細かいところで喜ばせにくるの本当にありがたいです。
まぁ、見た限り人の心案件とかけっこうありそうですけど。
今回はさっくり軽めです。
「あーなるほど、こういう感じね」
トリニティには古代から残る遺跡が多数存在するが、その多くは居住エリアから離れた郊外に存在しており、森に囲まれていたり海岸に打ち捨てられていることも珍しくない。
ミラは現在、木の上から迷彩マントを被って正義実現委員会が警備をしているという遺跡を観察していた。
正義実現委員会が敷いている警備は厳戒態勢とは言わずとも厳重なもので、生半可な潜入ではすぐにバレてしまいそうなほどだった。
「さすがに昼にお邪魔するのは現実的じゃないか。ここは夜まで待った方が良さそうだね」
少なくとも、昼間にアンとして中に入れるほど甘くはない。
だったら、闇夜にまぎれて誰にも気付かれずに潜入する方が話は早いし後腐れもない。
そう判断したミラは、木の上から飛び降りてその場を後にした。
「よし、それじゃあ改めてお邪魔するとしよっか」
その日の夜、黒い装束に着替えて翼も真っ黒に塗りつぶした完全隠密スタイルでミラは再び遺跡に訪れた。
すでに普通なら寝ている時間であるにも関わらず、正義実現委員会の巡回は絶え間なく続いていた。
とはいえ、なんのために警備しているのかは詳しく聞かされていないのか、単純に時間の問題なのか、モチベーションは昼ほど高くなくいくつか警備の穴が空いている。
そこを狙えば侵入は容易だろう。
問題なのは、ミラ自身何を調べればいいのか見当がついていないこと。
何か隠しているのは間違いないが、何を隠しているのかまでは見当がつかない。
奇しくも、先生が来たばかりの時のワカモと似たような状況だった。
「まぁでも、見えるところには何もなさそうだし、何かあるとしたらここからは見えない地下とかかな」
現にいくつか地下に降りる階段を昼の内に見つけており、さらには巡回が他よりも優先して見張っているのがなお怪しい。
狙いを絞り、巡回ルートを把握してから潜入を開始した。
夜にも関わらず照明は階段付近に集中しており、外周は正義実現委員会が懐中電灯で照らして回っているのみ。
ある程度中に入り込んでしまえば、巡回ルートから外れている障害物の陰に入ることで難なく姿を見られずに接近できた。
問題は階段付近の警備。照明の下で4人の正義実現委員会が絶えず見張っているため、どう動いても姿を見られてしまう。
小石を使った古典的な陽動作戦をしてもいいが、それだと脱出が難しくなってしまう。
となると、ここは文明的な手段に頼る方がいいだろう。
そう判断したミラは、そっと顔を覗かせて警備と照明、厳密にはバッテリーの位置を確認し、音を立てず警備の視界の隙間を縫うように電撃を放った。
「うわっ、なんだ!?敵襲!?」
「落ち着けって。端末に異常はないし銃声も聞こえなかった。バッテリーがショートしただけだ。これくらいならすぐに直せる」
「古くなってましたし、予算で新しいの買えませんかね?」
ミラの狙いどおり、唐突な停電は襲撃ではなく機材トラブルとして認識され、一時的に意識が階段から逸れていく。懐中電灯を点けて見張りを続行する生徒もいたが、狭い範囲しか照らせないため階段まで近づくのは容易かった。
バッテリーが修理されるまでの決して長くない制限時間の中、階段の下に降りたミラは手早く調査を始めた。
中はごくシンプルな構造になっており、長い直線から生えたいくつかの別れ道の先に部屋があるのみだった。
だが、昔は何に使われていたのか全てが空き部屋で、いくつかに調査用の荷物以外は何も置かれていなかった。
すでに発掘作業を終えた後という可能性もあるが、それにしては作業の跡らしき痕跡も見つからない。
(本当に何もないのか・・・あるいは、ここには何もないと
調査道具の中身を確認してみたいところだか、下手に物音を出してバレてしまったら面倒くさい。
タイムリミットも近づいていることから、仕方なくミラは適当に当たりをつけた壁を触ってみるだけに留めることにした。
だが、そんな妥協で始めた調査が意外にも実を結ぶことになった。
「・・・感触が違う?」
表面の石材に大きな違いはない。
だが、押したときに返ってくる感触がわずかに普通の石材建築とは違うような気がした。
返ってきた感触は、押し固められた土や支えになっている木材のような柔軟性をもったものではなく、同じ石材かあるいは金属のような硬質的なものだった。
セメントの類いで固められているのかとも思ったが、僅かに隙間が存在するようにも感じる。
おそらくは、石造りの壁の二枚重ね。
それが示すものは、
「隠し部屋、か」
いきなり当たりを引いたと笑みを浮かべるが、奇妙なことに隙間は感じるのに空洞の気配はなかった。
証拠隠滅のために埋め立てたのか。だがそれなら目撃証言の一つや二つがあってもおかしくない。
もっと詳しく調べてみたいところだったが、残念なことに時間切れだった。
「どうだ?」
「もうすぐです。それにしても、漏電でもしてたんですかね」
「あり得なくはないな。今度点検に出そう」
程なく修理が完了するという旨の会話が聞こえたことで、ミラはやむなく調査を中断して即座に地下通路から脱出した。
ミラが警備を掻い潜って遺跡から脱出したのと、照明が復旧して再点灯したのはほとんど同時だった。
ひとまず当初の予定どおり誰にもバレずに遺跡を調査することはできたが、分かったことと言えばこの遺跡に隠し部屋があるだろうということくらい。それもまた来たところで調べられるかどうか分からないようなもの。
当たりと言えば当たりかもしれないが、労力に見合うものとは言えなかった。
(ひとまず、今日のところは引き上げて明日は古書館に行こう。あの遺跡に関わることを徹底的に調べないと)
乏しい情報を補強するためにも、ひとまず足場を固める必要がある。
そう判断したミラは、古書館で調べるべき内容を頭の中で精査してその場を後にした。
* * *
「なんで何もないの・・・?」
翌日、古書館で地形図や歴史書などの該当する書物を片っ端から調べているにも関わらず、昨日の遺跡に関する有用な情報が一切出てこない事実にミラは頭を抱えた。
分かったことと言えば、あそこは元々地下倉庫として利用されていたということくらい。
隠し部屋はおろか、ろくな使用記録さえ残っていなかった。
「おかしい、たしかにあそこに隠し部屋があったような気がしたはずなのに・・・」
「気のせいとかじゃないんですか?それか、実は子供の秘密基地みたいな場所だったとか」
「どっちもないって言いたいけど、ここまで情報がないとどうしようもなさそうなのがね・・・」
もし一つでも証拠が残っていればまた話は違っていただろうが、頼れるものはミラの感覚だけだ。
ミラのことをよく知る人物であればそれで十分かもしれないが、そうでもない人物に渡す情報としてはあまりにも弱すぎる。
「で、どうするんですか?」
「こうなったら、調べられる遺跡は片っ端から全部調べたい。でもティーパーティーのこともそろそろ探っておきたいし、やることが多すぎる・・・!」
ティーパーティーの件は言わずもがな、遺跡の調査にしてもトリニティ自治区内に存在する数百の遺跡をしらみ潰しに調べるのは現実的ではない。
そして何より、補習授業部のタイムリミットが分からないせいで下手に時間をかけられないのが面倒に拍車をかけていた。
いっそもうハナコと接触しようかとも考えるが、今の段階で味方と認識してもらえるだけの土産は用意できていない。
まだ詰んでいる状況ではないが、一歩間違えると詰みそうなことに変わりはなく、いい加減に解決の糸口を掴みたいところだった。
「それで、どうします?」
「・・・一度、浦和ハナコと話してみる。さすがに一回だけで協力してもらえるとは思えないけど、顔合わせくらいしても損はないでしょ」
他にできることがないから仕方なくやるだけではあるものの、共闘を持ちかける前に人となりを把握しておいた方がいい。
最初の邂逅で自分の狙いを把握される可能性もあるが、補習授業部の真意が分かれば無下にはしないだろう。
「それって、大丈夫ですか?たしか礼拝堂にスク水で出席したって噂の生徒ですよね?」
「ウイにまで噂が届いてるのか・・・」
・・・しないと思いたいところだ。