キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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今回は軽めの休憩回です。
風紀委員会の話で気合いを入れすぎて少し疲れてしまったので・・・。


アビドス編・14

「やっほー。何か情報集まった?」

「バカなんじゃないですか?」

 

ゲヘナ風紀委員とのいざこざがあった数日後、ミラはラルの店を尋ねていた。

ミラはいつもの調子で話しかけるが、対するラルは心の底から信じられないものを見るような眼差しをミラに向けていた。

あえて飾らない言い方をするならば、ドン引きと軽蔑が入り混じった凄まじい表情だった。

 

「なにアビドスの自治区でゲヘナの風紀委員会とドンパチしてるんですかいえミラさんのことですから理由もなくこんなバカみたいというかバカそのものをしでかすとは思わないっていうかむしろ思いたくもないですけどでもこっちのことを少しは考えてくださいすごい騒ぎになったんですよ情報収集に支障がでるとは思わなかったんですか幸いにも今回は大丈夫でしたけど問題は起こってからじゃ遅いんですよねぇ私の話聞いてます?」

「ごめん、アビドスの辺りから聞いてない」

「ほぼ最初からじゃないですか!!」

(どこかで見たことがあるキレ方だな~。あっ、アビドスのアヤネちゃんかなぁ)

 

まるで他人事のように他のことを考えながら、ミラはラルの文句を受け流す。

ラルもそんなミラに何を言っても無意味だと察したのか、息を荒くしながらも渋々と矛を収めた。

 

「はぁ・・・あぁもう、いいですよ。どうせ何を言っても無駄でしょうし」

「ちなみにどんな感じ?」

「赤い雷の目撃証言はそこまで多くありません。そもそも人が少ないアビドス内での出来事ですからね。せいぜいSNSとか動画サイトの噂レベルです。ミラさんと紐付けたものはほぼないと言っていいでしょう。まぁ、ゲヘナ内では原因が分からずとも一時的に風紀委員会が戦力ダウンしたと問題児たちが暴れはしましたが」

「・・・」

 

つまり、ヒナたちの仕事が増えてしまったというわけだ。

ミラは改めて頭の中で謝罪の念を送った。

 

「ですが、ブラックマーケットにも通じている企業の一部は別です。そっちはミラさんとゲヘナの風紀委員会が接触したという話題で持ちきりです」

「カイザーもその一つってこと?」

「はい」

 

酷く結果オーライな話ではあるが、ミラの一暴れは良くも悪くも企業の動きを活発にさせたらしい。

おかげでラルの懐に入る情報も増えたが、ラルからすれば万が一ミラとの関係性を疑われたらと思うと気が気でないのだから、心からミラには大人しくしていてほしいと思っていた。

同時に、その願いが叶うことは未来永劫ないのだろうと諦めてもいたが。

 

「とはいえ、ミラさんがいる近くでは活動を自粛しようとかそういうのはありません。いつも通り黒じゃなければ問題ないとか、どうせ他人事だから気にする必要はないの精神です」

「相変わらずだねぇ。ホシノちゃん関連は?」

「・・・すみません、そちらは何も。ですが、気になる情報はありました」

「ふぅん?」

 

特になにか根拠がある様子はなく、ただ漠然と「気になる」とだけ表現するという、ラルにしては珍しい様子にミラは興味を持った。

 

「聞かせて」

「とはいえ、大したものではありません。カイザーコーポレーションは、設立当初から幅広い分野と良くも悪くも大胆な方針のおかげで成長を続けていました。ですが、とあるタイミングでその勢いはさらに加速しました」

「・・・そのタイミングっていうのは?」

「確証はありませんが・・・“黒服”と呼ばれる人物が相談役になってからです」

 

“黒服”という言葉に、ミラがピクリと反応する。

その様子に何となく気づきながらも、ラルは深く尋ねないようにしながら説明を続けた。

 

「おそらく偽名の類いだとは思いますが、本名を含んだ一切の経歴が不明。ですがその手腕は本物のようで、理事や幹部も一目おいているようです。そして・・・最近は、PMCによく顔を出している、とも」

 

正体不明の人物が、最近アビドスに深く関わっているカイザーPMCをよく訪れている。

たしかに、怪しく見えなくもない。

具体的な証拠がない以上は黒になり得ないが、だからと言って白はまずあり得ない。言ってしまえば、限りなく黒に近いグレーだ。

 

「それと、これもあくまで噂でしかありませんが、アビドスの土地を買収するように進言したのも、その黒服だという話もあります。少なくとも、その時にはすでにカイザーコーポレーションに所属していたようです」

「・・・なるほどね」

 

ラルからの情報を聞いて、ミラは納得したように呟いた。

しれっとアビドスの土地問題を把握していることはさておき、ここまで意味深な反応をされると、さすがにラルもミラが何かを知っているような気がしてならなくなり、思わず尋ねかけてしまった。

 

「・・・何か心当たりでも?」

「そいつ、私が追ってる奴だよ。いや、追っている組織の一員ってところかな」

 

ミラの言葉に、ラルは思わず目を見開いて驚いた。

ゲヘナを、風紀委員会を切り捨ててまで追っている存在がミラにいることもそうだが、何よりもミラがそこまでして2年経ってもなお捕まえることができていないという事実に驚いていた。

 

「なるほど・・・何か因縁があるんですか?」

「直接的にはない。強いて言うならホシノちゃん関連はなくもないけど、それはあくまで私の一方通行だし。でも・・・将来的に、まず間違いなく敵対する」

「だから、下手に力をつけられる前に叩く、と?」

「だいたいそんな感じ」

 

なかなかに物騒な話だ。だが、実際にその必要があるほどの組織なのだろう。

自分から興味半分で聞いたことだが、だんだん関わりたくなくなってきた。

 

「そういう話なら、聞かなかったことにしていいですか?これ以上は何かとてつもないことに巻き込まれそうなので」

「好きにしなー。どうせその時になれば巻き込まれるだろうし」

「確信犯でトラブルに巻き込むのはやめてくださいね?」

「トラブルの方からやってくるってこと。キヴォトス(ここ)じゃ日常茶飯事でしょ?」

「少しは希望を持たせてください・・・!」

 

キヴォトスに救いはないのだろうか。いや、あった試しがないか。ここ最近は特に。

ラルは諦念が突き抜けて一種の悟りに到達しそうになるのをなんとか堪え、今の内に新しい店の計画を頭の中で考える。

その間、ミラもミラで今後どうするべきかを考える。

黒服とやらの目的がホシノなのは、まず間違いないと見ていい。あるいは、ゲヘナの風紀委員会が来た時に遅れた理由も、実は先生たちに内緒で密かに黒服に会いに行っていたからという可能性も十分にある。

 

(・・・やっぱり、今は待つしかないか)

 

その上で、ミラは“待ち”を選ぶことにした。

ホシノが頑なに黒服のことを話そうとせず、自分一人で解決しようとしている以上、ミラの方で黒服の所在を掴むのは非常に困難だ。カイザーPMCや本社を襲撃する手もなくはないが、確実ではない上に成否に関係なく今後が余計ややこしくなる。

ホシノが直接的な手段をとっていないということは、黒服はおそらく狡猾で交渉が上手い。

十中八九「身柄を引き渡せば借金を肩代わりする」くらいのことは言ってるはずだ。

そして、現場には現れずPMCを仲介して取引を持ちかければミラに捕捉されることもない。

2年もの間、ミラの捜索に引っかからなかったのだ。これくらいのことは普通にしてくるだろう。

ホシノの信用を得ようにも、その前に事が起こってしまう可能性が高い。

今出来ることと言えば、地道に情報を集めることくらい。

まさに手詰まりといった状態だ。

もし可能性があるとすれば・・・

 

「・・・先生に、どこまで話せばいい?」

 

頼れる“大人”である先生の手を借りるしかない。

だが、アビドスの後輩たちが知らないだろう情報をどこまで話すべきか、ミラは決めかねていた。

カイザーがきな臭いことはすでにヒナが忠告したが、それとホシノを紐付けられるだけのものがない。

というよりホシノが昔と変わりすぎていて、ミラもホシノが何を考えているのか分かりかねているのが正直なところだった。

だが、先生がホシノのことについて気付いている素振りを見せていない以上、先生にも徹底的に隠していることだけはたしかだ。

 

「・・・ほんと、どうしようか」

「それはこっちの台詞ですよブラックマーケット以外で上手くやっていけるあてがないんですけど!?」

「いっそ思いきってゲヘナに里帰りしてみたら?」

「問題児やテロリスト共に店を吹き飛ばされたくないんですよ!!」

 

至極もっともな意見だった。

 

 

* * *

 

 

「どうしよっかな~」

 

夜も遅くなったアビドスの校舎の中で、ホシノは一人夜空を見上げながら呟いていた。

 

「たぶん、ミラにはバレてそうなんだよねぇ」

 

ホシノは、ミラが自分の隠し事に気付いていることに気がついていた。

今はまだ大人しくしているだろうが、あまり時間をかけていたら勝手に動き出してしまうだろう。

できれば、それは避けたいところだった。

幸い、近い内にヒナの証言を確かめるために郊外の砂漠へと向かうことになっている。

自分が行動に移すとしたら、そこくらいだ。

あとは相手の出方次第といったところか。ついでに、ミラがわざわざアビドスに来た理由の詳細が分からず仕舞いなのも気になるところではある。

 

「まぁ、ずっとじゃないにしても、ミラがいるなら大丈夫だよね」

 

自分がやろうとしている選択は、後輩たちからすれば裏切りに見えるのかもしれない。

だが、皆を守るにはこうするしかないのだ。

自分がいなくても皆は大丈夫だろうし、あの黒服は胡散臭くはあるが律儀だ。約束は守ってくれるだろう。

それになにより、ミラがいる。ミラが時々でもいてくれるなら、これ以上なく心強い。

心残りは・・・まったくないわけではないが、覚悟はすでに決まっている。

自分がアビドスを守ると誓った、あの日から。

だから、迷いはもうない。

 

「それじゃ、おじさんはおじさんのやるべきことをするとしますか」




ラルは基本的に陰キャ寄りですが、知り合い相手にキレたり不満をぶちまけるときは饒舌になります。
早口オタクみたいとか言ってはいけない。

部分的な黒服の経歴は独自解釈みたいなものです。
もし原作の設定と齟齬がありましたら教えてくださると幸いです。
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