【本編完結】魔法使いフリーレンとくだらない魔法 作:SUN'S
とある日の夕暮れ───。
勇者ヒンメルとその仲間達(アイゼンとハイター)は夜営の準備をしている最中にフリーレンの持ち物が詰め込まれたカバンの上に無造作に置かれた一冊の本を見つけてしまった。
「これは魔導書ではないですね」
「そうなのか?」
「えぇ、舞踊の作法本です」
そんなやり取りをしているハイターとアイゼンの後ろでチラチラと本の中身を気付かれないように見ようとしているのは勇者ヒンメルだ。
もっとも今の彼は勇者というより意中の相手の趣味をバレないように知ろうとする、どこにでもいる普通の若者のように思える。
「おおっ!!これは、なんとも」
「この様な踊りをするのか」
ハイターが大袈裟に驚き、アイゼンはフリーレンがこんな踊りをするのかと困惑する。そんな彼らの後ろでヒンメルは「み、見えない!」だとか「ど、どんな踊りなんだ!?」と妄想していた。
「何してるの?」
そう川辺で身を清めてきたフリーレンが問い掛けた瞬間、ヒンメル達はビクゥッ!!と身体を跳ね上げ、ゆっくりと彼女の方に首を動かす。
顔面偏差値100点のエルフの中でも絶対に一番綺麗なフリーレンの困惑顔に勇者ヒンメルは赤面し、ふいっと視線を逸らしながら「二人が君の本を読んで騒いでいるんだよ」と答える。
「それ、メレブの魔導書のおまけだよ」
フリーレンはそう言って、ハイターの持っている本の正体を告げる。するとヒンメルはガッカリしたように肩を竦める。
「おや、残念でしたね。ヒンメル」
「そう気を落とすな、ヒンメル」
「な、なんのことかな!?っていうか、二人とも分かっててやっていたのか!」
ギャーギャーと喚いている三人を尻目にフリーレンはカバンの上に置かれた本を持ち上げ、パラパラとページを捲る指の動きを止めるとヒンメル達に向かって「踊ってあげようか?」と言った瞬間、さっきまで騒いでいたヒンメルが硬直した。
そして、ヒンメルはパタリと倒れた。
「し、死んでる?ヒンメルううう!!」
「……罪な女だ」
どうやら成人したばかりのヒンメルには完璧美女のフリーレンの踊っている姿は想像するだけで昇天してしまうほど美しいもののようだ。
とても爽やかな笑顔で鼻血を流しているヒンメルを抱き締めて、さめざめと泣いているハイターと哀れなものを見る目でヒンメルを見下ろすアイゼン、なにも分かっていないフリーレンは未だに目覚めないヒンメルを囲っている。
「とりあえず、夜営の準備をするね」
フリーレンはぽつりと呟いた。
どうやらヒンメルの爽やかな失神顔を見続けるのに飽きてしまったようだ。哀れ、ヒンメル。いつか報われるときは来るのだろうか。
〈魔法の力を吸うふしぎな踊り〉
ふしぎな踊り
自称・大魔法使いのメレブの従者ムラサキの使っていた謎の踊り。他人の魔法の力を吸い取るという恐ろしい能力を秘めている。だが、勇者ヒンメルは使われる前に失神してしまった。