【本編完結】魔法使いフリーレンとくだらない魔法 作:SUN'S
とある日の午後────。
勇者ヒンメルとその仲間達は「うちの宝剣を盗まれたから取り返してこい。嫌なら処刑ね」という暴君より暴君な領主の命令を受け、どこにいるのかも分からない魔族を探していたその時だった。今日もフリーレンは「新しい魔法を覚えたよ」と呟いた。
「どんな魔法ですか。フリーレン」
「訛るよ、言葉が」
「方言になるのか」
「僕は絶対に嫌だからね!?」
フリーレンは魔法の杖をヒンメルに構えようとしていた動きを止めて、アイゼンとハイターを見比べてアイゼンに魔法を使った。
「『
「お゛お゛ぉ゛ん゛お゛ね゛い゛さ゛ぁ゛ん゛」
ダミ声どころではない。
フリーレン達はもはや別物のなにかになってしまったアイゼンを見つめつつ、彼の様子を観察している。ちなみにフリーレンは真っ先にヒンメルの後ろに逃げ込み、彼女の後ろにハイターがいる。
「……うっ、おれはいったい?」
「アイゼン、大丈夫ですか!?」
「この魔法はやめておこうか」
「うん。そうする」
あの不屈の精神を持つ最強の戦士ですら精神を汚染されてしまうとは。なんて恐ろしい魔法なのだろうと思いながらフリーレンはメレブの魔導書を撫でてアイゼンに近付く。
「アイゼン、大丈夫?」
「ああ、数秒ほど意識はなかったが。とくに変わったことない」
「……ごめんね」
「そう気にするな。フリーレン」
しょんぼりとするフリーレンの頭を優しく撫でるアイゼンの手はハイターやヒンメルよりゴツゴツとしていて巌のように硬く感じたけれど。
そこまで悪くないと思えた。
「……僕も撫でたい」
「ヒンメル、口から出てますよ」
「なにかいった?」
「いいえ。なにも」
よしよしと頭を撫でられるフリーレンを見つめながらヒンメルは手を出して、すぐに手を戻すという行動を繰り返している。
その様子にアイゼンは「哀れな男だ」と呟き、ゆっくりとフリーレンを彼に向かって差し向ける。流石は出来る男である。
「んっ」
「あ、サラサラしてる…」
二人の姿にハイターは「はわわっ」とする。
まるで乙女のような表情で見つめるハイターに「いったい、なにになりたいのだろうか」とアイゼンはわりと本気で呆れながら悩んだ。
「ヒンメル、くすぐったいよ」
「えっ」
ヒンメルは頭だけじゃなくてフリーレンの頬も優しく撫でている。ようやく意識を取り戻したヒンメルは素早く勇者の剣を抜き、自分に突き立てようとするがアイゼンとハイターに止められる。
「死んじゃダメだよ、ヒンメル」
「は、はい…」
そう超至近距離にフリーレンの美しい顔がある状況で言われたら誰だって頷くだろう。しかし、ヒンメルのフリーレンに対する愛情は重すぎる。
〈
くだらない魔法
自称・大魔法使いのメレブの作った魔法。本来は他人のしゃべり方をどこかの方言に変化させる魔法だが。なぜかダミ声の化け物に憑依されるという謎の現象を引き起こした。