「・・・さて、どうしたものか」
ミラは非常に困っていた。
厳密には、対応の取り方に悩んでいた。
というのも、
「ねぇ、お願いだから!もっとあなたの話を聞かせてちょうだい!」
「あははっ!アルちゃんったら、すっごい目がキラキラしてる!」
「すっすす、すみません!やっぱり私なんかよりもミラさんの方がアル様のために・・・!」
「ハルカ、落ち着いて。さすがにアレと自分を比べるのは酷すぎるから」
現在、ミラは柴関ラーメンで会った4人組のゲヘナの生徒、便利屋68に捕まってひたすらに質問攻めや武勇伝語りを要求されていた。
「・・・いや、なんでこうなったんだろうね?」
半ば現実逃避するように、ミラはこうなった過去に思いを馳せた。
* * *
「うぇ~・・・さすがにぼったくりとかじゃないよね?」
ラルにカイザーPMCの情報収集を依頼した翌日、ラルから武器の買い取り明細と一緒に依頼料の前払いを要求する旨のメールが送られた。
前払いのことについては、ミラも納得はしている。相手がカイザーということもあるが、何よりラルに自分から金をだまし取る度胸がないことを理解しているからだ。
それはそれとして、私欲と私怨混じりに出来るだけ高額で請求してはいるのだろうが。
その上で、ラルから提示された額は素直に頷きがたいレベルのものだった。
具体的には、武器の売却額だけでは足しにもならないほどの。
それでもミラなら払えなくはない額ではなかったが、懐事情が寂しくなるのは避けられなかった。
「一気に財布が軽くなったなぁ・・・まぁ、電子決済に重さなんてないけど、数字が見るからに寂しくなっちゃって・・・」
余談だが、身元を隠している都合と諸々の事情で気軽に銀行を使えないミラは、ブラックマーケットではラルの伝手で電子決済サービスを利用している。もちろんブラックマーケット製の違法なものの上にラルに少なくない紹介料を取られたが、結果的に金銭絡みの活動がしやすくなっているため必要経費と割り切っていった。
それよりも、目の前の小さくなった数字をどうするかが重要だった。
用意しているいくつかのセーフハウスにも蓄えはあるが、基本的に短期滞在に最低限必要な分だけなので付近の1,2カ所を回る程度では大して足しにならない。
「こりゃあ、手っ取り早く資金稼ぎをした方がいいか・・・でも、直近で手ごろな取引はなかったはずだし、どこかを襲撃するにしてもめぼしいものがあるかどうか・・・」
ラルからも取引などの情報を買ってはいるが、今は不運にもちょうどいい案件がないタイミングだった。
また、アビドス訪問の軍資金調達のためにいくつかの組織や不良集団から現金や手ごろな物品を巻き上げていたため、他所を襲撃するという選択肢もそこまで稼ぎは良くはない。
ならばどうするか。ミラの中で答えはある程度決まっていた。
「これは、久しぶりにブラックマーケットで銀行強盗かな」
普通に問題発言だった。
ブラックマーケットの銀行は基本的に非合法のものだが、そのセキュリティは表のものとほとんど変わらない。なんなら、中には盗品を扱っているところもあるため、傭兵まで雇うことでガチガチに警備を固めているところがある。
そして、もし銀行を襲おうものなら、それこそブラックマーケットに存在する治安機関が黙ってはいない。あらゆる手段を使ってでも捕えようとするだろう。
そういうことなので、さすがのミラも悩むところがあった。
「新しい変装とかした方がいいかなー。この手の格好はバレてるんだよね」
そういう問題ではなかった。
一応、これには事情がある。
というのも、ミラはすでに二度もブラックマーケットで銀行強盗を行っている。
一度目は、それはもう完膚なきまでに叩き潰した。雇われていたマーケットガードはもちろん、応援に駆け付けた治安部隊も丸ごと返り討ちにした上で多額の現金と物品を奪った。
だが、幸か不幸か、その事件をきっかけにブラックマーケットで『白づくめの女には手を出すな』という暗黙の了解が出回るようになった。
その結果、別のところで行った二度目の銀行強盗強盗は、ミラの方から何かを言う前に銀行側から「お願いですのでこれで退いてください!」と土下座付きで大金を渡されてしまったのだ。
戦う気満々だったミラもこれには面食らってしまい、思わず「え?あぁ、うん。そう」と渡された現金を回収せず曖昧な返事をしながら帰る羽目になってしまった。
ちなみに、ラル曰く模倣犯もそれなりにいるようだが、拳で堅牢な銀行の壁を破れる人物はさすがに他にいないらしく、すぐに偽物とバレて捕まっているのだそうだ。
そんなこんなで、ブラックマーケット限定とはいえ『顔パスで銀行強盗ができる』というよくわからないながらも悪くない事態になっているのだが、ミラはこれを良しとしなかった。
「無抵抗の人間から貢がれるっていうのは、気が乗らないからな~」
決してそういう問題ではないのだが、ミラの中では割と重要な矜持の問題だった。
たしかにミラはキヴォトスの生徒の中でも間違いなく最強であり、よくチンピラ集団だったりをボコボコにしたりするが、決して弱い者いじめが好きというわけではない。むしろ嫌ってすらいる。
ミラにとって戦闘とは手段よりも目的としての意味合いの方が強く、たとえ虚勢を張っている格下であっても、自分に向かってくる相手であれば等しく敬意を払った上で叩きのめす。それがミラの流儀だった。(それはそれとして悪い連中からは容赦なく巻き上げるなど、あくまで気分次第の流儀だが)
そのため、戦った後に戦利品として何かしらの物を奪うことはあっても、“戦う”という過程を踏まずに略奪することは今まで一度もなかった。
だからこそ、前回と同じ轍だけは踏むまいという決意と共に、ミラはブラックマーケット内に用意したセーフハウスに保管されている服を物色し始めた。
のだが、
「・・・ま、まずい。服が白一色しかない・・・!」
困ったことに、ミラの私服は白い物しか存在していなかった。
ヒナから「ミラは白い服の方が似合ってる」と褒められた時から、調子に乗って白い服しか用意していなかったツケが回ってきたのだろうと、ミラは他人事のように考える。
「最悪、他に顔を隠せるものを・・・いや、服が白じゃどのみちバレるでしょ!いっそ色を付ける?でもそれはそれでもったいないし・・・てか染色できる道具もないし!」
思わぬ事態に、ミラは頭を抱え込む。
一般的な生徒はもちろん、ある程度腕が立つ悪党でも思いつかなさそうな悩みを真剣に考えるミラは、ラルから見れば滑稽に映っていただろう。
あるいはだからこそ、ただの偶然だとしても作為的なものを感じてしまうのだろう。
ピロリン♪
「んぁ?」
不意に、ミラの携帯から着信音が鳴る。
メールの送り主はラルだった。
内容を確認してみると、『ミラさんに必要だと思ったので、プレゼントというか支給です。玄関前に届けておきました。』と書いてあった。
いったいどういうことだとドアを開けてみれば、そこには一つのスーツケースが置かれていた。
どうして教えてもいないセーフハウスの場所を知っているんだとかどうやってここに届けたんだとか言いたいことはあるが、グッと堪えてスーツケースを回収して中身を確認した。
「こ、これは・・・」
中に入っていたのは、いくつかの衣装だった。
いつも着ている白色のものではなく、普通の私服風のものからコスプレっぽいものまで幅広く用意されている。しかもどれもが問題なく顔を隠すことができ、さらにヘイローまで多少は誤魔化せるようになっている。
おそらく「これを使って潜入調査とか頑張ってください。全部自分に放り投げるのは無しで」ということなのだろう。
だが、これは金欠気味のミラにはまさに渡りに船だった。
「これで、問題なく銀行強盗ができる・・・!」
まさかラルも、調査のために渡した衣装が銀行強盗のために使われるとは思っていなかっただろう。
だがミラはそんなの知ったことではないとちょうど良さそうな衣装を見繕う。
「・・・おっ、これとか良さそうじゃん」
そうして一つの衣装を見つけたミラはそそくさと着替え始めた。
「さて、今回はどうしよっかな」
そう言いながらとある雑居ビルの屋上で計画を考えるミラの目の前にあるのは、ブラックマーケットでも最大規模を誇る闇銀行だった。ここには現金の他にもブラックマーケット内の盗品の約15%が集まってるというため、遺失物としてキヴォトス全体の警察機関であるヴァルキューレに届け出るも良し、出所不明なら適当な店で売り払って良しと勝手が良い。
いつもなら正面玄関か手近な壁を突き破って侵入するところだが、今回のミラは一味違った。
「どうせ怪盗の格好をしているんだから、少しはそれっぽい感じでいきたいよね」
ミラが選んだのは、黒色をベースにした怪盗衣装だった。シルクハットやモノクル、果てはマントなどコスプレにしか見えないが、小道具や収納スペースなどちゃっかり怪盗として立ち回れる機能まで備わっている。また、ちゃっかり黒髪のかつらまで用意されていたため目立つ髪色も隠すことができるという、至れり尽くせりな内容だった。
「こそこそ隠れ回るだけの盗人ムーブは格好がつかないけど、でも真正面からいくのはいつものことすぎるし・・・とりあえず、どこか侵入できるところを探した方がいっか」
完全に怪盗の気分になっているミラはウキウキで計画を立てるが、屋上から下を見下ろしているとふと気になる集団を見つけた。
「・・・なんというか、やたらと縁があるなぁ」
見つけたのは先生とアビドス高校の面々だった。
何故か1人だけ違う制服の生徒がいるが、おそらくは襲ってくる連中の装備の出所を探るためにブラックマーケットまでやってきたのだろう。それでも、まさかここでもばったり会うことになるとは思っていなかった。
とはいえ、さすがに銀行強盗の現場を見られるわけにはいかないため、今回ばかりはミラも全力で姿を隠すつもりだった。
の、だが、
「にしても、何してるんだろ?」
何故かホシノたちは数字のついた覆面を被り始め、さらには一緒にいた生徒にまで紙袋に穴を空けて数字を書いてから頭に被らせた。
その格好は、まるで「今から銀行強盗をしに行きます」と言っているかのようで・・・
「・・・ふぅん?」
ここでミラは良いことを思いついた。
当然、銀行側にとっては悪いことであり、もっと言えばこれから起こる悪いことの上にさらに重なる、踏んだり蹴ったりとしか言いようがないことなのだが。
便利屋68の本格的な登場は次回ということで・・・。
コミカライズを読んでると、便利屋68のことがさらに好きになります。
いっそアルに「あんたにアウトローは向いてない」って言って実力差を見せつけながら曇らせるif話でも書いてやりましょうかね。
ぶっちゃけミラの方がよっぽどアウトローですし、そういう分からせがあってもいいと思うんです。
まぁ、書くとしても気が向いたときですかね。
白髪赤目の怪盗って、実質アキラなんですよね。
キャラは割と好きなので、そろそろ再登場してくれないですかねぇ?