ヤンでRECKLESS★FANATIC!   作:食卓塩少佐

27 / 41
 人生2度目の新型コロナにやられて、だいぶ更新が滞ってしまいました
 1度目と同じ雨のよく降る7月というシチュエーションでコロナになってしまう体たらく
 自分にとって「雨×7月」はダメなトリガーを引く条件になってるかもですね
 読者の皆様においては、最低でも手洗いうがいは絶対してくださいね

 あと、なんだかんだやっぱり電車バス内でのマスクは有効っすよ


 ナナとノノ
 僕は見た目と服装はナナが好きで
 性格はノノが好きです
 声は両方好きなんで、結局はナナとノノで別れてるのが一番ですね



TRACK7 双子座 マレフィック

 放課後、当初の予定通り学園を出てからまっすぐ『救済★病み倶楽部』の事務所がある廃工場に向かうと、既に夢見が依頼人を迎える準備を始めていた。

 日頃から定期的に清掃しているとはいえ、やはり場所が場所なだけあって油断するとすぐに細かな塵や埃臭さ、湿気によるカビなどが出てくるため、依頼人が来る前は特に入念な手入れが必要だ。

 約束の時間までまだ数時間余裕があるので急ぐ必要はないが、こういう面倒なことはさっさと終わらせるに限る。俺は『座ってくつろいでていいよ』と言う夢見を制して、給湯室周りの掃除を開始する。

 追って到着したリンゼも、俺たちが掃除しているのを見て自ら夢見の手伝いに回ったお陰で、掃除に長けている夢見でも1人なら1時間半は掛かる事務所内を、すっかりピカピカに仕上げることが出来た。

 

 流石に企業のオフィス程ではないが、歴史の長い学校の校長室くらいには、趣のある雰囲気になってるだろう。

 夢見が部屋の二か所に焚いてるアロマもあって、いい意味でここが廃工場の事務室とは思えない。

 掃除が終わった後は、夢見が給湯室の冷蔵庫に入れていたどら焼きを3人で食べながら、やはり学生なので各々が学園から出された課題を、応接テーブルの上で黙々とこなしていった。

 ここにリンゼが居なければ、体裁なんて気にする必要のない夢見が俺に色々()()()()()を掛けてきたかもしれないが、そういう意味でも彼女を新メンバーに迎え入れたのは正解だったな。

 

 そうこうしているうちに課題も終わって、いよいよ約束の17時を回ると、ドアの向こうから階段を上がる靴の音が聞こえてきた。

 ドアをノックする音に夢見が『どうぞー』と返すと、困惑気味にドアノブをゆっくりと回して依頼人が入って来る。

 時間通りに姿を見せた、顔も名前も分からない今回の依頼人は──、

 

「お前……というか、お前達、何やってるんだここで!?」

 

 驚愕と困惑、そして憤慨の交じった声でそう言い放った人物は紛れもない。

 先日の夕方に遭遇した、目黒先生その人だった。

 

 


 


 

 

「……どうも、目黒先生。昨日ぶりですね」

 

 努めて冷静に言ったが、既に俺の心臓はありえない位にバクバクと鳴っている。

 動揺が顔に出ないことをひたすら意識しながら、ソファに手を向けながら着席を促した。

 しかし、当然のことながら目黒先生は素直に座るようなことはしない。室内を見まわして、自分が頼ろうとしていた人物が全員、学園の生徒だという事実に()()としての反応を見せる。

 

「お前達、いったいここで何をしているんだ。今日はまっすぐ帰宅しろと担任から聞いてないのか!」

「何をしていると言われましても。御覧の通り、依頼人を待ってたんですよ」

「依頼人をって……じゃあ、お前たちがこの変な名前のグループの──」

「はい、ようこそ。救済★病み俱楽部へ」

 

 もうこうなったら、こういうノリで押し切るしかない。

 先生が冷静さを取り戻して、粛々と保護者に連絡とか至急学園に連行して生徒指導とか考えだす前に、もうこの空間に飲み込もう。

 

「さぁ、どうぞ座ってください。待ってたんですよ」

「待ってたじゃないだろ、お前たちがこんな事してるって、親御さんは」

「あの、ここに何しに来たんですか?」

 

 言ってる傍から親について言及しようとした先生をけん制する様に、手を後ろに組みながら夢見が訊ねる。

 部屋の最奥に居るから見えるが、先生からは見えない後ろ手には、既にハサミが握られていた。

 あー……まずいな、俺としたことが失念していた。

 ことの流れ次第では、この後夢見は無理やりでも──それこそ血を流すことも躊躇わずに、先生の口を封じにかかる可能性がある。

 

「何しに来ただと? 君は……見た所中等部の制服だが、担任は誰だ? 今すぐに」

「だから、ここは学園では無くて『救済★病み俱楽部』の事務所なんですけど? 学園の先生としてきたんじゃなくて、依頼人としてきたなら、説教じゃなく依頼を口にしてくれませんか?」

「な、なんだその言いぐさは!」

 

 マズい。夢見はわざとなのか知らないが、この状況で先生を煽るような言い方ばかりをしている。

 当然、中等部の生徒になめた態度を取られて先生が平気でいるワケも無い。この状況が続くようなら、いよいよ刃傷沙汰に発展しかねない。

 

「夢見、ちょっとま──」

「目黒先生、『ここで何をしている』は、アナタにも言えることでは?」

 

 夢見を止めようとする俺の声に被せて言ったのは、リンゼだった。

 さっき部屋を見まわした時から既に立っていたにも関わらず、先生はたった今初めてリンゼを認識したような顔で彼女を見ると、それまでとは少し異なる声色で言った。

 

「君までこんな場所に居たのか……っ」

「はい。先輩と同じくここの一員ですから。それで先生、本日は職員会議の後は出張で横浜の良船学園に向かっているはずでは?」

「な、何でそれを知って──」

「研究授業で6時限目の授業を見た後、そのまま良船学園内で授業の講評が18時過ぎまで行われますよね? 多少早まって終わることはあっても、最寄駅からここまでの移動時間と手段を考えれば、17時に来るのは不可能なはずでは?」

「それは……だな。ちょっと今回は──」

 

 みるみると先生の顔が青くなっていく。

 どうやらこの人、今日は何かしらの理由を付けてサボってここまで来た様子だ。

 生徒が知る由もない事情をリンゼに暴露された結果、先生もまた"この時間に、この場に居る"ことがありえない人間になってしまった。

 何故、というかどうやって、リンゼがそんなことを調べたのかは分からないが、グッジョブだ。これでもう、先生は自分を棚に上げて俺たちを説教することが難しくなったのだから。

 

 場の流れが明らかに変わったのを感じながら、リンゼは更にイニシアチブを掌握しに掛かる。

 

「何故、この時間にここに居るのか。それを敢えて問うことはこの場の誰もしません。だって目黒先生は今日、"教師"ではなく"依頼人"としてこの場に居るんですから。依頼人が居るのは、至極当然のことです、でしょう? 目黒"さん"?」

「…………っ」

「あぁ、もしかして依頼というのはあなたが大切にそのかばんの中にしまっている、"あのデータ"に関することだったり」

「なぁ!? 何でそんなことまで知ってるんだ!?」

「おや、違うのですか。であれば、それはそれで構いませんよ。私は誰に何を言う気もありませんから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ね?」

 

 俺も夢見も、ただ2人のやり取りを黙ってみているしかできない。

 ただ、一体リンゼが何を言っているのか。それを完全に理解できる人間はきっとこの場で目黒先生だけだろうことは、よくわかった。

 リンゼが何故か把握している目黒先生の秘密が、彼にとっては絶対に知られたくないアキレス腱であることも、ついでに察したけど。

 

「それで、どうでしょう。今ここにいるあなたは"教師"ですか? "依頼人"ですか? 後者ならどうぞソファにお座りを。前者であれば──」

「い、依頼人だ! 依頼があって来た! から……どうか、その」

「──ふふ、依頼人を害することはしませんよ。ご安心を」

「……あぁ、分かった」

 

 そう言って頷くと、目黒先生は化け物を見るような目でリンゼから視線を外さないまま、ゆっくりとソファに座るのだった。

 

「はい、これで問題なくお話を進めることができますね。お茶を持ってきますので少々お待ちください。あっ小鳥遊()()、もう"それ"は仕舞っていいと思いますよ!」

「あっ……うん」

 

 パンっと場の空気を入れ替える様に手を叩くと、リンゼは朗らかな声で給湯室に向かう。

 さり気なく背中に用意していたハサミのことまで指摘された夢見は、ポカーンとした顔になりながら、

 

「……あたしがカッコよくお従兄ちゃんを助けるつもりだったのに」

 

 心の底から悔しそうに、呆然と呟くのであった。

 

 


 


 

 

「──────人探し、ですか?」

 

 ようやく本来の話題に移って、先生が口にした依頼内容は、ここ最近の『救済★病み俱楽部』としてはかなり穏便なものだった。

 

「えっと、それは見つけるだけでいいんですか? 捕まえるとかは無しでも良いと?」

「それでいい。居場所だけ教えてくれれば、後は十分だ」

「……そうですか」

 

 これは、本当に簡単な依頼内容だ。

 いいや、別に人探しが簡単だとは思ってないけどさ。

 妹のストーカーを探し当てて捕まえたり、夜中に公共の場で迷惑行為に更け込む不良集団を退治したり、嬢様のお友達をする過程で大事件に巻き込まれたり──直近の依頼より遥かに平和的かつ体を張る必要のない物だから、それだけで安心してしまう。

 だって探すだけだぜ? 9番アイアンで叩きのめす必要も、明らか違法なエアガンで夜襲する必要も、紆余曲折の果てに不良300人相手取る必要も無い、ただ単に人を探してどこに居るのかを調べるだけ。

 しかも、直近で人探しが上手そうなリンゼという新人が入って来たんだ、こんなに楽なことってあるかよ。

 

「分かりました、じゃあさっそく誰を探せば良いか教えてください」

 

 最初は学園の教師でどうなるかと思ったが、大変なのは導入だけだった

 

「あぁ、これを見てくれ」

 

 そう言って先生は、自身の上着の胸ポケットから、1枚の写真を取り出して近くに立っていた夢見に差し出した。

 それを受け取って、写真に写っている人物を確認した途端に──夢見は目を大きく見開きながら仰天する。

 

「お──お従兄ちゃん! これ!」

 

 瞬く間に俺の眼前に写真を突き付けてくる夢見。

 珍しく他人の前でも慌てふためく夢見だったが、彼女の手にある写真を見た瞬間にその理由が分かった。

 

「えぇ!?」

 

 写真に写っていた人物──やけにうす暗く、アングルも斜めからで、何より遠隔から撮られていてハッキリと顔が判別できないが。

 被写体が着こんでいる服装、燕尾服と半ズボンの組み合わせは、つい最近俺と夢見が知り合った少女──ノノとそっくりだったんだから。

 

・  ・   ・   ・  ・

 

「はぁ……世間って狭いな」

 

 昨日も歩いた帰り道を、今日は夢見も含めた3人で歩く。

 俺の手元には、先ほど目黒先生から預かった写真。それを左隣からじーっと睨みながら、夢見が言った。

 

「ねぇお従兄ちゃん。やっぱり今回の依頼、今から無しにしない?」

「しないよ。今までだって断ったこと無いんだから」

「えー。でも……あの変なガ──こども探すなんて、正直乗り気になれないし……お従兄ちゃんだって、また『遊ぼ遊ぼ』って纏わりつかれるの嫌でしょ?」

「それは確かに、楽じゃないけどさ」

 

 回転ジャングルジムで小規模の竜巻みたいなものを生み出せるこどもとの遊びは、尋常では無い程に過酷だった。

 アレをまたやれと言われても、出来ることなら丁重に断りしたくらいには。

 

「でしょー!? それに、普段どこに居るのかも分からないんじゃ、探しようがないじゃない。またあのお墓があった所まで行くの?」

「小鳥遊さん、それについては、実はあまり問題が無いかもしれません」

「ふぇ? 問題無いって、どういうこと?」

「実は──」

 

 そう言って、リンゼは昨日の夕方に出会った『ナナ』について簡潔に説明した。

 

「はぁ!? じゃあ、お従兄ちゃんがどこに暮らしてるかまで、そのナナって子は把握してるワケ!?」

「把握どころか、夜ご飯を共にしたので家の構造も記憶しているんじゃないでしょうか」

「…………お従兄ちゃん、どうしてそんなことになったワケ?」

 

 夢見の瞳が刺すように俺を見つめる。

 得体の知れないこども(ノノ)の関係者が僅かな情報だけで自宅近くまでやって来た上に、夜ご飯まで一緒にしたと聞けば、小鳥遊夢見という性格の女が平気で居られるハズもない。

 この場にリンゼが帯同していなければ、今頃彼女の右手か左手(あるいは両手)にハサミが握られてもおかしく無いだろう。

 本当、そういう所でもリンゼが味方になったのは非常に大きな意味を持っている。

 それに、今回に限っては俺に責任があるワケじゃないから、夢見からのプレッシャーにだってある程度は耐えられるので、気が楽だ。

 

「たまたま母さんが帰ってきた所に出くわして、ナナを一目で気に入っちゃったんだ」

「そのまま連れて帰っちゃったんだ……」

「うん、そう……」

「もうー、お従兄ちゃんが止めなきゃダメじゃない! おば様って基本的に何でも気に入った物は買っちゃう悪癖あるんだから!」

「悪癖って……いやまぁその通りではあるんだけど、もう少し言い方に手心をだな」

「そんなもの要らないから! だいたい、あの時大雑把に暮らしてる街の名前言っただけで、家の近くまで突き止めてきたって、明らかにストーカーじゃない!」

「お……おう……」

 

 盛大に『お前が言える立場か』と声に出すのを我慢した俺を、誰かほめて欲しい。

 

「それに、そもそも教師があんなヘンテコな格好のガキを──」

「もうガキって言うの隠さなくなったな」

「お従兄ちゃん!」

 

 これはいけない。

 さっき盛大に我慢した反動で、普通なら聞き流してるしょうもない部分を指摘してしまった。

 

「いててて、腕抓るなって! ごめん、つい。話続けて」

「──もう。次はもっと怒るからね?」

 

 話の腰を折られた夢見からささやかな折檻を受けてから、話を戻す。

 

「ノノを探してるっていう、それ自体がなんかもう怪しいって!」

 

『先日、行方不明になった親戚と背格好が似ている』

『真っ当な組織に頼りたかったが、変な疑いを掛けられたく無いので避けた』

 目黒先生がノノを探す理由と、救済★病み俱楽部を頼った理由をまとめると、こんなものだった。

 その言葉が真実であるという確証はどこにも無いが、流石に現役の教師が話すことを信じたい。

 仕事をサボって事務所に来たのは悪印象だが、これだって本来業務時間であるところを抜け出して、俺たちのような怪しい連中に頼らざるを得ない程、切羽詰まっているのだと思えば、根掘り葉掘り疑う気にもならない。

 教員が忙しい仕事だってのは、学生から見たって十分以上に分かる話だしな。

 だがそれでも一抹の不安は残っているので、俺たちがノノ(そしてナナ)と既に知り合ってることは言わなかった。

 

「それについては本人の言い分を信じるしかないよ。依頼者を疑い過ぎてたら、そのうち誰も頼ってこなくなる」

「そうかもしれないけどぉ……」

 

 理屈は分かってるが、どうしたって感情が引っ掛かり納得ができない様子の夢見。

 一緒に居た時間は僅かだったけど、確かに夢見はノノと相性が良くなかった。あまり乗り気にはなれないんだろう。

 そうなると、これ以上無理に夢見を動かすのは悪手かな。

 かつて渚のストーカーを釣りだすために、渚と恋人の振りして連日デートしただけで荒んでハサミ片手に詰め寄って来るのが夢見だ。

 そもそも夢見の提案だったのにキレる女だ、今回も下手にストレスを与え続けたら、ストレス発散の名目で俺へのストーキングが酷くなるかもしれない。

 

「うーん、じゃあ今回は主に俺とリンゼが動くことにするよ」

「え!?」

「そうですね、人探しなら私の得意分野です。それに今回は幸運にも向こうから接触してくる可能性が高い相手。無理に全員が動く必要も無いですから」

「ちょ、ちょっと、何言って」

「夢見は俺が入院中、1人で色々頑張ってくれてたもんな。今回はゆっくり休んで欲しい」

「え……え~……えぇ~~!!!!」

 

 

・  ・   ・   ・  ・

 

 

 そういうことで、今回は半ば無理やりではあるけれども、夢見抜きでの活動になった。

 直前まで散々嫌がってた手前、今更自分も参加するとは言えなくなった夢見は、若干瞳に涙を浮かべながらも、不参加に同意した。

 ちょっと可哀そうって気持ちにはなったけど、不参加にされることの不満よりも、ナナとノノを探す中で蓄積されるストレスの方が確実にリスクに繋がるため、致し方ないと思う事にする。

 

 一夜明けた今日、放課後になると早々に、俺とリンゼはまず真っ先に家まで帰ることに。

 方々に散ってナナノノを探すという手段も当然あったが、直近の傾向を鑑みて、また家の近くでノノと会えるかもしれないと思った故の行動だったが、あいにくナナもノノも俺の背中にダイブする様なイベントは起きず、平穏極まりない帰宅となってしまう。

 そうなったら後は本来の予定通り、足を使った捜索に移るだけ。2人とも動きやすい私服に着替えてから、母さんと渚には家族のグループRhineで『学校関連の事情で帰りが遅くなる』と伝えて怒られるリスクも回避、これで心置きなく双子捜索が出来るってものだ。

 俺はこの前ナナと別れた場所の付近を、リンゼは彼女なりに思いつく場所を、それぞれ探すことになった。

 

「これで、あっさり見つかる──なんて展開になれば楽なんだけどなぁ」

 

 先日ナナと途中まで一緒に歩いた線路沿いの道路を越えて、その先にあった小さな公園や、周辺の工場で働く人用の小さな駅などを見回るが、それらしい姿はまるで見えない。

 公園で佇んでたお婆さんや、ポツポツと点在してたコンビニの店員さんにも、ナナやノノの容姿をした少女を見てないか尋ねてみるものの、結果は芳しくなかった。

 帰り道でこの辺りまで歩いたのだから、彼女らの居住地がこの辺にあるのは間違いないはずなんだが……。

 

 探し始めた時はオレンジ色の光で存在感を示していた夕陽も、気が付けば沈みかけている。

 もう少し周囲を探したいところなんだが、リンゼと『18時になったら川國駅内の時計台前で集合』と約束している。

 現時刻が17時30分ちょうど、ここから川國駅までの徒歩移動時間を考えると、そろそろ駅に向かわないとだな。

 

「うーん、しょうがない。もどかしいけど、いったん駅に行くか」

 

 自分から集合場所と時刻を決めた手前、遅れるのは最低な行為。捜索を中断して川國駅に向かうのだった。

 

 

「先輩、待たせてすみません」

 

 集合場所に着くや否やそう口にするリンゼだが、時間は17時57分。別に遅れては無いので謝る必要は無いと言ったが『先輩を待たせてしまうこと自体が失礼にあたるので』と堅苦しい返事を返されてしまった。

 あんまり丁寧なこと言われても、いつか俺が遅刻したりしたら物凄くバツが悪くなるので止めて欲しいんだが、それを言ったところで『私が勝手にしてることなので先輩は気にしないでください』とか言ってきそうなので口にしない。

 知り合ってからまだ1週間も経ってないが、彼女からのコミュニケーションが多いのである程度予想が出来るくらいにはなってしまった。

 

「探した結果だが、残念だけど手掛かり皆無だった。あんなに特徴的な服装なのに、ナナと別れたエリア周辺のコンビニでも全く見た人は居なかったよ」

「そうですか。あの辺りはスーパーが無いですし、日用品や簡単な飲食品はコンビニに頼るしかないはずですが──となると、私の予想が当たってたかもしれませんね」

「というと?」

 

 リンゼは前述のとおり『彼女なりに思いつく場所』を探し回ったが、具体的な場所は聞いていない。

 彼女の『予想』と繋がりがあるのは間違いない──と思ってたが、実際に彼女が口にした言葉に、俺は驚かせられる。

 

「私は彼女が決まった家を持たず、いくつかの拠点をこさえて居る可能性を考えてました。それで、湾岸部の新開発エリアと、工業エリアも当たってみたんです」

「!? マジかよ、だって俺がこの前ナナと別れた場所と反対方向だぞ!?」

「おそらく、彼女は先輩に居住地を探られない様に、敢えて全く違う方向を選んだのでは。それがどういう意図に寄るものかは考察の余地がありますが──少なくとも、先輩の現状を見るに正解だった」

「じゃあ……それって、さっきまでの俺の時間が全てバカみたいだって事じゃんか」

「いえいえいえいえ! 違いますよ、あくまでも可能性でしか無かったので、先輩が丁寧に調べたからこそ導き出せた結果なだけです。最初からこの答えは出ませんから」

 

 焦る様に両手を振って俺の悲観を否定してくれるリンゼ。その気遣いが嬉しいのと同時に、ほんのちょっぴり胸に沁みる。

 

「それで、リンゼの方はどうだったんだ? というか、何となくニュアンス的に手ごたえがあった様に感じるが」

「はい。私の方は何人か、ノノさんと思わしき人物の目撃情報を両エリアから得られました」

「マジか」

 

 あっという間に正解に近づいてるリンゼの手際の良さに感心する。

 同時に、ますます俺の無駄骨具合が情けなく感じちゃうが、その辺の劣等感は一旦胸の奥にしまって置く事にします。

 

「それで、どんな情報が?」

「どれも突拍子の無いものでして。中には薬物をキメてトリップしてるんじゃないかって内容もありますが──」

 

 物騒な前置きと共にリンゼが話す内容は、なるほど確かに、にわかには信じがたい内容ばかりだった。

 

『友人と夜中にたむろってると、遠くから怒声がした。巷で噂の"金髪鬼"かと思いつつ音のした方に物陰に隠れながら向かったところ、明らかにカタギでは無い風貌をして武器を所持した数十名相手に、ナイフだけで相手するゴスロリ衣装のガキが居た(新開発エリア:19歳無職男性)』

 

『夜勤の休憩中、喫煙場から見える3軒先の工場の屋根で、人型とも異形とも見える"何か"と、それを相手に戦ってるようにしか見えないこどもが見えた(工業エリア:41歳工業勤務男性)』

 

『狂気的な笑い声をあげながら、誰かを追いかける2人の背中を見た(両エリア間にある住宅地にて:35歳OL)』

 

 どれもこれも、確かに荒唐無稽と言う言葉がピッタリな話ばかり。

 直近まで行われていた咲夜の『キツネ狩り』に尾ひれが付いてるだけでは……と思いたく内容だけど、それも違うらしい。

 

「共通してるのは、どれも昨日や一昨日の目撃情報であること。そして、必ず1人ないし、2人の不気味なこどもが出てくることです」

「それともう一つ、どれも物騒な話ばっかりだ」

「何らかの集団と対峙……あるいは反撃しているときの姿が目撃されてる様ですが」

「不気味なこどもっていうのがナナとノノだとしたら──」

 

 やはり、脳裏に浮かぶのはナナの言葉。

 

『おにいちゃんは『綾小路』って知ってる?』

『──殺したいの』

 

「──俺は、やっぱり綾小路家の関係者が関わってると思う」

「綾小路咲夜さんは、何も知らないはずでしたが」

「うん、確かに咲夜はナナとノノについて何も知らなかった。けど、思い当たる節はあるようなことも言ってたよな」

「咲夜さんとは違う綾小路家の人間が、あの2人を探していると先輩はお考えですか」

「──現状は、完全に憶測の域を出ないけどね」

 

 改めて、咲夜に話を伺う必要があるかもしれない。

 

「あと、こうなると私たちの身も危ういです。私はともかく先輩はナナさんとノノさん、両方に何故か懐かれているんですから」

「あっ…………そうか」

「そうです。今は知られていなくても、いずれナナさん達を狙っている何者かが先輩との関係に気づけば、誘拐されて人質に利用される可能性も拭えません」

「誘拐って、そこまで過激な事になるかな……」

「先輩の周りでは既に『過激な事』が何度も起きてるはずですが?」

「ん、確かに……」

 

 誘拐は無くても、暴力沙汰にはもう何回も直面していた。

 組織的な力で警察を黙らせる存在(綾小路咲夜)が世の中には存在してることも俺は学んだはず。

 

「これはあくまでも提案ですが、ここから先輩にも捜索は控えていただき、私が中心に動くのはどうでしょう」

「うーんでも、流石に全部投げるのはちょっとな」

「先輩の場合、双子の方が懐いてます。家の場所もナナさんが分かってるので、これ以上動かなくても、向こうから姿を見せに来るのを待った方が良いと思います」

「向こうから来る可能性は考えてなかったな……確かにアリかも」

 

 全肯定Botになる気は無いが、リンゼの言葉は一頻り納得できる物しかない。

 ナナとノノが謎の集団相手に立ち向かえるような存在だと分かった上で、家に入れたり、家の周辺をウロウロされたくない気持ちはあるが、彼女らがどういうワケか懐いてくれてるのは、俺にも分かる。

 なら下手に刺激でもしない限り、向こうから俺に害をなすことは無いだろう……と思いたい。

 

「分かった。明日からは家でナナとノノが訪ねてくるのを待つことにする。リンゼには悪いが、引き続き捜索を任せちゃうな」

「はい。喜んで」

「……今回の双子探索、思ったより泥沼化しそうだな」

「目黒先生があの双子を追跡している集団の関係者という可能性も、出てきましたからね」

「だよなぁ……夢見の懸念が正解だったかもしれない」

 

 目黒先生はノノを『先日行方をくらませた親戚』と似てるから探してほしいと言っていた。

 しかし、ナナとノノが『追われている存在』という可能性が浮上した今、当初のように先生の言葉を素直に信じ続けるのも危ないものだ。

 この場にもし夢見が居たらきっと、得意顔で『だから言ったでしょうお従兄ちゃん?』くらいは言いそうだ。

 

「取り敢えず、今日はもう帰ろう」

「賛成です」

「えーもう帰るの?」

 

『────ッ!!』

 

 背後からあまりにも自然な流れで挟まれる声に、俺達は同時に振りむいた。

 噂をすれば影が差す、なんて言葉をそっくりそのまま現実に落とし込んだかのように、駅の照明で生まれた俺とリンゼの影を足で踏むように立つ、笑顔のノノがそこに居た。

 

・  ・   ・   ・  ・

 

「ノノ、居たのか……」

「驚きました、私が接近に全く気付けないとは」

「こんにちわおにいちゃん、おねえちゃん。……あっ、もうこんばんはの時間か」

 

 サスペンスドラマみたいな反応をする俺と、バトル漫画みたいな反応をするリンゼに対して、ホームドラマのような朗らかさで言葉を返すノノ。

 駅内を行き交う人々の喧騒や音楽でまるで気が付かなかったのもあるが、いつから背後に居たのか、会話は聞かれていたのか、そもそも何故この場にいるのか、こんな都合よくバッタリ出会うようなことが本当にあり得るのか。

 直前までノノにとって不都合な話題を口にしていたのもあり、かなりの動揺が俺を襲う。

 

「こんばんは、ノノさん。今日は珍しい場所で会えましたね、どこかにお出かけしたんですか?」

 

 リンゼが、前かがみになってノノと目の高さを合わせながら訊ねる。

 俺と同じくらい驚いてたはずなのに、すぐに平静を取り戻すんだから大したものだ。

 

「え? 違うよ、おにいちゃんを探してたの!」

「俺を?」

「うん、だからナナが教えてくれたおにいちゃんの家の近くで待ってたのに、全然帰ってこないんだもん、だから探してたんだ」

 

 なんてことだよ。

 今日はわざわざ探し回らなくても、待ってるだけで会えたというのだから、奇しくもリンゼの予想が完全的中していたことになる。

 

「どこに行っても見つからないから困ってたけど、ちょっとだけおにいちゃんのにおいがした方を選んで歩いてたら、やっと見つけたんだ! 凄いでしょ?」

「ああ、凄い嗅覚してるんだな、ノノは……」

 

 匂いをかぎ分けて俺の居場所を突き止めるって、こいつは前世が犬か何かか?

 ……なんてツッコミが出来たら、どんなに気持ちが楽だろうな。実際は常識破りの探査能力を前に心臓がバクバクでそんな余裕はまるでない。

 

「えっと、もしかして君は耳も凄い良いのかな? 俺とリンゼがさっきまで何を話してたのか聞こえてたり……」

「え? 悪くないと思うけど、おにいちゃんを見つけたのは今さっきだし、こんなに人がいっぱいいる場所だと、何話してたかなんて分からないよ?」

「そ、そうか。流石にそこまでは出来ないよな、うん……」

 

 取り敢えず、ギリギリ聞かれてまずい所は回避できたようで内心ほっと息をついた。

 リンゼも表情は変わらないけど、心なしか安堵しているような雰囲気だ。

 

「ん~? ひょっとしておにいちゃん達、ノノに言えないような悪い事話してたんでしょ」

「いいや、まさか。あーでも、こどもにはちょっと難しいことは話してたかもなぁ?」

「あー、そうやってこども扱いするなんて、酷いや! 何話してたのか教えてよ!」

 

 よし、敢えてからかう事でノノをムキにさせることが出来た。

 不気味な点が多々あるノノだが、基本的な精神性は年相応かそれより幾らか幼いこどもその物。誤魔化すのはそこまで困難ではない。

 

「話すのは良いけど、先にノノから教えて欲しいことがあるな」

「え? 何?」

 

 まさかの逆質問される形になり、首を小さく傾げて期待通りの反応を見せるノノ。

 この年頃のこどもは得てして、聞きたがりより話したがりの方が多く、特にノノみたいな活発気質な子の場合『俺が何を話していたか』を知るよりも、『自分が話したいことを聴いてもらう』方が『楽しさの優先度』では上になるはず。

 そんなこどもの心理を、ここでは躊躇いなく利用させてもらう。

 

「さっきの話だと、ノノは俺を探してたんだろう? どうかしたのか?」

「あっ、うん! あのね、おにいちゃん──」

 

 案の定、自分が一番話したい話題に躊、ノノは躇いなくシフトさせていった。

 自分の思う通りの展開に話が進んだときに感じる、『上手くいったぞ』という感覚が心を満たしていく。

 この調子で目黒先生のことやリンゼが得た情報についても聞いてみよう──そう思っていた俺は、自分の持つ『ナナとノノ』に対する認識が、いかに甘いものであるのかを、この後すぐに思い知らされることになる。

 

「面白い()()()()を捕まえたから、おにいちゃんにも見せてあげようと思ったんだ!」

 

 ──まず、この言葉を聞いた瞬間に何か『悪寒』のような物を覚えた自分の第六感を褒め称えたい。

 

「へぇ……()()()()の? 買ったとかじゃなくて……?」

「うん! ノノ達の周りをウロチョロしてて、声掛けたら喜んでついてきたから、そのまま捕まえたんだ! 凄いでしょ!」

 

 自慢げに平らな胸──いや咲夜に比べたら見た目よりもしっかりと育っている方だが──をそって語るノノ。

 瞬時にノノの傍に立つリンゼと視線を合わせ、同時のタイミングで頷く。

 詳細は曖昧なままだが、ノノの発言が非常に不穏なものだという認識を共有した俺たちが次に取る行動が決まった。

 

「ノノさん、その()()()()、私も気になります。今から先輩と一緒に私も見に行くのはダメですか?」

「いいよ! おにいちゃんとおねえちゃん、2人にも遊ばせてあげる! ついて来て!」

 

 そう言ってさっそく、ノノは駅構内を出る階段まで歩き出した。

 ナナからリンゼの事を聞いていたからか、それとも優しい語り口に絆されてか、ノノは何もためらうことなくリンゼを受け入れて、俺達を()()()()がある場所まで先導していく。

 

 その背中を2,3歩分遅れてついていきながら、俺とリンゼは小声で会話する。

 

「なぁリンゼ、ノノが言うおもちゃって」

「私もたぶん、考えてることは先輩と同じです。間違いなく言葉通りの『玩具』では無いかと」

「確か、リンゼの話には『誰かを追いかけてる姿』もあったよな。じゃあ……つまり」

「そうだと決めるのはまだ早いです。けど……先輩にとってはかなり刺激の強い絵面が待ってるのは覚悟すべきです」

「……っ」

 

 背中を冷たい汗がだらだらと伝っていくのを感じて重苦しい表情になっていく俺とは対照的に、ノノは鼻歌交じりでドンドン先を進む。

 最初からすぐ近くだとは思っていなかったが、およそ1時間近く歩くことになった。

 駅を出て、商店街を通り過ぎ、住宅街からも離れ、次第に周囲から人の気配が消えて、夕陽も完全に沈んで心もとない街灯と月光が辺りを照らす様になった頃、ようやくノノの足は止まって、目の前にはシャッターの閉じられたガレージがあった。

 2階建てで上層は住居スペースの様だが人の気配はなく、建物全体が既に十数年も人の管理から外れているような寂びれた雰囲気がある。

 俺達が事務所に使っている廃工場のような、大きな建物に潜んでいると予想してたので、思ったよりも普通の場所を拠点にしているのは意外だった。

 

「よっとぉ!」

 

 閉じられているシャッターの前で屈んだと思ったら、ノノは勢いよくそれを両手で持ち上げて一気に開ける。

 相変わらず、見た目からは想像できない膂力だと感心しつつ苦笑いする俺だったが、シャッターの内側に外光が差し込まれて中の様子が分かった瞬間、苦笑いから凍り付いた真顔になった。

 

「ナナ。おにいちゃんとおねえちゃんを連れてきたよ」

「おかえりノノ。あら、おねえちゃんも来たのね。いらっしゃい」

 

 ガレージの中でノノの到着を待っていたナナが、俺達を見て歓迎する様に礼儀正しくお辞儀する。

 表情こそはっきりとは見えないが、彼女は俺達が来たことを心から喜んでいる様子だ。

 そうしてノノは俺たちの方へ体を向けると、『お待たせしました』という風にガレージのちょうど中央に置かれているモノを指して言った。

 

「どうおにいちゃん! これがノノ達の()()()()だよ」

 

 覚悟はしてた。

 してたし、()()()()の身の振り方も考えて、小声でリンゼと確認もしていた。

 

 だけど、本当に昔の人は確信を突く言葉を残すものだなぁ。

 "百聞は一見に如かず"。

 頭では分かっていてもいざ『それ』を目撃してしまうと、思考が一気に混戦して正常な呼吸だけで精一杯になってしまうのだから。

 

「あ~おにいちゃん、もしかしてビックリしちゃった?」

「まるで公園にある銅像みたいになっちゃってるわね、うふふ」

 

()()()()を挟む様にして左右に立つナナとノノが、俺の様子を見て心底楽しそうに笑う。

 そして、()()()()──全身の身ぐるみを剝がされて椅子に拘束された目黒先生は、俺達の姿を認識するや否や、小刻みに震えながら呻き声をあげた。

 

 逃げろと言ってるのか、助けてと懇願してるのか。唇を()()()()()()()()()()()()()()()()()目黒先生が何を言ってるのか、判別する手段は無いに等しい。

 

「わあ! 急に暴れだした」

「まだこんなに動ける元気が残ってたのね」

「だけど手も足も縛られてるから、死にかけのセミみたいだね」

「えぇそうね。塩を掛けられたナメクジみたいにくねくねしてるわ」

 

 双子はもがく先生を見て、双子は肩を揺らしながら交互に笑う。

 一方の俺とリンゼは、もはや愛想笑いすらできない。

 シャッターが開いた直後から鼻腔を突く錆びた鉄の匂いは、間違いなく先生の全身にびっしりと出来た、真新しく痛々しい傷口から滴り落ちる血が理由だ。

 

 仮にこれが全く知らない赤の他人だったら、もう少し早く現状に即した動きが出来るかもしれない。

 でもよりによって、よりにもよって、見知った人間がこんな状況に陥ってるとなれば、話は変わる。

 関係性が薄かろうと動揺と困惑で頭がいっぱいになってしまうのは仕方ないだろう。

 残念な事にリンゼに警告された通り、目の前の『かなり刺激の強い絵面』に、俺は呑まれてしまった。この場に居るのが俺だけだったら、とっくにビビり散らして情けない声をあげながら逃げ出したかもな。

 

「──2人に、聞きたいことがあるのですが」

 

 幸いにも、ここには何故か俺よりずっと冷静さを保ってくれている、心強い後輩が居てくれた。

 

「その人は、おふたりに何か危害──嫌な事をしたのでしょうか?」

「え? ううん、別にしてないよ!」

「それでは、どうして血が出るような怪我をさせるのです?」

「どうしてって、そういう遊びだからだよ!」

「……遊び?」

 

 最後の問いはリンゼではなく、俺の口から自然に出た問いだった。

 

「うん! 黒ひげ危機一髪ってあるよね、あれと同じだよ。ナナとノノが()()の好きな所を刺して、死んじゃった方の負け! 面白そうでしょ?」

「…………死んじゃったら、どうするんだ」

「うぇ? あははは、変なおにいちゃん! 死んじゃったらまた別のおもちゃを見つければいいだけだよ~!」

 

 ──あぁ、これはダメだ。本当にダメなパターンだ。

 ──ノノ、そしてナナは、冗談抜きで俺が出会ってきた人間の中で最も危険な人種だった。

 

「そうだ、おにいちゃんとおねえちゃんもやってみる? けっこう血が出ちゃってるけど、まだ死なないから一緒に()()で遊ぼう?」

「……いや、それよりもっと楽しい遊びがあるんだが、どうかな?」

「え、何々? どういう遊び??」

「先輩……?」

 

 バックボーンは知らない。

 異常な環境で育った子達ということ以外、何も分からない。

 

 だけどそれでも、この状況から確実に分かることが3つもある。

 ナナとノノ、この双子は一般人とは違う常識の中で生きている双子であること。

 そして、このままでは今夜のうちにでも目黒先生は死んでしまうということ。

 最後に、どういうワケか知らないが、そんな危険極まりない双子が何故か俺には妙に懐いているということ。

 

 これら3つの──たった3つの、されど確実な事実を持って俺がやるべきことは何か。

 

 不幸な事に、その問いに対する答えが瞬時に思い浮かんでしまった自分を心の底から呪いながら、俺は言葉を続けた。

 

「ノノとは前に夢見と一緒にやったよな、隠れ鬼ごっこ。逃げながら隠れる奴を、鬼が探して追いかける遊び」

「うん、ピンク髪の面白いおねえちゃんとも一緒に遊んだけど……アレより()()で遊ぶ方が楽しいと思うな」

「まぁ、そうかもな。だから特別ルールを付けよう」

「特別ルール? なにそれ」

「どんなルールなのかしら。捕まったらおにいちゃんが()()の代わりに新しいおもちゃになってくれたりとか?」

「うん、そうだね」

 

 ナナが口にした狂気の沙汰としか思えない提案を、しかし俺は首肯する。

 そして更にそれ以上の狂気を──震える理性を押さえつけながら口にした。

 

「今回、逃げるのは俺で、鬼はナナとノノだ。制限時間は俺が逃げて1時間経ってから太陽が昇るまでの間。もし俺が逃げ切るか、2人が諦めたら俺の勝ち。そして俺が2人に捕まったら──」

 

 この先の言葉を口にしてしまえば、俺は間違いなく2人を自分の土台に乗せることができるだろう。

 しかしそれは同時に、自身の命を盤面の駒にするのと同義だ。

 人を傷つけることに良心の呵責を持たず、"遊び"として消化する価値観をした相手に、自身の命をBetするような、愚行と言える行為。

 しかし、それをしなければきっと間違いなく、この双子は目黒先生を殺してしまう。

 目黒先生に対して何か特別な思いを抱いてるワケじゃないが、殺されるのが目に見えて明らか人を放置できるような倫理観を、幸か不幸か俺は持ち合わせていなかった。

 

 故に、現状俺が持ち得る知識の中で致命的なまでに彼女らの興味を引き込める言葉を、口にした。

 

「俺が捕まったら──綾小路家の人間の居場所を教えてあげるよ」

 

 言い切ったその瞬間。ガレージ内の空気がぎゅるっと捻じ曲がる様に変わるのを感じた。

 

「……へぇ、おにいちゃん。綾小路がどこにいるかわかるんだ?」

 

 そう問いかけるノノの口調はあどけなさを保ちながらも、確実にそれまで向けてこなかった狂気を孕んでいた。

 聞くだけで背中に鳥肌が立つが、すなわちそれは彼女の関心が俺だけに向けられているという事。

 

 つまり、期待通りの反応というワケだ。

 

 だから、思いっきりこの流れに乗ってやる。

 

「気になるなら、俺の遊びに乗るかい? その代わり、そこのおもちゃは手放してもらうけど」

「──あははは! 良いよ、隠れ鬼ごっこやろう! すぐにやろう!」

 

 期待通りの反応を掴み取ることが出来たが、駅構内の時のような、自分の思う通りの展開に話が進んだときに感じる、『上手くいったぞ』という感覚は微塵も湧かなかった。

 

「決まったな。それじゃあリンゼ、この後目黒先生をよろしく」

「……先輩、自分が何を口にしたか、分かってるんですよね?」

 

 後輩は出会ってから一番真剣な目で俺にそう訊ねる。

 

「勿論。この上なく馬鹿なことを言ってる自覚はあるよ。でも多分、こうしなきゃ先生がマズいだけじゃなく、俺達も殺人犯の仲間入りになってる。だろ?」

「……()()に誘われた以上は、避けられませんね」

「だから、俺が逃げてる間に先生の怪我の手当を任せる。あと、もしできるなら君のお得意の情報収集力で、あの双子について調べておいてくれ、それと──」

「夢乃さんへの伝言ですよね。任せてください、先輩の夜更かしを確実に納得させる理由を設けておきます」

「…………Thanks」

 

 俺の一番頼みたい事を察してくれたリンゼに、心からの感謝を述べる。

 

「おにいちゃん早く逃げてよ、じゃないと始められないじゃないか!」

「──あぁ、分かってるよ」

 

 ノノは、そしてもちろんナナも、俺を捕まえたくてしょうがなさそうだ。

 

「リンゼ、頼んだよ」

「はい……先輩、どうかご無事で」

 

 お互いの言葉に頷きあってから、

 

「それじゃあ──隠れ鬼ごっこ開始だ!」

 

 俺はそう言って、一目散にガレージから駆け出したのだった。

 

 

 

 

 野々原来栖が逃げ出した時刻:19時27分

 隠れ鬼ごっこが開始する時刻:20時27分

 太陽が昇ると予想される時刻:05時00分

 

 

 隠れ鬼ごっこ終了までの時間:8時間33分




 今回のタイトル、本当は4話に付ける予定でした
 プロットに書いてない展開が2話分勝手に増えた……

 ナナとノノ、この二人はCDで聞いて最初は只々狂気的な面ばかりが印象的でしたが、
 見ため以上に精神性が幼くて、結構不気味ですよね
 世の中を「快と不快」でしか判断できない環境で育ってきたのかなぁ、と思ってます

 隠れ設定で世界観を同じにする「らぶバト!」という作品で語られている糞強い一族の関係者なので、もしかしたら強さと歪さはそっち由来なのかもしれませんねぇ
 というか、ヤンデレCD2作目から「らぶバト!」要素がサイレンスで導入されてるのがおっかない

 ナナとノノは言及した通りですが、3作目に出てくる朝倉巴君に関してはもろ「らぶバト!」ヒロインの弟というんですから
 え、巴は妹だろって? あははぁ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。