キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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PCで執筆する際、同時にYouTubeでメインストーリーの動画を見ながら構成を考えてるんですけど、動画の方に意識が引っ張られすぎて手が止まってしまうのが悩みです。


トリニティ編・2

(はぁ・・・また来ちゃった)

 

トリニティの制服を身に纏い、外套を目深に被って角と目を隠したミラは、内心でため息を吐きながらトリニティの敷地内を歩いていた。

現在は昼休みのため、昼食を食べるために降りてきた生徒たちが喫茶店で談笑しながら食事を口に運ぶ。

だが、その集団は見事なまでに派閥ごとで分かれており、あからさまではないものの雰囲気で牽制しあっていた。

 

(はぁ~・・・私は体調の関係で無所属になっているとはいえ、こういう空気にあてられるのは勘弁してほしいんだけどなぁ・・・)

 

トリニティの生徒は誰かしら派閥に所属しているものであり、個人で中立を保っている無所属の生徒はほとんどいない。

というより、仮にいたとしてもそれだけの能力を持っているのであればその生徒を中心に新たな派閥が形成されることの方が多い。

そういう意味でも、運命アンとしての病弱という設定は面倒ごとに巻き込まれにくいという点では都合が良かった。どんなことに誘われても大抵はそれで断れる。

それでも全てを断ると不審に思われたり変な噂が流れる可能性もあるため茶会程度なら参加するようにしているが、今回ばかりはそれも難しかった。

 

(たぶん、というか間違いなく、ティーパーティーと正義実現委員会は私が表に出始めていることを把握している。暁ミラと運命アンを結び付けるものは何もないけど、見た目が似てるからって怪しまれたらアウト。これは本当に今回が最後の潜入になりそうかな)

 

先生がキヴォトスにやってきたばかりの時に起きた騒動。あの現場にはトリニティの治安維持を担っている正義実現委員会のメンバーも一人いた。

反応からしてミラのことを知っていないようだったが、それでも純白の少女のことについての報告はするだろう。

問題なのは、ミラの知る限り最低でも一人はその正体に勘づく生徒がいるということ。

 

(剣先ツルギ・・・どういう反応をするのか分からないのがなぁ)

 

正義実現委員会の委員長、剣先ツルギ。

『トリニティの戦略兵器』と言われるほどの戦力を持つ、ヒナやホシノに並んでキヴォトスでも最上位に位置する武闘派の一人。

直接会ったことはないが、おそらくミラでも手間取る相手だろう。

戦ってみたい気持ちもなくはないが、今はいろいろと間が悪い。

できることなら、今は出来るだけ会いたくない人物だった。

 

(とりあえず、正義実現委員会と顔を合わせるのも避けた方がいいかな。不審に思われないように立ち回るのは骨が折れるけど、やるしかないか)

 

自分としては長居せずにさっさと状況を把握して帰りたいが、事がティーパーティー絡みなだけに簡単にはいかないだろう。

正義実現委員会にできるだけ存在を気取られないよう気を付けながら、表向きには秘匿されているティーパーティーのホスト襲撃事件について調べる。

控えめに言っても無理難題すぎる目的を達成しなければならない。

 

(まぁ、最悪バレても夜に忍び込んだりでどうにかすればいいや。ひとまず、バレないようにティーパーティーに近づく目処を立てておかないと・・・)

「あれ、アンさんじゃないっすか?」

 

いきなり後ろから話しかけられて、ミラは思わず肩が跳ね上がりそうになってしまった。

よりによって、出来れば会いたくなかった人物と鉢合わせになってしまった自分の不運を呪いつつ、振り返って話しかけてきた人物に返事を返した。

 

「イチカさん、お久しぶりです」

「こんにちはっす。本当に久しぶりっすね」

 

仲正イチカ。

正義実現委員会の2年生であり、コミュニケーションが上手く顔も広いことから外交に向かうことも多い。

お人好しというか困っている人を見過ごせないタイプでもあり、病弱なアンなことを気にかけていた。

そのため、ミラがトリニティに潜入し始めた当初からの知り合いでもある。

 

「今日はこっちに来てたんっすね」

「えぇ、ここ最近は調子が良いので、長めに顔を出せるかもしれません。イチカさんは見回りですか?」

「はいっす。でも今日は平和なもんっすよ。もしかしたら、周りがアンさんに気を遣ってトラブルを起こさないようにしてたりして」

「ふふっ、お上手ですね」

 

見かけは何でもないように振る舞っているミラだったが、内心ではダラダラと冷や汗を流していた。

トリニティに潜伏した初日に正体がバレて追い出されるなど、笑い話にもならない。

なんとか気取られないよう、鋼の心臓と仮面で平静を保たながらイチカと会話を交わす。

 

「そういえば、最近新しいお店ができたんっすけど、後で一緒に行きませんか?」

「私は良いですけど、イチカさんの方は大丈夫なんですか?」

「私も今日は早上がりですし、他に予定もないんで心配しなくても平気っすよ」

「ちなみに、どのようなお店なのですか?」

「有名な喫茶店の新店舗らしいっす。焼き菓子が美味しいらしいんで、アンさんも楽しめると思うっすよ」

 

人懐っこい笑みを浮かべるイチカだが、ミラからすればそれどころではない。

新手の尋問でもさせられるのだろうか。

そう思っていたが、ミラが思っていたよりも今日のイチカはズバズバと斬り込んだ。

 

「そういえば、ハスミ先輩から聞いた話なんっすけど、前にとても強い真っ白な女の子がいたらしいっすよ」

「そうなんですか?」

(あっそれ私だ間違いねぇわ)

 

ハスミとは、おそらくシャーレのビルの前で見かけた正義実現委員会の生徒だろう。

思ったよりもガッツリ情報共有していたようで、思わずミラも頬をひきつらせてしまいそうになる。

 

「何でも、たった一人で武器も持たずに戦車部隊を制圧したとか。すごいっすよねぇ」

「そうですね。私は体が弱いので、少し憧れます」

「でも、そういうアンさんも真っ白っすよね」

「ですけど、それだけです。私の白は儚さの表れのようなものですから、似ても似つかないでしょう」

「そうっすかね?私はアンさんの白色も綺麗だと思うっすよ」

「ありがとうございます」

(あーこれ怪しまれてるわやばいなこれ)

 

これもう詰んでいるのでは?と挫けそうになるが、向こうもまだ確信していないはずだとどうにか気を持ち直す。

ここで相手に確信を持たれたら終わりだ。何としてでも誤魔化さなくてはならない。

だが、ミラにとって有り難いことにイチカの方からあっさりと引き下がっていった。

 

「おっと、そろそろ仕事に戻らないとっすね。それじゃあ、また後で会いましょう。待ち合わせは、17時に噴水前でいいっすか?」

「えぇ、大丈夫です。では、イチカさんもお仕事頑張ってください」

「はいっす!アンさんも気をつけてください」

 

表面上は穏やかだった会話を終え、2人はその場を後にした。

ある程度離れたところで、ミラは周囲に不審に思われないよう内心で大きく息を吐き出した。

 

(ぷはぁー!し、心臓に悪すぎる・・・!マジでバレてたか問い詰められるかと思った!・・・いや、もういっそバレてると仮定して動いた方がいいか。その上でこれなら、今はまだ様子見の段階かな)

 

なまじイチカの()()に気がついている分、余計に心臓に悪かった。

出だしからこれとか、幸先が悪すぎるのではなかろうか。

もうさっさと帰りたいところだが、今回の潜入に際して少なからず準備をしてきたし、何よりただでさえ数少ないゲマトリアの手がかりを探しもせずに流すようなことはしたくない。

 

(ひとまず、一度拠点に戻ろう。お出掛けの準備もしておかないと・・・)

 

幸いなことに、アンであれば家庭学習の名目で一日中自宅という名目の拠点にいても問題はない。

イチカが言っていた店がどこのことなのか調べつつ気持ちを整えようと、ミラは一つ深呼吸を挟んでから帰路についた。

 

 

* * *

 

 

イチカはアンと分かれてから背中を見送りつつ、完全に姿が見えなくなったタイミングで電話をかけた。

 

「もしもし、ツルギ先輩?言われた通り接触して話してみたっすけど、怪しいところなんてなかったっすよ?本当に同一人物なんっすか?・・・間違いない?だったらまずくないっすか?ゲヘナの危険人物なんて、何か問題でも起こしたら・・・そのつもりならとっくに派手に起こしてる?それはまぁ、そうかもっすけど」

 

幸か不幸か、この時のミラの推測は間違っていなかった。

剣先ツルギは、とっくに運命アンの正体について勘づいていたことを。

同時に、何か問題を起こさない限りは手出しするつもりはなく、イチカとハスミ以外にこのことを知っている者はいないということも。

 

「でも、放置して大丈夫なんっすか?ツルギ先輩なら・・・なるほど、向こうにそのつもりがないなら、こっちから余計な問題を起こす必要はないってことっすか。まぁ、このタイミングで実質的な全面戦争なんてやってられないっすからね。その代わり、何か良くないことを企んでいたり問題を起こしたりしたら、その時は正義実現委員会として拘束すると。了解、引き続き彼女とは友達付き合いを続行するっす。それにしても、まさかアンさんの正体がそんな人だったなんて・・・」

 

トリニティの二年生であるイチカは、ミラのことを知らない。

だからこそ、親身に接していたアンがあのゲヘナの危険人物であるとツルギから知らされたときはとても信じられなかったし、それは今も同じだ。

だが、ツルギからミラのことを聞かされた上で改めてよく観察してみれば、たしかにアンから感じる気配は病弱とは程遠いものだった。逆に言えば、ツルギに言われるまでまったく気づいていなかったとも言えるが。

 

「自分の印象っすか?まぁ、悪い人じゃないとは思うっすよ。人当たりもいいっすし、悪意らしい悪意も感じないんで。ただ、好きでこっちにいるってわけじゃなさそうっす。何か目的があって、そのために仕方なく来たって感じじゃないっすか?そっちの方も、探れるだけ探ってみるっす」

 

こうして、ミラとしては望んでいなかった腹の探りあいが行われることになった。




開眼したイチカが大好物です。
あの灰色の瞳を独占したいと思うのは自分だけではないはず。
もちろんPVにあった男装イチカも良きです。
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