キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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原作的にはエデン条約編1部ですが、分かりやすくまとめたいので便宜的にトリニティ編と書くことにしました。
ぶっちゃけ、そこまで補習授業部と関わる予定もないですし。


トリニティ編・1

トリニティ総合学園。

ゲヘナと並ぶマンモス校の一つであり、その気質はゲヘナとは対極の優美な由緒正しいお嬢様学校でもある。

伝統を重んじており、敷地内には教会などの古い建物が多く残っている。

そんなゲヘナとは仇敵同士であるトリニティ総合学園の中で、

 

「あら、アンさん。お久しぶりですね」

「おはようございます。えぇ、今日は調子が良かったので」

 

現在、ミラは“運命(さだめ)アン”という名前で潜入していた。

 

 

* * *

 

 

「アビドスの方はホシノちゃんが助かったし、黒服もどこ行ったか分からなくなっちゃったってことで、私は近いうちにトリニティに行ってくるから後の事よろしく」

「コンビニ感覚で行くところじゃないですよね、そこ」

 

ミラがトリニティに潜入する数日前、ミラは報告のためにラルの店を訪れていた。

ミラの大胆不敵な行動にラルも思わず頬をひきつらせる。

すでに何度かやっていることとはいえ、やはりゲヘナ生からすれば自殺行為でしかないことを軽い調子で報告しにくるのはイカれているとしか形容できない。

 

「さすがにそこまで軽くはないよ。ちょっとした遠出みたいなものかな?」

「一般ゲヘナ生からすれば地獄レベルの行き先を“ちょっとした遠出”で済ませるんですか・・・それで、今回は何のために行くんですか?」

 

ラルは呆れながらもミラに本題を問いただした。

あくまで軽い調子を崩さないミラだが、それでもゲヘナからしたトリニティは理由もなしに行くような場所ではない。というより、普通は理由があったとしてもごく一部の例外を除いてまず行こうとすら考えない。

事実、今までのトリニティ潜入も少なからず目的があった上で実行したものだ。

そのため、今回も何かしらの事情があるだろうことは想像に難くない。

そして、それは正解だった。

 

「うん、ちょっと条約のことが気になってね」

「条約・・・あぁ、“エデン条約”ですか」

 

エデン条約。

簡単に言ってしまえば、ゲヘナとトリニティの間で結ばれる不可侵条約のことだ。

トリニティとゲヘナの中心人物が全員参加することになる中立機構『エデン条約機構(ETO)』を設立し、二校間で紛争が起きた時はETOが間に入って紛争解決を行うことで、両者間における全面戦争を防ぐために調印される。

長い間連邦生徒会が頭を悩ませてきたトリニティとゲヘナの確執を解決し得る、現状ではほぼ唯一の手段でもある。

 

「連邦生徒会が主導してるって話を聞いたんですけど、本当なんですか?」

「だね。私がいた頃からそう言う話はちょくちょくあったけど、実際に形になるように持っていったのは今の連邦生徒会長」

「・・・あれ、でもその連邦生徒会長って失踪してますよね?」

「そこなんだよね~」

 

アコが条約のことをこぼしていたことから、条約の締結はほぼ確定事項と見ていいだろう。

だが、その仲介をしたのは連邦生徒会長であり、当人は現在失踪して姿を消している。

 

「ただでさえ賛否両論、というか反対派の勢いが強めだったのに、仲介していた連邦生徒会長がいなくなったとなると、平和に終わるとも考えづらいんだよねぇ」

「反対派のクーデターとかですか?」

「学園の運営にそこまで興味がないゲヘナはともかく、派閥争いでギスギスのトリニティは全然あり得るね、それ」

 

表面上はお嬢様学校として羨望の眼差しを向けられることが多いトリニティだが、その実態は非常にドロドロとしたものになっている。

というのも、複数の学園が集まることで形成している都合上、トリニティ内部は派閥争いが絶えず、ドロドロの権力抗争をしているところも珍しくない。

また、水面下では陰湿ないじめも少なくなく、実際は世間のイメージからかけ離れている部分も多い。

そして、ゲヘナの例に漏れず、というより一般ゲヘナよりもよっぽど『気に入らなければ力で叩きのめす』性分が強いミラは、そんなトリニティが好きではなかった。

とはいえ、エデン条約に関してはそれはそれ、これはこれと割り切ってはいるが。

 

「信憑性もそんなにないけど、ティーパーティーのホストの一人が襲撃を受けてヘイローを破壊されたなんて話も聞いたし、物騒だよね」

「・・・本当ですか、それ?」

「わかんない。表向きには体調不良で入院してることになってるし。でも、ティーパーティーのメンバーが住んでいる寮で誰かが何者かの襲撃を受けたこと、ティーパーティーのホストの一人がそれ以来表に出てきていないことは確定かな」

 

かつてのティーパーティーはトリニティの生徒会としての役割を持つようになり、トリニティ創設に大きく関わった三つの派閥の首長が最高権利者であるホストを持ち回りで務めることになっている。

その内の一人が襲撃を受けてヘイローを破壊されたなど、とてもではないが表に出せるはずがない。

当然箝口令は敷いたのだろうが、余程目立ったのか襲撃そのものは隠しきれなかったらしい。

そして、それ以来姿を見ないティーパーティーのホストがいるとなれば、不穏な噂が立ってしまうのも無理はないことだった。

 

「トリニティの問題に首を突っ込むつもりはないけど、せめて何が起こっているのかくらいは把握しておきたいところだね」

「なるほど・・・」

 

そこで頷きかけて、ラルは一つ違和感を覚えた。

たしかに、ミラの言ったことは筋が通っているし、理屈としては理解できる。

だが、本人がわざわざ向かう根拠としては弱い。

そもそも、ミラの行動事態が“事件に首を突っ込みたいだけ”にも見えるものであり、先ほどの話とも矛盾している。

そして、関わりたくないと思うよりも早く、思わずラルの口から疑問の声が零れてしまった。

 

「いえ、待ってください。まさかとは思いますが、ミラさんはこの件にゲマトリアが絡んでいると思っているんですか?」

「・・・確認できた襲撃内容は、大きな爆発が一回だけ。被害者と思われる百合園セイアは体が弱い方らしいし、距離とかの関係で銃声が聞こえなかっただけの可能性もある。だけど、それでも真夜中の私室に忍び込める程度の弾薬や爆弾一発でヘイローを破壊できるとも思えない」

「複数人で侵入した可能性は・・・さすがに銃声でバレますか。サプレッサーは・・・使うくらいなら爆発物なんていりませんね」

「そう。だとしたら、考えられるのは()()()()()()()()()()()()()()だ」

「・・・まさか・・・ですが、そんなの聞いたこと・・・いえ、だからこそ、ですか」

 

ミラの話では、ゲマトリアとは神秘を探求している集団だという。

普段であればあり得ないと切り捨てていただろうが、デカグラマトンという眉唾物を手中にしているような集団であれば自分達の知らない技術を持っていても不思議ではない。

それこそ、物理的には一切干渉できないヘイローに直接干渉できるような。

 

「とはいえ、確証は何もない。そもそも襲撃犯の正体だってまったく分かってないしね」

「ですが、エデン条約を前にティーパーティーのホストへの襲撃があったのはほぼ事実。たしかにキナ臭いですね」

「本人に話を聞ければ一番話が早いんだろうけど、それも難しいしどうしたものかな」

「たしかに、正体を知ってるのは百合園セイアだけ・・・ちょっと待ってください」

 

あまりにも自然な流れだったため、ラルは思わず流してしまいそうになったが、どうにかミラの発言の矛盾に気が付いて指摘した。

 

「なんかしれっと生きてることが確定事項みたいに言いませんでした?いえ、誰も姿を確認できてないなら十分あり得ますけど、それだって確証はないんですよね?」

「さっきは言わなかったんだけど、もう一人、同時に姿を消した生徒がいるんだよね」

「誰ですか?」

「蒼森ミネ」

「あ~・・・」

 

ミラから名前を聞いたラルは、思わず遠い目を浮かべてしまった。

蒼森ミネとはトリニティで医療活動を行っている部活である“救護騎士団”の団長であり、その名前は他学区にも知れ渡っている。

主に悪い意味で。

 

「そういえば、最近は出現情報をまったく聞いてなかったですけど、そういうことですか」

「そもそも知っている生徒が少なすぎるとはいえ、ここまで徹底して情報を隠されたら探すのは骨が折れる。本当はラルに頼みたいけど・・・」

「前にも言いましたよね?私を過労死させるつもりですかって」

「だよね」

 

トリニティ内部の情報は外部からでは手に入りにくい。それが元とはいえゲヘナ生でブラックマーケットが活動拠点であるラルであればなおさらだ。

さらにカイザーの調査と並行となると、とてもではないがどれだけ金を積まれてもわりに合わない。

とはいえ、出来る限りのことはするが。

 

「まぁ、準備だけなら付き合いますよ。以前渡した学生証はまだ使えるはずですし」

「そうなんだ?やっぱり設定の都合がいいんだね」

 

そう言いながら、ミラは懐から一枚の学生証を取り出した。

記載されている学園名はゲヘナ学園ではなくトリニティ総合学園。当然、正規ではなく偽造したものである。

名前は“運命アン”。肌が弱く体調を崩しやすいため普段は自宅で療養しつつ家庭学習を受けている、という設定だ。ミラの肌色は他と比べても白いことから、肌の露出を少なくして外套を深く被っても怪しまれにくく、体調が良ければ顔を出すということにしておけば少ない出席日数もカバーできる。

難点を挙げるなら、ミラ自身が病弱という言葉から程遠いため、それを含めた演技もしなければならないということと、トリニティ内の各種サービスを受けることはできるが学園の名簿には存在しないためバレるリスクも相応に孕んでいるということか。

とはいえ、今まで上手く立ち回ることは出来ているため、油断しなければ問題ないだろう。

 

「とはいえ、これは使えてもあと1,2回です。今回の潜入が最後だと思っておいてください」

「了解。私としても、できるならこれを最後にしたいところだね」

「同感です。私だって何度も胃が重くなるような潜入調査の片棒を担ぎたくはありません」

 

最初にミラから「トリニティに潜入したいんだけど、必要なものを用意できる?」と言われた時は、自分の耳とミラの正気を疑ったものである。

結果として上手くいったから良かったものの、もしこのことがバレて大事にでもなったらどうなっていたことか。

出来ることなら、そんな光景は見たくないし想像したくもない。

 

(私とミラさんがトリニティに指名手配されるだけならマシな方ですけど、最悪トリニティがゲヘナに戦争を吹っ掛けることになりそうですよね)

 

もしそうなったら、おそらくミラも嬉々として参加することだろう。

おそらく、両方の軍勢を壊滅させる第三陣営として。

 

(ミラさんはあぁ言ってましたけど、場合によっては今回の潜入は今までで一番長くなりそうですし、何も起こらなければいいんですけどね・・・)

 

ただし、そう思いたい時に限って何かが起こるのも事実である。

ミラの潜入に必要なものをリストアップしながら、ラルは不安を覚えずにはいられなかった。




トリニティに訪れるごく一部のゲヘナ生の中に美食研究会が含まれる辺り、やはり似た者姉妹では?
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