ですけど、雰囲気とかアニメ騎士君とけっこう似てません?それとも気のせい・・・?
「はぁ、はぁ、くそッ・・・!」
ブラックマーケットの近郊に存在する豪勢な屋敷。
銃声が響き渡る敷地内で、スーツを着た護衛が悪態をつきながら物陰に隠れる。
この屋敷はブラックマーケットの中でも有数のギャングの本拠地なのだが、現在襲撃を受けて混乱状態に陥っていた。
襲撃犯はたった一人。
普通なら鼻で笑うような寡兵であるにも関わらず、大隊規模の軍勢に侵攻されているかのような被害を受けていた。
それもそのはず、そのたった一人の襲撃犯の正体は、裏社会の人間なら知らないはずがない恐怖の象徴だった。
「“白づくめ”め!最近は活動してないって聞いてたのに、なんで今になって・・・!」
「聞きたい?教えないけど」
瞬間、すぐ耳元から聞こえた声に悲鳴をこぼしそうになりながらも声が聞こえた方向にアサルトライフルの銃口を向けるが、それよりも早く視界が手の平で埋め尽くされ、それが意識を失う前の最後の記憶となった。
「ふぅ~、すっきりした!」
「その結果、ブラックマーケット内に存在するギャングの勢力図がまた変わりそうですけどね。災害か何かですか?」
久しぶりにやって来たミラのすっきりした表情を見て、ラルは呆れた表情を隠さずにそうぼやいた。
少し前まではビビるのを抑えられなかったラルだが、カイザーコーポレーションの件でメンタルが鍛えられ、言ってしまえば以前よりも図太くなった。
それが商売で活かされたことはまだないが、ミラの相手をしてストレスが溜まりづらくなっただけでもメリットと言えるだろう。
「まさかとは思ってましたけど、よほどストレスが溜まってたんですね。さすがに一夜で3つもギャングを潰すとは思わなかったですよ」
「ん~、慣れないことばかりしてたから、余計にね。コネ作りとか伝手探しとかもうやりたくない・・・」
「ですけど、今トリニティにはシャーレの先生がいるんですよね?手は借りないんですか?」
「今回ばかりは難しいかな。出来るだけ“運命アン”の範疇でどうにかしたいし、先生だって忙しいでしょ」
先生の件はともかく、前者の理由はラルも頷かざるを得なかった。
すでに仮初の生徒である“運命アン”はトリニティの中である程度の立場と信頼を築いている。
ごく一部の正体を知っている、あるいは正体がバレている生徒を除いた場合、アンを知っている生徒からは“物腰が柔らかい純白の儚い令嬢”として見られている。
後輩や同級生の相談にのってくれる優しい心の持ち主だの、よく図書館や古書館に出入りしていることから彼女は家でも書斎で静かに本を読んで過ごしているだの、ラルを含めたミラを知っている生徒が聞けば『それ誰?』と自分の耳と頭を疑ってしまうような情報ばかりが出回っている。
それらの評価はトリニティ内での地位に直接的な影響はないが、勝ち取った信頼は時に地位を凌駕することもある。
その気になれば新しい派閥を作ることも不可能ではないだろう。
だが、だからこそ築いた信頼が崩れた際の影響もまた権威の失墜以上の衝撃を与えることもある。
特に反ゲヘナの感情が強いトリニティで『知らない内にトリニティに紛れ込んだゲヘナの生徒を信頼していた』などということが知れ渡れば、想像を絶するような混乱に見舞われることだろう。
その信頼していた対象がゲヘナはおろかキヴォトス全体で見ても最強格であり、ヘイトを一身に受けやすいミラであれば尚更。
もしそのような事態になれば、まず間違いなくエデン条約は破綻し、最悪トリニティとゲヘナの全面戦争に繋がりかねない。
ミラはそれでもいっこうに構わないと思っているが、だからといって幼馴染みであるヒナの心労に繋がるのは不本意だし、アビドスで会ってからは出来るだけヒナのことを優先しようと意識するようになっている。
だからこそ、トリニティでの行動が縛られてフラストレーションが溜まることに繋がっているのだが、ギャングを潰して発散できる程度なら大目に見てもいいだろう。
「それで、これからどうします?」
「もういくつか潰してからトリニティに戻る」
「・・・さすがにティーパーティーにバレません?」
「知ってる?人の記憶って、頭に強い衝撃を与えれば簡単に飛ばせるんだよ?」
「物騒なこと言いますね」
それは『目撃者を全員消せば実質ステルス』理論と同じではないだろうか。あるいはごり押しの脳筋戦法とも言う。
ミラであれば実現出来てしまうのがなお質が悪い。
ターゲットに選ばれてしまったギャングや不良連中には同情を禁じ得ないが、ミラが暴れるだけ自分の収益も増えるため止めはしない。
「まぁ、潰すのはほどほどでお願いします。いなくなって困るのはミラさんも同じでしょう」
「わかってるって。その辺の匙加減は慣れてるから」
「そうですか。では頑張ってください」
「任せてね~」
慣れるほどギャングを潰したのか、とは言わない。というより、実際に慣れるまで潰してきたのだから否定することでもない。
味方であれば頼りになるミラの背中を見送ってから、ラルは小さく息を吐きながらカウンター裏にしまっておいた資料を取り出した。
書いてあるのは、ミラに依頼されて引き続き調査していたカイザーの動きについて。
「今のミラさんに言うのも悪いとは思いましたけど、教えた方が良かったですかね・・・」
そこにはカイザーの資金や物資に関する不透明な流れがまとめられていた。
別にそれ事態は珍しいことではないし、なんなら以前のアビドスの件でも同じようなことを不良相手にしていた。
問題なのは、その流れがトリニティの周辺に向いているらしいことと、あの黒服の息がかかっている可能性があるということ。
どちらとも確証が取れなかったためミラには伏せておいたが、もし事実だとすればかなりキナ臭い。
(ゲマトリア・・・他の構成員への支援でしょうか?ですが、行き先がトリニティではないとしたらどこに・・・?)
地図を見る限り、トリニティの他に潜伏できそうな場所はない。せいぜい遺跡や昔の跡地が散らばっている程度だ。
アビドスでもやっていたようなお宝探しの可能性もあるが、それだけの設備や調査団の情報もない。
「ひとまず、機を見て現地調査しないと分からないですね。ミラさんが戻る前には済ませましょう」
何をしているのかは分からずとも、何があるのかだけは確認しておきたい。
それくらい把握しておかないと、ここで隠していたことをミラにどのように追及されるか分かったものではない。
正直、出来ることならトリニティなど近くにも寄りたくないが、やるしかないだろう。
「遺跡探索なんて専門外ですけど、必要なものくらいは揃えておきましょうか。出来るだけ情報も集めておかないとですね」
幸い、ミラの収穫のおかげで自分も資金にはいくらか余裕があるため、簡単なセットくらいなら問題なく買える。
慣れないことをしている自覚を持ちながらも、それはミラも同じだと自分に言い聞かせた。
もし自分だけ楽をしようものなら、ミラからどんな角度で八つ当たりが飛んでくるか分からないのだから。
* * *
「ん~・・・これはちょっと予想外かな?」
ラルの店を出てから追加で二つほどギャングを壊滅させ、戦利品を担いで近くのセーフハウスに向かうと、その途中で待ち伏せを受けていた。
とはいえ、特に珍しいことではない。(ミラにとって)普通に過ごしていれば最低でも月に一回は起こることだ。
今回少し意外だったのは、その相手が今日の内に潰したギャングの残党、その連合だったということ。
襲撃したギャングの構成員は軒並み頭部強打で記憶を飛ばしたつもりだったが、どうやら偶然外にいて無事だった者がいくらかいたようだ。
「徒党を組むほど仲良しじゃなかった気がするんだけどなぁ。仲直りでもしたの?」
「黙れ!貴様、なんの恨みがあってファミリーを潰した!」
「別に何も?たまたま目についただけだし、運が悪かったんじゃない?」
「お前のせいで私らは帰る場所を失ったんだぞ!」
「野宿でもしてみれば?案外悪くないし、新しい経験をするのも良いと思うけど」
「ふざけやがって・・・!」
ふざけているとしか思えないようなミラの発言に、残党たちは額に青筋を浮かべる。
ミラも真面目に相手をしていたわけではないが、この手の輩を放置すると後々面倒になるのは承知しているため戦利品を入れた袋を地面に置いて前に出た。
「まぁ、討ち漏らしがわざわざ自分から来てくれたのは手間が省けてよかったかな。でも、まさか数を揃えて待ち伏せすれば勝てると思われてたのは心外だね」
「まさか。だが、もう勝負はついている」
そう言って、先頭に立っていた一人が右手を挙げる。
それを合図に、周囲の建物に潜伏していた同胞たちが一斉に窓から手榴弾や爆弾を投げ込み、起爆させた。
下に展開していた仲間をギリギリ巻き込まない爆発が連鎖的にミラに襲いかかる。
爆煙でミラの姿が見えなくなってもなお投下を続け、たっぷり数分間かけたところでようやく手持ちの爆弾がなくなった。
「は、ははっ。なんだ、やっぱり大したことなかったな。簡単な罠に嵌めてやっただけで・・・」
「なるほど。ずいぶん短絡的な行動だと思ったら、私のことをよく知らないだけの新入りだったわけか」
ひきつった笑みを浮かべながら勝利を確信しそうになった時、煙の中から絶望を告げる声が響いた。
「こういうの、もう何回も受けてるんだよね。使ってる爆弾もそこまで良いやつじゃないし、無駄に煙たいだけじゃん」
煙の中から現れたミラは、無傷な上に両手で建物から爆弾を投下していた仲間全員を後ろに引きずっていた。
「それと、こういう路地裏で爆撃戦法はしない方がいいと思うよ?物音も聞こえなくなるし、動きも見えなくなるし、こんな感じで簡単に不意打ちできちゃうからね」
「い、いつの間に・・・!?」
「爆撃を始めて10秒くらいかな?長そうだったから適当に抜け出して、一人ずつ締めながら一緒に爆弾投げた。自分たちで投げた爆弾で状況把握できなくなるとか、間抜けもいいところだよ」
諭すようなミラの言葉も、聞き取ることはできても頭が理解することを拒んでいた。
どうやって脱出したのかとか、本当に爆弾を投げ込んでいると錯覚させることができるのかとか、分からないことや聞きたいことはいろいろある。
だが、今はそれよりも目の前に存在する脅威への警戒の方が重要であり、恐怖で動かなくなっている身体を動かすことが最優先だった。
だが、少し気持ちを整えるだけであってもミラがそれを許すはずもなく、
「さて、今の爆発でヴァルキューレに通報が入ってるかもだし、さっさと終わらせちゃおうか」
無慈悲な宣告の後に、たった数秒でギャングの残党連合は壊滅した。
それから少しして駆けつけたヴァルキューレによって拘束されたが、全員直近の記憶がなかったためギャング同士の抗争として処理されることになった。