ヤンでRECKLESS★FANATIC!   作:食卓塩少佐

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TRUCK4 お好み Yeah! Kiss

「なるほど、聞いたことのない名前ですか……」

 

 家までの帰り道にある公園に立ち寄って、空いたベンチに隣り合って座りながら、俺はリンゼに白状してしまった。

 本格的な夏まであと少し、夏至も目前と言うだけあって空はまだ明るさを残しているけども、公園内にもう子供の姿は(俺達以外)居ない。誰かに聞かれる心配は無さそうだ。

 

「しかも、どうやら死なせてしまった様で……穏やかな話では無さそうですね」

「そうなんだよ、俺──ものごころがついてから、家族と死別した事は無いし、多分渚が生まれる前に死んだと思うんだけど」

「そこまで分かっているなら、素直に聞くという選択肢は無いのですか?」

「無理だ……盗み聞きしてたことがバレるっていうのもあるけど……」

 

 あの時、2人がどんな顔で話していたのかは見えていなかったけれど。

 想像するのは、あまりにも簡単なことだ。

 

『──ごめんなさい、あっくん。飲みすぎちゃったかな。変なこと口にしちゃった』

『いや、良いよ。……もう、大丈夫だから。あれからもう、年月が経ってるんだから』

 

『でも、今回の来栖を見て考えたんだ。あの頃の俺に、来栖くらいの勇気や行動力があったら──俺は、もっと岬とうまく向き合えたんじゃないかって。岬を、死なせることには、ならなかったんじゃないかって』

 

 普段の2人からは絶対出てこない、後悔に満ちた声色。死んだ、ではなく。()()()()()()()()という言い方。

 きっと──いや間違いなく、父さん達にとって触れられたくない領域なのだ。

 

「今まで一度も俺と渚の前で出したことのない名前なんだ。きっと本来は、墓場まで持っていく気だと思う」

「でも、知りたいのでしょう? 結局は墓荒らしをするのと同じなのでは?」

「そうなんだけど……でも、同じ墓荒らしになるとしたって、手段は選びたい」

 

 こんなのはしょせん、俺個人の気分の問題でしか無い。

 両親が隠したがってる事を暴こうとしてる時点で、過程なんか関係ないのだから。

 

「どうして、そこまで知りたいのですか? 大切なご両親が隠したいという気持ちを踏みにじってまで、自分の気持ちを優先したい理由はなんです?」

 

 ぐいっと、身を乗り出してリンゼが問いかける。

 

「教えて下さい──話して? あなたの、その衝動の源泉はなに?」

 

 自分の気持ちがどうして動いているかくらいの説明は簡単にできるし、衝動の源泉だなんて、大仰な言葉を使う必要もない。ただ、単に──、

 

「野々原家に──自分の家族に、自分の知らない秘密があった。その事実を知ってしまったから、最後まで知らないと気が済まないっていうんじゃ……ダメかな」

 

 野次馬根性の延長線のような理由だ。

 もう少しだけ俺が大人だったら、きっと忘れることだけに努めて、何もしない。

 でも、そんな子供っぽい理由を聞いたリンゼは目を細めて、こう答えた。

 

「それで充分です、力になりますよ、先輩」

 

 公園の木々の隙間から差し込む、朧気な燈色をした夕焼けの残滓を浴びながら微笑む彼女は、頼もしくもあり──それ以上にちょっとだけ、薄気味悪かった。

 

・  ・   ・   ・  ・

 

「ご両親に聞くのはNGとして。では他に知ってそうな人物から聞くのはどうでしょう」

「知ってそうな人物……」

「心当たりはありませんか? 親戚の方や、ご両親の古い友人知人などは」

「うちはあんまり親戚付き合いが無いんだ、母さんの実家の小鳥遊の方とは年に何回か会うけど」

 

 ミサキって人物が小鳥遊家の誰かという可能性はあるが、あのときの両親の会話を鑑みるに、野々原家の人物だと思うほうが自然だ。

 じゃなきゃ、母さんより父さんが後悔してるような発言は出てこない。

 

「そうなると少し難儀です。親戚付き合いが無いのは如何にも現代的ですが、こういう時には困ります」

「本当にな。お陰で小学生の時は他のクラスメイトよりお年玉が少なくて、マウント取られたって渚が嘆いてたよ」

「先輩は気にならなかったんですか?」

「俺は……まぁ、貰えるだけでありがたいと思ってたから」

「大人びてますね。あるいは、干涸らびているのかもしれませんが」

 

 わざわざネガティブな言い方に変えなくても良いだろう。

 

「となれば、別の方面で調べる必要がありますね。過去の新聞などから──」

「あっ、いやそうだ、親戚ならこの前会ったばかりだ」

「……そうでしたっけ?」

「あぁ。奇しくも君と初めて七宮神社の近くで出会った後、海沿いの霊園で縁伯父さんとバッタリ会ってる」

「……そう言えば、そんな話をしていましたね。失念していました。私としたことが」

 

 そうだ、確か初めてミサキって名前を耳にした夜も、寝る前に思い返していた。

 

「いや俺も大概だよ。……伯父さんはあの日、誰かの墓参りに行ってた。短い時間しか会話しなかったし、その後すぐノノと知り合って色々大変だったから、つい頭から抜けてた」

「思い返すと、先輩が食卓の場でその人に会ったことを話した際、夢乃さんの様子が変でしたね」

 

 

『そうそう、昨日会ったんだよね、縁伯父さんに』

『──っ』

『まさかあの場で会うとは思わなくて、俺も夢見もビックリしたよ。伯父さんは知人の墓参りだって言ってたけど、母さんは誰なのか知ってる?』

『…………』

『……あの?』

 

 

「──そうだったな。気まずくなりかけてたけど、渚がナナ──じゃなくて、あのときは変装したノノの話題を振ってくれたけど、普段の母さんより変だった」

「手がかりは、そこですね。縁さんと直接お話出来れば良いのですが」

「俺は分からないし、父さんと母さんはどこに住んでるか知ってるかもしれないけど、急に聞いても答えてくれるとは……」

「ごまかされる可能性は高いでしょうね。これまでの経緯(こと)から見て」

「同感だ。まず、素直に教えてくれないだろう」

 

 もどかしいな。宝探しで鍵穴は見つかっても、正しい鍵が見つからないような歯がゆさがある。

 

「仕方ありません。こうなれば直接伯父を見つける事は諦めましょう」

 

 リンゼがベンチから立ち上がり、スカートについた細かな木の葉くずを手で払いながら言った。

 

「今日明日で知らないとダメという案件では無いのですよね?」

「まあな」

「であれば明日また、何から始めるか考えることにして。今日は一旦ここまでにしましょう」

「……そうだね」

 

 リンゼという理解者が出来たことで緩和されたのか、家に帰りたくないって気持ちが自分の中からすん、と無くなっていることに気づく。

 それに『お腹が空いてしまいました』と左手をお腹に当ててはにかみながら言うリンゼの顔を見ると、つられて空腹感が強くなってしまった。

 

・  ・   ・   ・  ・

 

 翌日のお昼休み。

 4時限目が体育で日直でもあった俺は、授業後の片付けや着替えで普段より割りかし遅めに着替えた事もあってお昼の弁当惣菜争奪戦に出遅れてしまい、購買に着たときにはもう売れ残りの不味い菓子パン程度しか残って無かった。

 食堂は食券こそ残ってるかもしれないが席が空いてるはずもないし、美味しくないと分かってる物に金を払って無理やりお腹を満たす気にもならない。

 かと言って学園の何処をほっつき歩いてもご飯の匂いしかしない。

 

「……部室で寝るか」

 

 幸いにも、今の俺には時間を潰すのに適した場所がある。

 高等部校舎から10分掛からない距離の道を、騒ぎ立てる男子生徒とすれ違ったり、姦しい女子生徒らのあいだをすり抜けたりなどして歩き続け、渡り廊下を超えた先の部活棟最上階にある『救済★病み俱楽部』の部室の扉を開ける。

 

 扉が開いた瞬間、俺の五感はすぐに違和感をキャッチした。

 

「……ん?」

 

 ジュウジュウと熱した鉄板の音、小麦粉と豚肉が焼ける匂い。

 調理部ならいざ知らず、この救済★病み俱楽部の部室からはあり得ないそれらを感じた俺が急いで扉を開けると。

 

「うげやっべぇバレ……ってなんだ。来栖かよ、焦ったぁ……」

「……まぁ、お前しか居ないよな」

 

 部屋中央に置かれた長テーブルの上にホットプレートを置いて、お好み焼きを作っている鈴鹿が居た。

 

「……何でここで、お好み焼き作ってんのお前」

「近所のオバちゃんが野菜くれてよ。家でコツコツ消費しても間に合わねえ量あっからさ、こうして積極的に使ってんのよ。お前も食べるか?」

「いやおかしいだろ、何でお好み焼き作るんだよそれで」

「だって……学園(ここ)の飯、どれも高いし……家でやるの電気代もったいねえし」

「ナチュラルクソ野郎か。絶対パチンコで金失くしてるだけだろお前」

「馬鹿野郎お前、未来への投資だよ。明日への奉公してんだよこっちは」

 

 100人聞いたら100人が呆れ果てる妄言を口にしながら、器用に鉄板の上のお好み焼きを丁寧に折りたたみ、紙皿の上に置くと俺に突き出した。

 

「良いから食えって。味は保証する。マヨでもソースでもなんでも好きにかけれ」

「ったく。割り箸は?」

「ほい」

 

 鈴鹿の対面に座って、投げてきた割り箸と出来立てのお好み焼きが乗った紙皿を受け取る。

 何も食べて無い俺の食欲を刺激する、見るだけで美味しいと確信できる見た目だ。

 

「これ、焼きそば入ってる?」

「広島の焼き方だからな、俺はお好み焼きならあっちの方のが好きだ」

「広島の……モダン焼きとも、違うんだな」

「それは広島のお好み焼きを関西ナイズしたって感じだから、一緒にしちゃダメだぜぇ」

「ふぅん。相変わらずそういうことは詳しいんだな」

 

 素直に感心しながら、思いも寄らないタイミングで手にしたタダメシをありがたくいただく。

 祭りの屋台でよくある、値段の割に中の生地が中途半端にどろっとしている残念な出来──なんてことはなく。

 生地の層ごとに分かれた野菜と豚肉と焼きそばが、ひと噛みするたびに舌の上で踊り、飢えていた食欲を歓喜に満たす。

 豚肉も焼きそばもいいが、1番舌を喜ばせているのは意外にもキャベツ。

 食感もさることながら、スーパーで買うものと比べて瑞々しさと甘さが違う。

 

美味(うま)っ」

 

 意識せず自然に口から感想が漏れた。

 

「キャベツ、良いだろ?」

「うん」

「良い土使ってんだろうな。小一時間は語れるこだわりっぷりなんだゼ」

「これをタダで貰えるって良いな」

「冬はもっと甘みが強いんだよ。なんだっけな、寒さ対策に糖度を増すとか」

「はぁ~、すっげえな」

 

 学園の敷地内で教師に隠れて、お好み焼きを食べる。

 そんな、本来なら否定すべき異常な状況を(ただ)すこともせず、あれこれ喋りながら、鈴鹿が次々焼いていくお好み焼きを食べていく。

 

 そうこうしている内に、廊下の方から物凄い勢いで部室に向かって走る音が聞こえてきた。

 一瞬、先生が何かしらの理由で気づいて怒りに着たのかと焦ったが、バンッと扉を空けて出てきた人物を見て、それが杞憂だとすぐに分かった。

 

「──ほらやっぱり! おにいちゃん居たでしょ!」

「本当ね。鬼のおにいさんも居るみたいだけど……それに、いい匂いもするわ」

 

 印象的なゴシックロリィタではなく、だに見慣れない中等部の制服を着たナナとノノだった。

 

「おー、悪餓鬼共も来ちゃー。腹減ってっペ? 食っちゃい食っちゃい」

 

 どこの方言だよ、と思わずには居られない事を口走りながら、自然な手つきで新しい紙皿に2人分のお好み焼きを取り寄せて行く鈴鹿。

 

「あ、これお好み焼きだ、聞いたことある! おーさかの食べ物なんだよね!?」

「おにいちゃん、お隣失礼するわね」

 

 俺の左右に座りながら鈴鹿から紙皿を受け取ると、声を合わせて『いただきます』と食べ始めた。

 一口したらスグにリアクションを見せると思ってたが、意外にもナナは少し上品にゆっくりめ、ノノはそれより少し速いペースで黙々と食べ進めていく。

 初めて食べると言ってたし、もしや口に合わないかもと思ったが、半分近く食べ終えるとまずノノが目を大きく開かせながら。

 

「面白ーい! こんなバタバタ暴れてるみたいな食べ物、初めて食べた!」

「レジスタンスが仕込んだクレイモアみたいに、色々入ってるわね」

 

 なんとも独特な感想を、それぞれ口にするのだった。

 流石にこういう反応は鈴鹿も予想外だったらしく、若干引きぎみに笑いながらナナとノノに尋ねる。

 

「えっと……取り敢えず不味くは無いってことでいいか?」

「テーマパークみたいな食べ物ね、ノノ」

「うん! テーマパークなんて行ったこと無いけど、テンション上がっちゃう」

「……ならまぁ、良いけどサ」

 

 もうそこまで言うなら素直に美味しいと言えば良いのに。と内心で親友に少し同情しながら、俺も引き続き自分の分を食べ進める。

 鉄板の上を占めていたお好み焼きが双子の登場で一気に消えたので、鈴鹿が何回目かの生地を用意した所、ノノが興味深そうに言った。

 

「ねぇねぇ、それを焼いたらさっきのになるの?」

「そーだぞ。触れたら火傷する熱した鉄板の上で、絶妙な焼き加減を見極めて作るんだ」

「へ~……」

 

 話半分な返答に聞こえるが、ノノの目がキラキラと鉄板に向けられていることからして、何を考えてるかは明白だ。

 

「ノノ、鈴鹿に焼き方教えてもらって、自分で作ってみたらどうだ?」

「お、自給自足やってみるか?」

「良いの!? じゃあやってみたい! やらせてやらせて!!」

 

 パァッと喜色満面で誘いに乗るノノが、鈴鹿の隣に移って焼き方を教わりながら作り始める。

 そんなノノを見て微笑みながら、ナナも『ノノの次はナナにも教えてちょうだい』と興味を向け始めた。

 思わぬ展開続きだが、同時に好ましい展開でもある。

 

 曲がりなりに、こういう形でも『何かを作る・生み出す』っていうのは、物を壊す、奪う、弄ぶ事ばかりを常として生きてきた2人に、いま最も必要な経験のはずだから。

 これだけで今まで生きてきた人生観が塗り替わる事は無いだろうが、これからもこういう機会を増やして、咲夜の望む通り──なわけじゃないが、()い方向に変わっていってくれれば……なんてな。

 

「──やった! 焦げないでできた!」

「あら、美味しそうねぇ」

「ほほ、初めてにしては筋が良いなー。ナイフもヘラも似たようなもんだしそういう事カナ!」

「おにいちゃんおにいちゃん! 上手に焼けたよ!」

 

 視界の先ではしゃぐ3人──とりわけ、俺に嬉々として成果を伝えるノノを見て。

 

「本当だ、良かったな」

 

 俺も自然と笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ──そんな都合よく行くわけ無いだろ。

 ──こんな無邪気な笑みを浮かべた子が、俺の事務所を木っ端微塵にするんだよ。

 ──いつか、同じような笑顔を浮かべながら、今度はお前を殺そうとするさ。

 

 頭の中で冷静な自分が耳元でそう囁くのを、全力で無視しながら。

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