キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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トリニティ編・5

「へぇ・・・今更疑ってたわけじゃないけど、本当に未来が見えるんだ」

 

トリニティのネット掲示板で多数掲載されているティーパーティーでのシャーレの先生の発見報告を眺めながら、ミラは思わずといった風に呟いた。

夢の中で交わしたセイアとの会話。その特殊な状況からして噂の真偽を疑っていたわけではないが、改めて実際に的中している場面を見てみると驚きを禁じ得なかった。

たしかに、敵からすればこれほど厄介な存在もそうそうないだろう。排除しようとするのも当然と言えた。

だが、それはそれとしてミラは先生が来てからの方針に悩んでいた。

 

「さて、先生と接触するべきかどうか・・・」

 

そこが、セイアと話してから今に至るまで悩んでいたことだった。

普通に考えれば、下手にティーパーティーに捕捉されるリスクを増やさないために接触しない方が良いに決まっている。

だが、補習授業部の面倒を見る先生のサポートとなると、影からバレないようにできることはあまりない。ミラが必要になるような問題など余程でもない限り起きないだろうが、真の黒幕が誰なのかまだ分からない以上、万全を期しておきたい気持ちもある。

それらを天秤に乗せた上で、ミラが出した答えは、

 

「・・・うん、今回はできるだけ顔を合わせない方針でいこう」

 

非接触だった。

トリニティ内におけるミラは、悪い意味でジョーカーとなる存在だ。たとえゲヘナを出奔していてシャーレの先生を助けただけだとしても、姿を見せただけでゲヘナへの悪印象になる可能性も十分にある。

それにセイアの暗殺未遂のことを考えれば、黒幕の最終的な目的は武力によるクーデターだと推測できる。

ミラが盛大に行動を起こすとしたら、そのタイミングしかない。

それまでは、できるだけ表立っての行動は控えて、来たるべき時に備えて情報収集と準備を行う。

黒幕の特定については・・・出来ればの範囲でいいだろう。ある程度候補はまとまっているが、どちらにせよ今はまだ情報が足りない。

 

「はぁ~・・・暗躍なんていつぶりだろ。こういうのは性に合わないんだけど・・・」

 

本来ミラの得意分野は敵の殲滅であって、裏工作は専門外だ。

失踪してからは必要になりそうだからとその手の技術を学んではいたが、それが完全に敵地であるトリニティの中でどれだけ通用するかはさすがに分からない。

“運命アン”として使える伝手もあるにはあるが、病弱設定で交流が少なかったことからそこまで多くはない。

限られた手段に制限される行動、さらには不得手な分野。

ここまで逆風に晒されるようなことはそうそうなかったが、だからこそ燃えてくる。

 

「さて、ひとまずはまだしばらく情報収集を続けるとして、使えそうな伝手は・・・まぁ、あの子くらいかな」

 

幸い、トリニティ内の伝手に当てはある。

基本的に引きこもっているウイは論外だが、()()なら交渉次第で引き込めるだろう。ちょうど今日会う予定もある。

ならば善は急げと、ミラはさっそく必要な準備を済ませて外へと出て行った。

 

 

* * *

 

 

「お~、本当に美味しいっすね。自分、こういうお店は初めてっす」

「そうなのですか?」

 

百鬼夜行連合学院から店舗を広げてきた、トリニティ内では珍しい掘りごたつの個室がある飲食店。窓から見える庭園を眺めながらアンの前で舌鼓を打っていたのはイチカだった。

事の発端はイチカであり、今日は休暇をもらったということでアンにお出かけの誘いをしたのだ。

アンも特に断る理由がないと快諾し、さてどんな情報を引き抜こうかと思っていたところでシャーレの先生が到来したことを知った。

ということで『珍しいお店を見つけたので』と個室がある飲食店に予約を入れてイチカを連れ込み、今に至る。

 

「イチカさんは様々な学区に行ったことがあると聞いたので、このようなお店にも入ったことがあると思っていました」

「いやいや、さすがに私も仕事で行ってるんで、いろんなお店に行った経験なんてそんなにないっすよ。アンさんこそ、こういうのに興味があったんすか?」

「そうですね。百鬼夜行連合学院には独特なものが多いと聞いていますし、現地に行けずとも雰囲気を感じてみたかった、というのはあります。ここでは出来ない経験というのも貴重ですから」

「あ~、それはそうかもっすね」

 

トリニティ総合学園は対外的にはお嬢様学校と受け取られており、実際に上流階級のご令嬢も多い。当然、その中には箱入り娘のような生徒も少なくなく、そういった生徒が新しい景色を求めることで他学区の雰囲気を再現した店には一定の需要が存在する。

2人がいる店も、床に座るという馴染みのない文化から客足はそこまで多くはないが、むしろ他ではできない体験をしてみたいと一定数の生徒が通っていた。

アンもその中の一人だったのだろうとイチカも最初は思っていたが、それにしてはわざわざ個室を予約するという気合の入れ方に違和感を覚えた。

というより、個室でなくとも座敷や掘りごたつの席はあるのだから、それらを体験したいだけなら個室である必要はない。

なんとなく嫌な予感を感じ始めてきたところで、唐突にアンが話題を変えてきた。

 

「そういえば、シャーレの先生がトリニティのティーパーティーを訪れた、という話を聞きましたけど、イチカさんは何か知っていますか?」

「シャーレっすか?あー、そういえば正実でもそんな話があったような気がするっすね。前にハスミ先輩が連邦生徒会に行った時に会ったって話してて、うちでも少し話題になってたっす」

 

最初の方こそシャーレの知名度は『一部の学園の上層部が気にしている』程度で他からの認知はほとんどなかったが、現在では地道な活動の甲斐あってそれなりに注目され始めていた。

だが、トリニティは先生の赴任初日の騒動に巻き込まれた生徒が二人いたこともあって、他の学園よりも一般生徒にまで情報が出回るのが早かった。

だからこそ、アンがシャーレの先生のことを知っていても不思議ではないのだが、その正体がミラであると知っていると何か違う意味があるような気がしてならない。

ただ、ツルギからは機密に触れるようなことでなければ話しても構わないと言われているため、ひとまず自分の知る情報を渡すことにした。

 

「たしか、補習授業部だったっすかね?この前の試験を落第した生徒の中でも、特に問題がある人たちを集めて特別授業をするっていう部活の顧問になるって聞いてるっす。ちょっと恥ずかしい話、うちにも一人、そこに所属する子がいるんで」

「そうだったんですか」

「やる気のあるいい後輩なんすけど、いまいち成績が、その・・・まぁ、本人の名誉のために言わないでおくっす」

「そこまでですか・・・」

 

身内にすら口を濁されるレベルなのかと若干呆れを見せながらも、知っているのなら話は早いともう少し突っ込んでみることにした。

 

「ですが、わざわざティーパーティーとシャーレが関わってまで面倒をみようとするほどのことでしょうか。問題児と言えば問題児ですが、ティーパーティーが動くほどではないでしょう」

「さぁ?そこまでのことはわかんないっす」

「ですが、正義実現委員会も動きにくくなるのではありませんか?なにせ、人質をとられているようなものですから」

(あれ・・・?)

 

ここでイチカは何か決定的に風向きが変わってきたことに気がついた。

ただし、すでに割と手遅れになっているが。

 

「い、いや~、さすがにそれは考えすぎじゃないすか?」

「エデン条約の調印が近づいていて神経質になっている、という可能性もあるでしょう?ただでさえ反対派も少なくないですし、ゲヘナを憎んでいる生徒が多い正義実現委員会への牽制、という見方もできるのではないですか?」

(ま、まずいっす!なんか、自分が知らなくてもいいようなことまで暴露されそうな気がっ!)

 

たしかに、ツルギから機密に関わるようなこと以外は話しても構わないとは言われている。

だが、イチカが知っている機密事項などそこまで多くないし、そもそも知っているのはあくまで正義実現委員会内部のものでティーパーティーが関わるようなものは聞かされてすらいない。

それは、エデン条約関連のものも例外ではない。

そして質が悪いことに、アンの言葉にいくつか思い当たる節もあって微妙に否定しきれなくなっていた。

 

「ま、まぁ、それはそうかもっすけど・・・」

「それに、最近はセイア様も見かけませんし、なおさら気負われていてもおかしくはないでしょう」

「え?セイア様は入院しているんすから・・・」

「私も体調の関係で病院に行きましたが、セイア様の姿を見たというのはもちろん、ナギサ様やミカ様がお見舞いに訪れたという話も聞いておりません。本当は違う病院に入院しているだけ、という可能性もありますが・・・さて、どうなんでしょうね」

(・・・あ、終わった)

 

絶対に自分が聞いたらいけないようなことを示唆され、イチカもつい勘づいてしまった。

つまり、アンはこう言っているのだ。

セイアは反対派の勢力によって表舞台から排除されたのだ、と。

正体のことを考えれば病院云々の話は間違いなく嘘だろうが、隠された真意に関しては少なからず確信を持った上で言っているように見えた。

そして、イチカも少し前に起こったという爆発事件の件は噂程度に聞いているし、考えてみればセイアが体調不良で入院したと公表されたのはそのすぐ後だ。

表沙汰にできない何かがあった、というのは考えすぎとは言えないだろう。

問題なのは、その内容がまず間違いなく自分が聞いていいようなものではないということなのだが、アンから話を聞いて、自分でその可能性を考えてしまった以上、もう後戻りはできない。

目の前にいる白い少女が、絶対に逃がそうとはしない。

 

「私はあくまで中立派のつもりですが、近づいている騒動を考えれば協力者は一人でも多い方がいい。ですので、イチカさん。あくまで私的な友人の頼みの範疇で構いませんので、私と協力関係になってくれませんか?もちろん、正義実現委員会の立場を悪用するつもりはありませんので、その心配はなさらなくても大丈夫です」

(いやそれって逆に正義実現委員会には黙ってろってことっすよねむしろ気にしないといけないことが増えるやつっすよね特にハスミ先輩にバレた時のことが怖すぎるんすけど)

 

つまりは、二重スパイのようなものだろう。

自分から情報をくれてやるから、そっちも情報を寄越せ、と。

あわよくば、自分の共犯になってもらうと。

そして、この関係はアンにとってとても有用なものだが、自分にとってはその全てがバレたらどうなるかわからない爆弾でしかない。

特に、ハスミにバレたらどうなるかわからない。下手をしなくても死ぬ・・・ことはなくとも、普段のツルギがもたらす以上の惨劇が自分の身に降りかかってもおかしくない。

協力関係と言うにはあまりにもアンフェアが過ぎるが、断れるタイミングはとっくの昔に過ぎ去ってしまっていて。

 

「あ~、う~、そのぉ~・・・はい、わかったっす・・・」

「ありがとうございます、イチカさん」

 

口元では可憐な笑みを浮かべるが、果たしてフードの下に隠された表情はいったいどのようなものなのか。

なんとなく気になりそうになったが、知ったところで碌なことにならないと悟らざるを得なかった冷や汗を流しながら引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。




イチカがセイア関連のことを詳しく聞かされていなかったのは自分なりの解釈ですけど、実際はどうなんでしょうね。
まぁ、どっちにしろ自分はより良い反応をする方を選びましたけど。
それはそれとして、イチカの「あ、終わった」からしか得られない栄養素が存在します。
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