ヤンでRECKLESS★FANATIC!   作:食卓塩少佐

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TRACK13 THINGS_ONLY_YOU_CAN_AFFORD

 川國のダークナイツ。誰が最初にそう呼び始めたのかは分からないけど、ハッキリ言って余計なことをしてくれたと思う。

 物ごとが広く知られるようになるきっかけは、いつだって名前が付くことだ。

 好きなこと、嫌いなこと、好き嫌いのどっちに当てはまるか判別が難しいけど関心を抱かせること、それらに名前が付いて、定型ができて、次第に普及し、定着していく。

 

 当時、付近の不良学生を襲撃して次々と『不良引退』に追い込んでいた謎の二人組は、誰かが名付けた『川國のダークナイツ』という形で広まり、認知されていった。

 そのおかげで、不良を続けることを恐れて自主的におとなしくなる者もいたが、そんなのは全体でも少数派で、多くは名前が付いたことで『明確になった敵』を排除しようと活動が過激になった。

 

 その結果、今までは自分たちから不良のたまり場に突撃していたのが、向こうから積極的に襲いかかってくることが増えていった。

 俺は変装していたのが功を奏して平気だったが、顔が割れている鈴鹿はその強さも相まって、日常的に放課後や休日に喧嘩を売られる日々へと変わっていった。

 

 それでも鈴鹿は持ち前の力で、それらの挑戦をすべて返り討ちにしていった。

 俺もできる限り変装して鈴鹿と一緒に不良を撃退していたため、二人でじわじわと不良を襲っていた時とは段違いのスピードで、川國全域から不良が激減していった。

 

 図らずも、俺と鈴鹿の目的が達成された──そう思った矢先に、()()()()()が俺を襲い、それが『川國のダークナイツ』を終わらせた。

 以降は、鈴鹿一人で『不良退治』を今日(こんにち)まで続け、その相棒が姿を見せることはなくなった。

 高校生になり、鈴鹿が川國から離れることが多くなってからは、激減していたはずの不良が雑草のように数を戻していき──それでも『川國のダークナイツ』の()()があってか、自然と港湾部の工業地帯や開発エリアを中心に活動していた。

 

 解散後も『川國のダークナイツ』が生み出していた、不良たちと一般人の境界。

 それを──綾小路咲夜は破壊してしまった。

 皮肉にも、まさに『川國のダークナイツ』を伝説(ミーム)として扱い、最悪の解釈でオマージュした上で。

 

 だから、これはある意味、俺たちの不手際で起きてしまった問題だ。

 俺たちのやってきたことがどんなに馬鹿げた行為で、どんなしっぺ返しがあり、続けるのにどれほどの危険があるのか。

 それを全く誰にも語らず、ただ()()()()()()()()()()()()()()ばかりを伝説(ミーム)にして残したばかりに、()()()()()()()()咲夜が上っ面だけ模倣してしまったのだから。

 

 きっと、そう思っているのは俺だけではない。

 だから、お前は今日そうやって、ド派手に禊を濯ごうとしているんだろう?

 

 なら、俺も全力でそれに応えるよ。

 綾小路咲夜が起こしてしまった問題を終わらせられるのは、伝説(ミーム)を生み出してしまった、俺たち二人だけなのだから。

 

 

・  ・   ・   ・  ・

 

 

「……ずいぶんと、懐かしい格好じゃないの」

「ホントな」

 

 喧騒が静まり返った校庭に、俺と鈴鹿の声だけが交差する。

 

「ちょっとクオリティ下がった? あん時と比べてかなり──」

「急ごしらえだから。お前が事前に連絡くれてたら、ちゃんと用意してたよ」

 

 ベレー帽は吹奏楽部が普段練習に使ってる空き教室に放置されてた物を拝借、マスクは自分のカバンに普段から用意してた物を活用。

 鈴鹿の言う通り、バチバチに変装してた当時と比べたら低クオリティなコスプレみたいな質だが、取り敢えずは顔バレを避けることはできる。

 

「それで、わざわざ懐かしい格好になってまで、綾小路咲夜じゃなくお前が出てきたのは、どういう了見なワケ? ()()

 

 鈴鹿が強調する様に敢えて俺を『相棒』と呼ぶと、周囲の不良達が俄かに騒ぎ始めた。

 

「す、鈴鹿さん、アイツ、噂の……?」

 

 堪らず隣に立ってた奴が尋ねると、鈴鹿は『うん』と首肯してから、全員に聞こえるような声で言った。

 

「あのヘンテコリンな格好で俺達の前に立ってる奴は、俺の唯一無二の親友にして、相棒──だった男だよ」

『おおー!』『マジ、あんなのが!?』『ほんとにいたのかよ!?』

 

 悪徳令嬢に復讐しようとしたら、"伝説"の片割れが出てきた。サプライズにも似た興奮が一瞬で不良達を染め上げていき──、

 

「──まぁ、今は綾小路咲夜(あっち)側っぽいけど」

 

 それらを一瞬で失意と怒りに変換させる一言を投下した。

 

「はぁ!? どういうことだよ!?」

「俺らの仲間じゃねえの!?」

「フザケテんじゃねえぞおい!」

「金に絆されたカス野郎が!」

 

 瞬く間に沸き立つ罵詈雑言。さながらSNSで炎上した著名人のリプ欄のごとくだが、なるほど。

 ここまで大量の人間から悪意を向けられる経験は初めてだが、いざこうして立って見ると。

 

「喧しいわ掃き溜めども!」

 

 逆に気分が滾ってくるよ。

 観客全員からブーイングを食らう極悪ヒールレスラーも、きっとこんな気持ちでマイクパフォーマンスを披露しているに違いない。

 不良共が俺に向ける視線、暴言、敵意と悪意、それらがここまで一点集中に向けられると、一周回って万雷の拍手と変わらないんだと、たった今俺は学んでいる。

 

 あぁ、こんな体験ができるなら『川國のダークナイツ』と呼ばれてた過去も、今だけは肯定的に受け取れてしまえそうだ。

 きっとこんな気持ちになってるのは今だけだろう。だから、自分でもそうだと分かるほど気分が上がっている今のうちに──素面に戻って羞恥心と嫌悪感が砂をかけてくる前に、言いたい事と言うべき事を全部口に出していこう。

 

「お前ら全員、こんな時間から押しかけてきやがって。こっちはお前らみたいな馬鹿と違って頭良くなるために勉強しに来てんだよ。たかだか世間知らずのアホお嬢一人のためにどんちゃん騒ぎしやがって。お前らが馬鹿なのは勝手だけど、その馬鹿をこっちに押し付けてくんな! 腐るだろ脳みそが!」

 

 我ながら、よくもまぁここまでスラスラと噛まずに即興で言葉が出てくるもんだと感心しつつ、いつ逆上した不良が襲い掛かってきてもいいように身構える。

 案の定、口より先に手が出る動物がこれ以上俺の発言に黙っていられるワケも無いので、何人かがにじり寄ってきたが。

 

「お前ら、待てって」

 

 それを制する様に、鈴鹿が代わりに一歩、俺の方へと踏み出した。

 

「な、相棒。お前の言う通り朝っぱら無関係な奴を巻き込んだのはまぁ、悪かった。けどな、アイツがやった事の大きさを理解させるのに、これ以上の最適解があったか?」

「無いと思うよ」

「だしょ? だったら──」

「だから大問題なんだよ、馬鹿タレ」

「……あん?」

 

 誰かを害する、という目的を達成するにあたって、こと『無関係の人間を巻き込む』という手段は非常に有効だ。

 相手が真正のサイコパスでは無意味だが、綾小路咲夜の様に世間一般とズレているだけで善性がある人間には、この上なく効く手段だと思うし、実際に咲夜は自分の手が及ばない範囲まで問題が広がっている状況に、パニックを起こしている。

 

 咲夜を苦しめる、後悔させるという目的は間違いなく成功した。

 この後、本当に咲夜がこいつらの手でボッコボコにされたとなったら、キツネ狩りなんて目じゃないレベルの痛みと屈辱を与えることになるだろう。

 

 だからこそ、問題なんだ。

 

「この後のこと、お前は考えたのか」

 

 それだけのダメージを与えるというは、確かにキツネ狩りに対する『返し』としては最高の形だが、それ以上に『やりすぎ』になる。

 これが普通の人間を相手にした『返し』であれば、それで全てが終わりになる話だった。

 いままで、俺と鈴鹿が相手にしてきた奴らは須らくそう言った、やり返す力を持たない人種ばかりだった。

 

 でも、今回は違う。

 

「こんな大事(おおごと)も大事にしちゃって、それこそタダで済むと思ってんのか」

 

 咲夜は庶民では無く貴族。

 どんなに手痛い仕返しをされたって、今度はその仕返しに対する報復を可能とする──そして絶対に行う人種だ。

 

「マジで綾小路に鼻血の一滴でも出させてみろ。キツネ狩りどころじゃ済まない結果が返って来るぞ」

 

『それがどうした!?』

『俺達はそんなのとっくに覚悟して来てんだ、関係ない奴が口出しすんな!』

『鈴鹿さん、もうソイツ殺しましょうや。元相棒とかいうけど良いでしょもう』

 

 俺の言葉に、またも外野が喚きだすが──分かんない奴らだなぁ。

 

「なんか、ぜーいん覚悟済みらしいけど?」

「笑わせんな。なんの覚悟だっての」

 

 後ろの有象無象達に視線を向ける。

 どいつもこいつも知らない顔ばっかりだが、()()()()()()()顔をして並んでるじゃないか。

 

「お前が引っ張ってきた連中のうち、何人がキツネ狩りの被害を受けたんだ?」

「…………」

「昨日見ただけでも、入院や家から出られない怪我してる奴多かったよな? そうじゃなくても、何処かしらに怪我や傷跡が残ってるはずだ。なのに、随分とみんな元気そうじゃないか」

 

『だったら何だよ!』

『こっちはダチがやられてんだよ!』

『俺達は鈴鹿さんの言葉で腹くくってんだ、この後のことなんか知るか!』

 

 そんな言葉が飛んでくるが、それこそ知ったこっちゃ無い。

 

「ダチがやられた、尊敬してるお前が行くなら付き従う……優しい奴らじゃないか。なぁ、鈴鹿」

 

 そんな優しい()()の連中に、正しい現実を認識させてあげよう。

 

「そんなアイツらが、この後にどうなると思う? アイツらだけじゃなくて、その家族が、他の友人が、大事に思ってる人や場所が、タダで済むと思ってんのか?」

 

 ──シン、と噓のように外野の声が消えた。

 

 ああ、やっぱり。何も覚悟なんて出来てなかったじゃないの。

 

「たった1人のお嬢様が命令するだけで、キツネ狩りが出来た。じゃあ今度、綾小路家そのものを敵に回したら、何ができると思う?」

 

 答えない。

()()()()()()()()()()()()鹿()はまだしも、あれ程まで覚悟とか腹くくってるとか、勇ましい事ばかり口にしてた連中も、何も答えられない。

 

「後で全員特定されて、警察に捕まる──その程度で済むと思うなよ。お前らの親が働いてる会社、お前らが好きな店、今日この場に居ない──お前らがここに居る事も知らない友人(ダチ)彼女(ツレ)と、その家族、全部まとめて消される。そういうのを含めて覚悟とか、腹くくってるとか口にしてんだよな?」

 

 答えない。

 誰も、誰も誰も、さっきから全く──。

 

「どうなんだよ言ってみろ!」

 

 あー、なんか苛々してきた。

 あの頃、どうして俺が鈴鹿と一緒に不良退治なんて事やってたか、思い出してきたよ。

 こいつ等って大体が、いうことは達者なくせして、何も先のこと考えてない奴ばっかりで。

 そういうのが本当に、大っ嫌いだったんだ。

 

「世の中、何であれ()()があるんだろうが。無関係な人間を巻き込んだっていうのは、何も学園(ウチ)の生徒だけじゃねえ。そいつ等も合わせて、巻き込み過ぎなんだよお前」

 

 やっと、ここまで言えた。

 ここまでが馬鹿にも分かる現状説明。

 そしてここからが、ヘイトコントロール。今日この場を収めるのに最も重要かつ、本当に嫌な作業になる。

 

「余裕でライン越えしてんだよ、鈴鹿。どうすんのこれ、どう収めるよ」

「なに? じゃああのお嬢様がやってることはラインの範疇だって言いたいワケ?」

「そうじゃね? 少なくとも俺とお前にとっては」

 

 だって、これは皮肉にも咲夜が言ってた言葉だが。

 

「アイツがやったことと、俺らがやってたこと。何が違うんだよ」

「んー。その心は?」

「心も何も、俺達がダークナイツなんてクッソダサい呼び名で不良共退治してたのと、咲夜が不良共を港湾エリアから排斥してたのと、目的は同じだろ?」

 

 だったら──

 

「何でお前はそもそも綾小路と敵対する立場を選んでるんだよ。本当ならお前だって、綾小路(こっち)側だろう?」

「……成程ネ」

 

 にやり、と鈴鹿は笑う。

 それは俺にしか分からない、何かとてつもなく大きなことをやらかす寸前に見せる──とてもじゃないが『お金持ちのお嬢様をボコボコにするとき』()()()()()()()()()では無かった。

 

「いいぞ、主張を続けろ」

「あぁ。言わせてもらうけど、お前がそっち側に居るのは、別に不良達の為に怒りと正義の炎を燃やしてるからじゃねえ」

 

 確かに、自分を慕ってくれてる谷中君達を痛めつけられて、その恨みやわだかまりはあっただろう。

 しかしそれは実際のところ、昨日()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とっくに消化されている。

 もし、鈴鹿が本当に黒服含めた綾小路家にキレてるなら、それこそ玉砕を承知で咲夜の住む家か、会社の方に突っ込んで、昨日より大量の黒服を半殺しに行く。

 間違いなく、絶対に、今以上の馬鹿な行動を実行するに違いない。

 

 そう。鈴鹿は馬鹿なんだ。どうしようもなく馬鹿だから、

 

「単純に、自分をなめてかかった咲夜を泣かせたかった。それだけだろ」

「…………」

「それでついカッとなって、手当たり次第に自分の繋がりを活かして大規模の軍団を夜通し作り上げた所まではノリノリだったけど、怒りのピークが過ぎた今、正直やり過ぎた。そう思ってる」

「……………………」

「かといって、今更集めちゃった連中を何もしないで解散には出来ないし、電話だけで命令出しちゃった奴らはとっくに行動開始してる。もう止められないから学園まで来ちゃったけど、流石に本気で乗り込む真似なんかしたらヤバいから、いかにもノリノリで来ましたって風を装ったうえで、俺にしか分からない様にそれらしい電話して止めてもらおうと──」

「もういい! もういいから!!」

 

 割り込む様に大声を出しながら、降参する様に両手を上げると、ニヤケ面のまま軽いため息を吐いて、言葉を続けた。

 

「なんだよもぉ……アイツ(咲夜)の代わりに俺を殴ってくれ、ぐらいで収まるかと思ってたのにさぁ。そこまで事細かく暴露しなくても良くねぇ?」

「良くねぇよ、何で俺だけ痛い目見るんだ。何度も言う様に綾小路の馬鹿な発想は、俺達の──」

「あー分かってる、とっくに何度も聞いてる。俺達の、その何ですか、負の遺産。そう言いたいんだろ?」

「分かってるなら、この後かわりにどう()()()付けるか。考えてみろよ」

 

 先程の電話で最後に言われた言葉を、まんま言い返してみる。

 ただし、俺はそこから更に一言余計に加えて。

 

「メンツがどうとか、今更戻れないとか、そんなクッソダサい不良みたいな理屈で強情になってないでさ」

「──っ。はは」

 

 しかして、その一言が鈴鹿の最後の一押しになったのは、間違いがなかった。

 

「なぁ、お前」

「え、はい?」

 

 背後でただ俺達の会話を聞くしかできなかった不良達の1人──手に特注品なのかやたら大きめの金属バットを持ってる奴に、鈴鹿が近づいて言った。

 

「そのいかした道具、貸してくだちぇ」

「え、えぇ。はい……どうぞ……?」

 

 状況がイマイチ読み込めないながらも、素直にバットを差し出す不良から受け取った鈴鹿は、そのまま今度は俺の方へ踵を返し、スタスタと目の前までやって来る。

 

 そして、

 

「はい、武器。お前いつも素手で戦わないもんな」

 

 使えとばかりに、そのバットの持ち手を俺に向けた。

 当然、それを黙ってみている奴なんて要るワケが無い。

 目の前で何が起きているのか、何が起きようとしているのか、すぐに先程バットを渡した男や、周囲の連中が問い詰める。

 

「何やってんすか鈴鹿さん!? 俺ら、そいつを今から……」

「敵に塩送ってどうするんですか!」

「さっさとアヤノコージ〆て帰ろうぜ?」

 

 それらに対して、相変わらずマイペースを貫きながら、鈴鹿は再度不良達を見ると、彼らにとって衝撃的な言葉を投げた。

 

「俺、今からこいつの側に着くから」

 

・  ・   ・   ・  ・

 

「な、何言ってんだ!?」

 

 誰が言ったのかは判別付かないが、誰もが──俺以外の誰もが思ってるだろう言葉が出てきた。

 当然の様に出てくる疑問に対し、鈴鹿は毅然と答える。

 

「いやー、実はこいつの言う通りでさ。綾小路は俺達の真似をしてたんだ。だからまぁつまりぃ……」

 

 

 右手の親指を自分に突き立てて、今日一番の満面の笑みを浮かべながら、

 

「全部オレのせいだ! 悪いねえ!?」

 

 わざわざ盛大に煽り散らかす言い方で、嘲笑った。

 

 衝撃は動揺を生み、動揺は混乱を招き、混乱は怒号と化す。

 自分たちを引き連れてここまで来たはずの男が、急に裏切ると公言したんだ。当然の流れである。

 とはいえ、ヘイトの対象を咲夜から逸らすという意味では、この上なく満点の行動なので、俺も便乗することにする。

 

「そういう事だ、綾小路咲夜に文句があるなら、その大本である俺達に文句言うんだな!」

「そうだそうだー、いたいけな女の子1人本気で半殺しにするためにここまでくるとか、頭どうにかしてんじゃないのお前ら~かかってこ~い」

 

 あはは、もう本当に発言が自分に返ってくるのも構わずに好き勝手言ってらっしゃる。

 けれど良いかな。お陰でいよいよ、不良達も鈴鹿を完全に敵として見る様になったし。

 あとはここから、頑張って生き残るだけだ。

 

「うわぁ~、改めて見ると数多いなぁ」

「お前が引っ張って来たんでしょ、責任取りなさいよ」

「分かってるって。いつも通り、俺のフォローだけ頼むわ」

「フォローだけって……完全に漫画みたいな人数差じゃんか」

「大丈夫だって安心しろよぉ。どうせ本気で食って掛かるのなんて、この半分も居ないんだから」

 

 適当なことを言ってるようで、割とその見立てはあってたりする。

 ここに居る不良の多くが、鈴鹿の強さを十二分に知り尽くしてる奴らだ。

 幾ら鈴鹿が裏切ったことで怒りの矛先が向けられても、勝てると本気で思ってる奴は少ないだろうさ。

 

「でもね君、その分、俺が狙われるだけだと思うんですけど」

「お、そうだな」

「怒って良いか」

「だから安心しろって、ちゃんとお前を狙いそうな奴を優先的にボコすから」

 

 頼むよ、マジで……。

 心の中でそうぼやいてから、俺は最後に一回だけ、校舎に視線を向ける。

 ここからでは角度の問題で咲夜は見えないが、教室から俺達を見下ろす多くの生徒の中に……あぁ、やっぱり。

 

 血相を変えた顔で俺を見る、渚の姿が見えた。

 あっ、目が合っちゃった。

 凄い首振ってる、俺が今から何をしようとしてるか、流石に分かってるんだろうなぁ。

 この前だって、俺が鈴鹿と一緒に居ることを『絶対に嫌だ』と言ってたばかりなのに、これから起きることを見たら、果たしてどうなるんだろうか。

 

「鈴鹿、もしかしたらだけど、これが終わったらもう、お前と会えないかもしれない」

「え? なんでさ」

「渚がね、凄い顔でこっち見てる。……あっお前は見ない方が良い」

「えーナギナギが? 俺あの子苦手なんだよなぁ。なんか怖くて」

 

 人の妹を指して『なんか怖くて苦手』とは、何て失礼な奴だ。

 まぁ……、その、全く同意できないワケでもないんですけど。

 

「それじゃあ、最後になるかもしれないお前と一緒の喧嘩。楽しくやりますか」

「作戦とかあるの? 幾らお前の強さにビビってる奴が多いからって、無策で突っ込むのは無いだろ?」

「そこは任せろ。ちゃんと考えてある」

「というと?」

「機先を制す! 先手必勝だ!」

 

 そう口にした瞬間、鈴鹿が視界から消えた。

 いや、消えたという表現は不適格で、正しくは跳ねた。

 

 何の予備動作も無いまま、つま先とふくらはぎだけ動かしたように軽く、その場でぴょいっとジャンプする様な要領で、一気に飛び跳ねたのだ。

 

 まるで足にバネでも仕込んでたんじゃないかと疑いたくなる跳躍力で、目視でざっと7,8メートル程まで山なりに跳ね上がると、そのまま放物線上に不良集団の真っ只中へと向かっていき──、

 

「敵将、打ち取ったりー!!!」

 

 誰も倒していないのに決め台詞を発しながら、衝突していった。

 

 衝突という表現を敢えて使ったのは、鈴鹿が不良集団の群れに落ちた瞬間、バカでかい音と衝撃、そして土煙が跳ね上がったからだ。

 男子高校生が地面に落ちただけでは絶対に起きるハズの無い、さながら隕石の衝突を彷彿とさせる現象の数々に、衝突以外の適切な表現は思い浮かばない。

 

 しかし、当の本人は隕石と違って砕け散ったりせず、それどころか土煙が晴れる間もない内に、動けないでいる不良達の不意を突くように行動開始した。

 

「よっしゃああああ!!! 俺の時代がキタキタキター!!」

 

 何をしているのかは判然としないが、何が起きているのかは漠然と分かる。

 とりあえず、宣言通り鈴鹿が自ら突撃して、そのまま手当たり次第に攻撃してるんだろう。

 

「つまり、結局ただの無策じゃねえか!!」

 

 鈴鹿の暴れっぷりに慄いてる、少し離れた位置に居る奴らが俺を見る。

 当然、次に出てくる言葉は──、

 

「あ、あっちは後にしとけ! まずはザコい方だ!」

 

 はい来ました、分かっていたけど、より簡単な方を先に仕留めるって展開です。

 俺を倒せば、人質にして鈴鹿を止めることだってできる──そんな画策だってあるだろう。

 

「ったく、何が俺を狙う奴優先だよ。大ウソつきめ」

 

 鈴鹿はもうとっくに喧嘩モード全開でトリップしてるだろうから、あてにならない。

 つまり結局、自分だけで相手しなきゃいけないワケだ、最悪だね。

 

「はぁ……後で絶対渚に怒られる。あと母さんにも」

 

 今更になって、やっぱり怖くなってきたけれど。

 もう遅いし、仕方ないので、

 

「どうせ怒られるなら──思いっきりやりますか!」

 

 愛しの9番アイアンには大きく劣るけど、そこそこ立派な金属バットをしっかりと握りしめて。

 

「いま俺のことザコって言った奴誰だぁ!!!」

 

 地味に今日ずっと悪口言われてて限界値に達していたストレスを、盛大に開放しながら不良達に向かっていった。

 

 


 


 

 

 結果的に言うと。

 

 勝った。

 

 勝っちゃった。

 

 なんか、気が付いたら凄い殴られてたし、蹴られてたし、ナイフで刺されそうにもなってたけど、勝てました。

 

 顔とかせっかく普段からケアしてる肌が台無しになるくらい腫れてるし、額は割れて砂利がこびり付いてる上に出血してるし、腹と背中は骨と内臓の細胞ごと筋肉痛なったのかってくらい痛くて気持ち悪いし、足裏なんか画鋲が70本刺さってるのかって感じで立ってらんない。

 

 でも殴られた数と同じだけの数、蹴られた数の倍の数、刃物で切りつかれた数の3乗の数、バットがベコベコになって途中から折れちゃうくらい叩きつけて、使い物にならなくなったら倒れてる奴が使ってた別の武器に変えて、それが壊れたらまた別の武器に──なんてことを繰り返してたら。

 

 何度でも言う、勝てちゃいました。

 

 不良達、途中で撤退しちゃいました。

 

 どんなに傷ついても、最後に立ち上がっている方が勝者だ。

 そんなセリフを昔、プロレスか何かで聞いた記憶があるんだけど。

 まさにその『最後まで立ち上がっている側』に自分が、あの状況からなれるとは思っていませんでした。

 

 我ながら凄いなぁとか思うんだけど、いやでも、もっと凄かったのはやっぱり鈴鹿だった。

 漫画見てぇなんだもん、やってること。

 

 拳を前に突き出した風圧だけで10人以上吹き飛ばしたり、踏み込みだけで校庭の土を隆起させて20人近く宙にきりきり舞いさせたり、ガタイの良い奴の足首掴んでヌンチャクの様に振り回して瞬く間にキルスコアを稼ぎまくって、それこそ『無双系』のゲームみたいな姿は、本当に鬼が金棒を振るって暴れてる姿まんまだった。

 

 確かに中学時代から強かったけれど、今日久々に目にした鈴鹿はもう、あの頃とは比べ物にならない圧倒的な違いを見せていた。

 

 中学まではこう、純粋に喧嘩が強いって奴だった。

 安易に胸倉掴むような雑な隙を作らないというか、単に殴る・蹴るだけの戦い方をせずに、膝や肘とか人体の硬い部分を中心に使って、相手の意識しない・できないタイミングに的確な攻撃を選ぶ。そんな奴だったのに。

 

 今回鈴鹿が見せたのは、どちらかと言えば超能力バトル漫画みたいな、技術や場数や経験といった()()()を豪快に無視する、スーパーパワーって感じ。

 

 そんなオーガ級の強さに、いよいよ恐れをなした不良達が撤退していくと、

 

「待てコラ餓鬼!!!」

 

 蹂躙する楽しさにおぼれた鈴鹿は完全に本来の趣旨を忘れ、ガン決まった瞳をデカデカと見開き、瞳孔も全開にしながら、散り散りになって逃げていく不良達を追いかけていきました。

 

 あんなに騒がしかった校庭はすっかり静寂に包まれ、後に残ったのは全身満身創痍の俺と、意識を失って死屍累々の不良達。

 それと、俺と鈴鹿が頑張ってる間ひたすら教室や職員室から見ることしかできなかった、学園の教師と生徒達のざわざわとした声くらいか。

 

「あー……こっからも大変だ」

 

 あわや学園に乗り込んで大惨事となりかねなかった危機は去り、学園に平穏が戻ってきたのは間違いない。

 しかし、俺にとってはここからも──というかある意味では、ここからが本番と言える。

 

 ベレー帽はいつの間にか頭から外れてるが、幸いにもマスクは肩ひもが壊れかけてるだけ。

 大多数の生徒に、素顔がバレてるわけではない。

 けれども、流石に教員が詰めかけてきたら、身バレ不可避だよな。

 

「ことの経緯をどう説明すべきか……」

 

 咲夜のことを赤裸々に話すのは良いんだろうか。

 いや、話しても信じなさそうだし、結局俺と鈴鹿がどうして不良相手に大喧嘩になったかを話さなきゃダメだし……。

 

「あれ、もしかして俺と鈴鹿のやってきたことを言っちゃったら、退学されるんじゃね? うっわ、どうしよう……上手いいいわけ、考えないとまずい」

 

 まずは俺がいかに被害者側で巻き込まれた立場なのかを……説明、して……。

 

「うぁ……?」

 

 あ──これは、いけない。おもってたより、血を流しすぎたかも。

 意識が、たもてない──。

 

 まぁ、気絶してこの場をうやむやにできるなら、それもありかな。

 最後にそう思いながら、俺は前のめりになって、死屍累々な不良達の仲間入りを果たすのであった。

 

・  ・   ・   ・  ・

 

 見慣れた装飾の壁、嗅ぎなれた匂い、塩ビ材の廊下を踏むスリッパやカートの音。

 そして、校庭の硬い地面とは真逆の柔らかな感触。

 

 それらの語感が伝えてくれる情報を加味したところ、どうも俺は学園では無く、病院のベッドに寝ているらしい。

 自分の体を見ると、腕や足どころか、頭や胸お腹と、全身色んな場所に包帯が巻かれている。

 しかも左手には俺の大っ嫌いな点滴が刺されてるし……一体何日俺は寝ていたんだ?

 というか今何時?

 

 頭の中に次々と湧いてくる疑問に対し、答えを提供してくれる存在はここには居なかった。

 どうやら病室の中でもお高い料金になるはずの個室にあてがわれているらしく、ナースコールでも押さない限り、一人きりらしい。

 

 かといって、どうせこんな怪我した後の人間がナースコールしたって、めんどくさい医者の質問攻めが待ってるだけだろうし、わざわざ積極的に誰かを呼ぶ気にはならないや。

 いずれ誰か来るんだろうし、それまでもう少しだけ、1人っきりの時間を過ごすのも良いだろう──そう思った矢先に、ドアがゆっくりと開かれる音がして、

 

「お、お邪魔するわ……」

 

 やけに控えめかつ小声で、今回の最大の黒幕が入室してきた。

 

「はい、どうぞ?」

「──ぇ。えっ、えぇ!? 起きてるの!?」

 

 思わぬ返事に動揺を隠せずにいる黒幕──もとい、綾小路咲夜。

 慌ててベッドの傍まで駆け寄ると、俺の顔をまじまじと見つめて、

 

「……よかったぁ」

 

 今まで見せたことの無い、柔らかな笑顔を見せたのだった。

 しかし、そんな物珍しい表情もあっという間に普段の勝気な表情に切り替わり、反動なのかキツめの口調で言った。

 

「あ、アナタねぇ! 目が覚めたならさっさと言いなさいよ!」

「無理言うなよ、本当今さっき目が覚めたばかりなんだから」

「だからって、起きたらすぐにナースコール鳴らすものでしょ? 体に問題があったら──」

「綾小路、頼むから、もう少しだけ声を抑えてくれ。結構頭に響くみたいで……」

「──あっ、痛む? ごめんなさい……」

 

 本当は起きて早々説教なんか聞きたくないから、わざと痛い振りしてるだけだが、思ったより本気で心配してくれるようで、なんか面白──じゃなく新鮮だ。

 

「アレから、何がどうなって俺はここに居るんだ?」

 

 せっかくだし、この流れで咲夜から情報を聞き出すことにすると、咲夜はかなりばつが悪そうにしながらも、あらましを話してくれた。

 

 ざっくりと言えば、俺が気絶してからすぐ、咲夜が呼んだ救急車で運ばれて治療を受けて、そのまま入院の運びになったとのこと。

 最初はトンデモない大怪我だと思われてたが、思ったよりどの傷も浅くて大したことなく、骨や内臓を痛めてるわけでもないし、何なら意識の戻らない内から治りが早いそうだ。

 今は疲労や出血量などの理由で意識が無いが、命に別状は無く、医者の見立てではすぐに目が覚めるし、1週間もすれば退院できると診断が出たらしい。

 その割には随分とご立派な病室に、大層な包帯と点滴だと思ったが、そこはどうやら咲夜が心配して念には念を入れてくれたようだ。

 

「別に、アナタに万が一があったら心配とか、そう言うんじゃないんだから。あくまでも、その……アタシの責任の一環てだけよ」

 

 顔を赤くしながらそう答える咲夜。

 ちなみに今の時刻は16時半で、俺が気絶してから約32時間経っていた。

 つまり目を覚ますまでに掛ったのはほぼ1日で、本当に医者の言う通りになったのが、ちょっと面白いと思ったのは胸のうちにしまっておく。

 

「でも、意外だったよ。最初に見舞いに来てくれたのが君とは」

「面会は止めてるから当然よ。アタシは特別には入る事が許されてるだけ」

「止めてるって、どうして?」

「だって、もし家族や友人がアナタの面会に来ちゃったら……ないじゃない

「?」

 

 急に顔をうつ向かせて、過去最少に小さな声になるから、流石に聞き取れなかった。

 それが分かってか、咲夜は俺の顔と壁や床を相互に忙しなく見ながら、何か激しい葛藤でもする様に口元と両手先をもぞもぞさせた後──意を決したように言った。

 

「だから、もし他の人が居たら、アナタに一番に謝れないじゃない!!」

「…………あらら」

 

 これは、驚いた。

 謝りたがっているのか、あの綾小路咲夜が。

 いや、厳密にはさっき既に大きな声を出したことに謝罪をしていたが、そうではなく。

 

「謝るってのは、キツネ狩りのこと? それとも俺の怪我?」

「……両方」

 

 そう。自分が引き起こした事態について、非を認めたのだ。

 あれだけ『アタシは間違ってない』と、駄々をこねていた奴が。

 

「……初めてだったの」

「ん?」

「アタシの命令が、無理だって言われたの、あの時が初めてだった」

 

 あの時とは当然、警察を学園に向かわせることができないと言われた時のことだろう。

 

「今まで、アタシが『こうしなさい』って言えば、それがどんなに大変で無茶と言われることでも、必ず実行されてきた。会社を売り渡せと言えばすぐに売却させたし、土地を譲れと言えばアッサリと売渡してきた」

「……お、おう」

「大切な事業だから、先祖代々の生まれ育った場所だから、そう言って断る奴も、お金で黙らせたし、お金は要らないなんて言うなら、関係者を追い詰めれば、簡単に言う事を聞かせることができたわ」

「…………うわぁ」

 

 本当に、悪辣なことをこの街に来る前からしてたんだな、この子。

 というか、綾小路家がそういう気質、なのか?

 

「今回のキツネ狩りだってそう。この県の警察は日本でトップクラスにザルだから、事前に根回しすれば簡単に不良を的にしたゲームが出来てた。けど……」

「鈴鹿相手には、全くそれが通用しなかったと」

「……っ」

 

 奥歯をかむ様に、咲夜の表情が小さく歪む。

 

「羽澄がアタシの命令に『できない』と答えることなんて今まで無かった。アタシを守る人が誰も居ないなんて今まで無かった。あんなに沢山の人間が、アタシだけに怒ってるなんて、今まで無かったのよ……」

 

 仕事も、立場も、お金も、家族も、友人も、()()()()においては一切関係ない。

 そういう、失うものが無い時の人間が群れを成して、自分を脅かそうとする。

 

「どう感じた? あの時」

「……怖かった。生きてて一番怖かった」

「だよな、それが『川國のダークナイツ』を真似るってことだよ」

 

 不良なんて頭のネジが足りないか、緩い連中を好き好んで痛めつけるんだ。

 いつ、どんなタイミングで、思いもよらない、突拍子もない反撃に遭うかなんて分からない。

 

「そういう、危ないことを君はしてたんだよ、綾小路」

 

 不良を退治した伝説。なんて思ってたかもしれないが、今の怪我だらけの俺だってそうだ。

 

「全くカッコよくない、面白くも無い、冷静になったら馬鹿としか思えない、リスクばかりの愚行を、君は()()()()()()()()()()()()()()()()。……それは、しっぺ返しも大きくなるよな」

「アナタも昔、同じような事があったの? だから、川國のダークナイツをやめた?」

「俺のことは今どうでもいい。っていうか、久々に喧嘩したら()()()()だぞ? 説得力として充分だろ?」

「…………えぇ、そうね。毎回毎回、そんな怪我ばかりしてたら、やめたくなるのも頷けるわ」

 

 そう言うと咲夜は、こほんっと小さく咳払いをしてから、改めて俺に向き合うと、

 

「アタシが間違ってた。ごめんなさい。それと──アタシを守ってくれて、ありがとう」

 

 慣れてない言葉を口にしてるからか、かなりぎこちない口調と仕草だが──間違いなく謝罪と感謝の言葉と共に、小さく頭を下げた。

 

「…………ちょっと、そのままで居てくれる?」

「え?」

「スマホ、スマホ……写真に撮っておきたい」

「な──何考えてんのよ!?」

「だって綾小路家のご令嬢が頭下げてるんだぞ!? こんなの生きててもう二度と──何かの脅しに使えそうじゃんか」

「アナタねぇ! このアタシが心から悪いと思って謝ってるのに、調子に乗って──」

「あ、うぅぅ……綾小路の為にできた頭の傷が痛む……」

「ず、ズルい! それ引き合いに出されたら何も言えないじゃない!!」

 

 ふはは、金持ち貴族のお嬢様をぐうの音も言わせないのは気持ちが良いわい。

 

「とにかく、君はもうあんなことはやるなよ。今回のでだいぶ有耶無耶になったけど、君がキツネ狩りを続ける限り、いつかまた同じことが起きるし、その時はもう知らないから」

「ええ、そのつもり。再開発エリアの事業は外せないから、いずれにせよあそこでたむろしてる不良はどうにかしなきゃだけど……」

「どうにか平和的に頼むよ」

 

 そこから先はもう、綾小路家の努力だ。

 無責任な言い方かもだが、元から俺には関係ない領域の問題だからな。精々頑張ってほしい。

 

「ねぇ、ところで、どうしても気になることがあるんだけど、聞いていいかしら」

「なに?」

「あの時、アナタが校庭で何を話してたのかよく聞こえなかったけど、どうしてあの鬼住山は最後、アナタの側についたの?」

「あー…………」

 

 理由は幾つかあるだろう。

 アイツなりに咲夜の蛮行の原因だという自責の念だとか。

 一時の感情でトンデモない人数を引きつれてしまった責任とか。

 シンプルに俺の言葉に反論できなかったからっていうのもあるだろう。

 

 けれど、多分最もアイツの中にあった動機をあげるとすれば──。

 

「単純に、不利な方が喧嘩して楽しいからじゃね」

「……馬鹿なの? あの男」

「バカなの。あの男」

 

 

 散々、"共感"という概念がぶら下がっていた今回。

 

 最後の最後に、鬼住山鈴鹿という男の『馬鹿さ加減』について、深い共感を得ることになったのであった。

 

 


 


 

 

「──ん、もしもーし。おぉ、お前か」

 

 時刻は21時過ぎ。

 川國の中でもとびっきり閑静な住宅街の一角で、鬼住山鈴鹿は電話先の声に顔を綻ばせた。

 

「いやぁ、あの後電話したのに全くでないから、ちょっと気になってたけど──え、入院してる?」

 

 相手は自身の親友で、昨日久しぶりに派手な喧嘩を一緒にやった野々原来栖。

 どうやら自分が不良の残党を追いかけてる間に気を失い、そのまま病院に行ったらしい。

 

「マジかぁ、病院どこよ。今からいくべ……あぁ、面会時間終わってる? じゃあ明日あさイチで行くから、場所だけおし──」

 

・  ・   ・   ・  ・

 

「……ん-ん、なんでもねえ。……良いから、気にスンなし、けが人ははよ寝くさりなせーな」

 

 そう言うと、鈴鹿はまだ何か言いたげな電話先の来栖を無視して、一方的に電話を切った。

 その、直後である。

 

「──っ」

 

 額から脂汗を垂らしながら、力なくその場に崩れ落ちた。

 

「つー……気ぃ抜いてたぁ……」

 

 そう語る彼の口端から、真っ赤な雫が流れる。

 いいや、よく見ればそれと同じ液体が、彼の背中からも流れ出ていた。

 

「やるじゃん、かんぺきな不意打ち。さては忍者か」

 

 久方ぶりに感じる激痛に耐えながら、鈴鹿がまだ動く首を回して背後を見ると、そこには自分の血を滴らせた包丁と、昨日散々見てきた金属バットを握る人物が居た。

 うっすらとした月光と、遠く離れた場所からのささやかな街灯が照らす襲撃者の顔を見て、鈴鹿はどこか納得の表情を見せる。

 

「そっか……まー、君ならそういうこともやりそうだと思ってた」

 

 合点がいったとばかりに苦笑する鈴鹿に対して、襲撃者は言う。

 

()()()をあんな目に遭わせておいて……タダで済むわけがないでしょ」

 

 昨日相手にした──いや、今まで喧嘩してきたどんな不良だって霞むほどの、怨嗟のこもった声。

 しかし、それを聞いた鈴鹿の胸中に生まれたのは、恐怖では無く、違和感であった。

 

「いや、待て。お前──誰だ?」

 

 違う。

 目の前に居る()()()は、自分の知る()()()ではない。

 しかし、誰なのかを知りたくとも、完全なタイミングかつ肋骨を避けて器用に内臓を刺し貫かれた今の状態では、もはや動くことすらかなわない。

 

 あれだけ超人じみた活躍をしておきながら、今の鈴鹿はもう、指先程度しか動かせなかった。

 

「まぁ……聖帝も、ターバンのガキに足刺されたしな」

 

 猿も川に過ち。こういうこともあるだろう。

 もはや襲撃者の正体も、この状態からの打開も諦めた鈴鹿は、潔く瞳を閉じて──。

 

 何かしらを呟いてる襲撃者の声を遠巻きに聞きながら、自身の頭部がバットで破壊される感触を味わって、意識を途絶えたのであった。

 

 

 

 SICK RECKLESS★FANATIC! 

 CHAPTER2 【THINGS MONEY CAN'T BUY】

 END




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
2章、これにて終わりです。
3章はまた1か月ほど先に更新していけたら・・・と思います。
次はもっと病む展開を書いていきたい。

感想、評価、よければお待ちしてます。
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