おじさんの曇り顔を存分に見られるって本当ですか!?
それにドレス姿のヒナも最高すぎるし、こんな贅沢が許されていいんか!?
「よいしょっと・・・先生、無事?」
「うん、ミラのおかげでね。ミラの方こそ大丈夫?」
「これくらいは平気」
瓦礫をどかしながら、ミラは軽い調子で先生に安否を尋ねる。
とはいえ、どういうわけか爆風そのものはミラまで届いておらず、先生をミラごと覆うように展開されたらしきバリアによって阻まれていた。
いったいどういう絡繰りなのか気にならなくもないが、状況が状況のため疑問は意識の片隅に置いて状況確認を行う。
外から微かに聞こえた風切り音に反応して、反射的に先生を庇った直後に爆発。おそらくは迫撃砲の類だろう。爆撃によって柴関ラーメンは全壊、跡形もなくなってしまった。
幸い、柴大将は無事だったようで、目を回しているものの目立った怪我はないようだった。
「にしても、迫撃砲にしては爆発が大きかったような・・・やっぱり、爆弾でも仕掛けられてたのかな」
「え?それって・・・」
「先生は大将をお願い。ほら、いつまで寝てるの。さっさと起きなー」
ちょっと聞き捨てならないことを聞かされて先生は思わずミラに聞き返そうとしたが、それに構わずミラは爆発で伸びている便利屋を叩き起こした。
「ゴホッ、ゴホッ・・・うわぁ、建物なくなっちゃったよ?」
「ケホッ・・・これはいったい・・・」
「・・・(グルグル)」
「ゴホン、ゴホン・・・うああ、いったい何が・・・」
「え?アルちゃん、まさか・・・?」
「半分、いや3割くらいはこの惨状の原因になってるだろうけど、まぁ直接的なものじゃないね・・・迫撃砲を撃ち込まれた。音的に、たぶん50㎜かな」
「っ、まさか・・・!」
ミラの言葉でカヨコがおおよその事情を理解した次の瞬間、風切り音と共にさらに迫撃砲が撃ち込まれた。
柴大将を助けるために離れていた先生に爆風は届かなかったが、その代わり撃ち込まれた多くの砲弾がミラの付近に着弾、いくつかは直撃する。
それを確認したからか、周囲から続々と人影が現れた。
『ターゲット、命中しました』
「よし。歩兵、第2小隊まで突入」
現れたのは、ゲヘナ学園の制服に“風紀”の腕章を身につけた生徒たち。
すなわち、ゲヘナ学園の風紀委員会だった。
風紀委員会は幹部の銀鏡イオリとチナツを先頭に柴関ラーメンの残骸へと近づいていく。
「・・・イオリ、便利屋以外にも人影がありましたが、そちらはどうします?」
「そいつ、便利屋を庇ってたんだよな?なら当然、公務の執行を妨害する輩は全員敵だ」
「ならば、大人しくしていてもらいたいものですね・・・しかし、こちらの事情を説明するのが先かと・・・」
「説明?必要か、それ?うちの厄介者どもを取っ捕まえるための労力が惜しい。もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用で叩き潰す」
学区の治安を守る風紀委員会にしては配慮の欠けた物言いに、先生が思わず口を開こうとする。
あくまで怒るためではなく、諭すために。
「・・・さすがにそれは、ちょっと聞き捨てならないなぁ」
だが、それよりも早く、周囲にミラの声が響き渡った。
土煙が晴れると、そこには便利屋を庇うように白翼を広げる、無傷のままのミラが仁王立ちしていた。
それだけでも十分異常な光景なのだが、先生と便利屋はそれ以上にミラの声音と雰囲気に戦慄を覚えた。
先生はまだ実際に見たことがないため比較対象が存在しないが、便利屋からすればついさっき説教されたばかりだ。
それと比べても、声のトーンは一段と低く、以前のあれがお遊びに思えるほどのプレッシャーを撒き散らしていた。
端的に言えば、明らかにあの時以上にキレている。それも、一段階か二段階くらいはすっ飛ばしているレベルで。
「仮にもゲヘナの治安維持を担う風紀委員会が、他所の学区で勝手に戦闘行為をおっ始めた挙げ句、協力しないなら例外なく敵扱い?いったい何様のつもりだ」
「なんだ、お前?誰かは知らないが、邪魔をするなら・・・」
「ッ!イオリ、待ってください!」
反抗的な態度を向けられて戦闘態勢に入ろうとしたイオリを、チナツが慌てて止めた。
チナツはミラのことをよく知っているわけではない。それどころか噂すら聞いたこともないゲヘナの一年生だ。
だが、先生と始めて会ったあの日、単騎で戦車を含む不良集団を素手で壊滅させたであろう純白の少女のことを忘れられるはずがなかった。
だが、慌ててイオリを引き止めようにも、すでに手遅れだった。
「・・・便利屋68、先生を守って」
「待って!風紀委員の奴らが来たなら、私たちは早く隠れないと・・・!」
「大丈夫。ここにヒナはいない。少なくとも、このバカ騒ぎには参加してないはず。それなら、そっちも十分戦えるでしょ。まぁ、そもそも私一人で丸ごと潰すつもりだけど、念のためにね」
「でも・・・」
「あぁ。それとも、こう言った方がいい?・・・これは私からの“依頼”。成功すれば、相応の報酬を支払う」
「! それは・・・!」
ミラの言葉に、カヨコが焦りを見せる。
ただ頼まれただけなら、是非はともかくとして迷うことなく断っていただろう。
だが、ミラの“依頼”という言い回しは、アルにとってこれ以上にない殺し文句だった。
「・・・ふふっ。ふふふふっ」
「・・・社長?」
「・・・ねぇ、カヨコ。あなたは私の性格、もうとっくに分かっているんじゃなくて?」
「・・・・・・」
「こんな状況で、こんな扱いをされて・・・その上あの暁ミラの依頼を蹴って背中を向けて逃げる?そんな三流の悪党みたいなこと、私たち便利屋がするわけないじゃない!」
「・・・あはー」
「あの生意気な風紀委員会に一泡吹かせないと気が済まないわ!!」
「アル様・・・っ」
「はぁ・・・」
結局こうなってしまったと頭を抱えるカヨコに対し、ムツキは凶悪な笑みを浮かべ、ハルカも無言で銃を構える。
だが、呆れているカヨコもアルの方針に異を唱えるつもりはないようで、観念したとばかりに銃を取り出した。
それを満足げな表情で確認してから、ミラは先生に尋ねかける。
「決まりだね。あぁそうだ。先生、柴大将は?」
「さっきシェルターに避難したから大丈夫、だけど・・・」
「そっか。なら、思う存分やれる」
「・・・その、ほどほどにね?」
たぶん、今まで見たミラのどの戦闘よりもひどい光景になる。
そんな予感から先生は風紀委員会を気遣うように声をかけるが、無言でニコリと笑って返されたことでミラに微塵もそのつもりがないことを理解せざるを得なかった。
「・・・なんだ?一人な上に武器も持ってないのか?こっちは一個中隊級の戦力があるのに、舐めてるのか?」
「イオリ、違います!彼女は・・・!」
当然、チナツを除く風紀委員会とイオリはそれを見て面白く思うはずもなく、チナツの制止も虚しく部隊を展開させる。
対するミラは珍しく口元に笑みを浮かべず、ただ静かに相手の動きを見据えた。
完膚なきまで徹底的に叩き潰すことを心に決め、無慈悲なまでに宣告した。
「私とまともに戦いたいなら、ヒナと全戦力を引っ張り出してこい」
* * *
「う、うぅ・・・なんなんだよ、コイツ・・・」
「ま、まさかここまでとは・・・」
案の定と言うべきか、風紀委員会は全員もれなくボコボコにされた。
それも正真正銘、便利屋がまったく手出しする必要がなかったほどに。
何人かはミラの制圧を後回しにして便利屋を狙おうとしたが、意識をミラから外すとほぼ同時に投擲された瓦礫によって例外なく気絶させられた。
この戦場に立っているのは、ミラただ一人だ。
「はぁ、温すぎる・・・怠けてるの?情けない」
「ミラは大丈夫・・・みたいだね。チナツも、久しぶり」
そんな中、表情に落胆の色を隠せないミラに話しかけてから、先生は自分が赴任されたばかりの時に出会った知り合いであるチナツに軽く手を振る。
その後に、チナツはがくりと肩を落とした。
「先生・・・こんな形でお目にかかるとは・・・先生がいなかったことに気付けなかった、いえ、あの時戦車部隊をたった一人で制圧したはずの彼女を確認した時点で、何が何でも部隊を後退させるべきでした・・・私たちの失策です」
「なんだよ、それ・・・そんなの、聞いてない・・・」
「言う前に仕掛けたのは、そっちじゃないですか・・・」
どっちが悪いのかと聞かれれば、どっちも悪いのだろう。
言うことを聞かずに強行したイオリも、強く言えずに止めれなかったチナツも。
だが、それはミラからすればどうでもいいことであり、それよりも優先すべきことがある。
「さて、と。それじゃあ目的をキリキリ吐いてもらおっか。いったい、どういうつもりでこんなバカ騒ぎを起こしたのかな?」
「それは・・・」
『それは私から答えさせていただきます』
不意に、風紀委員会の端末から通信が繋がれホログラムが現れた。
そこに移っているのは、水色の髪をした風紀委員の少女。
「誰?」
「・・・天雨アコ。行政官で、風紀委員のNo2」
「ふぅん」
ミラの疑問に答えたのはカヨコだったが、大して興味を持っていないような気の抜けた返事を返すのみで視線はホログラムに向けられたままだった。
『えぇ、そこの不良生徒が言った通り、アコと申します。とはいえ、あくまで風紀委員長を補佐する秘書のようなものですが・・・あなたのことは委員長から聞いています、暁ミラさん』
「私のことをヒナから聞いてたんだ・・・まぁ、仮にもNo2ならそんなものか。今はあなたが指揮官ってことでいい?」
『えぇ、おおよそその認識で間違っていません。先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」
いきなり責任の所在をぶん投げられたことに、イオリが思わず抗議を入れる。
だが、アコは毅然とした態度を崩さないまま反論し始めた。
『命令に“まずは無差別に発砲せよ”なんて言葉が含まれてましたか?』
「い、いや・・・状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵投入・・・戦術の基本通りにって・・・」
『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは説明するのが当然でしょう?』
アコが次々に正論を並べることで、とうとうイオリが黙り込んでしまう。
・・・秘書のようなもの、というのは謙遜より誤魔化しのようなものなのだろう。イオリの怯えようから、その影響力が真実風紀委員会のNo2相応のものなのだと伺える。
『失礼しました、暁ミラさんにシャーレの先生』
気を取り直したアコは、本題に入り始めた。
『私たちゲヘナ風紀委員会は、あくまで私たちの学園の校則違反を犯した方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし・・・やむを得なかったということでご理解いただけますと・・・』
「くだらないな」
なおも言葉を並べようとしたアコを遮るように、ミラは一言で切り捨てた。
あまりの容赦のなさに、アコはもちろん先生たちも目を白黒させる。
『えっと、今なんと・・・?』
「くだらない、と言った。いつまで私を茶番に付き合わせるの?それともまさか、ご機嫌取りのつもり?」
『いえ、そんなつもりは・・・』
「そもそも、今回の行動にはツッコミどころが多すぎる」
先生たちが加速度的にミラの機嫌が急降下していくのを肌で感じながら、ミラは出来の悪い後輩を指導するように一つずつ問題点を指摘していく。
「まずはタイミング。まるで便利屋が目的みたいな言い方をしているけど、そもそも少し前に便利屋はもっと大きな行動を起こしている。その時点で足取りを補足してるならもっと早く動いていないとおかしい。まぁ、それが出来ていなくて初動が遅れた可能性もなくはないけどね。だから、これは前提。
次に規模。腕がいいとはいえ、たかだか4人しかいない非公認の部活に向けるには戦力が多すぎる。学区外ならなおさら。ていうか、まるで便利屋をテロリストみたいな扱いをしてるけど、美食研究会とか温泉開発部の方がよっぽどテロリストだよ。私も現役の時は手を焼いたし。あいつらと比べれば、便利屋の悪事なんてどうせ大したことない小事みたいなものでしょ」
「う˝ッ!」
突如ノールックで放たれた言葉の銃弾に、アルが胸を押さえる。
あくまでミラは比較のつもりで言ったのかもしれないが、アルの真面目な性格が災いしてそこまで大それた事件は一度も起こしておらず、絶対的な評価として見てもあながち間違っていないのだ。
アルのリアクションにムツキも笑い出しそうになるが、状況が状況のため頑張って我慢した。先生もまた、「やっぱりアルは真面目な子なんだなぁ」と妙な納得感を覚えて微笑ましそうな表情を浮かべる。
そんな微妙な気配をなんとなく感じながらも、どうにか気を削がれないようにしながらミラは決定的な違和感を指摘した。
「そして最後に、
『・・・・・・』
ミラの指摘に、ホログラムのアコも黙り込む。
それは図星を決め込んでいるというより、計画がバレてしまった上でどう動くかを考えているようだった。
それについては何も言わず、ミラは最後に答え合わせを始めた。
「なら、目的はいったい何なのか。少なくとも、便利屋はただのついで・・・いや、私情を交えた辻褄合わせってところかな。なら、この兵力は何を想定して集めたのか。アビドスだとしても、少数精鋭とはいえ5人相手に過剰戦力なことに変わりはない。だとすれば、想定していたのは
つまり、あなたの目的はシャーレの先生。最初からそのつもりでアビドスに侵攻した」
初めてのミラガチギレ回です。
これも不甲斐ない後輩たちが悪いのじゃ・・・。
今までの?あれはただのお遊びなのでノーカン。
気付いた読者もいるかもしれませんが、実は今回の構成、とあるブルアカ二次創作を参考にさせていただきました。というか、結果的に同じような感じになってしまいました。
最初からこのつもりというわけではなかったんですけど、自分が書きたかった展開といい感じにハマってたので・・・。
もしどの作品か気になる方は、とりあえずコーラルをキめましょう。それですべて理解できます。