でも、そうですよねぇ・・・イベントでスクワッドが取り上げられても学園の方が放置だったんで、そりゃいつかはやりますよねぇ・・・。
はい、思ったより好評だったアリウスif、第2弾になります。
いや、最初はそれっぽい終わり方をしたかったというか、ハリウッド映画の予告的なやつをやりたくてあんな締め方にしたんですけどね?
まさか続編を望まれるとは思わなくてですね。
あの時は本編が途中だったため先送りにしていたのですが、本編が終わり構成も何となく思い浮かんだので、続きを書くことにしました。
「なるほど、“生徒会長代行”ですか・・・」
ミカによるクーデター未遂事件からしばらくして、諸々の事後処理が終わったということでアズサは正義実現委員会から事情聴取を受けていた。
本来であればアズサもクーデター未遂に加えて百合園セイアの殺害容疑もあるため、重犯罪人として扱われてもおかしくない状態ではあるのだが、セイアの死亡は偽装で救護騎士団の蒼森ミネからも証言があること、クーデターも最後はアリウスを裏切って先生や補習授業部の面々と共に戦ったこと、そして拘束された後も素直に言うことを聞いていることから、乱暴な扱いはほとんど受けていなかった。
そして、素直な行動の中にはアリウスの情報提供も多分に含まれている。
アズサとしても共に育った仲間を売るのは心苦しいところがあるが、最後に一斉にミカに攻撃を与えたことで「自分の知らないところで何かが起きようとしているのではないか」と考えるようになったことで、自分の知り得ることはできるだけ話そうと決心するに至った。
だが、
「それで、代行について何か情報は?」
「・・・すまない、代行について知っていることはあまりない」
肝心の計画の中心人物である生徒会長代行・暁ミラに関して、アズサが知っていることはあまりに少なかった。
たしかにアズサはミラ直属の部隊であるアリウススクワッドのメンバーだが、実際はサオリからスカウトされた身でありミラとの接点は少ない。
さらに言えば、ミラの生い立ちを知っているのはスクワッドの中でもサオリとアツコのみで、ヒヨリとミサキすらも詳細は語られていない。
何なら、ミラに関する知識はアリウスの一般生徒とほとんど変わらないとすら言っても良い。
「私から代行について言えるのは、ゲヘナの生徒の特徴を持っていること、アリウスの中で最も強いこと、アリウスを表舞台に出すことを約束していることくらいだ」
「ゲヘナ・・・」
アズサの証言を聞いて、ハスミは思わず顔をしかめる。
もうすでに学園としての機能は崩壊している(仮定)とはいえ、忌み嫌うゲヘナの生徒がトリニティの敷地内でトップに君臨している状況というのは良い気はしない。
だが、アズサは“ゲヘナの生徒”ではなく“ゲヘナの特徴を持った生徒”と言った。
「・・・代行というのは、ゲヘナの生徒なのですか?」
「いや、分からない。そもそも、代行が現れたのは10年近く前のことだ。自治区出身かもしれないが、所属はしていないはず」
「つまり、10にも満たない歳で一つの自治区の内戦を武力制圧した、ということですか?」
「そうなる」
アズサの証言に、ハスミは先ほどとは違う理由で盛大に顔をしかめた。
内乱がどれ程の規模かは分からないが、二つの陣営を小学生くらいの歳の少女が制圧するなど尋常ではない。
同じことができる生徒など、トリニティどころかキヴォトス全体でもいるかどうか。
さらに問題なのは、小学生の時点でそれなのだ。今はいったいどれ程の力を身に付けているのか。
「では、あなた方の代行の目的は?」
「さっきも言ったが、アリウスを表舞台に戻すことだ」
「その方法は?」
「聖園ミカとの繋がりを足掛かりにする、と聞いた。私の転校も、その一環だ」
「ですが、ミカさんはクーデターの主犯として捕まり、アリウスへの意見も二つに分かれています」
ミカがセイアとナギサの殺害を目論んだ重犯罪人であることは、何とか擁護しようとしているナギサを除けばおおよそ一致している。
だが、アリウスに関しては意見が真っ二つに分かれて対立していた。
片や、結果的とはいえクーデターを阻止したことでアリウスとは和解可能と考え、融和を図る穏健派。
片や、生きているとはいえセイアに重傷を負わせたのは事実であり、さらに共犯者であるミカを平然と裏切った輩など信用できるはずがないと排除を主張する強硬派。
強硬派の中心はパテル分派であり、ついでのようにゲヘナの排除も主張に盛り込んでいるため、首長のミカの失態と合わさってティーパーティーの中で孤立気味になっている。
ならば穏健派の意見が通るのかと言われるとそうではなく、穏健派内部でもエデン条約が無事に終わるまで様子を見るべきという慎重派や、かつての惨劇の復讐を恐れて表向きだけ仲良くしておきたい消極派、さらにはアリウスを体のいい戦闘要員として扱おうとしている者まで様々な思惑で溢れかえっており、一言で表せば
各首脳部は余計な混乱を避けるために黙秘を貫いているが、エデン条約が終わるまで油断できないという意見で一致している点では強硬派に寄っていると言えなくもない。
「現状ではアリウスの代行の目的は達成できないでしょう。であれば、代わりの計画があるはずです。それに心当たりは?」
「・・・すまない」
重ねてのハスミの質問に、アズサは申し訳なさそうに首を横に振る。
普通に考えればはぐらかしていると受け取られるだろうが、ハスミは事前に補習授業部に所属している後輩のコハルからクーデター未遂の現場の様子を聞いていた。
コハルの証言が正しければ、本当にアズサは何も知らないのだろう。
ただ、転校生として過ごし、時折アリウスに情報を伝えていた。それだけだ。
「・・・分かりました。では、本日の事情聴取は以上とします。帰って大丈夫です」
「分かった」
ハスミに促され、アズサは席を立って部屋から出ていった。
・・・代わりの計画に心当たりがないのは、嘘ではない。
だが、それでも気になることがあった。
『私たちの戦いはまだ終わっていない』
あの時、たしかにサオリはそう言っていた。
そして、『いつか会う時を楽しみにしている』というミラの伝言も。
まるでトリニティに戦争を仕掛けようとしている物言いだが、アズサは一度もそのような話を聞いていない。
それに、表舞台に出るのが目的であるのなら、不用意に敵を作るような真似をするのは悪手のはずだ。
・・・そのはずなのに、一度浮かんだ可能性が頭から離れない。
もし、もし仮に予感が正しかったら、自分はどうするべきなのか。
いくら考えてもその答えが出ないまま時間が過ぎていき、ついにエデン条約の調印式の日が訪れた。
* * *
アリウスのことで悩んでいたのは、アズサだけでなく先生も同じだった。
『いつか会う時を楽しみにしている』
サオリという生徒から告げられたアリウスの生徒会長代行の伝言を聞いてから、ずっとその時を待っていた。
アリウスが表舞台に戻ることを目的としていることは、アズサから聞いていた。
だから、もしアリウスの代行からその手伝いを頼まれたら、喜んで引き受けるつもりだった。
だが、結局いつになっても代行はおろかアリウスからの接触はなく、とうとうエデン条約の調印式を迎えてしまった。
ミカの伝手が使えなくなった以上、目的を果たすのに最も効果的なのはエデン条約に関わること。
だから調印式の前に接触するだろうと予想していたが、それも外れてしまった。
となれば、気になるのはサオリがアズサに向けて言った『私たちの戦いはまだ終わっていない』という言葉。
あり得るとしたら、トリニティに戦争を仕掛けるということだろうか。
だが、そうであればわざわざクーデターの際にミカを裏切る必要はなかったし、それこそエデン条約の調印式の前に仕掛けるはずだ。
あるいは、トリニティとゲヘナ両方をまとめて相手にできるだけの戦力か自信があるということなのだろうか。
考え続けるものの、答えは出てこない。
「先生、どうかされましたか?」
「・・・ううん、何でもないよ」
結局、考えはまとまらないままヒナタに呼ばれた先生は、いったんアリウスのことを思考の片隅に置いて調印式の舞台である古聖堂を見学を再開した。
「総員、配置についた?」
『あぁ、いつでも仕掛けられる』
「けっこう。なら私の攻撃を合図に始めるように」
『了解』
* * *
「はぁ、なんでこんなことに・・・」
「ちゃんとしろ。気持ちは分かるが・・・」
「ちっ、何故ゲヘナと・・・」
「下品ですよ。同意は致しますが・・・」
式典の最中、トリニティとゲヘナの同盟ということでティーパーティーと万魔殿が向かい合っていたのだが、その空気は決して良くはない、どころかむしろ険悪そのものだった。
元より非常に仲が悪い両校であるため、当然と言えば当然のことだが。
一応、公の場であるため自粛している方だが、エデン条約に文句があるのはどちらも同じことだった。
両校とも反応は二分化しており、目の前の仇敵に殺意寄りの敵意を飛ばすか、不真面目に視線を別の場所に向けているかのどちらかだった。
だが、結果的に異変に気が付いたのは不真面目な後者だった。
「・・・?なんだ、あれ?」
たまたま上を見上げていた万魔殿の中の一人が、古聖堂の屋根に佇む人影を見つけた。
逆光で見えづらいが、辛うじて純白の衣装と白い翼、こめかみから伸びる2対の角が認識できる。
トリニティの生徒ともゲヘナの生徒とも見える何者かの正体を確かめるべく、さらに目を凝らし・・・
次の瞬間、雷の如き轟音と体を貫く電撃、すさまじい衝撃波によって意識を失った。
(・・・いったい、何が?)
崩れ落ちた古聖堂の一角で、ボロボロになりながらも立ち上がったのはゲヘナの風紀委員長の空崎ヒナだった。
警備のために敷地内にいたが、気が付いたら電撃と爆発で短時間意識を失っていた。
爆発は、まだわかる。
おそらく、古聖堂に爆弾が仕掛けられていたのだろう。どちらかの陣営に内通者がいれば難しくはない。
だが、電撃の方は話は変わってくる。通信を遮断するためのEMPや、感電によって一時的に動きを封じる電気地雷などは実用化されているが、広い古聖堂の敷地全てに身体的影響を及ぼすほどの電気をまき散らす兵器など聞いたことがない。
(トリニティに新兵器開発の情報はない。ゲヘナも同じ。だとしたら、第三勢力・・・いや、それよりも・・・!)
襲撃犯の正体を予測しようとするが、情報が少ないということで思考を状況対応に切り替える。
周囲は大量の重傷者が発生している地獄絵図と化しているが、パッと見た限りでは障害が残るような怪我を負っている者はいない。
だとしたら、今この場にいる者の中で最も危険なのは・・・
「・・・ッ、先生・・・!?」
これだけの爆発、無事でいるとも限らない。
先生の安否を確認するため、ヒナはトリニティ側の敷地に向かおうとする。
「ひ、ヒナさん、まだ立ってますねぇ・・・ど、どうしましょう・・・あれを受けて、まだ立っているなんて、すごいですねぇ・・・痛いはずなのに、苦しいはずなのに・・・」
その直前、瓦礫をかき分けるように多数の人影が現れた。
その格好は、ゲヘナともトリニティとも違う、だがどこかトリニティのものとよく似た制服を着ていた。
その姿を見て、ヒナはこの襲撃の犯人を察した。
「・・・アリウス、分校」
かつてトリニティから迫害され、姿を消した学園。
クーデター未遂の際に姿を現した過去の亡霊が、ここにきて銃口を突きつけてきた。
『代行は正義実現委員会の方に向かっている。そっちが終わるまで可能な限り足止めしろ。だが無理はするな』
「り、了解です・・・!」
サオリからの指示を受けて、ヒヨリは自身のスナイパーライフルを構える。
今回の作戦、ヒナの相手をするのは自分ではない。
トリニティとゲヘナの戦力を壊滅させるのが作戦の第一段階だが、二校の最高戦力の相手はミラが担当すると決まっている。というか、ミラくらいしか相手にできない。
ミラが到着するまで、のらりくらり被害を抑えつつ食い止めればいい。
辛い任務ではあるが、倒せと言われるより断然マシだ。今の手負いの状態なら、なおさら。
そう、思っていたのだが・・・
「・・・どきなさい」
「やっぱり、辛いことばかりですねぇ・・・」
手負いになった程度で楽になるような相手ではない。
そのことを理解するのに、それほど時間はかからなかった。
* * *
(いったい、何が・・・)
暗転しかかっている意識の中で、先生は何とかして今の状況を確認しようとする。
覚えているのは、ヒナタに古聖堂の中を案内してもらっている最中、いきなり雷のような轟音が鳴り響いたと思ったら、電気ショックを受けたような衝撃と共にあちこちで爆発が起きたのだ。
現在、先生は瓦礫の中に埋もれており、奇跡的にも良い具合に隙間があったおかげで押し潰されずに済んでいた。
「・・・先生!ご無事ですか!?」
そこへ共にいたヒナタが先生へと駆け寄り、瓦礫を持ち上げて先生を救出した。
ほどなくして正義実現委員会とも合流するが、駆け付けたのはツルギとハスミ、他はごく少数であり、この場にいる以外の生徒たちは先ほどの爆発で戦闘不能に陥っていた。
ゲヘナの姿も見えないことで状況を確認しようとするが、そこへツルギたちに銃弾が襲い掛かった。
「作戦区域に到着。正義実現委員会の残党を発見・・・いや、訂正。残党じゃなく、ツルギとハスミを含む正義実現委員会の真髄だ。それに・・・先生もいる。代行、こっちに来て」
瓦礫の陰から現れたのは、部隊を率いたミサキだった。
正義実現委員会の残党を狩りにきたつもりだったが、幸か不幸か遭遇したのは主戦力に最重要人物である先生だった。
手を抜いていい相手ではないとミサキは即座にミラを呼び出し、アリウスの生徒たちも即座に戦闘隊形を展開する。
対して、この所業に怒りを爆発させそうになるハスミだったが、聞き逃せないワードが聞こえたことでわずかだが思考に冷静さが戻った。
「・・・代行。アズサさんから聞いた、アリウス分校を率いている外部からの生徒ですか。この襲撃は、その代行の指示ということですか?」
「だったら何?」
ハスミの問い掛けにミサキは何も答えず、代わりに瓦礫の陰から銃弾がハスミに襲い掛かった。
「くっ!」
「・・・ハスミ、話は後だ」
「・・・はい、そうですね」
ツルギに引き寄せられたことで被弾を免れたハスミは、ツルギに諭されて完全に冷静さを取り戻した。
アズサの話から、もしや対話も可能なのではと心のどこかで期待していたが、結果はこれだ。
理由がどうであれ、アリウスは戦争の道を選んだ。
であれば、今尽くすべきは言葉ではなく死力だ。
「相手してやるぜ、虫けらども!かかってきなぁっ!!」
凄惨な笑みを浮かべたツルギが、あっという間にミサキとの間合いを詰める。
迎撃は間に合わないと咄嗟に防御したミサキに、ツルギは容赦なく両手のショットガンを斉射した。
至近距離で直撃したミサキは大きく吹き飛ばされ、しかし転がりなから体勢を立て直して両足で踏ん張った。
「あ?」
「間に合ってよかったけど・・・さすがに、無傷とはいかないか」
ダメージを受けた様子を見せるミサキだが、そもそも今の攻撃は一撃で沈めるつもりで放ったものだ。気絶はせずとも、簡単に立ち上がれるものではない。
困惑を隠せないツルギたちに、さらに周囲から銃弾が浴びせられる。
何とか気を取り戻して回避するが、驚くのはこれで終わりではなかった。
「先ほどよりも、威力が上がって・・・!?」
先ほどと違って、着弾場所が爆発が起きたかのように小さく抉れていた。
自己強化の特殊能力を持った生徒は存在しなくもないが、一部隊どころか大隊規模で一斉に強化するなど常識外れも良いところだ。
突然の事態に混乱するツルギたちだったが、先生の側で支援に徹していたヒナタがその正体に勘づいた。
「赤い、雷・・・?」
アリウスの生徒たちに、うっすらとだが赤い雷が纏われている。それは銃弾も同じだ。
赤雷の出所や正体はわからないが、それがアリウスの生徒たちがいきなり強化されたカラクリらしい。
だが、それだけが分かったところで対策などしようもなく、
「これは、不味いですね・・・!」
ツルギとハスミはまだ善戦しているが、それ以外の正義実現委員会の生徒たちがジワジワと削られ、逆にアリウスは他所から続々と集まり始めている。もちろん、赤雷で強化された上で、だ。
このままでは、先生を守りきることができない。
どうにかして先生だけでも逃がすべきかと思案していたハスミたちだったが、そこに瓦礫の上から呼び掛ける人影が現れた。
「こっち!」
「ヒナ・・・!」
声がした方を振り向けば、そこにはボロボロになりながらも機関銃を構えたヒナが立っていた。
怪我を負いながらもなお健在な姿を見て、ミサキは相手をしていたはずのヒヨリに通信で話しかける。
「ヒヨリ、もしかしてヒナを止められなかった?」
『す、すみません、ダメでした・・・代行の支援を受ける暇もなく、全員薙ぎ倒されて・・・』
つまり、ミサキたちが接敵した時点で突破されていたらしい。
今いる場時からほぼ反対の位置とはいえ駆けつけるまでに時間がかかったのは負傷故だろうが、それでも足止めすら出来ないのはさすがキヴォトスで最上位の実力者と言うべきか。
だが、この状況は先生たちにとって間違いなく追い風だった。
「正義実現委員会、先生をこっちに!今は時間がない!」
「・・・分かりました。先生、私たちがここで敵を止めます。後はあの風紀委員長がきっと何とかしますから、急いでください!」
「ハスミたちは!?」
「・・・私たちは、先生の退路を守ります」
「敵の狙いは私たちの足止め。アリウスの代行が来る前にこの場を離れてください。今、トリニティの首脳陣はほぼ壊滅状態です。先生にまで何かあっては、本当に収拾がつかなくなってしまいます!」
生徒たちを置いて自分だけ逃げることに先生は葛藤するが、今の状況、自身が果たすべき責任を天秤にかけ、ハスミに言われた通りにヒナの下へと駆け出していった。
「風紀委員長・・・!先生を、よろしくお願いします!」
背中にハスミの声を受けながら、先生とヒナは最悪の状況を打開するべく共に戦場から離れていった。
先生とヒナが退避してからも戦闘を続けるツルギとハスミだったが、ここにきて徐々にだが状況が好転しつつあった。
アリウスの部隊が先生たちの追撃とツルギたちの足止めで分かれたため、結果的に戦力が分散され各個撃破が容易となったのだ。
さらにはミサキといった指揮官級も後ろに下がったことで、撃破のペースが格段に上がっている。
これなら、先生たちに追い付くのも不可能ではないだろう。
「思っていたよりも手強いですが、これなら・・・!」
「なるほど、話に聞いていたより強いね」
突如として、戦場に新たな声が響き渡る。
声がした方を振り向けば、そこにいたのは純白の装いを身に纏う少女。
髪も肌も、コウモリを思わせる翼すら白い中で、その瞳は血よりもなお紅い。
ゲヘナにも美食研究会のハルナという白髪赤目の生徒がいるが、それとも違うある種の神々しさを感じさせるほどの存在感を放っていた。
思わず動きを止めてしまった正義実現委員会にとって不運だったのは、今いる場が戦場で、目の前にいるのが敵で、それもこの場にいる全員が力を合わせてようやく対抗できるような絶対的強者であるということだった。
「でも悪いね。先生もいないみたいだし、私もそれほど暇じゃないんだ」
「! 逃げ」
いち早く我に返ったツルギが指示を出そうとしたが一歩間に合わず、その場にいた全員が問答無用で赤い雷に呑み込まれた。
一方で、追撃を受けながらも先生を連れて突破口を開いているヒナは、後方支援が展開している陣地まであと少しというところまで迫っていた。
「あと、もう少しで・・・!?」
逃げ切れる。
そう言おうとした次の瞬間、ヒナの進行方向を塞ぐように頭上から白い人影が降り立った。
「君は・・・」
「はじめまして、だね。先生」
反射的に後ろへ飛び退いたヒナには目もくれず、白い少女は先生に声をかける。
目の前の少女の何者は分からないが、このタイミングで自分たちの前に現れたということは、敵で間違いないだろう。
だが、アリウスの生徒と言うには容姿があまりにもゲヘナに寄っている。
初対面のはずなのにどこか他人のような気がしない少女の正体を確かめるため、ヒナは問いかけた。
「・・・何者?」
「私は暁ミラ・・・アリウス分校の生徒会長代行、って言えば伝わるかな?」
「っ、あなたが・・・!」
先生や情報部から存在が示唆されていた、アリウスの統治者。
ゲヘナに所属していてもおかしくない容姿であるにも関わらず、反ゲヘナの感情が強いだろうアリウスで生徒会長代行に就任しているという事実に、ヒナは少なからず衝撃を受けた。
言ってしまえば、ゲヘナの生徒がトリニティのティーパーティーのホストを、あるいはトリニティの生徒がゲヘナの万魔殿の議長を務めているようなものだ。
その限りなく不可能に近い現象が起きているということは、それだけの実力かカリスマ、もしくはその両方を備えているということになる。
万全の状態ならまだしも、果たして今の手負いの体でどこまで相手できるか。
「正義実現委員会のツルギとハスミはさっき排除した。残りの脅威はヒナ、あなただけ。先生も一緒に居るなら、なおさら都合がいい」
「・・・先生をどうするつもり?」
「ひとまずは人質にする。もちろん、あなたを排除してからね」
ミラの宣言に、ヒナは咄嗟に自信の
言い知れない気配を纏っているが、手持ちの武器はリボルバー式の拳銃のみ。
それだけでツルギを相手にできるとは思わないが、それでも射程と威力では自分に分があるはず。
・・・そのはずだった。
「遅い」
「がっ!?」
先生を庇う位置で立ち止まったヒナを、容赦なく空から落ちてきた赤雷が貫いた。
いくら頑丈なキヴォトスの生徒の中でも特にタフなヒナと言えど、落雷が直撃して無事でいられるはずもなく、所々から煙を立ち上げながら倒れこんでしまう。
「ぅ、ぐっ・・・」
「なるほど。ツルギもそうだったけど、なかなかしぶといね。でも、これで終わり」
「がはっ!?」
なんとか最後の力を振り絞って立ち上がろうとするヒナだったが、ミラに赤雷を纏った足で蹴り飛ばされ、大量の砂埃を巻き上げてビルへと激突した。
今度こそ動きがなくなったのを確認してから、ミラは改めて先生に向き直った。
「さて、それじゃあついてきてもらうよ、先生」
「・・・どうして」
「ん?」
「どうして、こんなことを・・・?」
先生からの問いかけに始めは首をかしげるミラだったが、すぐにそう思うのも無理はないと認識を改めた。
先生はアリウスのことをアズサからしか聞いたことがない。
作戦について最低限しか知らされていないアズサから得た知識では、今回の襲撃は暴挙にしか見えないだろう。
そのため、ミラは一からアリウスの現状と襲撃の理由を説明することにした。
「先生だって、アリウスがどういう扱いを受けて来たのか、今更知らないわけじゃないでしょ。体の良いスケープゴートとして迫害され、僻地に追いやられた。学園としての機能は崩壊して、まともな教育を受けることすらままならない・・・さて、そんな目に遭わせたトリニティを、アリウスが恨んでないって言い切れる?」
「それ、は・・・」
「まぁ、みんな良い子でね。今回の戦いに関しては、そういう恨み辛みは抜きにして戦ってくれている。でも、トリニティの方はそうは思わない。なにせ、アリウスの存在はトリニティが犯した罪の証そのものだ。復讐されないと思える保証なんてどこにもない。もしいるとしたら、私たちを取るに足りない存在と見下しているか、あるいは底抜けの考えなしくらいだろうね」
過去の罪とは恐ろしいものだ。清算していないものであれば尚更。
なにせ、いつどのような報いがやってくるのか分からない。
たとえ自分ではない関係者によるものだとしても、罪が重ければ重いほど疑念は増し、現実となった時の反動もまた大きくなる。
もしそれらを認識していないのだとすれば、所詮は過去の遺物だと侮っているか、無知であることを自慢げに振りかざしているかのどちらかだ。
「仮に過去のあれこれを抜きにしても、いきなり現れた一大勢力を無償で受け入れるほど、トリニティは寛容じゃない。私の見た目も
「そんな、こと・・・」
「そんなことはないって?それとも、私がそうはさせない?それは関係ないんだよ。これは、トリニティとアリウスの過去の因縁。例えるならトリニティとゲヘナの確執に近い。長い年月をかけて広がった深い溝を先生が一人でどうにか出来ると思っているのなら、それは思い上がり、傲慢もいいところだよ」
トリニティとゲヘナの不仲は言わずもがな、トリニティ内だけでも同じ学園の中の派閥争いが絶えない。
それらを書面一つでどうにかできるなら、キヴォトスはもっと早く平和になっているだろう。
たとえ新しく生まれ変わろうとしようが、長年続いてきた刷り込みにも近い意識は同等以上の時間をかけなければ変化し得ない。
それこそ、数百年かけて積み上げたものを一撃で吹き飛ばすような何かがなければ。
アリウスにとってそれがミラであり、トリニティとゲヘナにとってエデン条約はそうならなかった。
「トリニティとゲヘナから疎まれ、他学園からは認知すらされない
キヴォトスにおいて外交を含めた政治能力はもちろん重要だが、時によってそれらよりも圧倒的な武力が優先されることもある。
かつてゲヘナの風紀委員会がアコの独断によってアビドスの自治区に無断で作戦行動を起こした際、学園の規模で言えばゲヘナの方が圧倒的に上であるにも関わらず、“暁のホルス”と呼ばれ要警戒されていたホシノを確認したヒナがすぐに謝罪して風紀委員会を退却させたように。
「今回のエデン条約の調印式は、その目的を達成するのに都合が良かったんだ。キヴォトスでも三本の指に入る規模を誇るトリニティとゲヘナ、その二校を壊滅させれば、私たちの存在を無視できない。もし私たちを脅威として排除しようとするなら、それらも全て殲滅する。あるいは統合するっていうのも有りかもね。そうすれば、いつかは私たちの敵もいなくなる、そう思わない?」
もちろん、ミラが言っていることは極論だが、その極論を押し通せるだけの力を持っているとなると話は変わってくる。
現に正義実現委員会と風紀委員会は壊滅し、どこもアリウスのことを無視できない存在として認識し始めている。
おそらく、今頃は危険因子として排除するか、被害を抑えるために懐柔を試みるかで意見が分かれていることだろう。
後は先生さえ確保できれば、ミラたちが付け入る決定的な隙になる。
「さて、長話もしちゃったことだし、さっさとここから移動しないと。先生は私と一緒に・・・」
「ああぁあぁぁぁっ!!」
ミラが先生を連れていこうと近づいたその時、ビルに蹴り飛ばされたヒナが雄叫びをあげながら立ち上がり突撃した。
狙いは先生。
ミラと先生の距離が近すぎるため、誤射する可能性が高いマシンガンは使えない。先生の誘拐が目的であれば、ミラから先生を引き離すのが最良だ。
だが、
「本当、しぶといね」
「あ、がっ!?」
吹き飛ばされた場所からミラの距離が離れていたこと、もはや動かすのが精一杯だったほど体がボロボロだったことが災いし、先生の下にたどり着く前にミラの赤雷によって迎撃されてしまう。
「意識があるだけならともかく、まさかここまで動けるなんてね・・・まぁいい。これでとどめを・・・」
そう言って、ミラはホルスターから銃を抜いてヒナに向ける。
狙いを定めて引き金を引こうとした次の瞬間、瓦礫の影から間に割り込むように救急車が飛び出してきた。
ミラは舌打ちしながら先生を抱えて飛び退さり、その間に扉を開けて中から現れた生徒がヒナに駆け寄る。
「逃がさないよ」
「ダメ!」
救急車ごと確実に始末するために拳銃に赤雷を集束して雷球を放とうとしたミラだったが、何をしようとしているのか分からずとも危険を察知した先生がミラの右手にしがみついて止める。
先生を殺すわけにいかないミラは動きを止めざるを得ず、その隙にヒナを回収したセナと救急車は一瞬逡巡する様子を見せながらも即座に逃走していった。
「・・・逃がした、か。まぁ、先生は確保できたし、放っておいてもいいか」
目標は先生の確保に、正義実現委員会と風紀委員会の排除。
ヒナがあれだけの負傷でも動けた以上、ツルギも完全に無力化できたとは言い切れなくなってしまったが、他はあらかた殲滅したことから目標は達成と見ていいだろう。
だが、やるべきことはまだまだ残っている。
「ミラ、遅くなってすまない」
「構わないよ、こっちも今終わったところだから」
今後のことについて考えていると、ビルの陰から現れたサオリがミラへと近づいた。
「君は・・・」
「トリニティのクーデター以来だな、先生」
唐突な再会に眼を丸くする先生に一言だけ言葉を掛けたサオリは、すぐに視線をミラに移した。
「状況は?」
「こちらもおおよそ片がついた。ティーパーティーと万魔殿の主要人物は全て排除、正義実現委員会と風紀委員会も戦力の大半を喪失した。どれだけ早くても、立て直しには一日以上を要するだろう」
「そう。騙した万魔殿には少し悪いことをしちゃったかな?」
今回の作戦、実は万魔殿からの協力を得ていた。厳密には、議長であるマコトからの個人的なものだが。
古聖堂の構造や巡回の配置などの情報、さらには襲撃用の大量の爆弾まで提供してもらった。
その上で、最終的には万魔殿が所有している飛行船にも爆弾を仕掛け、襲撃に巻き込まれないよう飛び立ったタイミングで起爆した。
まさしく、かつてミカにしたような裏切り行為だが、ミラの顔に申し訳なさは微塵もなかった。
「御し難く度し難い輩を手元に置く必要もないだろう」
「ははっ、分かってるよ。言ってみただけだって」
真面目に指摘するサオリに、ミラは笑いながら同意する。
当然と言えば当然だが、ミラとマコトは別に仲良くてを取り合っているわけではない。トリニティとゲヘナの風紀委員会を排除したいという利害が一致していたからミラから取引を持ちかけただけだ。
もちろん、万魔殿も最初から排除対象であり、それを隠していたが。
調子づかせた方が意のままに操れると踏んだミラのやり方もあるが、アリウスのことを下に見ていることを隠しもしないマコトの態度に殺気を出さないよう我慢するのはサオリにとって困難なことであったし、ミラも「さっさと使い捨てよう」と早い段階で決めていた。
それはともかくとして、
「さて、それよりも他にやることをさっさと済ませよう」
エデン条約調印式の襲撃は、あくまで作戦の第一段階にすぎない。
トリニティとゲヘナの機能が停止している今のうちに第二段階を進めなければならない。
「そういうことだから、少し眠っててもらうよ」
次の瞬間、バチッという音と共に電気が走り、先生は意識を失ってしまった。
* * *
『古聖堂から、赤い雷と共に謎の軍勢が出現!トリニティとゲヘナ両首脳部は壊滅状態となり・・・!』
「これは・・・」
アリウスによるエデン条約調印式の襲撃直後。
アズサの携帯の画面に映っているのは、
そしてアズサの知る限り、赤い雷に関連する人物など一人しかいない。
「早く、行かないと・・・!」
これ以上被害が広がる前に、ミラたちを止めなければならない。
その一心で、アズサは古聖堂へと走っていった。
「・・・そうか、これが君がしようとしていたことだったのか」
夢の空間の中で、セイアは今起きていることを観測していた。
最初からこれが目的だったのであれば、なるほど。トリニティはティーパーティーのホストであるナギサが不在になったことで機能不全に陥るだろう。
代理を立てようにも、ミカはクーデターの主犯として拘束中であり、自身も死亡こそ偽装であるものの動けない状態であることに代わりはない。
パテル分派はそれでもミカを担ぎ上げようとするだろうが、ミカがその気になるかどうかは別の話だ。
唯一どうにかできる可能性がある先生も、今はアリウスによって囚われの身になっている。
現状、全てがアリウス、いやミラの思惑通りに動いている。
このまま事が進めば、アリウスがトリニティとゲヘナを蹂躙するだろう。
しかし、
「だが、なんだろうな。この流れには少し違和感を覚える」
今の状況を見て、セイアは僅かな違和感を覚えた。
一見すれば詰みの状況にしか思えないが、まるで違うパズルのピースを無理やり嵌めたかのように、何かが微妙に食い違っている。
その正体にまでは思い至らないが、もしそれすらもミラの思惑通りなのだとしたら、
「暁ミラ、君の目的は・・・」
いったい、何なのだろうか。
『あー、大丈夫?繋がってる?
よし、なら始めよう。
さて、今はエデン条約調印式が襲撃されたことが話題になっているだろうね。
私は暁ミラ。今回の襲撃を指示した、アリウス分校を統治している者だ。
アリウス分校とは、かつてトリニティ総合学園が生まれる前に存在した学園であり、統合に最後まで反対した結果、表舞台から消された。
他ならぬ、トリニティによってね。
これはその報復戦争であり、同時に独立戦争でもある。
私たちの要望は、主に3つ。
一つ、アリウス分校の独立を認めること。
二つ、アリウス分校の復興を全面的に援助すること。
三つ、アリウス分校の復興が完了するまで、シャーレの先生を私たちの管理下に置くこと。
この3つの要望に対する返答の期限は今から24時間以内とする。
一つ目と二つ目は主にトリニティに向けてのものだから、ゲヘナや連邦生徒会は回答しなくても構わない。
もし期限内に回答を出さなかった場合、あるいは要求を受け入れなかった場合、私たちは攻撃を再開する。
この時は、トリニティとゲヘナだけでなく無差別に攻撃を行う。
また、先生の身柄は現在私たちが預かっている。
私たちにとっても必要な人材だからすぐに殺しはしないけど、強硬手段に出るのなら安全は保証できない。
最後にもう一度。
私たちの要求は独立、復興の全面支援、先生の身柄の3つ。
回答の期限は今から24時間以内。
期限を過ぎるか要求を受け入れなかった場合、無差別攻撃を開始する。
それでは、君たちの賢明な判断を待っているよ』
今回の一話でまとめきるつもりでしたが、話題に乗り遅れないために分割投稿することにしました。
このままだと更新するのが最悪アリウスのストーリー開始時になりかねなかったので・・・。
余談ですが、アリウスifのミラは本編と比べて神秘特化なステータスになっています。
本編と違ってバカ威力の銃を持たなかった結果ですね。
こちらでは“アブソリュート”の代わりに普通のコルトパイソンを所持しています。
その分、赤雷関係の能力は本編よりも小回りが利き、威力と速度も上昇しています。
さらに、赤雷を味方にバフとして付与することも可能で、ミラの鱗を持っていれば媒介にして多少離れていても恩恵を受けることができます。
じゃあインファイトが弱いのかというとそうでもなく、銃無しの殴り合いならツルギと割といい勝負をします。
とはいえ横槍を対処できるほどの余裕はないですし、銃の撃ち合いになったらさすがにツルギが有利になりますが。