キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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アビドス編・9

ひとまず状況を整理したかったミラは、半ば流されるような形で便利屋68の事務所へと連れていかれ、アルから質問攻めに会う場面まで戻ることになる。

そこで、なぜミラが“覆面水着団”の真のボスになっているのかという経緯について尋ねた。

事の発端は、言うまでもなくアビドスによる銀行強盗とそれに便乗したミラの怪盗騒ぎ。

ミラもチラッと視界の端っこ程度にアルたちがいたのは確認していたが、襲ってくる兆候が見られなかったことから意識から外していた。とはいえ、それが原因というわけではなかった。

便利屋68、というよりアルが強く興味を惹かれたのはアビドスこと“覆面水着団”による銀行強盗だった。

アウトローを志しているアルはアビドスの手際の良い銀行強盗にアウトローの片鱗を感じたようで、あの後アビドスを追いかけて少しだが話をしたらしい。

そこで“覆面水着団”を名乗ったことは、ネーミングセンスを考慮しなければわかる。

正装がスクール水着に覆面だとか、昼はアイドルで夜は悪を裁く正義の怪盗に変身するのだとか、いろいろとツッコミどころはあるというか、部分的に以前の金稼ぎ案が諦めきれずに混ざっていることについて言いたいことがないわけではないが、適当なウソをつくためと考えればまぁまだ理解できる範疇だ。

だが、最後の最後で覆面一号(ホシノ)が爆弾を投下した。

 

『そして、私たちのボスはブラックマーケット内の恐怖の象徴でもある“白づくめの少女”!暴れすぎて姿を隠してもなおブラックマーケット内に存在する悪を裁くために、私たちに指示を出しているのだ!』

 

要するに、体よく覆面水着団の設定のために勝手に名前というか名声を使われたというわけだ。

だが、ホシノの性格的に見ず知らずの誰かの名前を勝手に使うとは考えづらい。

ならば、どこかからブラックマーケットの“白づくめの少女”についての情報を聞いて、そこからその正体がミラであると理解している可能性が高い。

ブラックマーケットについては門外漢なはずなのに、どこからミラのことを知ったのか。

確信はないが、おそらくは覆面水着団の五番目でありファウストを名乗った紙袋のトリニティ生だろう。

情報もなく広大なブラックマーケットから武装の流通ルートを探るのは非現実的なことを考えれば、臨時で現地に詳しいガイドを雇っていてもおかしくはない。

それがなぜお嬢様学園として有名なトリニティ総合学園の生徒なのかはいろいろと気になるところだが、本題から外れそうなため意識の隅っこに置いておくことにする。

もしあのトリニティ生が詳しく案内できるほどブラックマーケットに精通しているのだとすれば、どこかで“白づくめの少女”について噂を聞いた可能性は高いし、注意事項としてホシノたちに教えていても不思議ではない。

そして、白づくめ、めちゃくちゃ強いの2つの情報が揃ってしまえば、ミラをよく知る人物ならすぐに思い当たるだろう。

だから、設定は盛れるだけ盛ってやろうと勝手にミラの名前を使うことにした。

とりあえず、

 

(次ホシノちゃんに会ったら、存分におもちゃにしてやろっと。ついでに、私も勝手に覆面水着団の名前を使おっか)

 

勝手に自分の名前を使ったということは、自分たちの名前を使われる覚悟もあるということだろう。

もしその時が来れば、ミラも“覆面水着団”の名前を容赦なく使うことを決めた。

チラリと他のメンバーの方を見ると、ハルカの方はともかくムツキとカヨコは少なくとも覆面水着団の正体については察しているようで、その上でどのタイミングでネタばらしをしようか、ムツキは悪戯っぽい笑みを、カヨコは頭痛を堪えるような表情をそれぞれ浮かべていた。

ただし、その視線はアルではなくミラに向けられている。

つまり、ネタばらしのタイミングはミラに任せる、ということだ。

 

(割といい迷惑なんだけど・・・まぁ、面白そうだしいっか)

 

さっきから割としつこくアウトローの極意を聞き出そうとしてくるアルには、少しばかり辟易しそうになっていたところだった。

幸か不幸か、ミラ=怪盗ファントムであることがバレている様子は見られない。だがいっそ、ここで怪盗ファントムのことをバラシてしまうのもそれはそれで一興だろう。

 

「はぁ・・・仕方ない。いいよ、教えてあげる」

「本当!?」

「まぁね。でも、アウトローの心構えの前に、いいことを教えてあげる。心して聞くように」

「えぇ、わかったわ!それで、いったい何なのかしら!?」

「・・・アルが会ったっていう“覆面水着団”、あれ中身はアビドスと巻き込まれたトリニティの誰かだから」

「・・・え?」

「ついでに言うと、銀行強盗の後に出てきた怪盗。実はあれって私なんだよね」

「・・・へ?」

 

唐突なミラからの種明かしに、アルが目を白黒させる。

最初は脳がその情報の理解を拒んでいたが、よくよく思い返してみればたしかに着ていた制服はアビドスが4人とトリニティが1人だったような気がし始めた。

そして、一度そこまで思考が回ってしまえば、徐々にそれが事実であるということを認めるしかなく、

 

「な、なんですってぇーーーっ!!??」

 

白目を剥いて絶叫するアルに、ムツキはお腹を抱えて爆笑し、カヨコは『やっぱりこうなった・・・』とため息を吐き、ハルカはあわあわとどうすればいいのか分からなくなる。

そんな愉快な姿を見せる便利屋68の面々に、ミラは今夜はここに泊まろうか真剣に検討し始めた。

 

 

* * *

 

 

少しして、ようやくアルも正気を取り戻したところで、改めて自己紹介をすることになった。

 

「というわけで、私の名前は暁ミラ。柴関ラーメンでも一度会ったけど、一応ね。カヨコ、だっけ?そっちは私のこと知ってたみたいだけど」

「今の三年であなたのことを知らない人の方が少ないと思うけど・・・」

 

ちなみに、カヨコは留年しているため厳密にはミラよりも年上なのだが、相手が相手なため対等な話し方でむしろありがたいとすら思っていた。

とはいえ、便利屋はカヨコ以外は一年か二年のため、今さらでしかないのだが。

 

「それにしても、まさかあの暁ミラが怪盗なんて・・・」

「あくまで緊急手段ね。さすがにしょっちゅうやるつもりはないよ」

「でも、あなたなら普通に銀行強盗をしても良かったんじゃないの?カヨコから聞いたけど、すごい強いんですって?」

「最初に盛大にやったせいで、2回目にやったときに銀行側からお金を差し出される事態になってね。それは私の流儀じゃなかったから、新しい形でやりたかったのよ」

「あ、アウトローだわ・・・やっぱり、あなたは生粋のアウトローだったのね・・・!」

 

 

再び感激しそうになるアルに、ミラは思わず苦笑を浮かべる。

たしかにアルからすれば、ミラの生き様は自分が目指している“真のアウトロー”のように見えるのだろう。

だが、ミラ自身からすればそんなつもりは微塵もなかった。

 

「べつに、私はそんな大したものじゃないよ。訳あって、今の私はゲヘナから離れて過ごしてるからね。必要な時に、身の丈に合った手段を使ってるだけ」

「こ、これが本物のアウトロー・・・!?」

「あっ、これ何を言ってもアウトローからはズレないやつか」

 

それほどまでにアウトローに対して目がないのか、関係なく元から思い込みが激しいのか、あるいはその両方か。

どちらにせよ、ここまで純粋な尊敬の眼差しを向けられたことはかなり久しい。というより、ゲヘナに入学してからは一年のうちに姿を消してしまったためそんな機会もなかった。

そのため、今のミラは割と機嫌が良くなっていた。

 

「まぁ、いいや。せっかくだし、聞きたいことがあったり武勇伝に興味があるんだったら、好きなだけ話してあげる」

「本当!?」

 

いつになく目を輝かせるアルに、他の便利屋の面々も微笑ましそうにしている。

だが、そんなほのぼのとした状況を打算的に利用できる程度には、ミラもまた強かなのだが。

 

「その代わり、一つ条件がある」

「何かしら!?私たちにできることならなんでも・・・」

「アビドスの襲撃依頼から手を引くこと。それが条件」

 

残酷なまでの宣告に、便利屋68の空気が凍り付く。

 

「な、なんでそのことを・・・!?」

「裏社会で上手く立ち回るには、自分の情報網を持っておくのも一つのコツだよ。まぁ、前に柴関ラーメンで見かけた時からそんな気はしてたけど」

「噓でしょ・・・最初に会った時から・・・?」

「やたらと高性能な装備を持って継続的に襲撃してきていたカタカタヘルメット団と代わるようにやってきた、腕の立ちそうなゲヘナの生徒。直感も多分に混じってるけど、私はそういうのは疑わないようにしてるからね」

 

余裕の笑みを浮かべるミラと対称的に、アルはダラダラと冷や汗を流し始める。

依頼の件がバレただけなら、まだいい。

問題なのは、その相手がキヴォトス最強であるミラで、以前柴関ラーメンでアビドスと楽しそうにご飯を食べていたこと。

 

「まぁ、これはあくまでアビドスの問題だから、私はあまり深入りしないようにしてるけど。でも、アビドスには友達と先生がいるからね。その上で目の前にいる元凶を黙って見逃してあげるほど、私は優しくない」

 

やばい、下手したら死ぬかも。

この時の便利屋68の内心は、見事なまでに一致していた。

ここでミラに喧嘩を売ろうものなら、まず間違いなく痛い目に遭うだろう。それも火傷とか擦り傷みたいなレベルではなく、冗談抜きで病院に強制入院されるレベルの。

そうなれば、依頼を完遂できなくなるどころの話で収まらず、仲間を危険に晒してしまうことにもなる。

だが、

 

「そ、それならお断りよ!依頼人を裏切るなんてできないわ!」

 

それでもアルは、ミラの提案を蹴り飛ばしケンカを売ることを選んだ。

それは偏に、自分が掲げる理想のアウトロー像に殉じるため。

便利屋68のモットーは“法律や規律に縛られず、金を払うならどんな仕事でも引き受ける”。

そんなアルにとって、受けた依頼を途中で放り出すなど論外だった。

他の面々も呆れや諦念など反応はそれぞれだったが、アルの判断に異を唱える者はいなかった。

 

「・・・へぇ」

 

対するミラの返答は、たったそれだけだった。

にも関わらず、こちらを見る紅の瞳で見られるだけで心臓を鷲掴みにされていると錯覚するほどの圧迫感を覚える。

それでも、ここで目を逸らしたらやられると直感的に理解したアルは恐怖で竦みそうになる身体を叱咤しながら必死にミラの目を見つめ返す。

いったい、どれだけの時間が過ぎたのか。日付が変わったのではないかと錯覚しそうになるほど濃密な時間の中、その均衡を破ったのはミラだった。

 

「・・・ハハッ、なるほど。うん、それならまぁ、仕方ないかな」

 

先ほどまでの圧迫感が嘘だったかのように、ミラは堪えきれないといった様子で笑いを零す。

何を気に入ったのか便利屋68には理解できないが、一応はこの場は許されたということだけ辛うじて理解することができた。

 

「その度胸と姿勢に免じて、この場は見逃してあげる。もし敵として会うことがあったら、その時はその時ってことで」

 

そう言って、ミラは立ち上がって出入口へと向かう。

さすがにこの空気でお泊りを提案するほど、ミラも人の心を捨てているわけではない。残念に思うところがないわけではないが、おそらく近いうちに会うだろうという確信がミラにはあった。

そして、気に入ったついでということで、去り際にミラは駄賃代わりの情報を便利屋68に明かした。

 

「あぁ、そうそう。そっちが把握してるかは知らないけど、あなたたちにアビドス襲撃の依頼を出しているのは十中八九カイザーコーポレーションだよ。この意味をちゃんと考えておくように」

 

それだけ言って、今度こそミラは便利屋68の事務所を後にした。




キャンプイベントを見て、無性にゆるキャン△を一気読みしたくなりました。
ゆるキャン△はアニメも漫画も神。マジで。
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