キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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唐突ですが、今回は新オリキャラが出ます。
でも今後活躍があるかと言われるとそうでもなく、都合のいい時に都合のいい感じに出てくる都合のいいキャラです。
ざっくり言うと、便利な女です。


アビドス編・6

ある日、ミラはブラックマーケットを訪れていた。

ブラックマーケットは、休学や中退など様々な理由で学校をやめた生徒たちによって形成されたコミュニティの一種で、法外な値段ではあるが表では手に入らないようなものまで何でも揃えている。

その分、治外法権が平然とまかり通っているほど治安が悪く、さらには連邦生徒会の目が届かないのをいいことに様々な企業が違法な商売をしているため、ゲヘナにも引けを取らないほどの魔窟と化している。

そんな危険地帯を、ミラは我が物顔で活用していた。

というのも、ミラは一部で良くも悪くも顔を知られている。

そのほとんどはミラの素性までは知らないが、その圧倒的な戦闘力と嬉々として暴れる凶暴性から『白づくめの女の不興を買うようなことはするな』が不文律になっている。

だが、何事にも例外は存在する。

用があったのは、そのブラックマーケットでも唯一の例外だった。

 

「ラル~、いるー?」

「はっ、ひゃいっ!?」

 

ブラックマーケットの入り組んだ裏路地の奥の奥、看板もなく中も簡素な椅子とカウンターくらいしかない、およそ店と呼べないような店でミラが名前を呼ぶと、奥から小柄な黒髪の少女が現れた。

 

「み、ミラさんっ!い、いらっしゃい、ませ!ご用件はなっ、なん、ですかっ?」

「やっほ、久しぶり。いったん深呼吸して落ち着こうねー」

「は、はひっ!スー、ハー・・・す、すみません・・・」

 

ビクビクと震える姿は小動物のようにしか見えないが、実際はブラックマーケットの中では知る人ぞ知る質屋であり、ほとんど知る者がいない情報屋でもあるのだ。

そしてミラも、目の前の少女がただの小動物ではなく、隙を見せれば容赦なく噛みついてくる黒い毒蛇であることをよく知っていた。

 

「それで、今日はどうしたんですか?」

「買い取りついでに、気になることがあってね」

 

そう言って、ミラは一丁の銃といくつかの弾薬をカウンターに置いた。

 

「これは・・・?」

「カタカタヘルメット団とかいう不良連中が使ってた銃と弾薬」

「これを、不良集団からですか?ですが、たしかカタカタヘルメット団はただのチンピラの集りだったはずですが・・・違法品とはいえ、こんな良い銃を?」

「え、違法品なの?」

「密造品ですね、これ。最近、よく出回っているんです」

「なるほどね・・・」

 

最近、ブラックマーケットに銃が多く流れていることは把握していたが、それが密造品ということまでは知らなかった。

それを一目見ただけで看破したラルに、ミラは思わず舌を巻いた。

 

「それで、これを持ってきたということは流通ルートを探ってほしいとかですか?」

「いや、製造元はだいたい見当がついてる。裏付けしてくれるなら助かるけど、関連する情報は何でも欲しいかな」

「そうですか。ちなみに、その元は何ですか?」

「カイザーコーポレーション。特にPMCが出張ってる」

「なるほど、カイザーPMCが・・・たしかに、ここ最近はこっちでもカイザー系列の店が活発でしたね」

 

カイザーコーポレーションの手はブラックマーケットにまで伸びている。

それは単純に商品を卸すというだけでなく、金融企業などのサービスまで及んでおり、質の悪い営業も平然と行っていたりもする。

 

「ですが、こうも内容が曖昧だと高くつきますよ?」

「分かってる。他の武器も売っとくから、差額をあとで請求しといて」

「わかりました」

「それじゃ、“蛇”の仕事期待してるから」

「あ、あはは・・・はぁ・・・」

 

ドサドサと武器と弾薬をカウンターの上に積み上げ、勝手に店から出て行ったミラの姿が見えなくなってから大きくため息を吐いた。

ミラが太客なのはまごうことなき事実だが、それ以上に相手をするのは非常に精神のすり減る作業だった。

だが、今更になって関係を切ることはできない。というより、ミラがそれを許さない。

今となっては、きっかけになってしまった不運な事故を呪うことしかラルにはできなかった。

 

 

* * *

 

 

ラルは元ゲヘナ生だった。

なぜゲヘナに入学したのかと聞かれれば、「なんでですかね・・・?」としか本人にも答えようがなかった。

強いて言うなら、校風である“自由と混沌”の“自由”しか見えていなかったから、だろうか。

戦闘が不得手で引っ込み思案な性格だったラルがゲヘナになじめるわけもなく、かなり早い段階でゲヘナを去ることになった。

その後はどこかに転校でもしようかと考えていたが、『元ゲヘナ生』という肩書はラルが思っていたよりも重く、どこに行ってもひそひそと陰口を叩かれたラルは流されるようにブラックマーケットへとたどり着いた。

ここでようやく、ラルは「このままではいけない・・・!」と流されるままだった生活から足を洗うことを決意し、ブラックマーケットでの生活を始めることにした。

幸か不幸か、ラルの才能はここで開花することになった。

上手いこと言い包めて可能な限り利益を引き出す口。物品の価値も客の感情も正確に見抜く眼。同業にも気付かれないルートを見つける危機察知能力。さらには、過去の反省から身につけた情報収集能力。

まさに蛇のような仕事ぶりのおかげで、ラルは中堅どころの中でも上位に食い込むほどの収入を得ることができた。

だが、思わぬ成功で気が緩んでいたのだろう。

そのせいで、自分の今後を左右するレベルの特大の地雷をうっかり踏んでしまったのだ。

それは、何の変哲もない日だった。

 

「邪魔するよ。ここで買い取りしてもらえるんだよね?」

「いらっしゃいませ!はい、その通りで・・・」

 

店に入ってきたのは、純白に身を包んだ少女。

最近ブラックマーケットでも噂になっている人物がやってきた、というだけならボロを出すこともなかっただろう。

だが、ラルはブラックマーケット内だけでなく、様々な学区の情報も集めるようにしている。特にゲヘナは曲がりなりにも以前通っていた学校で、その危険度を実感していたからこそ他よりも多くの情報を仕入れていた。

だからこそ、ラルはブラックマーケットの中でも、唯一目の前の少女を一目で理解した。

理解してしまった。

 

「あ、暁ミラ・・・!?」

「・・・へぇ、私のことを知ってるんだ」

 

気が付いた時には、距離を詰めたミラにがっしりと首を掴まれていた。

ここでようやくうっかり口を滑らしてしまったことを理解したが、理解した時点では時すでに遅かった。

 

「今までこの辺で会った連中は、私が誰か分かってなかったんだけどね。よっぽどいい耳を持っているのかな?」

「ひっ!?ゆ、許して・・・!」

「ん~、どうしよっかなー。一応、これでも今は素性を隠して過ごしてるんだよね。それなのに知り合いでもない奴に正体がバレているってのは、良くないことだと思わない?」

「お、おっしゃる通りで・・・」

 

いっそ他に客が来てくれれば、と願うが、来たところで意味がないと思い直す。

暁ミラを止めることができる人物など、少なくともブラックマーケットには存在しない。おそらくは、組織や企業でも相手にならないだろう。

ならば、ミラを“客”とした上で、どうにか波風を立てないよう説得するしかない。

だが、目の前にいるのはただ破壊を振りまくだけの存在ではなかった。

 

「なら、私に取引でも持ち掛けてくるかな?他言無用の口約束ほど信用できないものもないしね」

(ば、バレてる・・・!)

 

喉からカヒュッと変になった呼吸が漏れる。

自分のような小物の考えることなどお見通しだったらしいと、ラルの背中から大量の冷や汗が流れる。

それでもラルは思考を止めない。というより、止めたら碌な目に遭わないと本能が全力で警鐘を鳴らしている。

目の前の暴力の化身から生き残るために、全力で頭を回しつつ、慎重に言葉を選びながら口を開いた。

 

「えっと、わたし、戦闘があまり得意ではないので・・・荒事に巻き込まれないように、いろいろと情報を集めています・・・」

「なるほど。ゲヘナの情報収集の一環で私のことを知ったわけね。集めた情報だけで私の正体を見破ったのはお見事。それで?」

「ゲヘナは元々、私が通ってた学校だったので、特に注意してたのもありますけど・・・一応、他の学区の情報網もそれなりにあります。普段は、自分の質屋としての商売をするために必要な分の情報だけ集めてますけど、やろうと思えば、あなたが望むような情報を集めることも、できると思います」

「・・・続けて」

 

そう言って、ミラはスッとラルの首から手を離した。

とはいえ、見定めるような視線はラルに向けられたままであり、微塵も安心できる状況ではないが。

 

「その、本業もあるので、時間がかかったり、あまり深入りは出来なかったりしますけど、集めた情報からいろいろと推測することもできるので・・・それで、本当はそういう商売はしていないんですけど、ミラさんには特別に、情報屋としての依頼も、受けようかなと。ミラさんも、お一人ですと得られる情報の量や種類には限度があるでしょうし、悪くはないと思うんですけど・・・」

「うんうん、たしかに悪くはないね。でも、私の知らないところで他の誰かに私の情報を流す可能性だってあるけど、そこのところはどうなのかな?」

「そ、その、多分ですけど、隠し事をしても、ミラさんなら気が付きますよね?裏をかこうとしても、失敗する気しかしないですし、それに・・・私も、命は惜しいので・・・」

 

しどろもどろに弁明交じりの商談を行うラルの瞳を、ミラの赤い眼がジッと見つめる。

蛇に睨まれた蛙ならぬ、竜に睨まれた蛇のごとく縮こまってしまいそうになる身体を叱咤させながら、ラルもまたミラから目を逸らさないようジッと耐える。

どれだけ時間が経ったか。実際は1分も経っていないが、ラルからすれば数時間に感じてしまいそうな緊張感の中、フッとミラが笑みを浮かべた。

 

「うん、いいね。気に入った。見どころがあるし、自分に正直なところは嫌いじゃないよ」

 

どうやら許されたらしい。

緊張感から解放されたラルは、思わずその場にへたり込んでしまった。

それを見たミラは、勝手知ったる顔でカウンターを乗り越えて後ろからラルを支えた。

 

「大丈夫?怖がらせちゃってごめんね?」

「い、いえっ!自分がうっかり口を滑らしたのが悪いというか、その・・・はい。正直、怖かったです」

「あはは。まぁ、反省してるならそれでいいよ。そういえば、名前はなんていうのかな?」

「えっと、ラルです。蛇目(じゃのめ)ラル」

「わかった。それじゃ、これからよろしくね、ラル」

 

 

* * *

 

 

自分の失言から始まった関係。

結果だけを見れば上質なお得意先をゲットしたようにも見えるが、きっかけと過程が黒歴史レベルにひどいため素直に喜ぶことができないというのが本音だった。そのため、現在でもミラが訪れると思わずビビり散らかしてしまう。

だが、ミラから無茶ぶりな依頼をされたりだとか、そういう理不尽な目には遭っていない。

あくまでラルなら十分こなせる程度のものがほとんどであり、ミラもラルの能力を正しく見抜いた上で依頼をしているのだろうということがわかる。

おかげで本業の質屋の収入にミラからの依頼料が加わった結果、依然よりも豊かな生活を送れるようになった。

とはいえ、他から変に目を付けられたくはないため、店を拡張するつもりは微塵もないのだが。

 

「それにしても、妙なことになりましたね・・・」

 

ミラが持ち込んだ武器の査定をしながら、ラルは流通リストを眺めて思わずぼやいた。

先ほどミラにも言ったように、現在ブラックマーケットではこの手の銃の流通量が増えている。

それこそ、ちょっとした紛争程度なら起こせそうなくらいの量が。

これらに関して、実はラルもカイザーが怪しいだろうことは既にわかっていた。

だが、ミラの情報が正しければそれらの銃は思っていたよりも様々なところにばらまかれているらしい。

もしこれらすべてがカイザーPMCによるものだとしたら、いったい何が目的なのか。

そして、それだけの銃を用意できるだけの資金をどこから調達しているのか。

 

「銃だけじゃなくて、資金の流れにも気を付けないとですか。思ったより面倒なことになりそうですねぇ・・・」

 

出来ることなら、荒事に巻き込まれるような事態にはならないでほしい。

ミラから受け取った銃を倉庫にしまいつつ、意味がないと分かってはいながらも、それでもわりと切実にそう願うしかないラルだった。




名前のラルはマレー語で“蛇”を意味する『ular(ウラル)』を逆読みしたものです。容姿はほぼ正実モブですが、ヘイローは黄色い蛇の目になっています。あと、年齢はミラより一個上です。
設定らしい設定はこれくらいですかね・・・。
必要ならどこかのタイミングでミラと一緒に情報をまとめるつもりです。
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