「ハーハッハー!爆破だ!解体だ!温泉開発だー!!」
ゲヘナ自治区の某所にて、今日も今日とて温泉開発部はいつものように温泉開発という名の破壊活動を行っていた。
普通に問題行動とはいえいつものことなのだが、今回ばかりはいつもと少し様子が違っていた。
具体的には、一部の部員たちに精が入っていなかった。
その誰もが3年生部員であり、理由も明白であった。
「でも、大丈夫?たしか最近、ミラが復帰したって噂だけど・・・」
瓦礫の山の上で指示を出すカスミに、メグがツルハシを振るう腕を止めて問いかけた。
そう、3年生の問題児の間で軒並みトラウマというか災害扱いされている
彼女らがまだ1年生だった時、ミラによって吹き飛ばされた問題児の数は数知れず。中にはPTSDを発症している者もいる。
だからこそ、ミラが失踪したと聞かされた時は歓喜したものだ。
結果として、新たにヒナという抑止力が現れたのだが。
「ふむ。たしか、ふ、風紀委員長の幼馴染みだったな?あの空崎ヒナよりも強いというのは、にわかに信じがたいが・・・」
かくいうカスミも、ヒナにボコボコにされたことでトラウマを植え付けられている生徒の一人である。
だからこそ、そのヒナよりもヤバいと言われてもいまいちピンとこなかった。
「なんにせよ、我々のやることは変わらない!温泉を見つけるために破壊し、風紀委員会が来たら逃げる!今までもそれでなんとかなっているのだから、これからも・・・」
カスミが高らかに宣言しようとした次の瞬間、カスミの直上から白い影が降ってきた。
姿は舞い上がった砂煙によって隠れるが、その正体はすぐに判明した。
「あっはは!ひっさしぶりだねぇ、温泉開発部!」
「で、でたぁ!?」
「なに?そんな幽霊でも見たような反応しちゃって。せっかくの復帰初仕事なんだから、もう少し歓迎してくれてもいいんじゃない?それにしても、しばらく見ない間にずいぶん人が多くなっちゃって」
高笑いするミラに、メグは思わず悲鳴を上げた。
黙々と処理するヒナと違い親し気に話しかけるミラだが、温泉開発部からすればそれどころではない。
ミラのことを知っている3年生は当然のこと、ミラのことをよく知らない下級生ですら身動きが取れなくなっている。
単純な恐怖によるものだけでなく、一歩でも動き出せば戦闘が始まってしまうと理解してしまったが故に、奇妙な硬直状態が生まれていた。
傍から見れば、温泉開発部がミラにビビりまくっているようにしか見えていないが。
そんな猛獣のような扱いを気にも留めないミラの視線が、不幸にもビビりまくっているメグに向けられる。
「ってあれ、メグじゃん。久しぶりー!」
「あー、うん、ひさしぶり・・・?」
「聞いたよ。メグが部長じゃないんだって?まぁ、昔から考えるの苦手だったしね」
まるで友人のようなノリで声をかけられたメグは、若干戸惑いながらも返事をした。
たしかにメグとミラは1年生の頃からの知り合いだが、当時も今と同じようにあくまで取り締まる側と取り締まられる側。むしろメグの方が軽くトラウマを植え付けられている。
あまり親しく話しかけられても困るというものだ。
そもそも、ミラの帰還を聞いて喜ぶ問題児などなぜか姉を自称しているハルナくらいしかいない。
もちろん、ミラはそんなこと関係なく話し続けるのだが。
「で、部長はどこ?たしか、鬼怒川カスミだっけ?自己紹介くらいはしとこうかと思ってるんだけど」
「えっと・・・」
辺りをキョロキョロと見渡すミラに、メグがおずおずとミラの足下を指差す。
ミラが視線を下に向けると、そこにはミラに頭を踏まれて顔面が瓦礫の山に埋まっているカスミの姿があった。
首根っこを掴んで引っ張り上げてみれば、当然と言うべきかカスミは目を回して気絶していた。
「・・・これ?」
「そう、かな?」
ミラは確認するようにカスミをメグに向けて持ち上げ、メグも若干ためらいがちに頷く。
場が奇妙な沈黙に包まれる中、ミラはゆっくりとカスミを掴んでいる腕を振り上げ、
「あー、うん・・・とりあえず、話の続きは牢屋の中で、ね!!」
「ふぎゃッ!?」
メグに向かって思い切りぶん投げた。
反応が遅れたメグはカスミを弾にした人間大砲を諸に食らってしまい、射線上にいた他部員を巻き込みながら吹き飛ばされた。
「うわー!?現場班長がやられたー!?」
「部長を投げ飛ばしてたぞ!」
「さ、散開!急いで逃げろー!」
そこでようやく金縛りが解けた温泉開発部は、ミラを中心に弾けるように逃走を開始した。
初っ端から部長と現場班長が戦闘不能になってしまったとはいえ、そこは普段から風紀委員会の手を焼かせている温泉開発部の逃げっぷりは司令塔がいなくなっただけで簡単に衰えたりはしない。
ただ不幸なことがあるとすれば、その逃げ足ですらミラのボルテージを上げる要因にしかならなかったことだろうか。
それを証明するかのように、ミラは凶暴な笑みを浮かべていた。
「さーて、それじゃあ私も久しぶりの鬼ごっことしゃれこもうかな!」
ミラが暴れ始めて十数分後、温泉開発部はいくらか逃がしたものの大体は捕縛することが出来た。
中でも部長のカスミや現場班長のメグといった幹部を逃がさなかったのは成果として大きいだろう。
「ふぅー・・・それにしても、前より逃げ足が速くなったかな?昔くらいの人数ならともかく、この大所帯でこれかぁ。よっぽど頭が回る部員が入ったのかな?ていうか、それがカスミなのか」
復帰してからの初仕事を終えたミラは、瓦礫の上から温泉開発部の搬送作業を見守っていた。
そう、護送ではなく搬送である。
理由は言わずもがな、捕まえた温泉開発部の大半が大なり小なり怪我を負っているからである。
特にカスミを始めとした人間砲弾となった者は軒並み重傷で、救急医学部がフル稼働で働いていた。なんなら人手が足りなくて風紀委員会も手伝っていた。
作業の傍らで話題に挙がるのは、やはりミラのことだ。
「さ、さすがあの風紀委員長の幼馴染み・・・だけど・・・」
「なんか・・・正実の剣先ツルギみたいというか・・・ちょっと、いや、かなりおっかない、かも」
「近づくだけで巻き込まれそうなのは普通に怖い」
一応、他の風紀委員会のメンバーもミラが暴れている間、何もしなかったわけではない。
というより、ミラが温泉開発部のど真ん中から襲撃し、ミラの撃ち漏らしを決めていたポイントで待ち構えて各個撃破するという作戦をあらかじめ立てていた。
その上で、ミラが鎮圧した温泉開発部のメンバーの数は他風紀委員会が捕縛した数の数倍は上回っていた。
何せ、他の風紀委員会が3人がかりで3,4人の温泉開発部を捕まえている間に、ミラは一人で10人くらい薙ぎ倒しているのだから、数に差が出るのは当たり前のことだ。
だが、その戦いぶりはあの“トリニティの戦略兵器”と呼ばれているツルギを彷彿とさせるほど苛烈で、ツルギ以上に周囲に被害をまき散らしていた。
ツルギは問題児を“潰れた空き缶”のようにすることに定評があるが、ミラは“手頃な投擲物”として扱っていることに別の恐怖を覚える。
もし、作戦が上手くいっているからと調子に乗ってミラの援護に向かっていたら、あるいは事前にミラが暴れる範囲を決めていなかったら、果たしてどうなっていたことか。
その時は自分も救急医学部の世話になっていたのかもしれないと考えれば、ミラを恐れるのも無理はない話だった。
そんなミラに対してビビりまくっている下級生を見かねて、3年生の風紀委員会が会話に入り込んだ。
「最初は慣れないかもしれないが、まぁ距離感と対応さえ間違えなければいい人だからな。いずれ慣れるし、あまり怖がらないでやってくれ」
「で、でも、前にアビドスで大隊がボコボコにされてましたよね・・・?」
「あれは独断専行した行政官が悪いし・・・」
あれが未だにトラウマになっている者も多い辺り、あの件のアコの罪深さが伺える。
願わくば、再びあのような地雷を踏み抜く真似をしないことを祈るしかなかった。
「うぅん、ここは・・・護送車、いや救急車の中か。そこの君、ちょっと何があったか聞いてもいいかね?温泉開発をしてから今に至るまでの記憶がない上に、なんだか全身のあちこち、特に後頭部と首の辺りが痛むのだが・・・頭を踏みつけられた後に思い切りぶん投げられた?なるほど・・・なるほど?」
ちなみに、事の顛末を聞いたカスミは理解が追い付かずに宇宙ネコ状態になり、結果的に大人しく連行されていったのは別の話である。
ミラの人間大砲と人間サッカーは1年生の頃からの代名詞になってます。
キヴォトス人だからこそできることですね。