ミラが捕まっちゃったからねしょうがないね。
前話が思った以上に不評でビビりましたが、必要なことだったので許して・・・。
「委員長、その・・・これは、いつまで書けばよいのでしょうか・・・?」
「・・・今200枚目くらいでしょう。自分で1000枚書くって言ってなかった?」
「それはその、それくらい反省していますという比喩でして・・・」
「口より手を動かしなさい」
「が、頑張ります・・・」
ゲヘナ風紀委員会本部の執務室。
その中でアコはヒナに監視されている中、大量の反省文を書かされていた。
事の発端はヒナが言った通り、アコの方から言い出したことだった。
本部に戻ってアコの前に姿を現したヒナは、それはもう怒りを露わにしていた。ミラに折られかけた心を誤魔化すためにも、いつもより二割増しほど。
それにビビり散らかしたアコは、つい言ってしまったのだ。
『勝手な行動をしてすみませんでした!1000枚でも反省文を書きます!!』、と。
本人はあくまで反省しているアピールのつもりで言ったのだが、だからと言ってヒナがアコの独断を許す理由にはならず、『そう、なら書いてみせなさい』と本気でアコに1000枚の反省文の提出を命令したのだ。
ちなみに、アコから命令されたからとはいえ騒動に加担した幹部であるイオリとチナツは、すでにミラから直接ボコされた分の情状酌量として反省文は100枚で済んでいる。それでも本人たちからすればとばっちり以外の何物でもないのだが。
再び反省文に向き合い始めたアコだったが、ヒナが見ている中での沈黙に耐えられず口を開いた。
「それにしても、委員長の言葉を信じていなかったわけではないのですが・・・彼女、暁ミラさんはいったい何者なんですか?まさか、あそこまで手も足も出ないなんて・・・」
「私もミラの全部を知っているわけじゃないけど・・・才能って言うよりも、生まれながらに生物として違うって感じね。例えるなら、猫とライオンみたいなものかしら」
「大袈裟と言えないのが怖いですね・・・」
それを言うならヒナもライオン寄りの存在ではあるのだが、その中でも個体差があるということなのだろう。
つくづくミラさえいなければと歯噛みするアコだったが、その思考を読んだヒナが新たな情報を口にした。
「でも、たとえミラがいなくても危なかった。あそこにはシャーレの先生がいたし、何より小鳥遊ホシノもいた。一応、ミラはあれでも加減してくれたから翌日には全員復帰できたけど、もし相手がホシノだったら、加減無しの戦闘になって大半が戦闘不能になっていたはず」
「小鳥遊ホシノ、ですか?そういえば、ミラさん関連でお知り合いのようでしたが・・・そんなにすごいお方なのですか?」
通信を切っていたためアコが会話に参加することはなかったが、ヒナたちの会話は通信越しに聞いていた。
その限りはとても警戒しなければならない対象には見えなかったが、ヒナはその認識の誤りを訂正する。
「実際に会ったのは、あの時が初めて。でも2年前、ミラと互角に渡り合ったのが彼女」
「えっ、そうなんですか!?」
「横やりが入って中断したみたいだから、お互いに全力を出したわけじゃないと思うけど、様子見でもミラと互角に戦えたのは、私の知る限り小鳥遊ホシノしかいない。他にできるとしたら、トリニティの剣先ツルギかミレニアムの美甘ネルくらいでしょうね」
どちらもゲヘナの空崎ヒナに匹敵する、キヴォトスの各三大学園のトップ戦力であり、その名前は校内に留まらずキヴォトス中に知れわたっている。
当然アコもその名前と武勇は知っているが、廃校寸前の弱小校であるアビドスにそれだけの実力者がいるという情報は聞いたことがなかった。
「そうだったんですか・・・すみません、知らなかったです」
「ある時期を境に活動報告が送られなくなったから、知らなくても仕方ないわ」
「そうなんですか?」
アコの問いかけに、ヒナはこくりと頷く。
そして、当時のことを懐かしむように昔のホシノについて語り始めた。
「・・・小鳥遊ホシノ。『天才』と呼ばれた、本物のエリート。当時は“暁のホルス”と呼ばれていて、攻撃的な性格と戦術から2年前のゲヘナの情報部でも潜在脅威としてリストアップされていた。ミラと戦闘になったのも、一番悪いのはいろんなところからマークされていたのに無断で侵入したミラだけど、先に噛みついたのは小鳥遊ホシノからだって聞いてる」
「その、ミラさんは当時から“キヴォトス最強”として他校からマークされていたんですか?」
「そこまで広く知られていたわけじゃないけど、その認識で間違ってないわ」
一部とはいえ、すでに最強として名前が知られ始めていた生徒にも容赦なく牙を剥くその姿勢は、たしかに要注意対象としてマークされるに相応しい危険人物だと言える。
だが、アコにはどうしてもその姿がイメージできなかった。
「その・・・本当なのでしょうか?だいぶこう、のんびりした雰囲気と言いますか、ミラさんと比べて覇気のようなものを感じなかったのですが・・・」
「アコ、外見で相手を判断するものじゃない・・・でも、それは私も驚いてる。たしかに2年前とはずいぶんと空気が違った。詳しいことが知りたければ、情報部の昔の資料を漁ってみるといいけど・・・今は反省文に集中しなさい」
「はい・・・」
ヒナに注意されて、アコは再び反省文に集中し始める。
それを尻目に、ヒナはアコには言わなかったホシノの情報について頭の中で考えた。
それは、活動報告が途切れるきっかけになったであろう一件。
彼女の先輩でもあった前生徒会長が、ヘイローを破壊された状態で発見されたという事件。
そして、その発見者が他でもないホシノだった。
あのような衝撃的な事件があって、それでよりにもよって慕っていただろう先輩を目の前で失ってしまったこと、それから活動報告が途切れたことで、てっきりアビドスから離れたものだと思っていた。
だが、実際はあの場に現れた。
当時資料で見た面影はほとんど残っていなかったものの、たしかにアビドスに所属していた。
いったい何を思って留まり続けているのか、ヒナには理解できないが、もし自分が同じ立場・・・ホシノにとっての前生徒会長の代わりに、自分にとってのミラに置き換えたとして、果たして自分はどうなるだろうか。
そんな場面を想像しようとして・・・すぐにやめてしまう。
自分には想像できないし、したくもない。
ミラが失踪しただけでも、ミラから託された言葉がなければ崩れ落ちそうになってしまったのだ。
もし何かの拍子に、ヘイローが砕けたミラを発見してしまったら。
その時はきっと・・・自分は耐えられないだろう。自分の大切な幼馴染を失ってしまった衝撃で、無気力になるに違いない。
あるいは、ホシノが失ったものもそれだけ大きかったかもしれない。
にも関わらず、ホシノはそんな素振りを一切見せずに振る舞いながら、アビドスに残っていた。
いったいどれほどの覚悟があれば、そんな選択ができるのか。
それを推し量ることは、ヒナにはできなかった。
* * *
「けほっ、けほっ・・・うわぁ、ここも砂だらけじゃ~ん・・・」
ある日の夜。すでに月が昇っているほど遅い夜に、ホシノと先生は廊下で2人きり話をしていた。
2人の様子におかしな部分は見られないが、昨日から様々なことがあった。
始めに、ヒナから聞いた情報を基にした砂漠地帯の調査。それによって砂漠地帯のいたるところにカイザーPMCが基地を建造していたことが判明した。
そこで最初は建造物の正体を見抜けなかったアビドスはPMCの兵士と戦闘。さらにカイザーPMCの理事とも接触した。
そこで、この戦闘だけが原因というわけではないが、カイザーPMC理事がカイザーローンも担当していたことから不当に利子率を釣り上げ、撤退せざるを得なくなった。
だが、これはあくまで昨日起こった出来事で、この状況のきっかけの一つにすぎない。
2人の本題は、調査をする前。
シロコがホシノのカバンから見つけてしまった、ホシノの退会・退部届。
日ごろからアビドスのことを大事にしていたはずのホシノが、なぜそれを準備していたのか。
シロコが「何か隠し事してないか」と問いただしてもホシノはのらりくらりと躱すだけだったため、今回の件がきっかけにもなって他のメンバーがいなくなったタイミングで先生から話を切り出したのだ。
「ま、仕方ないんだけどね。掃除しようにも、そもそも人数に対して建物が大きすぎて・・・砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど・・・そんな記憶も実感も、おじさんにはまったくないんだよね~」
傍から見れば立派に見える校舎だが、これでも砂漠化から逃れるために引っ越し続けてきた別館の一つで、本館はすでに砂漠の下に埋もれてしまっていた。
かつては巨大なオアシスもあったらしいが、それも完全に干上がってしまい見る影もない。
最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校。
それが、ホシノが入学した頃のアビドスであり、それは今も変わっていない。
せっかくの青春も、ここではすべてが砂色になってしまう。
そのはずなのに・・・先生から『この学校が好きなんだね』と指摘されて否定できない自分がいる。
たしかに、そうなのだろう。なんだかんだここに留まり続けているし、何よりたった4人とはいえ自分を慕ってくれる良い後輩にも恵まれている。
それを思えば、たしかに自分はアビドスが好きなのだろう。
「・・・先生、正直に話すよ」
だから、観念するしかないと肩を竦めたホシノは、後輩たちに隠していたことを先生に打ち明けた。
実は、アビドスに入ってから現在までカイザーコーポレーションからスカウトを受けていること。
スカウトの条件にアビドスの借金の半分を肩代わりすると言われていること。
その人物は、自分から名乗らなかったがホシノは勝手に“黒服”と呼んでいて、どこか不気味であること。
そして、今までずっとスカウトを断り続けているが、どうしようもなくなってしまった時のために退会・退部届だけは用意していたこと。
「ミラみたいに一人で何でも出来たらよかったけど、さすがにそれは難しかったからね~」
「ミラのこと、信頼しているんだね」
「まぁね~」
人格面に何も問題がないかと聞かれると「問題の方が多いかなぁ」と言わざるを得ないが、圧倒的な実力と比較的善良な思考回路(ゲヘナ基準)を持っているのは確かなのだ。
それになにより、ホシノはミラと一度戦ったことがある。
「喧嘩で友情を育む不良じゃないけど、戦ったからこそ分かることもあるし、ミラのことは信じてるよ。だから、うん。これはもういらないかな~」
そう言って、ホシノは退会・退部届をゴミ箱に捨てた。
「ミラがいるなら、まだどうにかなりそうだね。こっちの用事を押し付けちゃうようなものだし、おじさんの方から聞いてみるよ~」
なんて事のない調子で言って去ろうとするホシノの後ろ姿は、どこか一人で全部を背負っているような、元気のないものに見えた。
「ホシノ!」
だから、先生は咄嗟にホシノを呼び止めた。
「な、なに・・・?」
「私が大人として、どうにかする!だから・・・!」
「・・・うへへ。私、そんなに元気なさそうだったかな?・・・うん。ありがとう、先生」
そう言うホシノの表情は、どこか安堵したような、すっきりとした笑みのようだった。
だが、それでも先生はそんなホシノの笑みがどこか無理をしているように見えたが、それ以上のことは追求できず、今度こそホシノは先生に背を向けて去っていった。
その翌朝、アビドスの校舎にホシノの姿はなく、代わりに手紙とホシノの名前が書かれた退会・退部届だけが残されていた。
さて、今日には過去ホシノ編が始まりますか。
内容によってはこっちのアビドス編の筆がさらに進んでしまうかもしれません。