キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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トリニティ編・7

歴史的な町並みが残っているトリニティの中でも特に立派で長い年月を感じさせる、トリニティの象徴の一つにもなっている建造物。

それがトリニティ大聖堂であり、トリニティ生はもちろん、他校にも広く知れ渡っている。

そして、その大聖堂を拠点に活動している派閥こそが、ミラの目的の第三勢力だった。

 

「失礼します」

「アンさんですね、どうぞこちらです」

 

大聖堂の中に入るやいなや、修道服を着た生徒に案内されて最前列の長椅子の右側の壁際に座った。

そこはアンがいつも座っている指定席のようなものであり、それを認知されるくらいの交流があった。

 

「本日はどうされましたか?」

「あまり来ることができなかったので、久しぶりに顔を出そうかなと。それに最近は体の調子が良くなってきて、お医者さんからも太鼓判を押されるようになりました。もしかしたら、日頃のお祈りのおかげかもしれませんね」

「そうですか、それはよかったです」

 

平然と心にもない言葉を並べながら、ミラは笑顔を浮かべながらアンの快方を喜ぶ生徒に対して一切の油断なくその様子を観察する。

シスターフッド。

トリニティの一大勢力の一つであり、政治への不参加を表明しつつもティーパーティーに引けを取らない発言力や立場を有している中立派閥である。

主な活動は聖堂の管理やミサを通じた啓発、懺悔室でのカウンセリングなど慈善的なものだが、その前身はユスティナ聖徒会であり、少なからず秘密主義な側面を持っている。

カウンセリングの関係でプライバシー情報の管理を徹底している部分もあるが、独自の情報網を持っているため一般の生徒では知り得ない情報を持っていることもある。

おそらくは、ティーパーティーの関係者以外で唯一セイアの事件を把握している可能性が高い組織だろう。

味方となれば言うまでもなく、共闘関係を結べるだけでも心強いが、逆を言えばアンの正体を把握している可能性も高いと言うことでもある。正義実現委員会のツルギにもバレている可能性が高いのだから、シスターフッドが気付いていないと楽観視することはできない。

アンとして協力関係を築くのは難しく、ミラとしてでは差し出せるだけの対価を持ち合わせていない。というより、ミラとしての対価は欠片でも差し出すつもりがない。

だからこそ、できるだけアンとして接触したいところだった。

 

「アンさんほど敬虔な生徒は少ないので、もしよろしければシスターフッドに所属してほしいくらいですけど・・・」

「お気持ちは嬉しいですが、私はこのまま無所属の中立でいたいと思っています。シスターフッドが中立というのも理解していますが、今まで派閥に関わることがなかったですし、所属したところでどれだけ参加できるかもわかりませんから」

「私たちは気にしませんが・・・アンさんがそう言うのであれば無理強いはできませんね。ですが何か困っていることがあれば、できるだけ力になります」

「ありがとうございます」

 

不幸中の幸いと言うべきか、目の前にいる生徒は純粋な親切心で接しているということか。

シスターフッドに所属しないかという誘いも、病弱かつ無所属で立場が弱いアンを心から心配してのことだろう。

力になるという発言も、ティーパーティーやエデン条約に関係するゴタゴタなんて想定していないはずだ。

とはいえ、受けは悪くないあたり可能性は0ではない。

そもそも急を要しているわけではないのだから、ここは一度下がって出直した方がいい。

 

「それでは、私はこれで失礼します」

「もう帰られるのですか?」

「ここに来る前に用事がありまして、それで少し疲れてしまったので・・・」

「そうですか。送ってさしあげましょうか?」

「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」

 

そう言ってミラは立ち上がり、大聖堂から出ていった。

途中で見られているような感覚を覚えながらも、何も起こらないまま。

 

(・・・いっそ不気味に思うほど何もなかった、っていうのは私の考えすぎかな?)

 

今の時期、エデン条約調印前とあってどこも気を張っており、一部では名簿に存在せずゲヘナの“白い龍”と特徴が一致しているアンを怪しんでいる節もある。

イチカを通して探りを入れてきた正義実現委員会なんかはその最たる例だろう。

だというのに、アンの正体に気付いていないとは思えないシスターフッドが何も手を出さないのには少し違和感があった。

エデン条約についても中立的な立場をとっているからという可能性もなくはないが、だからと言って明らかな不安要素であるアン=ミラを無視するとも考えにくい。

 

(私の行動指針を察した上で放置しているか、トリニティそのものの危機にはなり得ないと判断したのか。どっちにしろ、余計に接触しづらくなったな)

 

シスターフッドを巻き込む気満々だったミラからすれば空振りもいいところだ。

あるいは、それを察知したからこその対応なのかもしれないが、やりにくい相手であることに変わりはない。

 

(仕方ないな。ひとまずは補習授業部を優先、シスターフッドは交渉材料を揃えてからじっくりやるしかない。とはいえ、誰と接触すればいいものか・・・)

 

つい最近慣れないことをして失敗したばかりなので同じことを繰り返したくはないが、やると言った以上はやるしかない。

いつにも増して行き当たりばったりで先行き不透明な状況に思わずため息を吐きそうになるのを堪えながら、思考を止めることなく予定を取捨選択しながら帰路についた。

 

 

* * *

 

 

アンが大聖堂から出て行ったほぼ直後、その後ろ姿を見送った生徒の横から声をかけられた。

 

「アンさんが来ていたのですか?」

「サクラコ様!はい、つい先ほど帰られましたが」

 

歌住サクラコ。

シスターフッドの長であり、最もシスターフッドの秘密を知っている人物でもある。

 

「体調が良くなったと仰っていたので、シスターフッドに入ってはと話してみたのですが、断られてしまいました・・・」

「そうですか。たしかに彼女は敬虔な生徒ですが、アンさんなりの考えもあるのでしょう」

 

だから引き留めなかったのは間違っていないと慰めながら、内心で軽く冷や汗を流した。

 

(ないだろうとは思っていましたが・・・いざ直面すると心臓に悪いですね)

 

サクラコはトリニティでも数少ないアンがミラであると勘づいている生徒の一人だった。

ツルギと違って確信があるわけではなかったが、少なくとも運命アンが生徒名簿に存在しない生徒であり、その特徴がゲヘナの暁ミラと酷似していることは把握していた。

そして、以前までは数日滞在しては長期間姿を現さなくなるのを繰り返していたのが、ここ1ヶ月近く連続して目撃証言が発生したほど活発に活動したことでさらに情報が集まるようになり、一週間ほど前にようやくアン=ミラであると確信が持てるようになった。

その狙いまでは知りようがなかったが、時期的に考えてエデン条約絡みの可能性が高い。

もしやエデン条約の調印を妨害するつもりなのかとも考えたが、それにしては大人しい。

そもそもやろうと思えば単騎でティーパーティーを壊滅させることができるのだから、回りくどい方法をとる理由はないはずだ。

だとしたら、ミラはむしろエデン条約に賛成派なのかもしれないが、それはそれでトリニティで暗躍する意図が読めない。中立派ならそもそもトリニティに行く理由がない。

いくつか仮説はあるものの確証はなく、静観と不干渉に徹するしかなかった。

そもそもシスターフッドは中立派閥、余計な騒動に巻き込まれないに越したことはない。

それがトリニティの存亡に関わるなら話は別だが、ミラがそんなことに関わるとも思えない。

 

(はぁ、どうすれば良いのか悩みますね・・・このようなときに、ハナコさんがいてくれれば助かるのかもしれませんが・・・)

 

ため息を必死にこらえながら、サクラコは頭の中でシスターフッドに勧誘したがフラれてしまった才女の顔を思い浮かべる。

一応、奇行に目をつむれば優秀なのは間違いないのだ。その奇行がつむった目を貫通してしまうレベルでひどいのが問題なだけで。

イチカを通して直接情報を探れるツルギと違い、サクラコは人伝でしか情報を探ることができない。

彼女であればいくらかの情報を提供すれば答えを導き出せるだろうが、自分からそれを頼むのは気が引ける。

結果から言えば、手の打ちようがないというのが現状だ。

 

(ひとまず、暁ミラさんに巻き込まれないよう気を付けることを優先しながら、出来る限り情報を集めるようにしましょうか。ティーパーティーもいろいろと不安定ですし、これからの情勢を見極めなければ)

 

近いうちに政治への不干渉の立場を変えることになるかもしれないが、それは今ではない。

 

(できれば、エデン条約の調印まで大人しくしていてください、暁ミラさん)

 

 

* * *

 

 

「とか思ってるんだろうな・・・」

 

拠点に帰ったミラは、ベッドの上に寝転がりながらサクラコが考えていそうなことを頭の中で思い浮かべていた。

徹底的に接触を避けようとしていた辺り、シスターフッド、というよりサクラコは不確定な地雷であるミラが起こす騒動に巻き込まれたくないのだろうとは予想がつく。

こうなったら確定的な証拠を持ってくるか余程ギリギリのタイミングでもない限り協力関係は結べないだろう。

 

(こうなったら、もう補習授業部の誰かと接触するしかないかな。そこからシスターフッドに・・・いや、私から動く必要もないか)

 

だがいるのだ。補習授業部に一人、シスターフッドを動かすことができるだろう生徒が。

 

「浦和ハナコ、か」

 

トリニティでも屈指の才媛であるハナコは、その優秀さから過去にシスターフッドからスカウトを受けている。

どういうわけか断ったようだが、少なからずシスターフッドから注目されているのであれば状況と取引次第で動かすことはできるだろう。

そうなれば、わざわざミラから動く必要はない。

問題があるとすれば、良くも悪くも思考が読みづらいということか。

3学年の試験で満点を叩きだすほどの頭脳を持っているにも関わらず、裏事情を抜きにしても成績悪化で補習授業部に所属することになったということは、十中八九試験ではわざと手を抜いている。それも、けっこうひどいレベルで。

本人の詳しい心情までは分からないが、少なからずトリニティから退学しても構わない、あるいは退学したいと思っている可能性は低くない。

もしそうだった場合、この補習授業部はまたとない機会でもある。今さらになって再試験で本気になるとも思えない。

それこそ上層部のごたごたでもあるエデン条約関連の問題に首を突っ込むようなことはしないだろう。

もしそれが変わる変数があるとすれば、それは他の補習授業部の生徒、そして・・・

 

「先生・・・」

 

シャーレの先生であれば、ハナコの心の中にあるかもしれない闇を払えるだろう。

それまでは様子見するしかない。

 

「・・・本当に、私にできることが少ないな」

 

あるいは、自分がいなくても大丈夫なのではと思ってしまうほどに。

だが今更になって手を引くこともできないし、個人的に気になってきたことはいろいろある。

だからこそ、一度頭をリフレッシュさせよう。

そのために、ミラはトリニティの外に出るための準備を始めた。




サクラコは覚悟衣装のイメージが強すぎて書くのに少し苦労しました。
「わっぴ~」といい野獣顔といい、ネタと真面目の反復横跳びが激しすぎる。本人はいたって真面目なのがなお質が悪い。
まぁ、それを言ったらナギサとかミネとかツルギとか、そもそもトリニティの首脳陣が軒並み癖が強いんですが。

展開的にどうしようもないことではあるんですけど、最近は少しスランプ気味というか、いいのを書けているという実感がいまいち湧かないんですよね。
いっそ補習授業部に突っ込めばネタには困らないんでしょうけど、それはそれでマンネリになったりオリジナリティに欠けたりするので難しいところです。
なので、次辺りで一度派手に暴れさせてリフレッシュします。
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