キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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アビドス編・8

「全員、その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

「言うこと聞かないと、痛い目に遭いますよ☆」

 

現在、ホシノらアビドス生に+αで巻き込まれている一般トリニティ生徒のヒフミはブラックマーケットでも最大規模の闇銀行で銀行強盗を行っていた。

その目的は金品の強奪ではなく、集金記録だった。

というのも、アビドスを襲っている不良や便利屋68が使用している武装や兵器の出所を探るため、偶然出会ったヒフミに案内を頼みブラックマーケットを捜索していた。

その途中、現在襲っている銀行にカイザーローンの銀行員がアビドスの払った借金の利息を渡しているところを目撃してしまった。

その真意を探るべく、集金記録を強奪するために覆面を被り「覆面水着団」を名乗って銀行強盗を決行することになったのだ。

ちなみに、アビドス生ではないヒフミの分の覆面はなかったため、道中で買ったたい焼きの紙袋で代用している。

もっと言えば、現在この場には他に便利屋68の面々も集まっているというカオスなことになっているのだが、今のところそれに気づいているのは便利屋68のアル以外の3人だけで、。

 

「シロ・・・い、いや、ブルー先輩!ブツは手に入った?」

「あ、う、うん。確保した」

 

本当は半ば錯乱した銀行員が大金など特に要求していないものまでバッグに突っ込んでいたのだが、目的である集金記録はしっかり中に入っているため、セリカの質問にシロコは少し困惑しながらも頷いた。

 

「それじゃ逃げるよ~!全員撤収!」

「アディオ~ス☆」

「け、ケガ人はいないようですし・・・すみませんでした、さよならっ!」

 

目的を達成したことを確認したホシノの号令によって、アビドスとヒフミは即座にその場から離脱した。

襲撃されてからされるがままだった銀行員は、ここでようやくある程度落ち着きを取り戻して指示を飛ばす。

 

「や、奴らを捕らえろ!道路を封鎖!マーケットガードにも通報・・・」

 

キィン!

 

不意に空薬莢の劣る音が響き渡る。

偶然誰かが落としたのかと勘繰るが、それにしては音が大きすぎた。

何事かと銀行員らが辺りを見回そうとする前に、待合の中央から声が響いた。

 

「ごきげんよう、闇銀行の皆さん」

 

そこにいたのは、黒いタキシードとマントに身を包んだ怪盗だった。

 

「だ、誰だ貴様は!あの銀行強盗の仲間か!?」

「いえ、違います。たまたま予定が被っただけの怪盗です。“ファントム”と申します。以後お見知りおきを」

(ぶっちゃけ“覆面水着団”なんて不名誉の塊みたいな集団の仲間扱いをされたくないだけなんだけど。名前とかもうちょっとどうにかならなかったのかな?)

 

普段と違い敬語と慇懃無礼な態度を演じるミラは、先ほどのホシノらの襲撃に乗じて裏口から侵入していた。

本来であれば警備装置が作動してバレていただろうが、アビドスが電源を落として警報や連絡手段を潰したおかげで楽に侵入することができた。

それからは中にいた面々の意識の隙間を縫うように移動し、いくつかのブツを回収してから現在の場所に降り立ったのだ。

 

「とはいえ、かの『慈愛の怪盗』のような知名度もありませんし、予告状を用意することもできなかったので、せめてもの情けとしてこうして姿を見せたというわけです」

 

もちろん嘘だが。

アビドスが逃げやすくなるようにという親切心もなくはないが、一番の目的はブラックマーケット内で一二を争う悪名でもあるミラたる『白づくめの少女』に代わる悪名を生み出すことだった。

圧倒的な暴力でもはや災害のような扱いさえ受けている『白づくめの少女』とは違う、エンターテインメントのように物を盗む怪盗。

異なる悪名をばらまいてブラックマーケット内の警戒を高めることができれば、いつもの白づくめの服装でもすぐに降伏されるようなことはなくなるだろう。

そのためには、今回でできるだけ目立つように動く必要がある。

 

「怪盗だと?その割には何も盗んでいないようだが?」

「そんなことはありませんよ?」

 

そう言って、ミラは懐からある紙束を取り出す。

それを見た銀行員は、(オートマタのため顔色はないが)顔を青くした。

 

「そ、それはまさか・・・!」

「えぇ、ここに集まっている盗品のリストです」

 

闇銀行は運営も取り扱っているものもほとんどが違法だが、銀行としての信用を得るためには物品の管理はしっかり行わなくてはならない。

そのリストは金庫に厳重に保管されていたはずなのだが、先ほどのセキュリティが落ちている瞬間に盗み出したのだろう。電気系統が機能停止した程度で簡単に開くようなものではないが、怪盗を名乗っている以上それらの技術に精通していてもおかしくはない。

 

「随分と溜め込んでいるようですが・・・さて、これを連邦生徒会に渡せば、いったいどうなるのでしょうね?」

「ッ、さっきの強盗はいい!早くあの怪盗を捕らえろ!」

 

先ほど覆面水着団に渡した集金記録も外部に漏れていい情報ではないが、あれだけならまだ誤魔化せる範疇だ。

だが、ほぼすべての盗品の記録となると話が変わってくる。

あれだけの情報が洩れれば、今まで放置を決め込んでいた連邦生徒会も本腰を入れて調査しにくるだろう。

なんとしてもそれだけは避けなければならないと、銀行員が悲鳴を上げるように命令した。

それを嘲笑うように、ミラは口元に笑みを浮かべながらリストの束を宙に放り投げた。

その場にいた全員の意識が宙を舞うリストに向けられる中、その一瞬の空白を見逃さずミラは一気に跳躍して銀行員らを飛び越え、あっという間に外へと脱出した。

 

「おっ、追え!奴を逃がすな!!リストもだ!早く回収しろ!」

 

銀行員は一拍遅れて指示を出しながら、急いで放り投げられたリストを拾いに向かう。

だが、そこで銀行員は自らの過ちに気が付いた。

 

「こっ、これは、リストじゃない!ただの白紙・・・!?」

「金庫の中身、確認しました!開けられた形跡もなく、リストも無事です!」

 

すべてブラフで自分たちが騙されたと気づいた時には、すでに遅かった。

たしかに怪盗ファントムはリストを持っていたはずだった。

おそらく本物は一番上の一枚だけで、あとは適当なところからコピー用紙を取り出して嵩増ししたのだろう。

だが、だとしたら怪盗ファントムは何を盗んだというのか。

 

「すぐに書類と物品の確認しろ!急げ!マーケットガードにも必ず黒い怪盗を捕まえるように念を押せ!・・・お客様、申し訳ありませんが・・・あれ?」

 

銀行の中が混沌に包まれてきた中、そこにはすでに便利屋68の姿はどこにもなかった。

 

 

* * *

 

 

「あっはは!すごい追ってきてる!」

 

その頃、ミラはブラックマーケットの裏路地を縦横無尽に駆け回りながらマーケットガードから逃げていた。

懐にはリストの束はなく、あるのは一枚のリストとついでにちょろまかした宝石や貴金属類数点のみ。

だが、それを“たかが”で済ませるほどブラックマーケットの闇銀行は甘くない。

ミラの後ろからは続々とマーケットガードや警察などの治安機関が集結しつつあった。

そんな絶望的な状況の中でなお、ミラは心底楽しそうに鬼ごっことしゃれ込んでいた。

 

「機動隊に装甲車、ヘリまで飛んできてるなんて、よっぽどキレてるみたいだね」

 

ここまで戦力が集中しているのは、初めての銀行強盗のとき以来か。

過去の思い出に浸りながら、ミラは上空を飛ぶヘリに目を向ける。

 

「ひとまず、あれをどうにかした方がいいかな。サーモグラフィーカメラなんて使われると面倒だし」

 

やろうと思えば今いる戦力を壊滅させることもできるが、それは怪盗からはかけ離れた行動だろう。

現在裏路地を駆け回っているミラは、すぐ後ろに追手が来ていないことを確認してからビルの壁を蹴り上がって屋上まで登った。

そして正体を誤魔化すために装備したコルトガバメントを構え、正確にヘリ下部に取りつけられているカメラを撃ち抜いた。

 

「よしっ!それじゃ、増援が来る前におさらばしないとだね」

 

それを確認したミラは、ビルの屋上を飛び移りながら下へと降りて、周囲に人がおらずヘリからの視線も切れていることを確認しマンホールに飛び込んだ。

頭上から響く怒声と足音を聞き流しながら、下水路へと降りていく。

ミラが降りたマンホールはバレにくくなるよう塗装してあるため、ある程度時間を稼ぐことができるだろう。

その間にミラは下水道内に用意したセーフハウスに入り、怪盗衣装を脱いで普段の服に着替え始めた。

 

「はぁ、ここ入るまでが臭いからあまり使いたくなかったんだけど・・・まぁ、しょうがないか。臭いとかついてないよね・・・?」

 

できればここには来たくなかったとぼやくが、それでもなぜこの場所に用意したのかと問われれば、ブラックマーケット内に用意しているセーフハウスの中で最も使い勝手が良いからだった。

薄暗い裏路地とマンホールのカモフラージュのおかげで入り口が発見されにくく、仮にマンホールがバレてもセーフハウス自体が目の錯覚を利用した気づきにくい立地に作られているためまず見つからない。

それに何より、

 

「ふぅ・・・やっほー。ラルいる~?」

「うわっ!?何してるんですか!?」

 

このセーフハウスにはラルの質屋の裏手に直通している通路まで存在するため、脱出も問題なくできる仕様となっているのだ。とはいえ、もしこの通路がバレたらまず間違いなくラルも巻き込むことになるため、ラルからすれば使用を控えてほしいものでもあるのだが。

 

「ミラさん、さっきから強盗団だとか怪盗だとかで外が騒がしくなってるんですけど、まさか関係ないですよね?」

「強盗団は違うけど、怪盗は私だね。でも衣装を用意したそっちが悪くない?」

「責任転嫁ですよねって言いたくても言い返せない・・・!」

 

こんなことならコスプレ衣装なんて用意しなければ良かったと頭を抱えながら後悔するラルの肩をポンポンと叩きながら、ミラは戦利品を渡した。

 

「それはそうと、盗品・・・は足がつきそうだからやめとくけど、はいこれ。少し前の集金記録。一番新しいのは強盗団が持っていったけど、これもいい情報になるんじゃない?」

「・・・きっちり仕事をこなしてるのが腹立ちますね」

 

今回のミラの目的は、金稼ぎももちろんだがアビドスと同じく集金記録を奪取することだった。

アビドスも慢性的な金欠状態になっている以上、お金目的で強盗する可能性もなくはないかもしれないが、先生とホシノがそれを容認するとは思えなかった。

ならば目的は、襲撃犯の武装か資金の出所か。そして襲ったあの闇銀行は様々なところから集金活動もしており、その中にはアビドスが借金をしているカイザーローンも含まれている。

おそらくカイザーローンがアビドスの払った利子を闇銀行に流している現場を偶然目撃したのだろうと当たりを付けたミラは、いっそ自分もその情報をラルに渡してさらに細かいことを調べてもらおうと考えたのだ。

 

「なるほど。案の定というか、やはりカイザーローンでしたか」

「見当はついてたんだ?」

「わざわざセキュリティに残らないよう完全オフラインで行動してるという情報は掴んでいたので。そこから苦労すると思っていたんですけど、手間が省けました」

 

偶然現場を目撃したアビドスに対して、順当に調べて当たりをつけていたラルの手腕に、ミラも思わず舌を巻く。

だが、有用な情報を得たにも関わらずラルの表情は優れなかった。

 

「ただ、武装の方は少し難しいかもしれません」

「どういうこと?」

「取引記録が徹底して抹消されているんですよね。カイザーが黒幕なのは間違ってないと思うのですが、それに繋がる証拠は一切残っていません。もう少し探れば分かるかもしれませんが・・・」

「これ以上は危険ってこと?」

「少なくとも、厳しいものにはなります」

 

いくらブラックマーケットの中でも優れた手腕を持っているとはいえ、カイザーとは資金も技術力も違いがありすぎる。

できることならもう深掘りしたくないというのがラルの本音だった。

それを察したミラは、嘆息しながらもそれを責めるようなことはしなかった。

 

「そう。ならわかった。ひとまずはこれで十分だけど、引き続きカイザーのことは探って、もし何か動きがあったら私に知らせて」

「わかりました。依頼は継続ですね」

「これで終わりだと依頼料と割に合わないからね」

「そ、それは、あはは・・・」

 

吹っ掛けた自覚はあるのか、ラルは目を逸らしながら乾いた笑みを浮かべた。

ミラもラルにジト目を向けるが、それ以上は追求せずに店をでていった。

 

 

* * *

 

 

「まぁ、まずまずってところかな」

 

店をでたミラは、その足でブラックマーケット付近のヴァルキューレの支部に向かって、銀行で盗ったものを遺失物として届け出た。

さすがに「闇銀行から盗みました」とは言えないため、その辺りの事情は適当に誤魔化したが。

貴金属などの高級品が多かったからかそれなりの報奨金が支払われ、ミラはホクホク顔でヴァルキューレ支部から出た。

 

「見つけたわ!」

 

すると突然、横から叫び声が聞こえてきた。

その方向を振り向くと、そこにいたのは闇銀行にいたはずの便利屋68だった。

一応柴関ラーメンで会っている仲ではあるため知らない顔ではないが、だからと言ってこうして指を指される心当たりも無かった。

もしや、さっきの怪盗の正体に勘づいたとでも言うのか。

僅かに警戒心を抱くミラだったが、事態はミラの想定の軽く上をいくものだった。

 

「あなたよね!?覆面水着団に裏から指示を出しているっていう真のボスっていうのは!」

「・・・ん?」

 

普通に聞き覚えが無さすぎる称号に、ミラは思わず目を白黒させた。




ホシノが珍しく先輩面して「銀行強盗に頼るのは良くない」と後輩を諭している裏で、容赦なく3回目の銀行強盗を敢行しているミラ。
人の心とかないんやろなぁ。
まぁ、それを言ったらヒフミにもあるかまあまあ怪しいですが。
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