キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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もうすでに補習授業部抜きで書くエデン条約編の難しさが身に染みてきてます。
他所のエピソードが薄いのか、それとも補習授業部の内容が濃すぎるのか・・・。


トリニティ編・6

巧みな交渉(というよりはほぼ脅迫)のおかげで、トリニティ内で使える伝手がさらに増えた。それも、正義実現委員会のメンバーの伝手だ。

あくまで個人的なもので組織としての支援は得られないが、収集しづらい方面の情報やちょっとした融通くらいは期待できる。

それに、ミラの側から使える手札はまだいくらか存在する。上手く使えばイチカはずぶずぶと沼にハマるが如く抜け出せなくなるだろう。

もちろん、ミラとて強引に巻き込んでいる自覚はあるため、一方的に損だけさせるつもりはないが。

 

(なんか、顔を青くして冷や汗をダラダラ流してたからね・・・さすがにちょっと罪悪感が湧きそうになったよ)

 

現在はミラの正体をある程度把握しているだろうが、以前までは純粋な善意で友好関係を築いていたのを考えれば、いろいろと複雑な思いもあるだろう。

それを出来るだけ表に出さないようにしながらいつも通り接しているあたり、イチカも優秀と言える。

 

(はぁ~、正義実現委員会の層の厚さが羨ましいな。いっそゲヘナの風紀委員会も見習って・・・いや無理か)

 

トリニティで有能な人材は基本的に秩序側につくが、ゲヘナはむしろ有能であればあるほど混沌側で好き勝手したがる。

そんなゲヘナを気に入ってはいるものの、その結果が風紀委員会の層の薄さとそれによるヒナの一強状態なのを考えれば、由々しき事態であることに変わりはない。

幹部の育成にしろ、全体的な戦闘力の底上げにしろ、やることは非常に多い。

 

(あーもう、やめやめ。今は目の前のことに集中しないと)

 

ヒナには悪いが、自分にもやらなければならないことがある。

それを済ませるまでは、いったん風紀委員会(本巣)のことは隅に置いておかねばならない。

なにせ、目の前にある問題もまた、それに引けを取らないくらい面倒なことに違いはない。

新しい伝手を手に入れたとはいえ、それでもまだ心細い。

欲を言えば補習授業部、もっと強欲に言えばティーパーティーの内情が分かる伝手が欲しいところだが、さすがに今はまだそこまで積極的に動く時ではない。

補習授業部はそもそも迂闊に関わると先生に見つかる可能性が高いため、接触するにしても先生がいないタイミングを慎重に見計らわなければならない。

セイアはティーパーティー側の伝手と言えなくもないが、好きな時に好きな時間軸を見れるほど使いこなしているわけではなさそうだし、何より夢の中ではミラから接触できる術を持っていないため論外だ。

というわけで、

 

「しばらくは古書館(ここ)にいるつもりだからよろしく」

「何を今さら・・・」

 

まるで自室で過ごしているかのような気軽さで入り浸るミラに、ウイは自分のことを棚に上げて呆れを露わにした。

とはいえ、ウイが呆れている理由は他にもあるが。

 

「それにしても、正義実現委員会のメンバーを脅迫って大丈夫なんですか?バレたらただじゃすまないでしょう」

「失礼な、れっきとした交渉だよ。大丈夫な相手を選んだから大丈夫。それに・・・」

「それに?」

「それがきっかけで戦争になったら、それはそれでいいんじゃない?面白そうだし」

「イカレてますね」

 

一応、ミラにもエデン条約を台無しにしないようにしようという気遣いは存在する。

存在するが、それはそれとして正義実現委員会と戦ってみたいという気持ちがないわけではない。特に『トリニティの戦略兵器』とも言われる剣先ツルギにはかなり興味がある。

だが、そのツルギがアンの正体であるミラに気が付いている上で荒事を起こさないよう注意を払っているのはミラも勘づいているため、できるだけその厚意を無駄にしないようにしようと心がけているのだ。

そのギリギリのラインからつま先がはみ出ているのと、いつまで我慢が続くのかどうかは別として。

 

「まぁ、言ったところでどうにもならないので、それに関してはもういいです。それで、今日も第一回公会議について調べるんですか?」

「まぁね。あとは古聖堂についても引き続き調べるよ」

「わかりました。でしたら、今日解読するのはこれとこれと・・・」

 

慣れた手つきで棚から古書を取り出すウイを尻目に、ミラはノートを開いて今までにまとめたことを確認する。

第一回公会議とは、トリニティ総合学園が出来る前、それぞれの派閥が争っていた時代に開かれた、和平と統合のための会議。

そして、その第一回公会議が開かれた場所が古聖堂だった。

これによって現在のトリニティ総合学園が生まれたのだが、すべて円満に解決されたというわけではなく、最後まで統合に反対していた勢力も存在していた。

それが“アリウス分校”。

最後まで連合に反対していたアリウスだったが、それが連合vsアリウスの争いへとつながり、最終的にアリウスはトリニティの自治区から追放されてしまった。

言ってしまえば、生贄のようなものなのだろう。トリニティ総合学園としての結束を強めるための最後の一押し、その供物にちょうど良く選ばれてしまった。

現在ではトリニティの自治区の地図からは完全に姿を消し、今となってはどこにいるのか定かではない。少なくとも学園としての機能は喪失しているだろうが、学園そのものが消え去ったのかまでは不明のままだ。

 

(まぁ、実は白洲阿アズサがアリウスのスパイで、転校を手引きした誰かが本当の裏切者ってのがあり得そうな話ではあるけど・・・分からないことが多すぎる。そもそもアリウスが実在しているかも分からないし、仮にしたとしても誰がいつ接触したのかも検討が付かないまま。せめて手続き書類でもあればいいけど・・・)

 

重要な書類を管理しているのは、他でもないティーパーティー。もし裏切者がティーパーティーの一員、それこそ幹部以上の存在であれば、その権限で秘匿されていてもおかしくはない。

というより、この仮説が正しいとして、学園内でその話題が一切持ち上がっていないということは、書類そのものが改竄されている可能性も高い。

ここまで来れば容疑者は相当絞られるが、確たる証拠も無しに動くことはできない。

だからこそ、まずは足元を固める。

必要な情報から必要な証拠を見出し、先生か補習授業部の誰かに渡す。

渡すタイミングは、真の黒幕が動き出す直前。

それまでに、出来ればティーパーティーの内情に関する情報も集めれるようにしておきたい。

 

「はい、用意しましたよ。それにしても、こんなに調べてどうするつもりなんですか?」

「聞きたい?」

「いえ、いいです。余計なことに巻き込まれたくないので」

 

どこぞの知り合いとまったく同じようなことを言うウイに思わずクスリと笑いながらも、出された古書に目を通し始めた。

 

「ふ~ん・・・これはけっこう傷んでる箇所が多いね。早めに修復お願い」

「分かりました・・・たしかに、これは急いだ方がいいかもしれませんね。損傷具合もそうですが、重要そうなところが読めない状態なのは気になります。文の前後からして・・・ユスティナ聖徒会に関する記述でしょうか。これは治し甲斐がありますね」

 

ユスティナ聖徒会とは数百年前にトリニティを統治していた、いわば生徒会にあたる組織の名称であり、現在では解体されて別の名前と組織になっている。

治安維持なども担っていたらしいが、拷問も行っていたなどの黒い噂も多いため半ば黒歴史のように扱われている。

そして、かつての第一回公会議で最も激しくアリウスを弾圧したのが、他でもないユスティナ聖徒会だった。

 

「あくまで組織そのものじゃなくて、外部から確認された活動記録みたいなものっぽいけどね」

「それでも貴重な資料であることに変わりはありません。幸い、一日もあれば修繕できそうです。なので、他のを確認しておいてください」

「はいはい。えっと、これは・・・」

 

互いに軽口を叩きながら、片方は様々な道具を取り出して古書の修復を始め、もう片方は古書の解読と他の内容との照合、修繕が必要な箇所のリストアップを平行して行う。

お世辞にも背中を預けあうような仲とは言えない間柄だが、それでも二人の間にはある程度の信用に基づいた信用があった。

もっとも、それはそれで何だか癪であるため、二人がそれを態度や言葉で表に出すことはないのだが。

 

(ユスティナ聖徒会・・・まず間違いなく第一回公会議の中心にいるだろうけど、情報が少なすぎる。外部からの観測記録はちらほらあるけど、どうしてもあやふやなものが多い。せめて内部資料なんかがあればいいけど・・・って、最近はそんなことばっかだな)

 

情報不足を嘆くのは今に始まったことではないが、それにしても今回は機密が絡む情報が必要な場面が多すぎる。

こうして過去のことについて調べている内はまだいい。だが、どこかのタイミングでティーパーティーや補習授業部の内情を調べればならないとき、相応の伝手が必要になる。

せめて、どちらか片方だけでもコンタクトが取れればいいが・・・

 

「伝手とかコネとか面倒くさすぎる・・・」

「何か言いましたか?」

「何でもない」

 

本来は突っ込んで解決するのがミラの性。それができないトリニティは窮屈でしかない。

もういっそセイアとの約束を反故にしたい気持ちもなくはないが、だからといって先生を放置したくもない。

 

(あ~・・・これはもうあれだ。近い内に気分転換に外に出よう。伝手探しはそれからでもいいや)

 

慣れない暮らしを続けていたせいでストレスが溜まっていたのだろう。こういう時はリフレッシュをする方がいい。

どのみち、ティーパーティーの伝手はほぼほぼ論外なのだ。機を見て補習授業部の誰かと接触すればいい。

あるいは、いっそのこと他の第三勢力との協定も視野にいれた方がいい。

その場合の候補は、行方不明のセイアを匿っていると思われる蒼森ミネがいる“救護騎士団”か、あるいは・・・

 

(蛇の道は蛇、か)

 

ミラとしてもあまり気は進まないし、ウイは全力で嫌な顔をするだろうが、手段を選んでいる余裕はない。

リスクを負わなければ欲しいものは手に入らないらしいし、無理だったらその時はすっぱり諦めよう。

幸い、繋がりがまったくないわけではない。可能性は0ではないはずだ。

 

「・・・あっ、これで終わりか」

「もうですか?そこまで多くなかったとはいえ、早かったですね」

 

気がつけば、ウイから渡された古書の解読と修繕箇所のメモが終わっていた。

頭では考え事ばかりしていたが、手の方は勝手に作業を進めていたようだ。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。最近疲れ気味だし、ちょっとリフレッシュに行ってくる」

「そうですか。今治している子のこともあるので、明日も来てくださいね」

 

元からそのつもりだったとはいえ勝手に予定を決めてきたウイなことを軽く流しながら、ミラはさっさと古書館を後にした。

だがすぐに拠点には向かわず、携帯で時間を確認する。

 

「時間は・・・今からでも間に合うか」

 

それからミラは伝手になりうる第三勢力と接触するため、古書館からでも見える大聖堂へと足を向けた。




基本的にだいたいのことは一人で叩き潰せるため、伝手やコネを作るのはわりと苦手なミラです。
なお叩き潰して解決したかどうかはまたべつの話。
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