またコンスタントに更新していきますよ。
ここまでのあらすじ
①咲夜の計らいでゴルフ場に
②オーナーの企画で賞金ゲット
③情報通の後輩に賞金揚げて伯父の行方を聞く
④妹が変になった理由を知ってそうな伯父に話を聞くぞ!(オー!)
毒を喰らわば皿まで、なんて諺があるけれど、日常的に毒に塗れている人の場合はもっと強い毒を喰らわなきゃ駄目なんだろうか。
俺の周りには毒が多い。
こんな事を考えてるの本人達にバレたらただじゃ置かないくらいには、毒々しい女性ばかりだ。
まず、俺の周りにいる女性は概ね殺害対象になる従妹の小鳥遊夢見。
次に、圧倒的資金力と組織力を兼ね備えた傲慢お嬢様の綾小路咲夜。
自分達さえ楽しければ公共の被害なんて構わない双子のナナとノノ。
人様の自宅に不法侵入した挙げ句に、住人を殺そうとした荒川さん。
その荒川さんを遠回しにけしかけた、殺人教唆未遂の実妹野々原渚。
おかしいだろ。
どうして世間にバレたら普通に前科が付く奴ばかりなんだ。
俺の周りにいる親しい女性で、マトモなのは母さんと、病院の先生しか居ない。
冷静に考えると、そんな女達と人間関係を築いている俺も大概どうかしているけどな。
警察にバレたら前科っていうのも、人のこと言えない程度には自覚あるし。
まぁ、なので。今日はまた、一つグレーな行為に手を出すのです。
俺の周りに居る女子で、先程は名前を出さなかったが……一番マトモそうで、でも一番触れちゃいけない界隈に身を置いてそうな人間である、リンゼ・ヒューベルブーフの力を借りて。
野々原渚が、実の母親である野々原夢乃を殺そうとしている理由の、手がかりとなる人物の家に向かう。
「先輩、お待たせしました!」
駅前の時計塔広場でリンゼを待っていた俺のもとに、いつもと違う装いのリンゼが小走りできた。
印象的な亜麻色の髪を今日はサイドテールにまとめ、フリル付きブラウスにプリーツスカート、靴はパンプスのフレンチガーリースタイル。肩には服装に合わせたバッグを掛けている。
元々容姿が淡麗なのもあって、周囲の男性が一瞬芸能人でもみたかのような表情でチラ見している。ここが神奈川の地方都市じゃなくて東京の表参道あたりなら、写真とか求められてたろうな。
「イメチェンか。何着ても似合いそうだけど、そういうのもバッチリ合うんだな」
「ありがとうございます。最初に見た目に触れてくれるのは非常に好印象ですよ、先輩」
「色々言いたい事はあるけど、メイクまでバッチリ決めてこられたら、流石にスルーできないし」
「ふふ、そうやって正直に言う所も先輩らしくて良いですね。それで、言いたい事とは?」
「家同じなんだから、わざわざ待ち合わせみたいな事しなくても良いだろ」
「えぇ~そういう事言いますか?」
言うに決まってるだろ。デートじゃないんだから。
「違いますよ、むしろデートと疑われないために、別れた時間帯で家を出たんじゃないですか」
「……あぁ、それも確かにあるか。母さんとか絶対に茶々入れてくるだろうし」
「それに、渚さんも見たら色々聞いてくると思いますよ? 普段は距離感保ってますが、ああ見えてかなり先輩のこと気にかけてますからね」
「でも、そこまで気をつけてるなら、合流も違う駅の方が良かったんじゃないか?」
「……そこはまぁ、私の気分の問題ですから」
「結局お前のエゴじゃないか」
断言する、コイツは最初のデートごっこがしてみたかっただけだ。
「……全く、遊びに行くのとは違うって分かってるだろ?」
「もちろん。先輩からお金も頂いたので、今日はプロとしてのサービスを──」
通りにいる人達が、ザワッとこちらを盗み見るのが分かった。
「わざわざ通りすがりが誤解しやすい言い方をするな!」
「誤解ですか? 全て事実に則った発言しかありませんが……」
「分かってて言ってるだろ情報屋。偏向報道はメディアの中だけにしてくれ」
「これは手厳しい。ではオールドメディアよろしくヘイトを向けられる前に、出発と行きましょうか」
「お前が変なこと言わなきゃとっくに俺達は改札の向こう側に居たよ」
既にかなり体力と気力を持っていかれてる気がする。
服装に合わせて性格も変わるのか? 今日は随分とダル絡みが激しい。
「あっ、ちなみに先輩が憂慮されてるかもしれない小鳥遊夢見さんについては、本日は先輩の盗撮写真整理で忙しく、外出する様子はありませんのでご安心を」
「全くもって安心できないんだが。最近も盗撮してるのか夢見は……撮りたいなら堂々と言えって何度言えば……」
「よーいドン、で撮る、つくられた先輩ではない。完全にオフな先輩を写したいのでしょう。その乙女心は理解できます」
「こっちとしてはいい迷惑だ。気が気でない……」
今度、折を見て夢見の部屋から写真を没収しなければいけない。
面倒事が山のように積み重なってるのに、矢継ぎ早に足される面倒事に頭を悩ませながら、俺達は電車に乗った。
電車は特急で隣県を跨ぎ、そこからローカル線に乗り換えて各駅停車の怠さに耐えながら最寄り駅で降車。
そこからまたバスに乗り、今度は地方特有の舗装されていない道路をガタガタゴットンズッタンズタンと揺れに耐え、最寄りのバス停にて降車。
そこから更に──
「歩かなきゃダメなのか……遠いな」
「ここはすっかり車社会ですから。先輩が普段暮らしている自転車と電車だけで成り立つ世界とは別なのです」
「……車の免許が16歳から取れる世界であってほしかったよ」
「ニライカナイ島には居ますよ。レースを楽しむ生徒が」
「日本国憲法は仕事していないのか、そっちは。治外法権かよ」
「まぁ……実際そのようなものですから」
一体どうなってるんだ、ニライカナイ島は。
「それで先輩、私はあくまでも伯父様の居場所を突き止めただけです。在宅かご不在かまでは把握してますが、アポイントメントなどは当然取っていません。今更ですが会ってどのように話を伺うのですか」
「それについては考えてある……というか、恐らくだが、そんな問題になることでは無いよ」
「断言しますか。ではお手並みを拝見させて頂きますね」
「……気のせいかもしれないが、家の中まで同行する様に聞こえた」
「安心してください。そう言いました」
「なんでだよ。……いや、そこも『知りたがり』の範疇だって言いたいのか」
「Natürlich」
何語かは分からないが、恐らく肯定の意味だろう。
流石にプライベートの問題過ぎないかとも思ったが、リンゼが居なきゃ俺が伯父さんに会うチャンスも無かったのに加えて、先日のナナとノノの件でもまだ十分な借りを返したと言えてないのも踏まえると、絶妙に断りにくい。
俺が伯父さんに話を聞くまでは問題を感じないが、リンゼの存在をどう説明すれば良いか……。
「話を聞くのまで同行するのは分かったけど、それらしい理由付けはそっちで考えてくれ」
「任せてください。偽装と捏造を見破るのが情報屋の仕事。であれば当然、逆の事だって難なくこなしてみせましょう」
相変わらず自信満々な態度に、疑う気も起きない。
これを言ってるのが鈴鹿だった場合、まるで説得力が無いからな。
やはり世の中は『何を言うか』よりも『誰が言うか』だと言うのが分かる。
「さて、もうすぐ到着しますよ」
ようやく、密かに待ち望んでいた目的地間近というアナウンスが出た。
他愛もない話っていうのはいつだって、中朝距離の徒歩移動に伴う退屈さを紛らわせるのにぴったりだなと思う。
「もう見えてます、あの目立つ家です」
前方には人口が密集している地域では中々見られない、2台も駐車可能な広さを持つ駐車場付きの一軒家が3軒立ち並んでいる。
リンゼが指さしているのはその内の真ん中に建っている、家壁をターコイズブルーに染めた家だ。ここに来るまで通り過ぎてきたどの住宅よりも特徴的な風貌は、リンゼが言う通り分かりやすく目立っている。
「珍しいですよね、近所の子供達は密かにブルーハウスと呼んでいるとか」
「確かに、そう呼びたくなるのも分かる……伯父さん、おとなしい性格なのに意外だ」
「若い頃はファンキーだったのでは? ……あるいは塗り替えない辺り、今も趣味嗜好は変わらないのかもしれません」
「どんな理由であれ、取り敢えず気まずくならない為の話題作りには困らなそうだ」
敷地の手前で一旦立ち止まり、リンゼとこの後の流れを再度確認する。
目的の方は今更確認する必要も無いが、リンゼが同行するに当たっての良い訳はどうするのか考えておけと言ったので、果たしてどんな理由を用意しているのか把握しておきたい。
「普通に後輩だと話しますよ。あと、ここまでの道順を調べたのも私だって」
「……それだけで納得すると思うか?」
完璧な回答のイメージが無いので強く否定できないが、これなら伯父さんも納得できると思える案では、到底無い。
「あんまりこういう注文ばかり付けるのは好きじゃないが、もう少し説得力ある理由はないか? それだけだと追求されそうだ」
「そうですか。では先輩の彼女という事にしましょうか」
「よくもあらゆる可能性の中で最もアウトな選択肢を選んだな?」
「冗談ですよ、そんな露骨に嫌そうな顔をしないでください」
「ここに夢見が居たらそれだけじゃ済まないんだからな」
「夢見さんを随分と意識しておられる。さては前回の件で少し好きになっちゃいましたか?」
「そろそろ怒るぞ」
「はいー……っというわけで、私の取る手段はコレです」
いい加減にしろというタイミングを察したリンゼが、鞄から取り出したのは小さなケース。
開いて中から取り出したのは、小さな長方形の紙……というか、名刺。
2枚取り出した内の1つを、俺に手渡した。
「ニライカナイ探偵事務所 リンゼ・
「私の別の顔とだけ思っていただければ。一応本物の名刺ですよ?」
「情報屋をやってるという話は教えてもらったが、まさか探偵業務も?」
「はい。実を言うと今日の格好は、一種の仕事着です。ただ先輩とデートするためだけにお洒落したのではありません」
ふふん、と得意げな顔を見せるリンゼ。
確かに制服姿で探偵を名乗られるよりも、ずっと説得力は持ち合わせている。
「これなら、うまく言いくるめられるかもしれな……あぁちなみに、これは本当にわからないから聞くんだが、探偵って調査対象の前に姿を見せたりするのか?」
「依頼内容によってはありますよ。音信不通の人間の調査……今回と似たケースの依頼では、本人に事情を説明して身の上を明かしたうえでお話を伺う事もあるのです。当然、浮気不倫の調査ではそんな墓穴行為はしませんが」
そういうものか。とこれまた素直に納得。
そもそもの話、学生身分の年齢が探偵事務所で働くこと自体が可能なのか怪しいが……そんな細かいところまで徹底的に追求される事は無いと願おう。
リンゼだって、その辺を考慮して大人びた格好をしてきたと言ってるのだし。
「さて……先輩の懸念はこれでスッキリできました?」
「そうだ……な……うん」
最後にもう一回、全体を振り返って引っかかる点が無いか思案して──、
「よし。行こうか」
「はい」
結論は出た。当然俺が先導して玄関前まで歩いて、扉横のインターホンに指を伸ばすと……幾許かの緊張を飲み込んでからボタンを押した。
単調なベル音では無く、軽快なメロディが数秒流れると、数秒間の沈黙が流れる。
……もしかして、留守だったのか? そんな疑問が喉から出てきそうになった直後、がちゃりと重い音と共にドアが開き、
「……君、は」
ドアの隙間から驚きの表情でこちらを覗く、縁伯父さんの顔が見えた。