翌朝。アラームより15分も早く目が覚めた俺は、着替えた洗顔と歯磨きを手早く済ませて、リビングに向かった。
1階には、既に起きてた母さんが居た。
「おはよう来栖。今日は早いね?」
「おはよう。今日は日直だから、早めに家出なくちゃいけなくて……ご飯早めに食べても良いかな?」
朝ごはんは基本、渚(あとたまに俺)が前日に作り置きしたものを温めて食べるだけ。
たまに母さんが張り切って朝ごはんを作ろうとしてるけど、例によって渚(と俺と父さん。つまり家族全員)に阻止されている。
それも最近は、味噌汁だけ作るのが許可されたので、母さんは毎朝早起きして作ってくれてる。
「日直かぁ、学生はやる事多くて大変ね。全然良いけど、お味噌汁まだ出来てないから、あと5分だけ待ってて」
「分かった、ありがとう」
そう言って、俺は一度部屋に戻り、すぐに登校できるように準備を済ませておく。
母さんの言う通り5分で味噌汁が出来上がったので、炊飯器から自分のお椀にご飯をよそって、早速食べ始める。
「それにしても日直かぁ、あたしの頃は何してたっけ。こんな早い時間から出なきゃいけないの?」
母さんは俺が1人きりでご飯を食べることがない様にと、向かい側の席に座ってくれている。
「ん……まぁね」
嬉しい気づかいだけど、同時に申し訳なる。
だって、日直だなんてのは真っ赤な嘘だから。
本当は、渚と一緒にご飯を食べずに済む時間を作りたくて吐いた嘘だ。
夜ご飯はどうしようも無いけど、それ以外は極力こうして、渚と一緒の空間に居ないようにしてる。
というか、最近は正直必要最低限の関わりしかしたくない、とすら思っている。
理由は、今回より3つ前に受けた【救済★病み俱楽部】の依頼──つまり、渚のストーカー問題に
俺に隠れて(他の家族には話してたが)読書モデルをしていた渚は、少し前から悪質なストーカー被害を受けていた。
渚は両親──特に父さんに気づかれずにどうにか解決して欲しいと思い、藁にも縋る思いで俺達にストーカーの確保と説得を依頼し、紆余曲折ありながらも俺と夢見はそれを達成した──のまでは良かった。
ストーカーは2人居た。
1人は普段から俺にダル絡みをして、さり気なく渚に近づこうとしてた、姑息なクラスメイトの【足立】。
もう1人は中等部時代に渚と関わりがあったという、これまたクラスメイトかつ、隣の席だった【荒川】。
足立の方は罠にかけてあっさりと捕まえたが、荒川さんの方はそうも行かなかった。
俺達の不在を知ってか知らずか、野々原家の2階(俺の部屋!)から窓を割って不法侵入し、母さんを殺そうとした。
幸運にもそれは未遂で済み、しかも翌日には荒川さんから俺に自白し、二度と俺達に関わらないという言葉と共に学園を去って行った。
これで解決したか──と思いきや、そうは問屋が卸さない。
後日、荒川さんの凶行には裏で渚が関与してる事が分かったのだ。
つまり、渚は最初から『母さんを殺すために荒川さんを利用した』という事になる。
当然、看過できない事実だ。
俺は渚にこの事について問い質したが、返ってきたのは包丁による脅迫。そして──、
『あの女に、私達は殺されたんだよ、お兄ちゃん?』
という、まるで意味が分からない発言だった。
当然、言葉の意味するところを俺は尋ねた。
しかし、渚は普段とはまるで違う雰囲気で──まるで妙齢の女性が見せる様な大人びた笑顔を見せるだけで、何も言葉を返す事は無かった。
ほどなくして、一階から母さんが買い物から帰ってくる声が届き、それを皮切りに渚は普段通りの雰囲気に戻り、そこから一切、不穏な雰囲気を見せる事が無いまま1か月が過ぎ、現在に至る。
その間、俺は何もなかったように渚と過ごした──ワケが無い。
自分の母親を遠回しに殺そうとした家族に、それまでと同じ態度と心持ちで面と迎えるような人がいるなら、そのコツを教えてほしいくらいだ。
幸いにも渚は自身の発言通り、それ以降母さんを殺そうとする動きは全く見せず、俺に発した不可解な発言についても、言及は無い。
本来なら俺の方から追求するべき問題ではあるが、未だに踏み込めずにいる。
もしかしたら、あの会話は俺の見た夢だったんじゃないか──そんな現実逃避じみた思いすらうっすらと浮かびながら、自然と俺は両親の前では普段通りに渚と会話してる姿を装い、それ以外は極力一緒にいる時間を無くすように努めている。
「──ねぇ、来栖?」
「なに?」
長々と考えていたら、不意に母さんが話しかけてきた。
ちょっと黙々と食べ続け過ぎたかもしれない。
「今日のお味噌汁、どう?」
「美味しいよ。特に海藻の食感としょっぱさが好きかなぁ。これなら渚も文句言わないと思う」
「本当? 良かったぁ~。渚ちゃん厳しいから心配だったけど、来栖が太鼓判押してくれるなら安心」
どうやら、シンプルに味噌汁の味が気になっただけらしい。
「──ところで、最近渚ちゃんと何かあった?」
どうにも、母親の勘と言うのはやたらと鋭くて困りものだ。
「渚と? いや、別に普通だけど……何か言ってた?」
極力普段通りのテンションと態度を装いつつ、俺は母さんに返答する。
実際、両親の目がある場所では普段通りに渚と接してるつもりだ。幾ら母さんが『親の勘』で何かを勘ぐってるとしても、確証となる物は何もないはず。
この考えは実際当たっていて、母さんは俺の言葉に2秒ほど何かを考えた後、
「……まぁ、そうだよね。お母さんの気のせいかぁ」
あっさりと、自分の考えすぎだと結論付けた。
これで下手に強く否定したり、逆に全く反応しないとかだったら違う展開になってたのは想像に難くない。
「もう、急に不安なるようなこと言わないでよ。……ごちそうさまでした。お味噌汁美味しかったよ、ありがとう母さん」
そして、これ以上無駄に詮索される時間を作らせないためにご飯を食べ終えれば、ヒヤッとしたこの会話も強制終了。
しっかりと本音であるお味噌汁の感想も交えれば、俺の言葉には一切の嘘が無くなって、正直な感想の出来上がり。
食べ終えた食器をシンクの洗い桶に入れて水に浸した後、椅子の横に置いてた鞄を手に取る。
これで後は出発するだけ──そう思った矢先に、階段の方から聞き慣れた声が耳に届いてしまった。
「おはよー……ってあれ!? お兄ちゃんもう出るの!? どうして?」
「おはよう渚ちゃん、今日は日直で早く出るんだって」
「お母さんおはよう……日直って、お兄ちゃんのクラスってそんな早めに出る必要あったっけ?」
「まぁね。久々だし」
母さんと違って、クラスは違えど同じ学年の渚相手には苦しい嘘だ。
これ以上会話を続けたら流石にボロが出るのは間違いないので、やや強引ながらも玄関に向かって歩き始めた。
「あ、待ってよ! 私も急いで食べるから、一緒に行こう!」
冗談じゃない、母さんに嘘をついてまで早く出る意味が完全になくなるじゃないか。
「いいよ、渚はいつも通りに家を出なって。父さんもそろそろ起きてくるんだし」
「そうだけど……」
「ファザコンは素直にファザコンしてなさい。……なんてな、行ってきます」
背後から来る『ファザコンじゃないもん!』と抗議する渚の声を聞き流しながら、俺は晴れて朝の野々原家を出発する事に成功したのであった。
詰まるところ、このように俺は、渚と──渚について考える事を徹底的に避けてしまっているワケだ。
そんな状態で、渚に『ニライカナイ島行こうぜ』なんて、言えるワケが無いよな。
まぁなんだ、結局チケットの問題に関しては、最終的には両親に譲れば良いのだ。
結婚して、子供が産まれてからでも17年が経ってるのに、未だラブラブなあの2人が、パスポートと移動費が要らない南の島へ行かない理由が無い。
俺の為にチケットをくれた大田オーナーのご厚意に応える、という意味では不適切だけど、使わずに腐らせるのは更に不誠実だ。
それなら、結果的に喜んでくれる人が多い方が良いに決まってる。
だから、正直ここまで話を引っ張ってきておいて、実は『チケットの相手は誰が良いのか』なんて件はたいして大きな問題では無い。
今の俺には、そんな事よりもっと頭を悩ませるべき問題が、幾つも残っているのだから。
例えばそれこそ、朝もひと悶着あった渚の件がそうだ。
最近は沈静化してるが、夢見の過激な行動の数々もそれに該当する。
今回は解決した体裁だが、不良グループが大移動し始めた理由が分からない以上、ゴルフ場にまた別のグループが湧いてくる可能性だって0じゃない。
この様に、プライベートですら本来学生が抱える様な内容じゃない問題が山積みなのが、俺の現状だ。
それなのに、学生にとっての公私の『公』である学校生活においてすら、非常に頭を悩ませていることが俺にはある。
それが何かと言うと──まぁ、行けばすぐに分かるか。
廊下からも聞こえるクラスメイト達の談笑。
入り口に近づくごとにそれは大きくなっていく。
笑い声、戯れ程度の小さな怒鳴り合い、驚愕や感動、様々な感情で構成されるそれらの声は、俺が教室に入った瞬間──、
『……………………』
時が止まったのかと錯覚する程の、静寂に転じた。
「……いや、どうぞ話を続けてくれ」
もはや俺の方が引き攣った笑みを浮かべながら口にすると、命令を受けた機械のように、たどたどしくおもむろに、会話を再開し始めるクラスメイト達。
“これ”である。今俺を最も悩ませているのは。
これとかあれじゃ伝わらない人向けに言えば、つまり
クラスの誰もが俺を相手に緊張し、強張り、露骨に距離を取っている……少し前から、気がつくとこんな状態に陥っていた。
皮肉な事に、渚に対して俺がしてる事を、俺はクラス全体から受けている。
しかし幸いな事に──幸いなのかはこの際考えない事にして──原因はすぐに思い至った。
足立、そして荒川さん。以前このクラスに居た両名の転校である。
どちらもクラスカーストのトップ、と言うほど中心的な人間では無いものの、そこそこ人気や立場を持つ2人だった。
そして何より、その2名はどちらも、このクラスでは数少ない、俺との接点を持つ人物でもあった。
俺は元から、クラスメイトとあんまり深く関わろうとはしないタイプで、それは三者面談の際にも担任から言及されていた。
だから今の状況が異常事態なのかと言えば、厳密には違う。
というか、本来ならば『むしろ気が楽だ』と言ってしまえるかもしれない。
無論、この状況が、自然な流れで生まれた物である場合ならば。
実態はまるで違う。
足立と荒川さん、共に俺と話す事が多かった(足立はダル絡みだが)2人が、理由も述べずある日、ほぼ同時に急な転校でクラスから消えた。
どちらも前日までそんな兆候すら無く、先生からの説明もろくにない。
しかも荒川さんについては、最後に登校した日の姿はボロボロの包帯まみれ。
そんな姿の荒川さんが最後に会話したのも俺で、その際もわざわざ空き教室まで移動して、そこから2度と教室には戻らず、翌日転校した。
こんな状況証拠だけ与えられたクラスメイト達が、何を思うかなんて国語の成績が2の馬鹿でも分かる事だろう。
はい、晴れて容疑者『野々原来栖』が出来上がったのでした。
何も事情を知らないクラスメイト達が、俺を疑うのも当然の流れですね。クソが。
最悪な事にクラスメイト達の疑念はおおよそ間違っておらず、確かに2人が転校した理由と俺には関係がある。
だがしかし、ハッキリ言って俺は被害者の立場であり、つま先から頭のてっぺんまで加害者なのは転校したご両人だ。
でもクラスメイト達は足立や荒川さんが、俺の妹を付け狙ったストーカーであるばかりか、俺や母さんを殺そうとすらしていた奴らだと知らない。
もっと言えば妹すらストーカーと裏で1枚噛んでたという、もはや俺ばかりが被害者だと言って良いのが真実だ。
ところが、クラスメイト達の会話をこっそり盗み聞きした所、どうやら俺が不良グループとつるんで、あの2人を徹底的に痛めつけたという噂が出回っている様子。
いやいや、まぉまぁ、聞けば聞くほどあんまりにもあんまりな話じゃないか。
幾ら俺が怪しいからって、よくもまぁそこまで話を膨らませるもんだと、怒ったり泣いたりするより先に感心してしまった。
いや、そんなズレた感想を抱いてる場合ではないのだが。
このまま俺が危ない奴という認識がクラスに──ひいては学年全体に定着してみろ。
確実に、俺の大学進学に悪影響を与える事になる。
クラスメイト達が俺を避けるのは構わない。いや困るけど、この際そこは我慢する。
しかし、悪評が出回って定着し、それが内申点に大きなマイナスを刻みかねない現状は、我慢するのとは違い是が非でも是正すべき案件だ。
できるだけ速やかに、俺に対する誤解を払拭する必要がある。
もっとも簡単な方法と
しかし、これはこの上ない悪手に他ならない。誤解を払拭するどころか更に自分の首を絞める行為になるだろう。
『あの2人は渚のストーカーで、毎日執拗にSNSにメッセージを送ったり、盗撮したり、夜に俺を追い回して殺そうとしたり、自宅に不法侵入した上に母さんを殺そうとした奴らで、俺が従妹と協力して解決したんだ!』
そんなスケールのデカい話をして、しかも納得させる証拠も無しに、素直に信じるとは思えない。
仮に信じるやつがいたとしても、今度は確実に渚の受けた被害にまで話が広がり、最終的には教師の耳に届き、父さんと母さんまで巻き込む事になるだろう。
内容が内容だから、警察だって絡むのは想像に難くない。
そんな事になってみろ。渚が『父さんには知られたくない』と言うから秘密裏に動いてたのが、台無しになる。
いや、正直言ってそれだけなら構わないさ。母さんを遠回しに殺そうした渚に対して、警察が絡む事で牽制に繋がるかもしれない。
だが万が一、同時に『救済★病み倶楽部』の活動もバレたりしたらどうなる。
今度は俺の立場も危うくなる。
俺と夢見の行動は警察にとって看過出来ない物も少なくない。
それこそ、この前の不良グループ撃退なんか知られたら、内申点に悪影響どころか停学……最悪の場合、退学だってあるかもしれない。
つまり、俺が今クラスメイト達にかけられてる疑いを晴らすには、真実をそのまま話すワケにはいかないって事。
2人が転校した理由は隠しつつ、全く別の何かで『野々原来栖は悪い奴じゃない』と説得出来る証拠を提示する必要がある。
例えば、学園に刃物を持った不審者が入ってきて、襲ってくるのを俺が必死に足止めするとか。
あるいは、誰か物凄いイジメを受けてる人がいて、その人の為に頑張る姿を見せるとか。
「……ばっかじゃねえの」
自分で考えた事だが、愚か過ぎて声に出してしまう。
何かしら、誰かしらの不幸ありきで物事の解決を願うなんてのは、下の下の考え方だ。
そんな破滅に向かう思考じゃなくて、もっと健全に何とかなる手段を見つけたいけれど……そんな簡単に見つかれば、苦労なんてしない。
「──はぁ、かったるい」
まだぎこちない雰囲気で会話する生徒たちの声を聴き流しながら、浅いため息と共に現状の素直な感想をこぼす。
結局『今はどうにもならない』という事に尽きるのであった。
3〜4時限目、体育の時間になった。
今日は他クラスとの合同授業で、種目は男女混同でのソフトボール。
3時限目と4時限目を通した授業で、運動が好きじゃ無い生徒達の不満と、逆に体を動かすのが大好きな生徒の歓喜が、温かなグラウンドで交互に行き交っている。
俺個人としての感想は『移動教室がある授業よりぶっ通しの方が気持ち楽で良いかな』程度の物。
ただ、授業が終わって着替える必要がある分、お昼休みが削れるのが嫌だなとも思ったり。
匂いを気にしない生徒は、ジャージのままお昼休みを過ごしたり、そのまま午後の授業を受けたりするけど、俺はちょっと無理かな。
授業は始めに軽い準備運動をして、そこから2人1組になってキャッチボールを行い、広いグラウンドを2分割して、クラス別に練習試合を行う。
そこである程度ソフトボールに慣れてから、4時限目はクラス対抗戦。
選出されたメンバー同士で試合して、選ばれなかった生徒は応援に回る。
合法的に授業をサボれるので、友達と雑談に興じる奴もチラホラだ。
しかし、やはり代表戦と言うものはどんな規模であれ対抗意識を燃やすもので、殆どの生徒が試合と応援、それぞれの役割を真剣にこなす。
正直、俺もクラス対抗戦を見るのが好きだ。
なので、密かに今日の授業を楽しみにしていた──のだが、忘れている事が1つあった。
何度も言うように、この授業は他クラスとの合同で行われている。
なので、途中の練習までは、クラス間での交流も認められている。
そして今日は──、
「お兄ちゃん、私と組もう! ねっ!」
「…………っ」
──よりにもよって、渚が居るクラスとの授業だった。
「自分のクラスの奴と組みなよ」
「お兄ちゃんとが良い」
「……お前な」
会話中、お互いのクラスメイトからの視線を嫌でも感じる。
渚もそれは同じはずなのに──いいや、だからこそ、わざと全員の前で俺を誘っているのか。
どうしたって断れない空気を作るために。
どうすればこの状況から渚を遠ざける事が出来るか、それを考えていると、渚が俺の目の前まで歩み寄って、周囲には聞こえない小声で言った。
「そんな露骨に避けないでよ……最近、お兄ちゃんが私のこと避けてるの気づいて、お母さんも心配してるんだよ?」
「──っ、お前どの口で……!」
母親を間接的に殺そうとした人間が、よくもそんな事俺に言えるもんだと怒りが瞬間的に湧いた。
状況が許せば渚にその怒りをぶつけたかもしれないが、生徒が大勢いるこの場でそれが出来るはずもない。
だから渚を睨むことしかできなかったが、渚は俺の表情をまじまじと見て、ふっと調子を外すように柔らかい笑みを浮かべながら言った。
「もう、前にも言ったよ? 私、今はお母さんをどうこうしようなんて考えてないって」
「それをどうして信じられるんだっていうんだ」
「本当なのに……ううん、分かった。じゃあその辺の事も含めて、ちゃんと話し合おうよ、お兄ちゃん」
「…………」
「いつまでも避けてばかりじゃ居られないのは、お兄ちゃんも分かってるはずだよね?」
もっともらしい事を口にしやがってと思うが、渚の言う事は間違ってない。
両親だってそろそろ俺が渚を避けてる事に気づき始めてるだろうし、渚を避け続けても何かが解決するわけでもない。
「……分かった」
そう言わざるを得ない。
「ほんとう!? 良かったぁ……もう二度と話してくれないかと思ったよ」
そう言って安堵する様子の渚は、本心から言葉を発している様にしか見えなかった。
あれだけ不穏な雰囲気を醸し出していながら、俺との関係は大事にしようとする……妹の思考回路、何を考えているのかが、本当に分からない。
少なくとも、最低限だけど、俺との関係を崩したくないっていう気持ちだけは、本当の様だ。