ヤンでRECKLESS★FANATIC!   作:食卓塩少佐

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今回はちょっとした箸休め
3章に入る前の幕間、みたいなものです


EXTRA TRACK1 

 病室の窓から見える空は、澄み渡る様に青く、蒼く、碧かった。

 雲一つない快晴と、窓から入る心地よい風。

 できることなら今すぐ病院のベッドから抜け出して、散歩でもしたくなる。

 

「バカ言わないの。明日まで院外に出るのは禁止よ」

 

 俺の要望をにべもなく突っぱねたのは、この病院で昔からお世話になることが多い女医さんだ。

 長い髪を後ろに纏めて、無個性な青いシャツと薄緑のズボンにもかかわらず、白衣を纏うその姿は他の医者よりずっとカッコよく見える、入院患者さんの中でも1番人気な先生である。

 

「分かってますよ。俺だって無理に動いて、頭の傷を開きたくないですから」

 

 不良達300人との喧嘩(と言っても大多数は鈴鹿が相手して俺はたぶん全体の数%程度)で受けた傷は大体が見た目の割に軽度かつ、幸いなことに治りも早いので、当初の見立てだった1週間よりも2日早い、土曜日で退院ができる。

 しかし、いかんせん頭にも傷ができたため、完全にOKだと診察結果が出ないと病院の敷地周辺の散歩すらさせてくれない状況だ。

 

 これはたぶん、先生が俺を心配して──というよりも、入院を手配した咲夜の指示だろうな。

 今回の入院費用も、高い個室を5泊6日分使ったというのに全部立て替えてくれたし、彼女なりに本当に今回の件を重く受けとめているんだろう。

 

 でもなぁ、そうだと分かってるけどさ。

 

「退屈なんですよ、見舞いに来るって言ってた鈴鹿はアレから一回も顔出すどころか、電話やRhineにだって反応しないんですよ? 薄情者にも程がある」

「別にいいんじゃない。元はと言えば彼のせいで怪我した様なものなんだから」

「先生まで俺と鈴鹿が一緒に居るの反対派なんですかぁ?」

 

 ただでさえ昨日も面会に来た渚から、今回の件で前より一層鈴鹿との付き合いを反対されたばかりだというのに、尊敬する先生にまで反対されるんじゃ悲しくなる。

 そんな気持ちで口に出した言葉を受けて、今日の俺の診察結果をタブレットに入力していた先生の手がピタッと止まり。

 

「反対派か、ですって?」

 

 目鼻立ちが美しく整った相貌に、うっすらと般若の顔が重なる。

 

「えぇ。反対も反対、大っ反対よ。どうしてか分かるかしら?」

「あ……あの、先生?」

 

 これはまずい。

 藪を突いて蛇どころか大蛇を呼び起こしてしまった──そう気付いても、既に遅い。

 

「中学の頃から彼と一緒になって暴れて怪我して、怪我を治してあげてもその後すぐにもっと酷い怪我をしてやって来る。そんなのを何度も何度も何度も……」

「先生、分かったのであの、ジリジリ詰め寄って来るのをやめてください! 怖いです!」

「ようやく高校生になる前に収まったかと思った矢先にあんなことになって、それで本当に反省したかと思ったのに──」

 

 タブレットを座っていた椅子において、真顔なのに思いっきり怒気を孕む冷たい声で眼前まで迫る先生。

 美人の顔を近距離で拝めることができて役得! なんてのんきなことは思えないし、ふわっとさりげなく香るコロンにドキッとしてる暇もない。

 夢見もそうだけど、基本的に容姿の端麗な女性がマジで怒ると本当に怖いんだ。

 

「まさか、そこから2年近く経ってからまた彼と一緒になって、今度は何? 何人と喧嘩したって言ったかしら?」

「さ……」

「さ?」

「300人……です。ほとんどは鈴鹿が相手しました、けど……」

「そう、300人。凄い数じゃない、映画みたいねぇ」

「で、ですよねぇ、ははは……」

「何笑ってんのよ」

「──ひゅっ」

 

 瞬きよりも早く右手で両頬を掴まれた──そう脳が認識した瞬間。本当に息が止まる気がした。

 

「良い? 普通は300人どころか30人相手だって喧嘩なんかしないの。誰が何割相手したとか、そういうのは全部屁理屈って、分かるかしら?」

「~~っ!」

 

 声が出しにくいので必死に首を縦に振る。

 

「そう。その程度の頭は持ってるのね。なのにどうしてまたこんな怪我をする様なマネ、してるわけ???」

「……っ」

 

 並々ならぬ事情があるが、俺はその全てを誰にも説明していない。

 両親や渚、それと夢見には流石に何も言わないのは不可能だったが、その時も「不良退治に憧れてやり過ぎた綾小路咲夜を庇った」という、絶妙に根幹を隠した説明に留まっている。

 

「理由なんてどうでも良い。自分が一歩間違えたら死ぬかもしれない事を何度も何度も繰り返してることに、全く自覚が持てない、そんな男があんな危険な奴と一緒にいるのを、賛成する大人がどこに居ると思う?」

ひ、ひまへん(い、いません)

 

 頑張って唇を動かしてそう答えると、先生はようやく俺の頬から手を放し、パッと()()()()()()破顔して、元座っていた椅子に戻った。

 

「そう。その通り、誰もいないの。最初からみんな大反対。言うことを聞かないのはこどもの貴方だけ。分かった?」

「…………はい」

 

 ぐうの音も出ない。というか、出す余地を許さない。

 そんな圧倒的雰囲気の先生に、俺はただひたすら肯定マシーンと化する他なかったのであった。

 

 


 


 

 

「お世話になりました」

 

 翌日、何の問題も無く晴れて退院が叶った俺は、病院の出入り口で先生に俺を言った。

 

「彼女には会いに行かなくていいの? せっかくなのに」

「良いです、まだ約束した日じゃないのに、会ったら混乱させるんで」

「そう……なら、良いけど。孤児院の子たちに位は、顔見せてあげなさい。会いたがってる子多いんだから」

「ふふ、それならもう既に済ませてます」

「え? いつ──って、貴方もしかして抜け出して勝手に」

「あーすみません、向こうで家族が待ってるので失礼します! また月末に会いましょう先生!」

 

 またしてもおっかない説教の気配を感じたため、急いで両親の待つ車へ逃走する。

 幸いにも背後から先生の怒声が聞こえてくることは無く、俺は安寧と共に、もし次会った時は覚悟しなければな──という冷や汗を垂らすのであった。




次回は6月23日までの更新を目指します
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