キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

20 / 114
アビドス編・15

(・・・なんか見られてるなぁ)

 

あれから数日後、アビドスで長期的な張り込みをするために資金と物資を調達しようとブラックマーケットを巡っているミラだったが、その道中で視線を感じていた。

ミラの純白の容姿は目立つため、顔を隠しても周囲の目を惹くことは多いが、それとはまた違う。

言うなれば監視されているような、尾行されているような、そんな感覚だった。

現に感じる視線の数は多くないが、その割には鋭く遠方からのものも感じる。

 

(近くで尾行してるのが3人、狙撃手が2人・・・いや、観測手や伏兵もいるならもっと増えるか)

 

ブラックマーケットの警備が以前の怪盗の正体として疑っている可能性も0ではないが、もしそうならもっと直接的に質問や取り調べをしてくるはずだ。

そうなると、別の組織という可能性が濃厚か。

 

(候補は・・・ありすぎてわかんないな。こういう時は多方面に喧嘩を売ってると不便だね)

 

基本的に恐れられていることが多いミラだが、だからと言って復讐や報復がないわけではない。不意打ち闇討ちトラップからの奇襲など、考え得る限りの襲撃方法はあらかた受けている。

そのため、今回のこれも「あぁ、またか」くらいにしか思っていない。

気になることがあるとすれば、やけに練度の高さや装備の良さを感じさせるということか。

こちらに存在を察知させないような尾行は言わずもがな、狙撃手もおそらくは1km近く離れている。

少なくとも、技術・装備共にそんじょそこらの不良ができることではない。

ここまでのことができるとしたら、相手の正体は・・・

 

(PMC。直近ならカイザーのところかな。決めつけはできないけど、他に心当たりはないし)

 

アビドスほどではないにせよ、ミラもカイザーが支援していたカタカタヘルメット団をボコボコにしたりと因縁はある。

もしかしたら、怪盗騒動も闇銀行で盗んだリストを欲しがりそうな人物から逆算されてバレているかもしれない。

少なくとも、黒服ならそこまでたどり着いても不思議ではない。

 

(さて、どうしたものか。いまいち規模も分からないし、場所が場所だからなぁ・・・仕方ない。適当な所で迎え撃つか)

 

幸か不幸か、前には武装したカイザーPMCが見えている。あれこれ言い訳をつけて部隊を動かしているようだった。

明らかにミラを誘導するつもり満々だが、考えることが同じなら話は早い。

ミラはその誘いに乗ることにした。

カイザーPMCがいるところを避けるように進んでいけば、廃墟が広がっているブラックマーケットの郊外付近、その中でも比較的大きい廃墟の中の広間にたどり着いた。

 

「さて・・・せっかく誘いに乗っかってあげたんだから、そろそろ出てきてくれてもいいんじゃない?」

 

ミラが声をかけると、周囲の部屋から続々とカイザーPMCの兵士が現れ、あっという間にミラを取り囲んだ。

そして、集団の中から兵士たちと違って軍服を身に纏うロボットのような人物が現れた。

 

「あなたが指揮官ってことでいい?」

「えぇ、カイザーPMCの指揮官兼幹部を務めさせていただいているジェネラルと言います」

 

態度や所作は、真面目な大人といった丁寧なものだった。

だが、言葉の節々から滲み出てくる見下すような声音が、間違いなく目の前にいる人物がカイザーの関係者であると示していた。

 

「まさか、わざわざ指揮官が私の前に出てくるなんてね」

「必要だからそうしたまでです、暁ミラさん」

(そりゃあ、私のことは知ってるか)

 

カイザーコーポレーションほどの大企業になれば、ミラの名前はもちろん、過去に何をしでかしたかも凡そ調べあげることができる。

当然、ミラの戦力も。

ミラが戦いの中で底を見せたことはないが、何ができるのかはだいたい把握しているだろう。

屋内を選んだのも、おそらくはミラの赤雷を封じるため。

とはいえ、近接戦闘が主体のミラからすれば大きなハンデにはなり得ない。

おそらく別の狙いがあるはずだ。

 

「それで、なんの用?こっちは買い物の途中だし手短にね」

「ではそうしましょう。暁ミラさん、我々と来ていただきたい。これは強引な拘束でも理不尽な契約でもありません。ただ滞在してもらうだけです。丁重にもてなす準備もあります」

 

先ほどと比べてさらに柔らかくなった物腰に対して、ミラが抱いた感想は「胡散臭っ!気持ち悪っ!」だった。

あの客を食い物とか家畜としか思っていないような()()カイザーが、もはやへりくだっているとしか思えない態度をとるなど、いっそ悪夢としか思えなかった。

これならホシノの豹変の方がまだ素直に受けとることができる。

そんなわけで、ミラの回答は一択だった。

 

「やだ」

「悪い条件ではないと思いますが?」

「今までのカイザーの所業を思い返してみな?帰るときにバカみたいな金額を請求されても驚かないよ、私は」

 

というより、むしろその方がまだマシだとすら言える。なにせミラであれば、よっぽど法外な金額でなければどこか適当な悪いところから強奪すれば済むだけの話なのだから。

問題なのは、金ではどうしようもないものが担保になってしまう場合。

特に、自分だけではなく知り合いが被害を受けてしまう場合。

では、今の状況で被害者になり得るのは誰なのか。

尾行や監視に気付いた時点で何となく察していたが、やっぱりそうだったかと納得感を覚えた。

 

「はぁ・・・もしかしなくても、黒服の差し金?」

「・・・」

 

ジェネラルの沈黙が答えだった。

答え合わせの代わりなのか、ジェネラルが右手を上げると兵士たちは一斉に銃口をミラに向けた。

そして、今度は威圧するようにジェネラルが口を開ける。

 

「暁ミラさん。我々としても乱暴な手段を使いたくはありません。大人しくこちらに来ていただければ、我々も何もしません」

「んで、そのままダラダラと時間稼ぎをすればいいわけだ」

「・・・」

「黒服がホシノちゃんを狙っているのは検討がついてる。カイザーPMCのお偉いさんにとっても、それは都合がいいから協力的になるだろうね。んで、一番危険な要素である私を事が済むまで拘束しておきたい、ってところかな。先生を狙わないのは少し意外だけど、その辺は今はいいや。まずは目の前の問題からだね」

「・・・これが最後です。大人しく我々の言うことを・・・」

「くどい」

 

ジェネラルが最後通牒を叩きつけるよりも早く、ミラは強い口調で拒否を示した。

そして、ジェネラルは心から残念そうに首を横に振りながら、態度を一辺させた。

 

「そうか、なら仕方ないな。残念だ、暁ミラ」

 

そう言ってジェネラルが右手を振り下ろす・・・よりも早く、ミラの足元の床が連鎖的な爆発によって崩壊した。

 

(あーなるほどね、地下室があったのか。まぁ、だからなんだって話・・・?)

 

一階分の高さくらいなら一飛びで戻れる。

そう思って着地したミラの膝が不自然なくらいに崩れ落ちた。

一瞬困惑するが、同時にやけに濡れている床と部屋の中に充満している妙な匂いに気がつく。

 

(・・・しくったなぁ。毒ガス、いや麻酔か。しかも、かなり強力な奴。それを地下全体にぶちまけて気化させたのか。てかこれ、もしかしなくてもけっこうまずい?)

 

他の部屋に繋がる扉は発見したが、最低でも同じように麻酔ガスが充満してるか、あるいは伏兵も潜んでいるかもしれない。そもそも地下の構造を把握していないため、逃げるのも困難だろう。

まだ動けはするが、これ以上留まるとミラでも昏睡しかねない。

上から銃弾を撃ちこまれても多少なら弾けるし、グレネードは相討ちの危険から使わないだろう。仮に使われても掴んで投げ返すくらいの芸当はできる。

瞬時にそう判断したミラは、地上に脱出するため足に力を込めて飛び上がる。

同時に穴付近で銃を構えていたPMCの兵士たちも銃を掃射し始めた。

ミラは腕で顔を庇い衝撃に備える。

そして、腕に返ってきた衝撃は・・・ミラの想定を上回っていた。

 

「うわっとと!?」

(炸裂弾!?ずいぶんと準備がいいね!)

 

直接的なダメージはなかったものの、被弾した銃弾が爆ぜる衝撃でミラは空中で体勢を崩してしまい縁に手をかけることもできずに再び穴へと落ちていく。

翼を使って空中で体勢を整えたことでどうにか着地できたが、再び僅かに麻酔を吸ってしまったことで足下がふらつき始めてきた。

 

(あまり時間はかけられない、か。博打は趣味じゃないんだけど・・・)

 

ミラはこの場での脱出を諦め、別室からの脱出を図るべくドアを蹴破って別室へと侵入した。

ドアの先はいくつかのドアが並ぶ廊下だったが、案の定突入してきたミラに向かって銃弾がばらまかれる。ここでも丁寧に炸裂弾が使われており、数が多いこともあってミラでも受けきるために足を止めざるを得ない。

だが、それ以上に問題だったのは、銃を掃射している伏兵の正体だった。

 

(ここにいるのは、全部機械兵(オートマタ)か・・・)

 

廊下の先にいたのは、すべてがオートマタだった。

動きは単調なため反対のドアを蹴破ってすぐに射線から外れることはできたが、ミラにとってはあまり良くない状況だ。

 

(ガスマスクを付けた兵士がいてくれればさっさと奪ったけど、それも織り込み済みってことね)

 

地下室がどれほどの広さなのかはミラには分からないが、それでも妨害無しなら余程迷わない限り無事に脱出できる程度の面積だと予想していた。

実際、構造的に廊下を抜けた先かその付近に上に繋がる階段がありそうな構造だったため、伏兵による足止めは必須だろう。

もしそれが生身の兵士であれば、たとえエリートの精鋭であろうと即座にマスクの一つくらい奪って麻酔ガスを防ぐことができただろうが、最初からガスマスクが必要ないオートマタであれば奪えるガスマスクも存在しない。

 

(翼で散らして・・・いや、部屋の隅まで充満してるっぽいし大して意味ないか。このまま無呼吸で動けるのは、あと2,30秒ってところかな。後のことを考えると、麻酔をあと一息でも吸ったら多分アウト・・・これは詰んだかな?)

 

控えめに言って、かなり絶望的な状況だった。

とはいえ、考えている時間もないとミラは迷うことなく博打を選ぶ。

 

(最低でも30秒以内に地上に出れることを祈るしかないか。そのために、まずは10秒で廊下を突破しないと)

 

腹を括ったミラは、逃げ込んだ部屋から飛び出して足がふらつき始めていたのを感じさせない速度でオートマタに接近する。

当然オートマタも反撃のために射撃を開始するが、それと同時に三角跳びで炸裂弾を回避したミラを捉えきれずに接近を許してしまい、5体いたオートマタは5秒足らずで全て破壊された。

それを確認する間も惜しんだミラは真っ先に曲がり角の先にある扉を拳で吹き飛ばす。

扉には爆弾のトラップが仕掛けられていたが、爆発する前に部屋に侵入したため爆風で廊下に押し戻されることはなかった。

とはいえ爆風のせいで止めていた呼吸のリソースは削られ、さらにその隙を突いたオートマタの銃撃によって再び足を止められる。

残された猶予は、あと10秒。

 

(押し通る・・・!)

 

オートマタが陣取っているのは階段の上。そこを突破できれば、地上に出られるはずだ。

動かなくなってきた足に鞭を入れ、全身を叩きつける衝撃を押し返すようにミラは前に踏み込む。

前に踏み出した一歩目をあえて大きく横に動かし、それにオートマタの照準が釣られた一瞬を逃さず反対側に大きく飛び出すことで射線から逃れる。

階段を駆け上がる時間すら惜しんだミラは、跳びあがった先の壁に着地してから間髪入れず壁を砕く勢いで加速してオートマタに飛び蹴りをかました。

ミラの渾身の飛び蹴りにオートマタは耐えれず、火花を散らしながら吹き飛んだ。

そして、その勢いのままミラは地上へと脱出した。

 

「ぷはぁっ!ふぅ、久々にスリルが・・・」

 

どうにか危機を脱したと大きく息を吸い込んだその刹那、設置されていたクレイモアが起爆した。

建物を崩す爆発にはさすがのミラも踏ん張りきることができず、階段の下へと吹き飛ばされてしまう。さらには階段も塞がってしまい、再び地下に閉じ込められる形になってしまった。

 

(瓦礫を吹き飛ばす・・・さすがに分が悪すぎる。他所の天井をぶち抜く・・・構造も分からない状態じゃ自殺行為だし時間も足りない。いっそもう一回最初の穴から脱出を試みる・・・今の状態じゃ無理か。ダーメだこりゃ)

 

ミラはお手上げだと言わんばかりに、吹き飛ばされた勢いで寝転がったまま四肢を放り出す。

周囲には変わらず麻酔ガスが充満しているが、ガスを吸い込むのも構わず息を止めることもやめてしまった。

 

(まぁでも、向こうもあくまで生け捕りが目的っぽいし、いい感じのチャンスがあればって感じかな)

 

負けたにしてはいっそ清々しいとすら言えるような表情で、ミラは今後のことに思考を巡らせる。

 

(にしても、まずっちゃったかなぁ。このタイミングってことは、十中八九ホシノちゃんに何かあるってことだよね・・・ま、なるようになるか・・・先生もいるしね)

 

楽観に他人任せ。

およそ“キヴォトス最強”と謳われているとは思えないいい加減さだが、それでもミラには確信があった。

絶望的と言えるこの状況でも、どうにかなるという確信が。

 

(頑張れ、アビドスの後輩たち。頼んだよ、先生)

 

心の中でアビドスへのエールと先生への期待を送りながら、ミラは体から力が抜けていく感覚に逆らわず意識を暗転させた。

 

 

* * *

 

 

「目標、沈黙しました」

「予定通り拘束しろ。油断はするな、細心の注意を払え」

「了解」

 

ミラが完全に動きを止めたのを確認してから、ジェネラルは部下にミラの拘束を命令した。

命令された部下たちは拘束着と棺桶のような拘束器具を持ち出し、ガスマスクをつけて地下へと降りていった。

未だ麻酔ガスが充満している中での作業を確認しながら、ジェネラルは安堵混じりの声音で呟いた。

 

「“キヴォトス最強”も、我々にかかればこの程度・・・と言いたいが、ここまでしてようやくか。黒服の助言がなければ、どうなっていたことやら」

 

今回の作戦、指揮と実行を担当したのはジェネラルだが、作戦の提案と立案をしたのは黒服だった。

 

『アビドスの小鳥遊ホシノを手中に収める機会が近いです。ですが、彼女によって台無しにされる可能性が非常に高い。ですので、あなたには暁ミラの無力化と確保を頼みます』

 

そう言って、今回の作戦の資料をジェネラルに見せた。

作戦位置である廃墟への誘導に始まり、ゾウすら一息で昏倒する強力な麻酔ガスによる行動の制限、炸裂弾を贅沢に使用した足止め、そして廃墟とはいえ建物ごと爆破することによる閉じ込め。

ハッキリ言って、油断も慢心もしないことをを旨とするジェネラルからしても過剰と思えるような内容だった。

それに、自分の精鋭を利用しない戦術にも納得がいかなかった。わざわざ機械兵を使わずとも、エリートである自分の兵隊を使えば十分無力化できると。

だが、黒服が見せた映像でその認識は吹き飛んだ。

見せられたのは、アビドス学区内におけるゲヘナ風紀委員会とミラの戦闘。

あのヒナがいないとはいえ、紅い雷を以て風紀委員を根こそぎ蹂躙するミラの姿は、いっそ出来の悪いパニック映画のようですらあった。

だが、黒服から『これは現実の映像です』と言われてしまえば、自分は納得するしかない。

少なくとも、それを否定できる材料を持ち合わせていなかった。

半信半疑なまま実行した今回の作戦だったが、結果だけ見れば全て自分たちの想定通りに終わったものの、実際は自分たちにとっても博打だらけな危ないものだった。

自分ならこのような作戦は取らなかったが、あるいは“互いに博打となる状況”でなければミラは乗ってこないと判断したからこそ、この作戦と結果なのだろう。

つくづく黒服の手腕は寒気を覚えるほどに的確だと改めて実感する。

そして、ミラが完全に収容されたのを確認してから、ようやくジェネラルは映像から視線を離した。

部隊に撤収するよう命令を飛ばしてから、映像が消される直前、一瞬だけ拘束器具の中に収容されたミラを見て口を開いた。

 

「悪く思わないでくれ、暁ミラ。これは仕事なのだから。恨むなら慢心していた自分自身を恨むといい」




うわー大変だーミラが捕まっちゃったー(棒読み)
にしても、古龍にも通用した古の睡眠ハメ&固定ダメージ祭りって実はぶっ壊れでは?

それはそれとして、キャラ的にはともかく、能力的にジェネラルは少しくらい報われてもいいと思うの。せめて噛ませ以外の役もさせてあげてもろて。
ちなみに、本作でもたぶんこれが最初で最後のジェネラルの見せ場です。それも黒服からのサポートありきとかいう情けない話ではありますが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。