ紹介とか書こうかな。