【本編完結】魔法使いフリーレンとくだらない魔法 作:SUN'S
とある日の夕暮れ────。
七崩賢の大魔族にして断頭台の異名を持つアウラはフリーレンによって封印された、なぜかめちゃくちゃ生臭いクヴァールのいる草原にやって来ていた。
もっともアウラはクヴァールと親しい間柄でもなければ友人というわけでもない。ただ、ちょっとだけクヴァールのことを思い出したのでお墓参りのように来てみただけである。
「まさか、アウラ…!」
その声は聞き覚えのある。
たった一度の敗走を余儀無くされた勇者一行の頭目をやっていた宿敵のひとりの声だ。だが、ゆっくりと後ろに振り返ったアウラの目の前に飛び込んできたのは、かつてのイケメンではなかった。
「うそ。禿げてる!」
「言い方ひどくない!?」
サッと頭を隠すヒンメルにアウラはズカズカと近付いていき、じろじろとシワの増えた顔や少しだけ猫背になった身体を見つめる。
「……ま、まさかフラれたの?」
「君もほんとに失礼だね。あとそれはないよ」
ごくりと生唾を飲むアウラに今度はヒンメルが左手を軽く掲げる。そこにはハッキリと結婚した証といえる指輪がついている。
「そ、そうよね。さすがにフラれていたなんて聞かされたら。いくら宿敵とはいえ何だか申し訳なくなるし、そりゃあそうよね」
「ねえ。僕ってそんなになの?」
「…………」
ふいっと視線を逸らす。
ヒンメルはエルフや魔族は困ると露骨に顔を逸らす種族なんだろうかと考えながら石像になったまま動かないクヴァールを見上げる。
かつては勝てなかった強敵だ。
フリーレン、ハイター、アイゼン、彼女や彼らと協力してようやく封印することのできた大魔族はクヴァールだけだ。もし、もしもクヴァール以外にあれほど卓越した魔法使いがいたならば人類は確実に負けていたとヒンメルは断言する。
「アウラ。君は彼を助けに来たのかい?」
「違うわ。ただ寄っただけよ、それにクヴァールといえばメレブやゼーリエ、ソリテールに匹敵しうる大魔族だもの。いずれ自分で起きるわ」
ゼーリエやソリテール、クヴァールにメレブが混じっている違和感にヒンメルは笑いそうになる。実際にふたりのやり取りを天界から見守っていた仏はバカ丸出しの顔で爆笑している。
「ところで。その子供は?」
「ああ。この子はリーニエよ」
「お母さんは渡さない」
「お母さん!?」
ヒンメルの脳内に「アウラ子持ち説」というパワーワードが出現する。ヒンメルは自分とフリーレンの子供の成長の遅さは長寿の種族特有の現象と理解している。いや、だからこそ驚いているのだ。
「アウラ。君は何歳なんだ…!」
「まだ400歳とちょっとくらいよ」
「フリーレンより年下!?」
次々と発覚する新事実にヒンメルは驚いてばかりだが、もっとも驚いたのはアウラとリーニエの敵意の無さだ。とくにアウラは敵意を向ける理由は十分なはずなのに。
まったくその気配がない。
「そういえば私も共生派になったわよ」
「あ、そうなんだ」
「それじゃあね。ヒンメル」
「ばいばい。おじちゃん」
「おじっ……はあ、ばいばい」
アウラとリーニエは別れの言葉を口にして、ゆっくりと草原を離れていく。クヴァールの石像の前にいるのはヒンメルだけになってしまった。
「今日はビックリしっぱなしだなあ…」
そう言ってヒンメルも立ち去る。
〈アウラ〉
クヴァールを見に来た大魔族
なんとなくクヴァールとソリテールの魔力量の差を確かめるためにやって来た。メレブの魔法はゾルトラークに匹敵しうると考えているし、どうにか対策を聞き出したかったりする。あと生臭いのは嫌い。
〈リーニエ〉
お出掛けが楽しかった魔族
アウラとお出掛けできて楽しかったけど。クヴァールは生臭いし、禿げてる勇者に遭遇するし。お母さんともたくさん話せなくて不満である。
〈ヒンメル〉
少しだけ禿げてる勇者
クヴァールの封印を確かめに来たらアウラと遭遇してしまった。ひとりでも戦えるけど。ちっちゃい魔族の女の子がいるので戦わなかった。やっぱりクヴァールは生臭いままだった。