失われた魔法に恋した魔女   作:泡路

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 エリスはアルバスの想像をいい意味で裏切り、レイブンクローに組み分けされた。当の本人は能天気に一番好きな青色のネクタイを着けられると喜んでいたが、アルバスが帽子の采配にほっと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。スリザリンであれば闇に染まる、そうでなければ大丈夫、なんてことは決してないと頭ではわかってはいるものの、やはり心のどこかでそんなバイアスがかかっていることは確かだった。

 

 

 

 

 そうして始まった学校生活にも少しずつ慣れてきた頃。ホグワーツに関する史料や記録を調べようと足を踏み入れた図書室の大きさに、エリスは目を輝かせた。元来読書好きな彼女からしてみればそこは天国のような空間である。

 ただあんまり広いのでどこから手をつけるべきか困り、司書のマダム・ピンスに相談したところ、『ホグワーツの歴史』を勧められた。その本は1000ページを超える分厚いもので、ホグワーツの創設期からつい最近までのことが書かれていて、中々読み応えがある。エリスは別の本も参照して時代背景をきっちり把握しながら読んだため、読了までに3週間近く要すことになった。

 

 

 その中で、エリスは「ホグワーツ城は創設者4人()()によって造られた」という事実に引っ掛かりを覚えた。もちろん、後から増築や改修がされたことはある。けれども城全体を改築したという記録は無かった。

 複雑に入り組んだ設計、動く階段、隠し部屋に隠し通路の数々……。卒業生であり、長年勤めているアルバスでさえ全容を把握できていないというこの城をたった4人で?

 創設者たちの実力がどれ程かは知らないが、たとえばアルバスが4人いたとして、と想像してるが、うん、やはり信じがたい。

 

 この城の建造には古代魔術が使用されたのではないか。そんな仮説を立てる。検証のためにも一度、城内をある程度把握したい。地図が作れないだろうかと彼女は考えた。

 

 

 

 そういうわけでさっそく次の日曜日の朝。手短に朝食を済ませたエリスは下から順に回ろうと、寮の方向とは正反対の地下へと足を運んだ。陽の光が入らないせいで、薄暗くひんやりとしている。

 なんだか家を思い出すなぁ。少しヌルメンガードが恋しくなる。ホグワーツと違い、あそこにはお喋りな肖像画もゴーストもいない。とっても静かなところだった。

 

 

 羊皮紙と羽根ペンを手にどれくらい歩いただろう。ここ、さっきも通らなかっただろうか。ふと、足を止め、書きかけの地図を見る。ちょっとした階段があったり、同じような彫刻や装飾が並んでいたりするせいで混乱したようだった。一度スタート位置に戻ろう。そう思って来たはずの道を戻っているつもりが中々辿り着かない。再び手元の図を見、数秒の思考の後、諦めて辺りを見渡す。助けを求められそうな肖像画も人もそばになかった。

 あまり気の長い方ではないエリスは、半ばヤケクソになって適当に歩いた。もうこうの際ピーブズでも良い。とにかく誰かいないのか!

 

 そういえば昔も同じようなことがあった。ヌルメンガードで暮らし始めてすぐのことだ。広いお城に来たことに興奮して、その日は朝早くに寝室から抜け出した。気の向くままに歩き回り、見事遭難したのである。その後確か、空腹と苛立ちで魔力暴走を起こして、周囲の物が壊れる音で屋敷しもべや看守たちが駆けつけてくれたんだっけ。

 なんだかあの頃からあまり成長していない気がするような……いや、深く考えるのはよそう。

 

 

 

 ふと、自分以外の足音を耳が拾った。

 人がいる!助かった!嬉しさのあまり、音のした方向へと走り出す。そしてブレーキが効かず、そのまま体当たりしてしまった。

 

 視界が真っ黒になり、ふわりと薬品の香りがエリスを包み込む。自分がぶつかった相手を察してエリスは恐る恐る顔を上げた。いつにもまして険しい顔の魔法薬学教授、スネイプと目が合う。

 

「レイブンクロー、3点減点」

 

 怒気を含んだ低い声に、慌ててエリスは頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさい。実は迷子になっちゃったんです。それで足音が聞こえたから、嬉しくて思わず走っちゃって……」

 

「はぁ。慣れない新入生が道に迷うことぐらい容易に想像できるだろう。レイブンクロー生ならば上級生に案内を頼むぐらいの脳はあると思っていたがね。どうやら入る寮を間違えたようだな」

 

 ぐっ、確かに。なんで思いつかなかったんだろう。言葉に詰まったエリスにスネイプは再び大きな溜息をつく。

 つい少し前、廊下を水浸しにしたウィーズリーの双子に罰則を課して来たということもあって彼は少々気が立っていた。グリフィンドール生相手ではないので普段であれば1階まで送ってやらんでもなかったが、授業中のエリスの手際が1年の中では比較的優秀だったことを思い出して明日の授業準備を手伝わせることにした。

 

「ちょうどいい。着いて来たまえ」

 

 スネイプはそれだけ言って歩き始める。歩幅の違いもあって、エリスは小走りになった。

魔法薬学の教室が見え、やっと知っているところに出られたとエリスは気分が上向きになった。スネイプに続いて中に入ると、そこには先客──マグル式で鍋を磨くという罰則中のウィーズリーの双子──がいた。

 赤毛にそばかす、そして瓜二つの顔。そういえばグリフィンドールとの合同授業で見たことがあるなとエリスは思い出した。確かよくふざけて怒られていた気がする。また何かしでかしたのだろうか。

 

「おやおやおや」

「俺たち以外にも罰則者がいるみたいだな」

「「君はいったい何をしたんだい?」」

「あー、廊下を走って先生にぶつかっちゃって」

 

 ぶつかりに行った、の方が正確かもしれないが。

 エリスの答えにふたりは一瞬きょとんとした後、同時に噴き出した。そしてそのままゲラゲラと笑い転げる。エリスは横に立つスネイプの機嫌が下がっていくのを感じ取りながら、よくこの状況でそんなに大笑いできるなと一種の感慨を覚えた。

 

「ウィーズリー、罰則中の私語は慎みたまえ。グリフィンドール1点減点」

「「すみませーん」」

 

 まだ口元をひくつかせながらふたりは声を揃えた。スネイプはそんな彼らを一瞥し、エリスに向き直る。

 

「ミス・ヘンデルだったな、貴様はこの瓶に入っている蛇の牙を全て砕いてこの器に移しておけ。砕くのにはそこの棚の2段目にある乳鉢を使うように」

「わかりました」

 

 

 

 

 

 それから。ようやく罰則から解放されて、3人は一緒に教室を出た。

 

 

「それじゃあ、さっきの続きを聞かせておくれよ」

「どういうわけでスネイプ先生にぶつかったんだ?」

 

 フレッドとジョージはキラキラと目を輝かせてエリスに詰め寄った。それに気圧されて、簡単にことの次第を説明する。

 

「へぇ、地図かぁ。確かにあったら便利だな」

「なぁジョージ、協力してやらないか」

「さすがフレッド、俺も全く同じこと考えてた」

「いいの?」

「「もちろん!」」

 

 自分の方向感覚に不安を感じ始めていたエリスにとって、それは願っても無い申し出だった。

 

「あ、まだ名乗ってなかったよね。私はエリス・ヘンデル。これからよろしく」

「俺はフレッド・ウィーズリー」

「俺はジョージ・ウィーズリーだ」

「「よろしくな!」」

 

 

 

 

 ちょうどお昼前だったため、3人は大広間で食事をしながらこれからのことを話すことにした。日曜日なこともあってか、まだ人はそんなに集まっていない。エリスはフレッドとジョージとともに、グリフィンドールのテーブルに着いた。

 

 

 

「それで、地図作りだけど、手分けしてやるとして……最初は自分たちの寮の近くからで良いんじゃないか」

「迷子防止のためにもな」

 

 フレッドがニヤッとしてそう付け加えたので、エリスは無言のまま彼の皿のミートボールにフォークを突き刺した。フレッドは降参だ、と両手を上げ、ジョージがひゅうと口笛を吹く。

 

「じゃあ私は西塔をやれば良いのね」

「揶揄うわけじゃないけどひとりで大丈夫か?」

「上級生を頼るから平気」

「そうか。なら俺たちは東塔だな」

「とりあえず一週間各々でやって、そうだな、来週の日曜に成果を報告し合おう」

「わかった。集合場所は、えーっと、魔法史の教室でどう?」

「「魔法史の教室?」」

 

 意外な場所選択に首を傾げたふたりに、エリスはシェパーズパイに手を伸ばしながら頷いた。

 

「あそこに用がある生徒はまずいないし、ビンズ先生も授業が終わったらすぐ出て行くでしょ。それにビンズ先生は生徒に興味ないから何を見られても問題ないと思うんだよね」

「確かに。そこは盲点だった」

「エリスって意外と頭良かったりする?」

 

 今度はジョージの皿のローストビーフにエリスのフォークが突き刺さった。

 

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