次からいくつか小話挟みますが、その後はまだ詳しい内容を練れてないので何とも。
「はぁ、はぁ、くそ、くそッ・・・!」
人気のないアビドスのゴーストタウン。
カイザーPMC理事はその中を数人の部下を引き連れて走っていた。
その理由は、アビドスと便利屋68にホシノを取り返されたからだ。
元々は黒服の計画に便乗するような形で実行したアビドスの乗っ取り計画だったが、兵力は半壊しホシノも取り戻されたことですべての計画がご破算になってしまった。
このままアビドスで起こした問題が取り沙汰されれば、まず間違いなく責任を問われるのは自分だ。クビを切られるのは確定事項として、最悪本社から直々に処分を下される可能性もある。
それを避けるために、カイザーPMC理事は決死の逃避行を行っていた。
その道中でこぼれる怨嗟の行く先は、当然のようにアビドスの廃校対策委員会とシャーレの先生だった。
「アビドスのくたばり損ないめ、私の計画を邪魔しおって・・・いや、そもそもシャーレの先生だ。先生さえいなければ、今頃私は・・・!」
カイザーPMC理事の恨み言を、部下たちはどうにか聞き流す。ここで下手に反応を示したら、何を言われるか分からない。
「覚えていろ、次こそは必ず・・・」
「へぇ、どうするつもり?」
だからこそ、そちらに意識を割きすぎた部下たちは反応が遅れてしまった。
いや、仮に反応できたとしても結果は同じだっただろう。
突然現れたミラに成す術なくあっという間に制圧されてしまい、残されたカイザーPMC理事はミラに踏みつけられ身動きがとれなくなってしまう。
「ぐっ、な、何をしている!私は・・・」
「元カイザーPMCの理事でしょ?いや、今はまだギリギリ理事のままだっけ?まぁ、どうせ近い内に解雇されるだろうし、どっちでもいいか」
傍から見れば、今のミラはあちこちがボロボロで満身創痍にしか見えないが、それでも小隊程度しかいないPMCの兵士たちではまるで歯が立たなかった。
上からカイザーPMC理事を見下しながら背中を踏みつけるミラは、有無は言わせないとばかりに口を開いた。
「さて、それじゃあ時間ももったいないし、さっさと私の質問に答えてもらうね。もちろん拒否権はないから」
「だ、誰が貴様のような・・・ガァっ!?」
「口には気を付けな?今の私はまだ機嫌が良いけど、悪くなってからのことは保証できないよ?」
完全に立場が逆転してしまい、ここから巻き返せる状況でもない。
大人しく言うことを聞くしかないと悟ったカイザーPMC理事は、渋々と先を促した。
「・・・何を聞くつもりだ」
「知っている限りの黒服の行動パターン。居場所はどうせ聞いたところで意味ないだろうし、どこに何の目的で向かったのか、洗いざらい吐いてもらうよ。ついでに、アビドス砂漠で何を探してるのかも教えて」
「・・・黒服の行動パターンは、把握していない。そもそもこちらから干渉することがほとんどない。我々はあくまで黒服の提案を受ける側だ。アビドス砂漠では、古代の遺産を探している。もし手中にできれば、キヴォトスを支配できるほどのものだ。だが、こちらも詳しいことは分かっていない」
「つまり、何も知らないと。使えないなぁ」
カイザーPMC理事の回答に、ミラは残念そうに肩を竦める。
・・・カイザーPMC理事は嘘はついていないが、それでもすべてを話してはいない。現時点で分からないことが多いのは事実だが、数少ない知っていることをこの場で話すつもりはなかった。
これで信用してもらえるかどうかは賭けだったが、どうやら信じてもらえたようだった。
ただ一つ、誤算があったとするなら、
「さて、収穫0とはいえ聞きたいことも聞いたし、私刑の時間と行こうか」
信じてもらうことと許してもらうことは別だったということか。
「まっ、待て!私は情報を話したぞ!」
「中身のない情報なんて渡されてもねぇ。それにカイザーがホシノちゃんやアビドスにしでかしたことについて、私も思うところがないわけじゃないし」
ミラの言葉に、カイザーPMC理事の顔色が悪くなっていく。
いったい、自分はどこで間違えてしまったのか。
そんなことを考える暇もなく、ミラの言葉が続いていく。
「まぁ、私はこれでも身の程は弁えている方でね。連邦生徒会に突き出してもいいんだけど、向こうも対応する暇なんてないだろうし、失踪扱いになっている私が手を貸すのもそれはそれで違うだろうし。だから、ここはシンプルに運試しといこっか」
「な、何をするつもりだ・・・?」
「簡単な話だよ。生き残れたらラッキー、それだけ」
そう言って、ミラはカイザーPMC理事の首根っこを掴んで、思い切り振りかぶった。
それでカイザーPMC理事もミラが何をするつもりなのか理解して、過去一レベルの命乞いを始めた
「まっ待て!早まるな!そうだ、君が望むなら・・・!」
「問答無用。砂漠の方に飛ばしてあげるから、着弾の瞬間はたぶん大丈夫じゃないかな?」
だが虚しいかな、ミラはカイザーPMC理事の言葉に一切耳を貸さず、綺麗な笑顔で残酷なまでに宣告した。
「それじゃ、せいぜい頑張ってね」
「まああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
「し、しまった理事が!」
「急げ!急いで追いかけるんだ!」
容赦なく全力で投げ飛ばされたカイザーPMC理事は、ギャグマンガのようにだんだんと悲鳴が遠のいていきながらアビドス砂漠の方へと消えていった。
そして、ようやく復活した兵士たちは続々と起き上がると、ミラの方には目もくれずカイザーPMC理事が飛ばされた方向へと走っていった。
それを最後まで見届けたミラは、満足げに頷いてから踵を返した。
「よしっ、それじゃあ帰るとしよっか」
* * *
「いらっしゃいまうわっ、傷だらけじゃないですか!」
「やっほー。奥の部屋と救急キット借りるね」
「まるで自分の家のように振る舞うじゃないですか。ここ私の店ですよ?」
アビドスを後にしたミラは、慣れた足取りでラルの店に向かった。
ラルの抗議を無視して、勝手知ったると言わんばかりに物置を物色して救急キットを取り出し、勝手に治療を始めてしまった。
「いや、勝手に人の物を使ってはいけませんって教わらなかったんですか?」
「ゲヘナで?」
「前言撤回します。教えてくれるはずがありませんでしたね」
一応、ミラの知り合いの中でも数少ない常識人であるヒナから苦言を呈されることはあったが、基本的にどこ吹く風な状態だったので教えたところで意味がないとも言える。
自分が何を言っても無駄だと諦めるしかないと考えるラルは、ため息を吐きながら気になることを尋ねてみた。
「それにしても、ずいぶんとボロボロになりましたね。いったい何と戦えばそんなことになるんですか?」
「ラルはデカグラマトンって知ってる?」
「噂程度ですが、一応。たしか“神の解析と創造を目的として開発されたAI”でしたっけ?眉唾すぎて言われるまで忘れてましたよ」
「それ」
「はい?」
「そいつとやりあったの。厳密にはその預言者だけどね」
一瞬、ミラが何を言ったのか理解できなかった。いや、理解することを脳が拒んでいた。
「すみません、もう一回言ってもらっていいですか?」
「その眉唾物だったデカグラマトンの預言者とやりあったの」
「なんて?」
「私が戦ったのはビナーっていうでかい蛇みたいなやつで、ミサイルの雨を降らしたり岩を溶かす熱線を吐いたりしてきたね」
「なんて??」
ミラが突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことではないが、それにしたってラルの脳が処理できる情報量を越えていた。
大昔の伝説みたいな存在を証明するようなやつと戦っただけでも信じられないのに、その攻撃方法は明らかに対人には過剰すぎるものだった。いや、ミラ相手であればどんなことでもやりすぎということにはならないのだろうが。
「その・・・よく生きて帰ってこれましたね?」
「いやぁ~、私もなかなか楽しめたよ」
「頭イカれてるんですか?イカれてましたね」
ゲヘナと言えども、ここまで頭のネジがブッ飛んでいる生徒はそう多くない。
ただし、同じくらい頭がおかしいと言えなくもない問題児が思い浮かんでしまう辺り、やはりゲヘナの治安は世紀末レベルなのだろう。
「それにしても、偶然出くわしたんですか?カイザーPMCに捕まったとも聞きましたし、災難でしたね」
「いや、たぶん誰かが差し向けた。確証はないけど、当てもある」
「あっそれ以上は聞きたくないので言わなくても大丈夫です」
デカグラマトンの実在だけでも信じられないというのに、それを使役している可能性がある存在など、話を聞いただけで消されそうで怖い。
そんなラルの内心の一切を無視して、ミラは構わず話を続けた。
「多分だけど、差し向けたのは私が追ってた奴。一から十まで操ってる感じはしなかったから、できるのは起動と誘導までって感じかな」
「あーもういいです話さなくても大丈夫なんで私は店番に戻りますね!」
「つれないなぁ」
心から残念がっているミラにラルは大声でふざけるなと言いたい。
誰もがリスクに飛び込んで楽しめるような精神の持ち主だと思ってるんじゃねぇ、と。
だが、そんなラルの逃げ道を塞ぐように、ミラは良い笑顔でラルにとって地獄の依頼を突きつけた。
「まぁそういうわけで、黒服の企みが失敗に終わった以上アビドスで派手なことはしないだろうし、私もそろそろ他所に行って調べたいから、ラルは引き続きカイザーから黒服の情報を探っておいて」
「一応、私にも依頼を断る権利はありますけどね?もし嫌だと言ったら?」
「黒服は私のことを把握してるみたいだし、もしかしたらラルのことも認知してるかも。私がラルから離れたら、その後の事は保証できないかなぁ」
「それだと引き受ける以外の選択肢がないじゃないですか・・・!」
実際は黒服がラルに興味ないし警戒すべき何かを見出だすことはないだろうが、そんなことを知りようもないラルはミラの依頼を引き受けるしかなかった。
うんうんと満足げに頷くミラを恨めしげに睨み付けるも、欠片も悪びれる気配を感じず盛大にため息を吐くことしかできない。
「はぁ~・・・あぁもう、分かりましたよ・・・」
「さっすが。信じてたよ」
「軽く脅しておきながらどの口で・・・!」
今なら恨み言だけで人を殺せるかもしれない。
過去一レベルでキレ散らかしたい衝動をどうにか抑え込み、ラルは依頼を受ける上で最低限聞いておくべき情報を尋ねた。
「・・・それで、その黒服とやらがミラさんの追ってる組織の一員だとして、その組織の名前くらいは教えてくれませんか?」
「うん。いいよ」
さすがに無茶を押し付けている自覚はあるのか、ミラももったいぶることなく探ってもらいたい組織の名前と実態を告げた。
「連中の名前は『ゲマトリア』。実態は違うけど、あのデカグラマトン関連の研究を支援した組織と同じ名前で、神秘の探求を目的にしている集団だよ」