キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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前回言った通り、小話をいくつか挟みます。
これを書いてる内に次の構成をまとめておきたいところ。


閑話・便利屋68編

「はぁ・・・お金がないわ・・・」

 

キヴォトスの某所に存在する便利屋68の事務所。

その中で、アルは机に突っ伏しながら切実に呟いた。

今いる事務所は新しい場所で、以前は別のところに事務所を構えていた。

だが、カイザーから受けた依頼を失敗してしまったことやゲヘナの風紀委員会とバッタリ出くわしてしまったことで襲撃される危険が出てしまい、こうして引っ越ししてきたのだ。

だが、銀行の口座はヒナによって凍結されてしまったため利用できず、さらに今の事務所にも決して安くない額を使ったため、現在のアルたちの懐はかなり寂しくなっていた。

貧乏自体は慣れたものではあるが、事務所の移転直後やアビドスでのホシノ救出作戦で消費した物資の補充が重なった結果、過去最高レベルの極貧に片足を突っ込んでいた。

 

「このままだと、まだしばらくはカップ麺を4人で分けあうことになりそうだね」

「どうする?また柴関ラーメンに食べに行く?」

「いえ・・・それは最終手段にしましょう。大将に甘えてばかりいられないし、屋台営業で大変なときに余計な迷惑なんてかけられないわ」

 

不幸な事件で店を跡形もなく消し飛ばされた柴大将だが、現在は屋台車という新しい形で営業を再開していた。もちろんセリカもそこでバイトを続けている。

本人たちは充実した生活を送っているようだが、形態が変わったが故の苦労も当然あるに違いない。

そんな中で以前と同じような厚意を受けるのは、アルとしては気が引けるものがあった。

あの時ミラにされた説教によるものが大きい、とアル自身は思っているが、実際はアルの中にある誤魔化しきれない善意も多分にあるのだろう。それに気づいているのはムツキとカヨコの2人だけだが。

とはいえ、そんなことを考えていても生活に困窮している現実は変わらない。

 

「早く依頼が来ることを祈るばかりね」

「も、もしものときは私が臓器を売りますので・・・!」

「ハルカ、ステイ。早まらないで」

 

ハルカの選択は飢え死に直前であれば1%未満程度の可能性もなくはないが、さすがに今はまだ早すぎる。

だが、やはり従業員の精神的安定のため可及的速やかに依頼を受ける必要があるだろう。

ここはいっそチラシの類いでも出してみようか。

 

ピンポーン

 

そんなことを考えていると、インターホンからチャイムが鳴り響いた。

 

「お客さんよ!カヨコ、扉を開けてあげなさい!」

「はいはい」

 

移転してから初めての客ということで、アルのテンションが右肩上がりになる。

そんなアルの様子にカヨコは肩を竦めながらも言われた通りに扉に近づく。

相手の第一印象に残るようにアウトローのスイッチを入れ、気合いを入れて訪れた客を出迎える。

 

「いらっしゃ・・・」

 

だが、「いらっしゃい」という言葉すら出せずにアルは動きを止めてしまい、近くにいたハルカとムツキも同じように硬直する。

唯一扉の後ろにいたカヨコは、理由が分からないため扉越しに誰が来たのかを確認して、やはり動きを止めてしまった。

 

「やっほ。久しぶり」

 

新事務所の初めての客は、暁ミラだった。

 

 

* * *

 

 

「いやー、探すのに苦労したよ。事務所を他所に移したのは知ってたけど、どこなのかは先生に聞くまで分からなかったんだよね」

「そ、そうだったの。言ってくれれば迎えに行ったのに・・・」

「それもそうだけど、せっかくだからサプライズみたいな感じにしたかったんだよね。あっ、せっかくだし連絡先を交換しておこっか」

「えっいいの!?ぜひ喜んで!」

 

「・・・アルちゃん、すっごいはしゃいじゃってるね」

「まぁ、社長にとっての憧れみたいだし」

「アル様があんなに嬉しそうに・・・やっぱり私なんて・・・」

 

まるで憧れのヒーローに会った子供のような舞い上がり方をするアルを、他の3人はそれぞれの表情で眺める。

最初こそ突然の登場に驚きを隠せなかったが、今となってはすっかりミラもこの空間に溶け込んでいた。

とはいえ、このままだと一向に話が進まなくなりそうな気配があったため、代わりにカヨコがミラに用件を尋ねた。

 

「それで、どうして来たの?」

「あぁ、そうそう。渡すものがあってね。はい、これ」

 

そう言って、ミラは懐から一通の封筒を取り出した。

見るからに手の平よりも分厚くなっている封筒を。

 

「これは・・・?」

「ほら、前に私が風紀委員会をボコしたときに“先生の護衛”を依頼したでしょ?今日はその報酬を渡しに来たの」

 

ミラはなんてことのないように言うが、もし中身がすべて万札だった場合、最低でも100はくだらないだろう。200、300よりも多い可能性すらある。

依頼内容に対してあまりにもスケールが大きすぎる金額に、アルだけでなく他のメンバーも思わず盛大にあわてふためいてしまう。

 

「い、いやいやいや!さすがにこんなにたくさんは受け取れないわよ!」

「こ、こんなにたくさんのお金、いったいどうやって・・・」

「うわぁ、こんな厚みのある封筒初めて見た」

「ま、まさか、大金を渡して私たちに言うことを聞かせるとかですか!?」

「安心して。これはちゃんとした正当な報酬だから」

 

さすがにこの反応はミラも予測していたのか、苦笑を浮かべながら一つずつ事情を説明し始めた。

 

「まず報酬を渡すのが遅くなっちゃったから、そのお詫びも込みね。次に、私が動けないときに2回アビドスを手助けする形で先生に力を貸してくれたから、その分のサービス。あとは、個人的に便利屋68のことは期待してるから、その先行投資もあるかな」

「でも、だからってこんな・・・」

「私のことは気にしなくていいよ。ちょっとした臨時収入があって、そこから出しただけだから」

 

ちなみにミラの言う“臨時収入”とは”帰りがけにカイザーPMCの基地から奪った武装の売却”であり、普通に密売の類いなのだがミラは気にしていなかった。

ラルも最初こそドン引きしていたものの、PMC産の高品質な兵装を前にあっという間に陥落してノリノリで換金した。

そんなわけで、今のミラはちょっとした小金持ちであり、色目をつけた報酬くらいであればためらいなく出せる程度には余裕があった。

 

「それじゃ、これで用は済んだし、私はそろそろ行くね」

「ちょ、ちょっと待って!せめてどこに行くかだけは教えて!いざって時には力になりたいから!」

 

さっさと立ち上がって去ろうとするミラを、アルが必死に引き止めようとする。

出来るだけミラの邪魔をしたくないが、それはそれとして大金をもらった後であるため何かしないと気が済まない。

せめてこれからしようとしていることは聞かせてほしいと食い下がるが、対するミラは微妙な表情を浮かべた。

 

「うーん、気持ちはありがたいけど、今回ばかりはなぁ・・・実は、近い内にトリニティに潜入する予定なんだよね」

「トリニティ・・・!」

 

ミラの言葉に、便利屋の面々の顔が強ばる。

トリニティとゲヘナが犬猿の仲なのは周知の事実であり、それは当然アルたちも理解している。

個人的な因縁や恨みがあるわけではないが、自分達が何もしなくてもトリニティの方からやっかみが飛んでくるため、やはり良い印象はあまり持っていない。

というより、トリニティのゲヘナ憎しの風潮はある意味ゲヘナがトリニティに向けているものとは比較にならない。

なにせ、ゲヘナは感情の大小はあれどほとんどが「気に食わない」「いけすかない」の範疇に収まっているが、トリニティの中には心の底からゲヘナを憎んでいる生徒も一定数おり、本気でゲヘナを潰したがっている過激派すら存在している。

そんなトリニティにゲヘナ生が足を踏み入れるなど、自殺行為でしかない。

 

「そんな、いくらミラでも、トリニティに行くだなんて・・・!」

「あー、言ってなかったけど、もうすでに何回かやってるんだよね」

「何回も!?」

 

だが、目の前の最強はその常識に当てはまらなかったらしい。

想像の斜め上のカミングアウトが出てきて思わず目を剥いてしまう。

 

「え?トリニティって、あのトリニティよね?そんな簡単に潜り込めるものなの?」

「意外といけるよ。ていうか私の場合、見た目だけなら意外と馴染めるんだよね」

 

そう言われて、アルたちは改めてミラの容姿をよく観察してみる。

ミラの容姿を一言で表すならやはり“純白”だろう。たしかに深窓の令嬢と言われてもおかしくはない。

トリニティに潜入する上でネックになるのはやはり角と翼だが、角は外套のフードで違和感なく隠せるレベルであり、翼も体に巻き付けている状態であればドレスのスカートと言われてもおかしくはない。

たしかに、トリニティに潜入するゲヘナ生としてはうってつけの容姿とも言えた。

強いて問題を挙げるなら、白髪赤目はゲヘナの中でもトップクラスの問題児である美食研究会の部長と同じ特徴であるということだろうか。翼の違いや尻尾の有無から見分けはつくが、遠目で見て勘違いされる可能性は普通にある。

だが、今までそういう問題を聞いていないということは、なんだかんだ上手くやれているのだろう。

 

「言葉遣いとかテーブルマナーを覚えるのは苦労したけど、それさえ知っておけば割と何とかなるんだよね。まぁ、長く滞在しようとは思わないけど」

「そう・・・ちなみに、今回はどうなの?」

「まだ未定だけど、そこまで長居する予定はないかな。ただ、あの行政官が言ってた条約がちょっと気になってね。少し探ったらさっさと出るつもり」

「なるほど・・・」

 

アルはミラの話を聞いて訳知り顔で頷くが、実際に便利屋の中でミラの話をきちんと理解していたのはカヨコだけだった。

あとで詳しく説明しておこうと決めながら、アルの代わりに声をかける。

 

「それなら、私たちもゲヘナとか他のところでそれとなく情報を集めてみる。大したことはわからないかもだけど・・・」

「それでもありがたいから大丈夫。知り合いの情報屋には別件のことを頼んでたから、ちょうど人手が欲しかったんだよね」

 

ミラの言う情報屋はラルのことなのだが、すでにゲヘナとトリニティの条約についても調べられないか頼んではいたのだ。

だが、「私を過労死させるつもりですか?」と真顔で言われてしまったため、ならいいやと諦めていたところだった。

 

「そう?なら私たちに任せてちょうだい!期待されている以上の働きをしてみせるわ!」

「それは楽しみだね。それじゃ、便利屋の仕事がんばってね」

「えぇ!」

 

完全にテンションが上がっているアルを微笑ましげに眺めてから、ミラは便利屋の事務所から出ていった。

そして、バタンと扉が閉まったのを確認してから、アルは張りきってメンバーに声をかける。

 

「さて、聞いたわね?あの暁ミラにあぁ言ってもらった以上、半端な仕事はできないわ。依頼の合間にミラが言ってた条約について調べるわよ!」

「は、はいっ!」

「聞き込み調査なんて、おもしろそ~♪」

(あぁ、これ張りきりすぎて空回りするやつかな)

 

張りきりすぎて舞い上がっているアルに、アルに影響されて同じく張りきっているハルカ、それに便乗しているムツキを見て、カヨコは今後の展開をなんとなく察してこっそりため息を吐く。

だが、それがいつも通りで、だからこそここでの暮らしが楽しいのだと改めて実感しながら、3人と一緒に拳を上に掲げた。




なお便利屋68はコミックだと野宿in廃墟で貧乏レベルの最底辺を更新する模様。

ゲヘナ→トリニティの感情は自分なりの解釈も含んでいます。
というか、ゲヘナの自由人どもが本気で何かを憎む絵面が思い浮かばない。
だいたい「気に入らねぇ!」で片付けてそう。
まぁ、だからこそトリニティと馬が合わないんでしょうけど。
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