暑さでバテたりいろいろと忙しくて手が動かなかったもので・・・。
それはそれとして、水着ティーパーティーがエッすぎません?
というわけで、前回の続き的な話です。
「アコが、そんなことを・・・」
柴関ラーメンの一件から数日後、所用でゲヘナにやってきた先生にチナツとイオリは先日あったことを説明した。
二人から話を聞いた先生は、深刻そうな表情を浮かべながらここ最近のアコの様子を思い返す。
シャーレにいる間は変わったような様子は見られなかったが、風紀委員会の本部で会った時と比べてみると普段よりも少し落ち着いているようにも見える。
シャーレに来る頻度が増えたのも、ミラが復帰したことで風紀委員会の業務に余裕が出来たからだと思っていたが、もしかしたら違う理由もあるのかもしれない。
「柴大将のおかげで少し持ち直しはしましたが、根本的な解決ではないので、先生に相談しようということになったんです」
「そっか・・・わかった、何とかするよ」
普段から(空回りすることも少なくないとはいえ)風紀委員会の業務を頑張っているアコの姿を知っている身として、そして生徒の助けになる存在であることが信条の先生として、二人の相談を断る理由はないと即座に頷いた。
すぐにどうするべきかを考える先生だったが、そこでふと気になることが頭に浮かんだ。
「そういえば、ヒナはこのことを知ってるの?」
「行政官の問題については把握しています。ただ・・・」
「『これはあの二人の問題だから』って、あまり手を出すつもりはないらしい」
なんだかんだ言ってアコのことを信頼しているヒナが現状を知らないとは思えなかったが、どうやら意図的に不干渉の立場でいるらしい。
どこかヒナらしくない対応に感じるが、3人に共通する問題に一つ心当たりがあった。
「・・・ミラって、アビドスのこと、まだ気にしてる?」
良くも悪くも、ミラの存在と実力が強く印象付けられたあの事件。
焦って独断専行したアコ、それにブチキレたミラ、アコを止められなかったことに負い目を感じているヒナ。
三者三様の反応を見せた一件だったが、しっかり処罰を与えて清算したヒナとアコ、ミラが復帰したことで和解したヒナとミラに対して、アコとミラの間では何の解決もしていないまま宙吊り状態で放置されている。
先生の問いかけに、イオリとチナツは顔を見合わせてからそれぞれ知っていることを口にした。
「どうだろ・・・エデン条約で蛇ノ目ラルが仲介に入った時は、まだ根に持っているようなことを言ってたらしいけど・・・」
「復帰してからは、その話は一度も聞いていないですね。一応、普段の態度もそこまで険悪というほどではないですし・・・」
普段と態度が変わらないならすでに許しているだろうと考えられるが、表に出さないだけで実は許していないと言われても否定できないのが周囲から見たミラだ。
結論から言えば、ミラのことに関しては何も分からないということだけが分かった。
「うーん・・・ミラの方には、私からそれとなく聞いてみるよ」
「ありがとうございます」
「助かる」
わりと切実な感謝に、『みんなから怖がられてるのかな?』と新たな心配事が生えつつも、事の真相を確かめるべく先生はミラのところへと向かった。
「アコのこと?」
この日はたまたまヒナとアコが所用で万魔殿に赴いていたことで、執務室にはミラしかいなかった。
ちょうどいいと先生が仕事を手伝いながらアコのことについて尋ねると、ミラは何をいきなりとばかりに怪訝そうな表情を浮かべた。
少し直球すぎたかと内心で反省しながら、相談された内容には触れずに誤魔化す。
「ほら、アビドスのこともあるから、上手くやれてるか少し心配で」
「あー、なるほど」
納得したように頷くミラにホッと胸を撫で下ろしながら返答を待つが、ミラの反応は思ったよりもあっさりとしたものだった。
「私はまぁ、そんなに気にしてないよ?」
「そうなの?」
「当事者同士が和解してるなら、私がいつまでも引っ張るのは違うでしょ」
ミラが語ったのは一般論の一つだが、それを持ち出して片付けられる程度には心の整理ができているらしい。
特に嘘を吐いているようにも見えない(仮に嘘でも先生は信じていただろうが)ため、ミラは本当にアコのことを許しているのだろう。
この切り替えの早さはミラの長所であり短所でもあるが、今回は良い方向で発揮されているらしい。
それを知れて先生は内心で安堵の息を吐いている中、ミラは「それに・・・」と話を続ける。
「戻ってみたら思ったよりマコトの妨害がひどかったみたいだし、ストレスもだいぶ溜まってたんだろうなって思ったら、あまり強く言う気になれなくて・・・」
「あー・・・」
その姿は先生にも心当たりがあった。
風紀委員会の仕事を手伝うようになってから、「毎回妨害してきて暇なんですか!?」とキレ散らかすアコの姿を見るのも珍しくなかった。
どうやらミラがその姿を容易に想像できるほど仕事を押し付けられた跡が残っていたようだ。
それはそれでマコトの身が心配になるが、自業自得ではあるので放っておくことにする。
ひとまず、本当にミラがアコのことを許していることは分かったため、そのことをイオリとチナツに報告しに戻ろうとするが、ミラの話はまだ終わっていなかった。
「あと、あれでよっぽど反省したのかは知らないけど、今はけっこう頑張ってるみたいだからね。それでグチグチ言うほど、私だって意地悪じゃないよ」
(あー・・・そういうこと、かな?)
今のミラの話で、先生はようやく根本的な問題を察した。
おそらく、アコは自分がミラに採点されているように感じているのだろう。
ミラにそのつもりがあるかはともかく、『他校の自治区で勝手に軍事行動を起こす』というのは本来ド級の地雷行為で、ヒナがそうしたように処罰されて然るべきものだからこそ、あの時のミラの怒りはやりすぎではあるものの正当とも言える。
だからこそ、あの件は荷担した生徒たちにとって忘れ難い負い目であり、再び落第判定を下されたときはあの時と同じかそれ以上にひどい目に合わされるかもしれないという恐怖に繋がっている。
それを最も強く感じているのが、首謀者であるアコなのだ。
故に、ミラに失望されないよう、ヒナに見放されないよう今まで以上に頑張っているのだが、その努力を軽く上回るミラの能力を目の当たりにして急速に焦燥感を募らせているのだ。
こうなってくると、話は変わってくる。
ヒナが言っていたように、アコとミラ二人の問題になるからだ。どちらかと言えば、アコからの一方通行とも言えるが。
要するに、アコ自身がミラに許されている、あるいはそれに足る仕事ができていると納得できなければ解決できないのだ。
そのきっかけにミラの手助けも必要にはなるだろうが・・・下手な口出しによってアコがムキになる姿も容易に想像できてしまうため、なかなか難しい。
「それにしても、いきなりそんなことを聞いてくるなんて、何かあった?」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・」
「そう」
頭を悩ませているところに尋ねてきたミラには適当に誤魔化すが、どうにもバレているような気がしてしまう。
ひとまず、その後もしばらくミラの仕事を手伝ってから用事があるからと執務室を後にしたが、それからもと悶々と頭を悩ませる。
自分にできることは少ないが、何もしないというわけにもいかない。
「先生、ちょっといいかしら」
どうすべきか悩みながら歩いていると、不意に背後から声をかけられた。
後ろを振り向いてみると、そこにいたのは・・・
「ミラさん、戻りました」
「おかえりー」
先生が執務室を去ってから少し後、ミラが仕事の続きをしているとアコが戻ってきた。
だが、出発する前に共にいたはずのヒナの姿はない。
「あれ、ヒナは?」
「先生がいらっしゃると聞いたので、挨拶に向かいました」
「そうなんだ?さっきまでここで仕事を手伝ってもらってたんだけど、入れ違いにならなくて良かったかな」
「もし会えなかったら残念がってただろうし」と笑いながら言うミラに、アコもたしかにと頷く。
ヒナの先生に対する信頼は篤く、おそらくミラの次か同じくらいに懐いている。
もし会えなかったら、露骨に凹むことは無くとも多少落ち込んだりしていただろう。
あるいは、先生がそれを見越して長めに滞在した可能性もなくはないかもしれない。
それはそれとして、アコは未だに机の上に溜まっている書類を片っ端から処理しているミラに尋ねかける。
「こちらは予定より早く終わったので、そちらの仕事を手伝おうと思ったのですが・・・」
「先生のおかげで重要度の高い仕事はあらかた終わったよ。細かい雑務がまだ残ってるから、そっちをお願い」
「・・・分かりました」
ミラに頼まれたアコは、若干不服そうながらも大人しく席に座って書類を手に取った。
効率を考えれば重要な書類を先に片付けるのなんら間違っていないが、それはそれとして自分のことを信用されていないような気分になってしまう。
もちろん、それがバレたら碌なことにならないのは分かりきっているため、アコとしては表情に出さないよう気を付けていたつもりだ。
その後は黙々と書類を片づけていた二人だったが、不意にミラが思い出したかのようにアコに話しかけた。
「そう言えば、さっき先生にアコとはどうしてるかって聞かれたんだよね」
「っ、そうなんですか」
かつてのアビドスでのことを考えれば、先生の質問も尤もだ。
だが、それはアコにとって聞こうと思っても聞けなかった、聞きたくなかった答えを突き付けられるということでもある。
「それで、どのように答えたんですか?」
「別に?特に何とも」
返ってきたのは、答えとも言えないような曖昧な返事だった。
悪く思われていないというのは、良いことなのだろう。
だが、特別ミラから意識されていないというようにも受け取れる。
『好きの反対は無関心』とは少し異なるが、ミラの返答は良いとも悪いとも言えなかった。
とはいえ、やはり嫌われているよりは遥かにマシだろう。
そう思うことにしたアコだったが、ミラの話は終わっていなかった。
「まぁ、張り合いがないとは思うけどね」
「は?なんですか、それ?」
思ってもいなかった言葉に、アコは思わずミラの方を見る。
視線を向けた先にいるミラは書類仕事を続けているため表情が見えないが、纏っている雰囲気からは退屈そうなものを感じる。
「初めて会った時は威勢が良かったのに、今は大人しくなっちゃってさぁ。あの時のやる気はどこに行っちゃったのかな?」
「・・・あなたがそれを言うんですか」
やる気をへし折った張本人がどの口で言っているのだろうか。
やる気を出して迂闊なことをしたらどうなるか、それを教えたのはミラだろう。
だから大人しく仕事をしていたにも関わらず、ミラからしたらその姿勢は不服だったらしい。
「私から言わせてもらえば、温いって言ってもいい。そんなんで務まるほど、行政官って甘い役職だっけ?」
「・・・・・・結局、何が言いたいんですか?」
ミラらしくない正論とはまた別の嫌味たっぷりな言葉に、アコは思わず額に青筋を浮かべる。
内心ではブチ切れる一歩寸前までいっているが、ここで感情的になってしまっては再びミラから落第の烙印を押されかねない。
だから必死に抑えていたが、それも長くは持たなかった。
「さっきも言ったでしょ?本当にやる気があるのかって、そういうこと」
「・・・・・・・・・あーもう!!さっきから好き勝手言ってくれますね!?!?」
もはや煽りとしか思えないようなストレートな物言いに、とうとうアコも我慢の限界を超えて爆発した。
先ほどまでの怯えや苦手意識はどこへやら、今まで溜めていた分を全て吐きだす勢いでアコは机の上に身を乗り出しながらミラに噛みつく。
「私だって頑張ってますよ!?ミラさんは私より忙しいでしょうから、私の頑張りなんて興味ないんでしょうけどね!!」
「いやぁ、そんなことないよ?私だってちゃんと仕事内容は把握してるわけだし。自意識過剰っていうか、他意識過剰じゃない?」
「~~~~~~~~ッ!!」
ここでようやく、アコは気が付いた。
ミラという人物、かつてのアビドスでの自身の過ちをすでに気にしていないらしい。
ついでに言えば、そもそも同僚として認識されているかどうかも怪しかったらしい。
かつての自分の行いが許されていることを知ってホッとした反面、それはそれとして“世話の焼ける部下”とか“面倒くさい後輩”みたいに認識されていたという事実は大いにアコのプライドを刺激した。
「分かりましたっ!あなたがそう言うなら、いつか私のことを見返させてみせますから!」
「そう?出来るといいね」
「少なくとも、事務仕事は私の方が長くやってますから!ほら、そっちの書類も渡してください!」
「はいはい、どうぞ」
“仕方ないなぁ”とばかりに息を吐きながら書類を手渡すミラに、アコは改めてミラに対する感情を認識した。
自分は、ミラのことが気に喰わない。
人の心を理解していないような立ち振る舞いも、それでいながらヒナから絶対の信頼を寄せられているということも。
一度でもミラのことをギャフンと言わせなければ自分の気が済まない。
そのためには何だってやってやると誓いを胸に秘め、それを原動力にアコは先ほどよりも圧倒的に早いペースで書類を片づけていく。
その様子を見てミラは微笑みを浮かべ、一瞬だけ視線を扉の方に移してから自身も仕事に集中し直した。
「アコ、調子が戻ったみたいね」
吠えかかるアコとそれを流すミラの様子を、ヒナ、イオリ、チナツ、先生が扉の隙間からこっそりと覗いていた。
今回の2人のやり取り、そのきっかけを作ったのはヒナだった。
万魔殿でのマコトとの話し合いをミラの名前で脅すことでサクッと終わらせた二人だったが、たまたまイオリとチナツと鉢合わせて先生が来ていることを知った。
そこで、アコとミラの問題を把握していながらも静観していたヒナは、ここで多少強引にでも二人きりで話し合わせる機会を作ることにした。
自分は先生に挨拶しに行くことを口実に、アコにはミラの仕事を手伝うよう先に帰らせる。
アコを向かわせた後、ヒナはこの後先生と合流するつもりだったというイオリとチナツを連れて先生のところに向かった。
『これからミラとアコを二人にするから、一緒に様子を見てくれないかしら』
ちょうど執務室から出てきた先生と合流したヒナは、自分の計画を話して二人の様子を見守りつつ何かあったら手を貸してほしいと頼んだ。
先生もそれを快諾して4人そろって覗き見していたのだが、どうやら心配は杞憂に終わったようだ。
ただ、
「うん、まぁ・・・良くも悪くも、かな?」
「やる気が出ているのは、良いことなんでしょうけど・・・」
「何て言うか、いつもより増して空回りしそうな感じがする」
普段からやる気が空回りして周囲に余計な仕事を増やすことに定評があるアコである。
ライバル(アコ視点)が出来て今まで以上に張り切るとどうなってしまうのか、想像もつかない。
もしかしたら、行政官になるべく努力した時のように比較的まともになる可能性もなくはないが、期待のしすぎはよくないだろう。
悩ましげに唸る先生たちだが、それに対してヒナの反応はあっさりしたものだった。
「その時はミラが何とかするわ、たぶん」
「・・・本当に信頼しているんだね」
ヒナの言葉からは全面的にミラを信じていることがわかる。
以前まではそれ故に劣等感に駆られることもあったが、今では微塵もその様子を感じさせない。
やはりそれだけミラの存在は大きいのだろうと思っていたが、それを察したヒナは首を横に振った。
「勘違いしてるみたいだけど、以前までのミラだったらあんなことは言わない。たぶん、何も言わずに放置してる」
「それは・・・」
そう言われて先生は否定しようとしたが、改めてミラの態度を思い返してみたらヒナの言う通りな気がした。
本格的に共に行動したのはアリウススクワッドの一件で、その頃からは今のような気遣いを見せていた。
だが、エデン条約の事件では心が折れかけていたヒナに(ミラなりの考えがあるとはいえ)会おうとせず、アビドスでは問題行動を起こした風紀委員会の軍勢を容赦なく叩き潰した。
それを考えると、今のミラは誰かに寄り添おうと努力する姿勢を見せており、有り体に言えば非常に人間らしくなっている。
「ミラが変わっている、変わろうとしているのは、きっと先生のおかげ」
超越的な思考を持っているが故に周囲と隔たりができることも少なくなかったミラだが、先生と会ったことで自分から隔たりを無くす努力をし始めた。
そのおかげでヒナも救われたし、こうして落ち込んでいたアコも調子を取り戻した。
先生がいなければ、きっとこうはならなかっただろう。
「だから、ありがとう、先生」
「・・・どういたしまして」
ヒナからの真っすぐな感謝の言葉に、先生は若干の苦笑を浮かべた。
ヒナにとって最も頼れる幼馴染が戻って来たのは、間違いなくヒナにとって良い影響を与えるようになっている。
だが、その方向性がどことなくズレているような気がしてならないが、とりあえずヒナが楽しそうにしているならいいかと流すことにした。
次回は思ったより好評だったアリウスifの第2弾になります。
エデン条約編を一話にまとめる形になるので、投稿までおそろしく時間がかかってしまうと思いますが、気長に待っていただけると幸いです。