どれくらいかというと、いつもの倍のペースで執筆できました。
「私・・・?」
その言葉に最も驚いたのは、先生自身だった。
シャーレという組織と自分に探りを入れようとするのは、まだ納得できる。それが大規模な学園であればなおさら。
だが、探りをすっ飛ばして武力介入をしてくるとは想像していなかった。
一方、ミラに答えを突き付けられたアコは動揺することもなく、あくまで余裕の態度を崩さなかった。
『あらら・・・さすがは聡明な風紀委員長の幼馴染、ということですか。いえ、そういえばカヨコさんもいましたし、悠長に雑談をしている場合ではありませんでしたね・・・まぁ、構いません』
そう言って、アコはパチンと指を鳴らす。
すると、周囲からミラたちを囲むようにして新たな部隊が現れた。
ミラは思わずため息を吐きながらも、特に驚いた様子もなくアコに話しかけた。
「はぁ、そりゃまだいるか」
『えぇ。少々やりすぎかとも思いましたが・・・シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし・・・まぁ、大は小を兼ねると言いますからね☆』
「まぁ、それはさておき、詳しく説明してもらえる?」
『えぇ。先ほどのミラさんのお話は正解です・・・いえ、得点としては半分くらいでしょうか?』
ずいぶん浅い得点だな、とは思っても口にしない。
ミラとしてはすでに今の会話すら煩わしく思い始めているところだったが、先生たちにも現状を把握してもらうには必要なことと割り切ってアコの話に耳を傾けた。
『たしかに私は、シャーレと衝突すると言う最悪のシチュエーションも想定していました。しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが・・・どうやら、難しそうですね。仕方ありませんね。事の次第をお話しましょう』
そう前置きして、アコは事の真相を語り始めた。
『きっかけは、ティーパーティーでした。もちろんご存じですよね。ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです。そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている、と・・・そんな話が、うちの情報部から上がってきまして』
そんなアコの説明を聞いて先生が頭に思い浮かんだのは、先日ブラックマーケットを案内してもらい、ついでに銀行強盗に巻き込んでしまったトリニティの生徒である阿慈谷ヒフミだった。
事が終わって別れる時、たしかに彼女は『戻ったら、ティーパーティーに報告します!』と言っていた。本人はあくまでアビドスの現状について報告するつもりだったのだろうが、事の経緯を説明する都合上、シャーレの先生の話題は免れない。
おそらくは、そのことを指しているのだろう。
『当時は私も“シャーレ”とは一体何なのか、詳しくは把握していませんでしたが・・・ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました』
(確認するのが遅くないです?ていうか、軽くですけど口頭でも説明しましたよね・・・?)
チナツがシャーレのことについてまとめた報告書を提出したのは、あの事件からそう経っていない時のことだ。
だというのに、その間シャーレについてまったく調べようとせず、今更になって報告書を確認するとは、行動が遅いにも程がある。
心なしか、イオリとチナツは周囲の空気が静電気のような何かで肌がチリついたような気がした。
幸か不幸か、ホログラム越しのアコは欠片もミラの様子の変化に気付いていなかったが。
『連邦生徒会長が残した正体不明の組織・・・大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすか分かったものではありません』
「条約・・・あぁ、
アコが放った“条約”という言葉に、ミラがピクリと反応して小さく呟く。
互いに仇敵であるゲヘナとトリニティの間で結ばれる“条約”。それが何を意味するのか知っている生徒は決して多いわけではないが、少なくともミラはそれを知っている側だった。
だからこそ、迂闊にその単語を使ったアコへの評価が0を突き抜けることに繋がったのだが。
『ですから、せめて条約が無事締結されるまでは私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに居合わせた不良たちも処理した上で・・・といった形で』
「・・・そう」
瞬間、その場にいた全員の身の毛がよだった。
さっきまでもかなりキレていた方だったが、それよりもさらに一段と声が冷え切っている。
それこそ、触れてはならない逆鱗に触れてしまったのだと否応なく理解せざるを得ないほどに。
ここに来て、ようやくアコも通信越しでミラの変化に気が付いた。
『えっと・・・?』
「ひとまず、話は聞いてあげたけど・・・聞くに堪えないな。あぁ、本当に気分が悪い。まさか、さっきの茶番の方がマシだったとは思わなかった」
『それは、どういう・・・』
「しかも、こんなくだらないことのために気に入ったラーメン屋を爆破させられるなんて。それも、よりによって先生とラーメンを楽しんでいたタイミングで」
『ラーメン屋?・・・嘘でしょう!?だってここはカイザーが保有している、退去済みの無人地帯のはず・・・!』
最後のアコの狼狽が、とどめとなった。
ミラの顔から完全に表情が抜け落ちると共に、今度は気のせいでも見間違いでもなく、ミラの周囲に赤い稲妻が迸るのを目撃してしまった。
「・・・仮にも風紀委員会のNo2を名乗りながら、カイザーが用意した書類を鵜呑みにして、碌に現地調査もせず、他学区で勝手に戦闘行為?・・・いったい、どれだけ私を失望させれば気が済むんだ」
ミラの怒気は留まることなく上がり続け、稲妻の影響か白髪がフワリと浮かび始める。
直感的にこれ以上関わると碌な目に会わないと察したイオリとチナツは、このまま死んだ振りをすることを決めた。
「怠慢、愚鈍、惰弱。まさか私がいなくなった後の風紀委員会が、ここまで落ちぶれていたなんてね・・・こうなったら徹底的に叩き潰す。先生、アビドスの皆には手出し無用って伝えておいて」
「え?あ、う、うん。わかった」
『アビドス?まさか、すでに来ていたとでも・・・』
「あれだけ派手にやりつつ駄弁っておいて、動いてないわけないでしょ。とっくに取り囲むように潜伏してる。まぁ、さっき言った通り手出しはさせないけど」
ミラの言った通り、すでにホシノを除くアビドスのメンバーは風紀委員会に気づかれないように潜伏していた。
それはそれとして、あまりにもぶちギレているミラに困惑して飛び出すタイミングを軽く見失っていたのもなくはないが。
とはいえ、ミラからの直々に手出し無用と言われたのであれば、結果的に潜伏を続けていたのは正解だったのだろう。
だが、それは裏を返せばたった一人で風紀委員会の大部隊を相手にするということであり、アコからすれば面白いものではない。
『っ、言ってくれますね・・・!ですが、いくら強くても最初の迫撃砲のダメージや戦闘の疲労は存在するはずです!それに、たった一人でこの人数から先生を守るように戦えるはずがありません!このまま数の差で押し切ればいいだけのこと!』
常識、戦術、それらを根拠にアコは強気に部隊を動かす。
だが、アコは理解していない。
目の前にいるのが、常識も戦術も何一つ通用しない、人智を越えた竜の化身であることを。
そして、本気でその牙と雷が向けられていることを。
「来い、有象無象。身の程を解らせてやる」
* * *
それは、先ほどの戦闘を越えるほどの一方的な虐殺だった。
先生に近づけないというだけではない、一切の後退すら許さない蹂躙。
その結果は、残酷なまでに分かりやすく示された。
『う、うそ・・・全滅・・・!?』
言葉通り、誰一人立ち上がれる者がいない全滅。
あちこちにボロボロになった風紀委員が転がり、中心地点である交差点には動けなくなった風紀委員によって積み上げられた巨大な死体(死んでいない)の山が鎮座していた。
その頂点、風紀委員によって作られた玉座に座りながら、ミラは風紀委員会の端末を手の上で回転させて弄びつつアコに問いかける。
「で、どうする?」
『くっ・・・!』
服が所々破けてあるものの疲労の色が見えないミラに対して、用意した戦力のほぼ全てを使いきったアコにもはや打つ手はなく歯噛みするしかない。
その様子を、念のため先生の近くにいるままの便利屋68と戦闘終了を機に姿を現したアビドスの面々は、畏怖と戦慄がない交ぜになった表情でミラを見上げていた。
両方とも、ミラの実力の片鱗は自分たちの目で見ている。同時に、自分たちが見たのは本当にただの片鱗だったのだと理解せざるを得なかった。
ついでに、アビドスのメンバーはホシノが過去これに互角で渡り合ったという話が信じられなくなりそうだった。
自分たちの先輩は御伽噺に出てくる竜殺しの英雄だとでもいうのだろうか。
『・・・えぇ、認めましょう。ミラさん一人を相手に手も足も出ず、シャーレの戦力を測ることすらできなかった。今回は私たちの負けです。ですが、ミラさんの戦闘パターンは把握しましたし、そもそもミラさんがいないタイミングを狙えばいいだけのこと。次はこうはいきません』
「台詞が小物臭いなぁ。もう少し捻ったことを言ったら?」
もはや負け惜しみにしか聞こえないアコの捨て台詞をミラは真正面から指摘する。
アコは恥辱のあまりに顔を真っ赤にしそうになるが、せめてもの見栄を張るために必死に堪えながら続けた。
『覚えておいてください。次こそは、必ず先生を・・・!』
『アコ』
不意に、通信に新たな声が割り込んできた。
気怠げなようで、言葉の節々に芯を感じさせるような声が。
その声に最も大きな反応を示したのはアコだった。
『・・・え?ひ、ひ、ヒナ委員長!?』
「ヒナ・・・?」
ミラの反応はアコと比べれば大人しいものの、その声音には少なからず驚きと焦りがあった。
まだ見つかるわけにはいかないとこの場から去ろうとし・・・だが、すぐに諦める。
『い、い、委員長が、どうしてこんな時間に・・・?』
『アコ、今どこ?』
『わ、私ですか?私は・・・そ、その・・・えっと・・・ゲヘナ近郊の市内の辺りです!風紀委員のメンバーとパトロールを・・・』
「思いっきり嘘じゃない!」
「ミラさんが言ってたとおり、やっぱり行政官の独断だったんですね・・・」
バレバレを通り越してもはや隠す気があるのかどうか怪しいレベルの嘘に、アビドスは各々の反応を見せる。
内心ではまたミラがキレないか冷や冷やしていたが、どういうわけかアコの言い訳には反応を示さずにとある一点を見つめていた。
アコはそんなミラにも気付かない様子で、必死にヒナに言い訳を並べ立てる。
『そ、それより、委員長はどうしてこんな時間に・・・出張中だったのでは?』
『さっき帰ってきた』
『そ、そうでしたか・・・!その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして・・・後ほどまたご連絡いたします!い、今はちょっと立て込んでいまして・・・!』
『立て込んでいる?・・・パトロール中なのに珍しい。何かあったの?』
『え?そ、その・・・それは・・・』
ヒナから畳み掛けられてしどろもどろになりながらも、アコは必死に言い訳を続ける。
もうとっくに手遅れだと気付いていないまま。
「『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないことが?』」
瞬間、通信の声と現実の声が重なる。
・・・ミラがこの場から逃げることを諦めた理由。
ミラが視線を向ける先、瓦礫の山の上。
アビドスや風紀委員を見下すように、あるいはミラと視線を合わせるように。
そこには、風紀委員長である空崎ヒナが立っていた。
仮にもモデルがミラルーツなら、赤い雷くらいは当然だよなぁ?
いや待てよ。
もしかして、隕石を落とすミカはミラバルカンだった?あるいはダラの可能性も・・・?