キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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アビドス編・18

アビドス砂漠にいくつか存在する、カイザーPMCの軍事基地。

中央の軍事基地を中心に、東西南北に建てられた大隊規模を収容できる中規模の拠点と、各所に点在する小規模な拠点。

その中でも最も中央基地の近くに存在する北方基地、その付近で3人の人影が基地を見渡していた。

 

「・・・はぁ」

『委員長、カイザーPMCの増援を発見。一個大隊の規模です』

「分かった。準備して」

「どうして私もここにいるんだ・・・」

(イオリはともかく、何故私まで・・・)

 

その正体は、ゲヘナ風紀委員会のヒナとイオリとチナツ、さらにはアコも無線で3人をサポートしていた。

ここに来た理由は、ひとえに先生から頼まれたからだ。

今この時、アビドスが先生と共に中央の基地に向けて小鳥遊ホシノ奪還作戦を敢行している。

便利屋68もその援護に参加しているが、周囲からの増援で包囲されてしまってはさすがにひとたまりもない。

そのため、先生自らゲヘナ風紀委員会の本部に訪れてヒナに増援を頼んだのだ。

本来の仕事を中断して来ている上に、治安維持や外交問題その他諸々の関係で現場に3人後方支援1人という少人数体制になっているが、それだけで十分とヒナは判断した。

とはいえ、何事もなかったのかと言われるとそうでもないのだが。

 

「イオリは先生にあ、足を舐めさせたんだから、参加しないといけないでしょ」

「いや、私だって本気だったわけじゃ・・・」

 

アビドス関連でいざこざがあったとはいえ、ヒナに直接会いたいと言われて「はいそうですか」と簡単に通すわけにはいかない。

それに何より、この時先生は他に生徒も連れず一人でやってきていた。

そのため、イオリは少し調子に乗ってしまったのだ。

屈辱的な要求をすれば、すぐに帰るだろうと。

そう考えて「そうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたら・・・」と言おうと思ったら、先生は言っている途中でノータイムで土下座をしてイオリの足の舐めたのだ。

これだけなら、まだいい。せいぜい自分が先生の変態行為の被害に遭ったという結果が残るだけだ。

だがタイミング悪く、ヒナがイオリのところに現れて現場を目撃してしまったのだ。

最初はただ先生が土下座をしているだけかと思いきや、イオリに促されてよく見てみれば一心不乱にイオリの足を舐める先生の姿を目撃してしまい、さしものヒナも思い切り顔を赤くしてしまった。

すでにかなりげんなりしているイオリだったが、それに喝を入れたのは通信のアコだった。

 

『せっかく委員長が「反省文の代わりに」ということにしてくれたんですから、愚痴はそこまでにしましょうね?』

「いや、私はもう反省文は書き終わってるんだけど。半分も終わってないアコちゃんと一緒にしないで」

『私はあなたの10倍も書かないといけないんですから当たり前じゃないですか!?少しは部下らしく上司のために働いてください!』

「清々しいくらいに自分の尻拭いを押し付けてくる・・・!?」

(・・・本当に、どうして私まで・・・)

 

アコとイオリが漫才を繰り広げている中、チナツは改めて自分が置かれている状況に疑問を覚える。

チナツもまた、イオリと同じく反省文はすでに書き終えている。

イオリは先生に失礼なことを要求したようだが、自分は何も言ってないどころか現場にすら居合わせていない。

にも関わらず、急にアコに呼び出されヒナにも強制連行され、あれよあれよと言う間に他校の学区の砂漠でカイザーPMCの一個大隊と戦闘する羽目になってしまった。

いったい、どうしてこんなことになってしまったのか。

強いて言うなら、運が悪かったのだろう。

あるいは、“連帯責任”という名の無責任な言葉の被害者とも言えるかもしれない。

できることならため息の一つでも吐きたいところだが、迂闊にそんなことをすればヒナに睨まれてしまいそうなので、代わりに別のことについてヒナに尋ねた。

 

「それにしても、あの暁ミラがカイザーPMCに囚われている、ですか。にわかには信じがたいですけど・・・」

 

先生の本題はあくまでアビドスの手助けとしてのカイザーPMCの足止めを頼むことだったが、それはそれとしてミラがカイザーPMCに拘束されているという情報もヒナに打ち明けた。

すぐに危険な目に遭うようなことはなさそうだったが、それでも念のためにミラのことは気にかけておいてほしい、と。

それを聞いたヒナは「そう・・・わかったわ、先生。情報ありがとう」とだけ返したが、実際は幼馴染のことが心配で気が気でないのではと周囲は心配していた。

それに、前の件で完膚なきまでに叩きのめされた印象が強く、それ故に規模が大きいPMCの兵士たち相手に後れを取ったというイメージがどうにも湧かなかった。

ただヒナは違うのか、ため息交じりに自分の考えを話し始める。

 

「あり得なくはないと思う。油断、とは少し違うけど、ミラって相手のやってくることはだいたい受けたがるから・・・」

「自分ならどんな戦法でも問題ないと思ってるから、ですか?」

「そういうのもなくはないけど、どっちかと言うとむしろ追い詰められている状況を楽しみたがる節があるって感じね」

 

絶対的強者だからこそと言うべきか、ミラは戦闘を一種の娯楽としている。キレているときは別として、戦闘の最中に笑みを浮かべていることが多いのも、心から楽しんでいるからだ。

だが、ミラの力は他と比べてあまりにも突出しており、本気を出せばだいたいの相手は一瞬で勝負がついてしまう。

ミラは無双したいわけではないのでそれは本意ではないのだが、だからと言ってあからさまに手を抜くのは相手に失礼にもなるし、何より自分が面白くない。

だから、ミラは自分に一つの縛りを入れている。

すなわち、『相手が自分より明らかに格下の場合は、初手を相手に譲ってから行動する』と。

相手が用意した自分に勝つための戦術を、すべて受け切った上で倒す。

それが、ミラが自分に課した戦う上での決まりだった。

 

「今までの不良相手だとせいぜい不意打ちとかトラップくらいだったから、特に問題になったことがなかったのよね。でも、今回の相手は生徒とは装備も資金も桁が違うPMC。それもあのカイザーの系列企業なら、ミラの想像を上回る何かを用意していても不思議じゃない。例えば、強力な麻酔とか」

「・・・効くんですか?」

「私も聞いたことがないから分からないけど、実際に捕まったってことは効果はあったってことでしょうね」

 

あまりにも淡々と事実を述べるヒナに、チナツだけでなくアコとイオリも思わず不信感を覚えそうになる。

幼馴染みが幽閉されているはずなのに、あまりにも平静すぎると。

だが、その理由は極めてシンプルだった。

 

「まぁ、それでもミラなら大丈夫よ。私たちが何もしなくても勝手に起きるわ」

 

信頼、というよりも予定調和か確定事項であるかのような口調で断言するのとほぼ同時。

砂漠故に雨雲一つないにも関わらず、どこからともなく雷鳴が響き渡った。

 

 

* * *

 

 

「・・・何だか騒がしいな」

「何か起こったのか?」

 

ヒナたちが見据えている北方拠点、天幕の中でミラが収容されている棺桶の前に立っている二人の兵士は拠点の中がにわかに慌ただしくなっていることに気づいた。

自分たちの役目はこの棺桶のようにしか見えない拘束器具の監視だが、内部には定期的に麻酔ガスが流し込まれている。

少しくらい目を離しても大丈夫だろうと、一人がその場を離れて近くの兵士に声をかけた。

 

「おい、何が起きてるんだ?」

「理事がいる中央基地がアビドスに襲撃されている!ここの対デカグラマトン大隊にも援軍要請が出された!」

「なにっ!?」

 

予想していなかった展開に、見張りの兵士は思わず驚きの声をあげる。

厳密には、アビドスの襲撃自体はすでに聞かされていたため、そこまで驚きはない。だが、まさか自分たちに応援要請が出されるほど追い詰められるとは思っていなかった。

 

「俺たちはどうすればいい!?」

「お前たちは監視を続けろ。最低限の人員だけ残して、他はすべて援軍に回す。どうせ麻酔で起きやしないんだ。4人もいれば・・・」

 

そこまで言って、話しかけられた兵士は口を閉じて辺りを見回し始めた。

 

「おい、どうしたんだ?」

「なんか・・・雷の音が聞こえないか?」

「雷?気のせいじゃないのか?空は晴れてるし、砂嵐だって起きて・・・」

 

見張りの兵士はバカなことだと一蹴しようとしたが、よく耳をすませば他の兵士たちが走り回る音に紛れてゴロゴロと遠くで雷が鳴っているような音が聞こえた。

ついでに、バチバチとすぐ近くで何かが帯電しているような音も。

 

「おっ、おい!早く来てくれ!!」

 

嫌な予感を覚えていると、中で待機していたもう一人の見張りが慌てて外にいた二人を呼び出した。

二人が天幕の中に入ると、そこでは棺桶が赤い雷を帯び始めていた。

最初は静電気程度だったのが、10秒も経たないうちに目に見えるほどの電流へと変化していく。

 

「っ、何をしてる!すぐに装置を起動させて麻酔で眠らせろ!」

「すでにやってる!でも治まらないんだ!!」

 

慌てている内にも赤雷の規模は大きくなっていき、周囲の機器を破壊していく。

だが、ある程度大きくなったところで次第に収束していき、球体を形作っていく。

その球体も、最初はバランスボールほどの大きさだったのが次第に小さくなっていき、ついにはゴルフボールほどのサイズにまでなった。

だがそれは、縮小ではなく圧縮。破壊を撒き散らす雷のエネルギーが凝縮されているもの。

それが解き放たれたら、いったいどうなってしまうのか。

 

「たっ、退避!今すぐ逃げ・・・!」

 

慌ててその場から離れようとしたが、結果的に無意味だった。

赤い球体が地面に落ちた次の瞬間、稲妻を含んだ衝撃波が拠点全域を包み込んだ。

 

 

 

「ぷふぅー。あ゛~、肩凝りそう。まさか銃ごと収納するなんて・・・」

 

天幕は残らず吹き飛び、誘爆した弾薬や爆弾によってあちこちに小規模なクレーターが生まれ、カイザーPMCの兵士たちが呻き声をあげることしかできずに横たわる死屍累々の地獄の中、拘束器具の前面を蹴り飛ばして無理やり出てきたミラは大きく息を吐きながら体を伸ばす。

この惨劇を生み出した張本人は、肩をコキコキと鳴らしながら周囲を見渡して呟いた。

 

「あ~あ、捕まり損だったか。やっぱり博打なんて慣れないことはするものじゃないね」

 

もし一人でも生き残りがいたら発狂してしまいそうな軽い調子で、至極残念そうにミラは自分の行いを反省した。

先日、まんまとカイザーPMC、というより黒服の罠に引っかかったミラだったが、本人としては逃げ延びようが捕まろうがどちらでもよかった。

もしあそこで逃げ切ったら、そのままカイザーPMCをボコして情報を吐かせればそれでよし。

万が一捕まってしまっても、ここまで手の込んだことをしたのなら直接自分を見に来るかもしれない。

少なくともホシノとは何度も接触しているようだったから、自分のところにも来るだろうと思っていた。

麻酔も捕まった翌日には克服し、後は黒服が来るのを待つだけだと、そう思っていた。

だが、想像していた以上に黒服はミラに対して慎重だった。

徹底して自分の近くに来ようとせず、自分のことに関する痕跡すら残そうとしない。のんびり待っている間に、アビドス対カイザーPMCの戦いが勃発した気配を感じてしまった。

ここまで待って来る気配がないなら、もうアビドスにいる間は会うこともないだろう。

そう判断して行き当たりばったりな計画を諦めたミラは、こうして派手に脱出することにしたというわけだ。

 

「にしても、なんでわざわざこんな棺桶みたいな形にしたんだか。中のクッションも無駄に心地よかったし、実は遊び心で溢れてたりするの?いや、それはそれで邪悪だな」

 

箱とクッションの間に絶縁体を挟んでいたのはまだわかるが、果たしてクッションにこだわる理由があったのだろうか。

クッションのおかげで背中に背負っている銃の固さはそんなに気にならなかったが、それはそれとして弄ばれているような感じがして気にくわない。

 

「さて、それじゃあ私もホシノちゃんのところに行くとしようかな。可能性が高いのは、中央の軍事基地あたり・・・」

 

このむしゃくしゃを存分にカイザーPMCにぶつけてやろうと頭の中で周辺の地図を広げていると、不意に地面が揺れ始めた。

地震かと思ったが、それにしては小刻みで長く揺れている。

揺れは少しずつ大きくなっていき・・・少し離れた場所で、砂煙と共に巨大な何かが出現した。

 

「オオオオオオォォォォ!!」

 

雄叫びをあげながら現れたそれは、一言で表すなら“機械でできた巨大な蛇”だった。

ただし、目は4つ、口の中には何かの発射機構と物騒な出で立ちであり、何より機械であるにも関わらず頭上にはヘイローが浮かんでいた。

あまりにも異質。

そうとしか言えない存在が目の前に現れたミラは、口元に大きな笑みを浮かべた。

 

「・・・へぇ、デカグラマトンの預言者、だっけ。話に聞いたことはあるけど、実物を見るのは初めてだなぁ」

 

デカグラマトン。

嘘か真か、神の存在を証明し、新たな神を創り出すために生み出されたAI。

だが、その資料は研究室ごと水没しており、ゲヘナでも古い文献でのみその存在が示唆されている。

目の前にいるのは、デカグラマトンによって感化された10のAIである“預言者”のうちの1体だろう。

以前ゲヘナで見かけた情報から推測するに、今見えているのはビナーだろうか。

だが、実在を証明するに足る証拠は発見されておらず、文献を知る一部の生徒も空想の産物としか思っていなかった。

ミラも含めて、今この時までは。

 

「まさか、実在していたとはね。さて、このタイミングでここの近くに現れたのは、ただの偶然なのか、それとも意図されたものなのか。どっちにせよ、あれは先生たちのところに行かせない方が良さそうかな」

 

もし誰かが意図して放ったのであれば、十中八九黒服の仕業だろう。だが、操っているという割には現れてからの行動に一貫性がなく、辺りを見回しては潜って移動を繰り返している。

おそらくは、できるのは指定場所に出現させるだけで細かい指示までは出せないのだろう。

つまり、何がなんでも任務を遂行するような気概はアレにはない。

 

「さて、まずは小手試しってことで」

 

ミラがそう言うと、物は試しと言わんばかりにビナーに数多の赤雷を落とし始めた。

特に頭部を中心に、大きいと言うよりは長いビナーの全身に満遍なく雷が降り注ぐ。

だが、およそ100発ほど直撃させたあたりで止めてみると、煩わしそうに頭を振り身を捩らせているが、目立ったダメージは見られなかった。

 

「ふぅん?機械に雷は効くものだと思ってたけど、対策済みってことかな。いや、あの装甲にヘイローまで付いてるし、いろいろと試してみないと分からないか。ひとまず手っ取り早そうなのは、あの装甲をぶち抜けるだけの質量か貫通力」

 

そう呟いたミラは、ニヤリと笑って両手を後ろに回して銃のグリップを握り、引き抜いた。

ミラが手に持った銃もまた、ビナーに負けず劣らず異質なものだった。

見かけは赤く塗られたリボルバー式の拳銃だが、そのサイズはミラの腕ほどあるのではと錯覚するほど巨大なものだった。

キヴォトスで最大にして最強の拳銃“アブソリュート”。

実戦で使われたのは片手の指の数ほどもない、最強の象徴にして愛銃が今、ミラの手に握られていた。

 

「これを使うのはいつぶりかな。ホシノちゃん・・・は、使う前に中断しちゃったんだっけ」

 

銃撃戦が日常茶飯事で撃たれても基本擦り傷程度ですむキヴォトス基準で見ても過剰火力なため、用意したはいいものの陽の目を見る機会がほとんどなかった愛銃。

ホシノ以来ようやく現れた使うに不足のない相手が現れたことで、ミラの体から歓喜の赤雷が溢れ出る。

ここでようやくミラの存在に気が付いたビナーは、ミラがいる拠点の方を振り向いた。

ビナーからすれば豆粒程度にしか映っていないだろうにも関わらず、しっかりと視線を向けられている気配を感じ取ったミラは口元に浮かぶ獰猛な笑みをさらに深くした。

 

「デカグラマトンの預言者とやり合うなんて、またとない機会だ。思う存分、楽しませてもらうよ」

 

きっかけになるようなタイミングがあったわけではない。

ただ、そうなるのが当然であるかのような唐突さで、常識の枠を超えた戦いの火ぶたが切って落とされた。




ミラボレアスがWIで「劫火」を取得してるので、ミラルーツも復活したらこれくらい普通にやってきそう。
てか似たようなことはムフェトとかアルバがすでにやってるという。
新大陸のやべー古龍はガード不可スリップダメ即死攻撃が当たり前なんですかね?
てか禁忌じゃないのに同じレベルでやばいムフェトは何なの。

そして、ミラの固有武器の情報も出しちゃいます。

名称:アブソリュート モデル:PfeiferZeliska
知る人ぞ知る“世界最強の拳銃”。
使用弾薬はWW2以前の装甲車なら普通に貫通するゾウ撃ち用ライフル弾の.600NE弾。現実では火薬量を減らした減装弾を使用するが、ミラは通常弾をぶっ放してる。
まず間違いなくキヴォトスでも人に向けて撃つものじゃないし、二挺持ちする銃でもない。というより一挺持ちでも使うかどうか怪しい。
SAAのリボルバーだがミラは翼の爪に引っかけて無理やりコッキングしており、撃鉄の形状も引っかけやすいように改造している。
さすがに腰にぶら下げて持ち歩けるものではないため、基本的に背負って持ち運んでいる。現在も外套の下に隠す形で携帯している。
なお価格は日本円で200万ほど。
名前はモンハンのミラルーツのライトボウガン『阿武祖龍弩』より。これはこれで好きだけど、どうしてミラルーツの武器なのにこんなヤンキーの当て字みたいな名前になってしまったのか。
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