キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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執筆途中で丸々書き直した結果、投稿が遅れてしまいました。
それはそれとして、トイレが壊れてそれどころじゃなかったのもありますが。


トリニティ編・12

「あれ、いない?」

 

先生に姿を見られるわけにはいかないということで、その日の夜にコッソリと合宿棟に向かったミラだったが、中には誰の姿もなかった。

先生はもちろん、いるべき4人の生徒まで。

すでに全員寝ている可能性もなくはないが、夜は夜でも自習しているであろう時間を狙ってきたため、その可能性も低い。というより、そもそも建物の中に人の気配を感じない。

“実は今日が試験の日で留守にしている”という可能性もなくはないが、やるにしては微妙に遅い。退学させるための策にしてもしょぼすぎる。

果たしてどういうことかと首を捻りながらも校舎内を探索していると、不意に外から声が聞こえてきた。

 

(なんだ、外に出ていただけか・・・いやなんで?)

 

わざわざ夜の外に出る必要があるのだろうか。散歩にしても合宿棟の敷地内を先生を含めた5人で夜に出歩く理由が思い浮かばない。

というより、そもそも声の出所が散歩に向いているだろう庭から外れている。

ならば襲撃でもあったのか。そうも思ったが、それにしては銃撃音や爆発音もなく静かだ。

何が起きているのか。あるいは、何も起きていないのか。

二つの可能性の間で揺れながら、それを確かめるべく声が聞こえる方へと近づいていく。

合宿棟の上階から眺めながら探していると、答えが見つかった。

声が聞こえていた場所は、合宿棟に移った初日に補習授業部が掃除しているところを眺めたプール。

そこで、水着に着替えた面々が先生も一緒にパーティーのようなことをしていた。

 

「???」

 

その光景を見て、ミラは思わず思考を止めてしまった。

水着を着てプールにいるのは、まぁわかる。普通と言えば普通のことだ。

だがそれはそれとして、なぜ夜のプールで、わざわざお茶会をやる必要があったのだろうか。

というより、なぜ先生も参加しているのだろうか。普通に考えれば止めるべき立場の人間のはずなのだが。

考えられるとすればハナコが発案した可能性が高そうだが、乗っかる方も乗っかる方だ。

やはりお嬢様学校とはいえど、火遊びをしたくなることに変わりはないらしい。どちらかと言えば水遊びに見えなくもないが。

ただ一つ、分かることがあるとすれば、あれには混ざらない方がいいということだろう。

先生に自分の存在がバレるというだけでなく、何か大事なものを失ってしまいそうな気がする。

 

「本当に、間が悪いというか、タイミングが噛み合わないな・・・」

 

相手次第の後手後手な動き方をしているから仕方ないとはいえ、どうせ足止めを食らうならもう少しまともな場面の方が良かったものである。

あるいは、目標があの浦和ハナコであるならば、これも致し方なしと捉えるべきか。

ただ幸運なことに、今回の訪問が無駄に終わることはなかった。

疑問と諦念が綯交ぜになったような表情でプールにいる5人、特にハナコを眺めていると、不意にハナコが視線をミラがいる方に向け、目と目があった。

ミラはフードを被っていて目元が隠れており、そもそも距離が離れていてハナコからは輪郭しか見えないだろうにも関わらず、そう感じるほどハナコの視線はまっすぐミラを捉えていた。

ミラの存在に気付いたのは偶然だろう。

偶然体の向きが校舎によっていて、偶然気配を感じて視線を上げたらミラがそこにいた。ただそれだけのこと。

だが、その偶然を掴み取る立ち回りをしたのは間違いなくハナコだ。

水着パーティーをしているタイミングになったのは本当に偶然だろうが、それでもミラに抜け目ないと思わせるには十分だった。

 

「・・・食えない女だね」

 

特に隠れているつもりはなかったとはいえ、この距離の視線を正確に感じとれる能力の持ち主というのは油断できない。

正面から戦えば、必ずミラが勝つ。ハナコには万に一つもないだろう。

だが戦闘以外となると、果たしてどうだろう。

そんな得たいの知れなさを感じさせる相手は、“ゲマトリア”を除けばいつ以来だったか。あるいは、一人の生徒相手に限れば初めてかもしれない。

勝ちにこだわっていなかったとはいえ、以前のカイザーの例もある。

油断や欲目に気を付けるに越したことはないだろう。

逆に言えば、味方にできれば頼もしい存在ということでもある。

 

(ここは・・・使ってる様子はなし。隠すにはちょうどいいか)

 

ちょうどよく近くに補習授業部も使っていない教室を見つけたミラは、その中に入り教卓の収納スペースに一枚のメモを忍ばせた。

幾分か希望的観測もあるが、ハナコならばおそらく気付くだろうと期待して。

 

(さて、今日のところは退散するとしようか。ついでにどこかに寄り道でも・・・いや、やっぱりやめておこう。なんか碌でもないことが起こりそうな気がする)

 

背筋に謎の悪寒を感じながら、ミラはその場を後にして大人しく拠点への帰路についた。

なお翌日、飲食街の方で美食研究会が店を爆破して騒動になったという話を聞いたミラは、もしあの時ふらっと寄っていたらどうなっていたかを想像して思わず鳥肌をたてることになった。

 

 

* * *

 

 

美食研究会、というより黒舘ハルナと鉢合わせなかったことに安堵したその日の夜、ミラは再び夜の合宿棟を訪れていた。

だが、今回は校舎内に忍び込むのではなく敷地内の庭にあるベンチで座っていた。

人気のない深夜とはいえ、隠れることもなく堂々と姿を晒す。

暗闇の中に淡くポツンと浮かんでいるようにも見える純白はいっそ異質とも言えるが、今はむしろそれくらいでちょうどよかった。

 

「初めましてですね、浦和ハナコさん。そろそろ出てこられても良いのでは?」

「・・・」

 

ミラが座っているベンチ、その後ろの植木の陰に隠れるように佇んでいたハナコを呼び出した。

対するハナコは、バレていては仕方ないというように姿を現した。

ハナコとしては最初は隠れるつもりはなかったのだが、その異質な気配を前に思わず立ち竦みそうになってしまい、近くの木にもたれかかって気持ちを整えていた。

ミラが話しかけたのは、気持ちの整理がちょうどできたタイミングだった。

今度は冷静さを欠くようなことはなかったが、まるで最初から全て分かっていたかのような振る舞いに警戒度を上げる。

 

「初めまして、運命アンと言います。まぁ、もしかしたら噂くらいは聞いているかもしれませんが」

「あなたは・・・」

「ここでは不要な探り合いは無しでいきましょう。今互いに必要なのは、情報と認識の擦り合わせですから」

 

もしやと正体について言及しようとしたハナコの言葉を、ミラは遮るようにして止めた。

そして、ハナコはそれで目の前の存在について確信してしまった。

目の前にいる少女のような純白の容姿など、広いキヴォトスと言えどもそう何人もいるものではない。

そして、アンの目元が完全に隠れるほど深く被っている、例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大きなフード。

ここまで情報が揃ってしまえば、否が応でも理解せざるを得なかった。

目の前にいる『運命アン』を名乗る少女の正体が、あのトリニティ最大の仇敵にしてキヴォトス最強の生徒であると。

ハナコは他のトリニティ生のようにゲヘナを特別憎んでいるわけではなく、そもそも自分がトリニティに入学した時点ですでに消息を絶っていたため噂でしか聞いたことがなかったが、それでも意識せずにはいられない、それほどの相手。

さらに聞いた噂の中には『ゲヘナの誰よりもトリニティを恨んでいる』というものもあり、さすがに誇張表現が含まれているだろうが少なからずトリニティのことを良く思っていないだろうと考えられていた。

だからこそ、こうして素直に話し合いに応じてくれているというのは意外でもあったのだが。

 

「・・・そうですね、分かりました。では、単刀直入に聞きますが、あなたは敵ですか?」

「味方ですよ。少なくとも先生と敵対するつもりはありません」

 

つまり、補習授業部のことは本来眼中にないが、先生が味方をしているからその意思を尊重しているということか。

油断はできないが、思っていたよりは大分マシな方だ。

 

「ではこちらからも。ハナコさんはどこまで事情を把握していますか?」

「きっかけはおおよそ。アンさんは?」

「私もおおよそは。とはいえ持っている情報も多くはないので、知っていることを話していただけるとありがたいです」

 

何を知っているのかと聞かれたら、それは補習授業部の真実だ。

つまり、ティーパーティーの桐藤ナギサによる裏切者の炙り出しと排除のために設立された部活であること。

3回行われる特別試験に合格しなければ退学になること。

そのことはヒフミと先生も把握しているだろうこと。

そして、方針が排除に大きく傾く可能性が高いこと。

ただし、これをどこまで話すべきかはハナコも決めかねていた。

まだアンのことを信用できないとか、確証のない仮説を話すわけにもいかないとか理由はいろいろとあるが、何より仲間を売るような真似だけは絶対にするつもりはなかった。

アンの目的が分からない以上、迂闊な情報は渡せない。

だからこそ、

 

「・・・まぁ、別に今じゃなくてもいいんだけどね。そこまで期待してたわけじゃないし」

 

その一手は、不意打ちというにはあまりにも鋭すぎた。

唐突にフードを外さない程度に、だが隠された中を見せるには十分なほどに上げて。

白髪赤目に、頭部から伸びる二対の角が、ハナコの前にだけ露になった。

 

「なっ・・・!?」

 

運命アンの姿ではなく、暁ミラの正体を晒されたことにハナコは思わず驚きを隠せなかった。

なぜこのタイミングで正体を明かすのか、その答えはミラ本人の口からもたらされた。

 

「あぁ、うん。別に脅しとかそういうのじゃないよ。どうせ私のことはバレてたみたいだし、ハナコならみだりに私のことを吹聴したりしないだろうからね。こっちの方が説得力もあるし」

「では、あなたの目的は・・・」

「私としても、ヒナのためにエデン条約は成功させてあげたいんだ。あとは先生の手助けもしたいのと、野暮用ついで。本当はここまで首を突っ込むつもりはなかったんだけど、とある人に頼まれてね」

「それは、誰ですか?」

「・・・今はまだ秘密ってことで」

 

ミラもまた、セイアのことを話すべきか悩んだ結果、話さないことにした。

表向きには体調不良による入院、ごく一部の関係者の中では死亡したとされているのに、まさか実は生きていてしかも夢の中で接触したなど、到底信じてもらえるとは思えない。

教えるにしても情報が出揃ってからでいいだろう。

 

「それに、私の中ではある程度全貌がまとまってるんだけど・・・証拠になるようなものは何一つないんだよね。だから、これは取引。あくまで対価をやりとりするだけだから、必ずしも私を信用する必要はない」

「では、あなたが正体を晒したという対価で私と協力関係を結ぶ、ということですか?」

「そう思ってもらっても構わないよ。あと、できれば先生には私のことは内緒にしておいてほしいかな」

「・・・わかりました。皆さんを助けるためなら、人手は少しでも多いに越したことはありません」

「ありがとね」

 

いろいろと不安要素はあるが、先生の手前で大人しくしてもらえるのであれば問題ないだろうと、ハナコはミラの要求を飲むことにした。

それに、自分の知り得ない情報が入ってくるのであれば手のうちようも増えるし悪いことではない。

思ったよりも穏便に話し合いが済んだことで、ハナコは小さく息を吐いて肩の力を抜いた。

だが、それはミラの方も同じだったようで、ハナコ以上に息を吐いていた。

 

「はぁ~、噂の水着狂が相手でどうなることかと思ってたけど、思ったよりまともで良かったよ」

「おや、実は制服の下に身に付けているのですが、確かめてみますか?」

「あぁうん別にいいから制服に手を掛けないでほんとにお願い」

 

ミラとてゲヘナで山ほど問題児を見てきたが、さすがに服を脱いで水着になりたがるような変態はいなかった。

一応、他所には目を疑いたくなるような布面積の生徒もいることにはいるが、あくまでそれはファッションの一環であって決して背徳感を楽しむためのものではない。

むしろ肌面積だけで言えばゲヘナの方がよっぽど健全と言える。なおアコは除くが。

端的に言えば、ミラはゲヘナにいないタイプの問題児を相手にどう対応するべきか決めあぐねたまま話し合いに臨んでいた。

そして、最終的に平和的に終わることができたため、できればそのまま終わらせてほしかった。

というより、胸で上着が浮いて腹が見えているのに水着を着ているとはどういうことか。

いろいろと余裕がなくなりそうになっているミラを見て気が済んだのか、ハナコはからかうのをやめて他の聞くべきことについて尋ねた。

 

「それで、あなたのことは他に誰が知っていますか?」

「あぁ、うん、明確に知ってるのは図書委員長だけ。あとは正義実現委員会とシスターフッドの一部にはバレてそうかな」

「ティーパーティーには?」

「たぶんバレてないかな。接点も動きもないし」

 

なぜ、とは聞かない。

そこまで必要ない情報だから、というのもあるが、そろそろタイムリミットが近づいているからというのが大きかった。

 

「それでは、私はこれで失礼します」

「わかった。そうだ、連絡先を交換しておかないと」

「そうでしたね」

 

最後にももトークを登録して、この場は解散となった。

それからそのまま拠点へと戻ったミラは、そのままボフッとベッドの上に倒れこんで大きく息を吐いた。

 

「はぁ~・・・浦和ハナコ、灰汁が強いというか何というか・・・」

 

今回の邂逅で確信できた。

ハナコという生徒、才媛と変態のどちらが素かと思ったら、どちらも素だったとは恐れ入った。

おそらくあの変態性は才媛で居続けた反動によって生じたものなのだろうが、それにしてもいきなりプールでもない公衆の面前でスク水姿を晒すとは、あまりにもためらいがなさすぎる。

できればミラとしてもあまり近づきたくない類だが、なまじ優秀なだけに今回限りの縁にするにはもったいなさすぎる。

一応彼女の中でも線引きはあるようだが、おそらくそれは仲間や友人であって常識とか体裁はいっさい基準になってない。

 

「・・・まぁ、変なことに巻き込まれないことを祈るしかないか・・・」

 

暁ミラ。周りからもっぱらやべー奴認定されているが、それでも一応は恥じらいの感性は残っている花の女子生徒でもある。

ならばハナコの恥じらいはいったいどこにあるのか、それを知る者は誰もいないのだろう。




ストーリーでアズサに気付かれず尾行してたんで、多分これくらいはできるかなと。
それはそれとして『ゲヘナにもいないやべー奴』という言葉の重さよ・・・。
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