キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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ミラの水着イベントはないけど、代わりに別のイベントを用意しましたって話です。


日常編・9

「そろそろ夏だね」

「ね~。暑くなってきたし」

 

風紀委員会の執務室で、先生が汗を拭いながらそう呟いた。

風紀委員会に用事があって訪れたのだが、半袖のシャツを着ているにも関わらず道中の移動でそれなり以上に汗をかいてしまった。

 

「そう言えば、前は皆で海に行ったよね」

「えっ、そうなの?」

「・・・そんなこともあったわね」

 

それは、まだミラが風紀委員会に復帰するよりも前のこと。

過労で情緒がおかしくなった(具体的には、あまり美味しくないはずのアコが淹れたコーヒーを「美味しい」と言った)ヒナを無理矢理にでも休ませるため、特別演習を建前にゲヘナ学区内のリゾート地に連れていったのだ。

過程で色々なことがあったものの、結果だけ見ればヒナのリフレッシュには成功し良い思い出を作ることができた。

だが、そこにミラがいないのは、さすがに寂しい話だろう。

 

「そうだ。せっかくだし、ミラも機会があれば行く?ヒナも喜ぶだろう、し・・・」

 

先生の善意からの提案が、徐々に尻すぼみになっていく。

何故なら、先生の視線の先でミラが冷や汗をかきながら目を逸らしていたから。

 

「えっと、もしかして、泳げなかったり?」

「いや、泳げないわけじゃない、よ?たぶん。その、泳いだことがないから、分からないってだけで」

 

言い訳じみた言動と挙動不審な態度に、先生は思わず首を傾げる。

とはいえ、深掘りしていいものかと悩む先生だったが、ミラに呆れた視線を向けているヒナがネタばらしをした。

 

「ミラって、赤い雷を落とすでしょ?」

「そうだね。って、もしかして・・・」

「水場でひどい目にあったのよ」

 

これ以上ないほどに納得できる理由だった。

たしかに、ミラの赤雷を操る異能は水場との相性が最悪だろう。

塩分などを含んでいる海水は当然のこと、少なからず消毒液が混ざっているプールも厳しい。

 

「いやー、海とかプールでやらかしたわけじゃないけどね?その、風紀委員会の活動中に、赤雷を纏ったまま川に突っ込んだことがあって・・・」

「どうなったの?」

「大変なことになった」

「あれは大変だったわね」

 

敵も味方も無関係な第三者も大勢を巻き添えにし、水面に感電死した魚が多数浮かび上がる地獄絵図の完成だ。

なんなら、ミラ自身もそこそこ感電した。この時、濡れていたら自分も感電しかねないことを初めて知った。

多少の雨なら問題ない。風呂やシャワーも大丈夫。温泉や大浴場ならギリセーフ。

だが、プールや海になると過去の惨劇がフラッシュバックして体が思わず強張ってしまう。

任務ならまだしも、遊び目的ならなおさら。

 

「平和的に過ごせるならいいんだろうけど、ほら、キヴォトスで人が集まる場所って、だいたい何かしら騒動が起こるじゃん」

「それは、まぁ・・・」

 

先生としては「そんなことはない」と言いたいところだが、過去の夏イベントを振り返ると何も起きなかった試しがないため、頷くことしか出来なかった。

ならば山に行こうと思っても、近場にある山はヒノム火山くらいで夏らしくないし、なんなら麓は半ば温泉開発部の縄張りになっているため、平穏とは程遠いことになるのは目に見えている。

せめて人が少ないところで、と思っても、そこはそこで後ろめたいことを企てている連中がいるケースも普通にあるため、トラブルに巻き込まれる可能性はどうしても存在してしまう。

そう考えると、『毎回終わりよければすべて良しで治まっているのって実は奇跡では?』と思い始めてきた。

 

「そういうわけで、私はそんなに夏の思い出にこだわりがないというか、あまり作れるタイプじゃないって自覚してるというか。だから、その辺のことはあまり気にしなくていいよ?」

 

なんてことのないように言うミラだったが、それでも先生はヒナが僅かとはいえ残念そうに眉を落としたのを見逃さなかった。

それはミラも同じだったのだろう。表には出していないが、先生に向ける視線の中に申し訳なさが宿っていた。

とはいえ、ミラとヒナが揃って現場を離れることが難しいのも事実。以前はホシノに助っ人を頼むことで解決したが、それだって何度も使える手段ではない。

ヒナとミラが気軽に一緒に楽しめる、夏の風物詩。

先生には、一つ心当たりがあった。

 

「それじゃあ、こういうのはどうかな」

 

 

* * *

 

 

それから数日後、先生と約束した時がやってきた。

この日は幸いにも普段より仕事が少なかった(ゲヘナ比)ため、ミラたちも余裕を持って準備することができた。

というのも、

 

「いやー、こういうのを着るのって初めてかも」

「そうね。ドレスなら経験はあるけれど」

「このような機会でなければ着るものでもないですからね、浴衣って」

 

アコが言ったように、現在ミラたち風紀委員会の幹部組は揃って浴衣を着ていた。

これだけでも特別な夏といった光景だが、もちろんそれだけではない。

 

「それに、手持ち花火なんていつ以来だろうね」

 

今回、先生が提案したのは『皆で浴衣を着て花火を楽しもう』というものだった。

着想を得たは、以前のアビドスで最後に見た高級花火だ。

さすがに同じような高級品を用意するのは難しいが、市販品でも十分以上に楽しめるのであればそれで良い。

 

「皆、浴衣似合ってるよ」

「ありがとねー。どうせなら先生も着れば良かったのに」

「あはは、私の分の予算はさすがにね・・・」

 

今回の浴衣はレンタルだが、自分が提案したからということでプレゼントなような形で先生がデザインを選びつつ料金を自腹で支払った。

おかげで懐はそこそこ寂しくなったが、目の前の光景を考えれば安いものだ。

ミラは赤い生地に花火が描かれた浴衣を着ていた。浴衣の大半を占める花火は、普段のミラの赤雷のイメージも相まって存在感を際立たせている。

ヒナは紫の生地に朝顔が印刷された浴衣だ。朝顔は下半分にワンポイントのシンプルなデザインだが、それがむしろヒナの落ち着いた雰囲気にマッチしていた。

アコは濃い目の青にアジサイ柄の浴衣だった。当人は胸元を窮屈そうにしているが、ヒナと似通ったデザインだからか満更でもなさそうな表情をしている。

チナツは白を基調として所々に赤い金魚があしらわれた浴衣だ。まるで絵画のようなデザインは普段のチナツとはまた違った印象を与えている。

ここまでは差はあれど総じて満足げな表情を浮かべているが、ただ一人イオリだけが不服そうにしていた。

 

「・・・なぁ、私のだけ何かおかしくないか?」

 

イオリの浴衣は黒の記事に黒い出目金という、色と柄だけ見れば普通な浴衣を着ていた。

ただし、他と違ってイオリだけ盛大に足を露出していた。

それこそ、ミニスカートを着ているかのようなレベルで。

スタンダードな浴衣を着ているミラたちと比べて、明らかに浮いていた。

 

「そんなことないよ!」

「うん、似合ってるよ?」

「そうね、イオリらしいと思うわ」

「なかなか着る機会がないんですから、いいじゃないですか」

「恥ずかしがることはないと思いますよ」

「正面から断言してるの先生だけじゃん!?ちゃんと目を合わせろよ!!」

 

誤解のないように言えば、別にミラたちが言っているのは嘘でもお世辞でもない、純粋な褒め言葉だ。そこは嘘偽りない本音である。

ただ、それはそれとして似合ってること自体が褒め言葉になるかどうかが微妙というだけで。

似合ってはいるけども、その格好で堂々と一緒に人前を歩けるかどうかと言われたら・・・というのが正直なところだった。

少なくとも、目立ちはするだろう。良し悪しや望む望まないはさておき。

先生のセンスを誉めるべきか、性癖を責めるべきか、悩ましいところだった。

 

「・・・やっぱ変だろ、これ。今からでも違うのに変えてもらって・・・」

「それでキャンセル料払うのは先生だよ。それに、せっかく先生が選んでくれたのに」

「そっか・・・嫌だったんだ・・・」

 

不満げな表情を隠そうともしないイオリだが、さすがにそれは失礼だとミラが窘める。

似合っているのは事実なのだから、不満ばかり言うのはさすがにお門違いというものだ。

さらに、先生がオーバーアクション気味に落ち込んでいるのを見れば、イオリも意固地にはなれなかった。

 

「~ッ!あーもう、分かったよ!今回だけだからな!」

「ありがとう、イオリ!!」

「先生、イオリに対して割と暴走気味だったりする?」

「まぁ、いろいろと話は聞いてるけど」

「今回は似合ってるからまだ許されてる感じですよね」

「からかい甲斐があるのは分からなくもないんですけどね」

 

簡単な罠にも引っかかるほどの単純さと打てば響くような反応は、イジる側からすれば相手にして楽しくはあるだろう。

先生がその域に収まっているかどうかは、また別の話だが。

 

「それより、花火はちゃんとあるよね?」

「もちろん。たくさん用意したよ!」

 

そう言って、先生は袋から大量の花火を取り出した。

先生が買ってきたのはスーパーで売られているお徳用セットだが、様々な種類が用意されているため飽きることはまずないだろう。

 

「どれにしよっかなー。あっそうだ、設置式のやつは選り分けておかない?後でまとめてやってみたい」

「ミラさんにしてはいいアイデアですね。では、こちらに置いておいて花火を近づけないよう気を付けましょう。ミラさんも、うっかり放電して着火するようなことはしないでくださいね?」

「そこまで器用かつ派手にするつもりはないかなぁ」

 

一時期はアコからミラに対する複雑な感情で微妙な雰囲気になっていた二人だったが、現在では軽口を叩けるくらいには打ち解けている。

ヒナとしては二人の関係が修復されて喜ばしい反面、時折やらかすとはいえ信頼している行政官とたまに暴走するとはいえ大切に思っている幼馴染みが自分の手を離れたところで仲良くしていることに、実はちょっぴりだけ思うところがあったりするのだが、それはヒナだけの秘密だ。

 

「ほら、ヒナもおいでよ。どれにする?」

「せっかくですから、一番最初は委員長にやっていただきましょう。好きなのをお選びください」

 

そんなヒナの複雑な心境など露知らず、ミラとアコはそれぞれ花火を薦める。

自分が一番乗りでいいのかチラッと先生を見ると、どうぞとばかりに微笑んだ。

イオリとチナツも気にしている様子がないどころか、むしろ譲っているようにも見える。

だから、ヒナも素直に二人の厚意に甘えることにした。

 

「そうね。どれがいいと思う?」

「手持ちもいろいろあるからね~。いっそのこと、両手に一本ずつとか?」

「いえいえ、ここは二本と言わず何本でもお持ちください」

「あまり大量に持たされても困るでしょ」

「たくさんあるから、遠慮しなくていいからね」

 

先生のフォローも入りつつ、ヒナは大人しく一本だけ手に取って火を点けた。

それを皮切りに、ミラたちもそれぞれ好きなように花火を手に持って楽しみ始めた。

ヒナにとっても、こうして花火をするのは本当に久しぶりで、大勢で賑やかにするのは初めてのことだった。

そこからさらに盛り上がっていき、ミラが同時8本持ちをし始めたあたりで、ヒナは少し離れたところで線香花火を眺めていたところ、先生が声をかけてきた。

 

「ヒナ、楽しい?」

 

ちゃんとミラと夏の思い出を作れているかという、先生の問いかけ。

その答えは決まっていた。

 

「えぇ、とても」




xでも呟いたんですけど、ハイランダー復刻イベント来たー!ってタイミングでパソコン故障して修理に出す羽目になってorz状態なのが今の自分です。
イベント終わるまでに戻ってきてくれないかな・・・。
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