キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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トリニティ編・17

「あーもー!多すぎるっす!?」

 

ミラが屋上で狙撃を続ける傍らで、迫り来るアリウスの軍勢を対処するイチカの悲鳴が響き渡っていた。

即席で作り上げた陣地を使って抵抗するイチカだったが、単純な兵力はもちろん、グレネードランチャーなどの爆発物も多用してくるため、いつ爆破されてもおかしくない状況に冷や汗を流しっぱなしだった。

そんなイチカに、ミラは狙撃を続けながらエールを送る。

 

「大丈夫大丈夫、イチカならもっとやれるよ。ほらほら、がんばれがんばれ」

「なに他人事みたいにしているんすか!元を辿ればそっちが巻き込んだせいでこうなってるんすけど!?」

「がんばれがんばれ♡」

「可愛らしく言っても許されないっすから!!」

 

イチカの人間性はもはや限界が近づいていた。

あちこちで爆発が起きている中でもほとんど精度を損なわず狙撃を続けているのは素直に賞賛に値するが、だからといって送られてくる言葉は応援というにはあまりにも他人事すぎる。

一応、さっさとイチカの化けの皮を剥がそうというミラの狙いもあるにはあるのだが、そんなことなど知る由もないイチカからすればただひたすらにストレスでしかなかった。

だからこそ、次のミラの言葉が最後の一押しになった。

 

「ほらほら、私のことはいいから好きに暴れてきなって。籠ってばかりの方が集中攻撃を受けるだろうし、サンドバックにはちょうどいい数なんじゃない?」

「・・・いいんすね?後になって文句言っても知らないっすからね?」

「どうぞどうぞ」

 

プツッという音と共に吹っ切れた、というよりやけくそになったイチカは、ゆらりと幽鬼のような佇まいで持てるだけの弾薬を持ち出してから、突撃を敢行した。

 

「なっ、特攻してきた!?」

「怯むな!迎え撃て!」

「いろいろムカついてきたんで、ちょっと憂さ晴らしに付き合ってもらうっすよ・・・!!」

 

思わぬ奇襲に面食らいそうになりながらも迎撃しようとするアリウスだったが、あっという間に集団の中に潜り込んだイチカが乱戦に持ち込んだことで一気に状況が混沌となった。

銃撃だけでなく、時には近接格闘で蹴り飛ばし、時には敵の武器を奪って乱射し、「ははっ、アハハハハハっ!」と凶笑を撒き散らす戦い方は、どちらかと言えばゲヘナに通じているものがあった。

その様子を横目で見ながら満足げに頷いたミラは、引き続き狙撃を再開した。

だが、イチカが集団の中に飛び込んだということは、イチカが押さえ込んでいた分の戦力がミラの方にも向けられるということでもあり、

 

「い、今だ!狙撃手を押さえろ!」

 

集団の中でもミラに近い3人のアリウス兵がミラに襲いかかろうとする。

それもまた、ミラの想定の範囲内だった。

 

「はい、いらっしゃーい」

「え?」

 

体育館を狙っていたはずの銃口が、いつの間にか自分に向けられていた。

それを認識した次の瞬間、至近距離で放たれた弾丸が頭部に直撃して吹き飛ばされた。

他のアリウス兵が排莢の隙を狙おうとしたものの、銃口を向けるよりも早く接近したミラに銃床を腹に叩きつけられ、反対側にいた最後の一人を手早く排莢してから胴体を撃ち抜いて吹き飛ばした。

 

「狙撃手だから近づけば大丈夫だと思った?残念、こっちの方が得意なんだよね」

 

余裕の表情で対物ライフルを長柄武器のように振り回しながら肩に乗せたミラは、再び体育館への狙撃を再開する。

 

「なっ、なんなんだこいつら!?」

「くそっ、さっさと制圧しろ!」

 

そんな二人の戦いぶりは数で圧倒するアリウスをものともしない勢いで蹴散らしており、狙撃しているミラを押さえるどころかイチカによってさらに被害が拡大していた。

だが、そんな二人にも限界というものはあり、

 

「あっやっべ弾がなくなりそうっす!」

「うーん、こっちもそろそろまずいかなぁ」

 

ミラがありったけと要望したものの、さすがにイチカ一人でこっそり持ち出せる量には限度というものがあり、補習授業部と合わせて半分以上片付けただろうかという辺りで弾不足が深刻になり始めた。

そのせいでイチカが正気に戻りそうになっており、そうなれば実際の戦力低下はただの弾薬不足におさまらないだろう。

何より、この場を乗り切るだけならミラだけでもどうにでもなるが、援護がなくなったことで補習授業部の方がさらに勢いづく方が問題だった。

その旨をハナコに連絡したいところだったが、向こうは向こうで忙しいだろうことを考えれば得策とも言えない。

 

「ちょっと!少し粘れば楽になるって話はどうなってるんすか!?」

「んー、こうなったら仕方ないかな。ここらへんが潮時ってことで・・・」

 

そろそろ撤退しようか、と続けようとした直前、ミラの視線がある一点に向けられた。

それとほぼ同時、アリウスにも困惑と動揺の動きが広がり、続々と登ろうとしていた後続が足を止め始める。

その隙に近くのアリウス兵を蹴り飛ばして脱出したイチカはミラの元に駆け寄った。

 

「何が起きたんすか?なんかいきなり相手の動きが悪くなったっすけど」

「ようやく援軍が来てくれたみたいだね」

「援軍って、いったいどこっすか?」

「あっちを見ればわかるよ」

 

そう言ってミラが指差したのは、大聖堂がある方角だった。

目を凝らしてみれば、そこに続く道から多数の人影が合宿棟へと向かっていた。

大聖堂から現れたアリウスに対抗できる一大勢力など、一つしかない。

 

「まさか、シスターフッドが動いたんすか!?」

 

中立を徹底し政治に不干渉でありながらティーパーティーに匹敵するほどの影響力を持つ勢力が、トリニティの危機のために動き出した。

 

 

* * *

 

 

ミラとの最後の邂逅の後、ハナコは勧誘された際に知り合い連絡先を交換したサクラコに掛け合った。

 

「夜分遅くにすみません」

『いえ、ハナコさんがこの時間にかけてくるということは、余程の事態なのでしょう。それで、どのようなご用件ですか?』

「単刀直入に言います。シスターフッドの全戦力を動かしてください」

『・・・話を詳しく聞きましょう』

 

ただごとではないと察したサクラコは、ハナコに話の詳細を促した。

そこでハナコは現在補習授業部が置かれている状況とトリニティの裏切り者について全てを話した。

全てを聞いたサクラコは、決して短くない沈黙の中で思考を整理してから気になることについて尋ねた。

 

『・・・おおよその事情は把握しました。ミカ様に関する情報はどのように入手したのですか?』

「運命アンさんからです。彼女もこの件について動いているようで、私たちに協力してくれています。このことを知っているのは私だけですが」

『なるほど。ですが、なぜ信用に足ると判断したのですか?たしかに彼女はシスターフッドとも良好な関係を築いていますが、これほどの情報を無条件に信じるあなたではないでしょう』

 

この問いかけに、ハナコは口を閉ざす。

ハナコはその答えを持ってはいるが、おいそれと口にできるものではない。

仮に誤魔化したとしても手を貸してくれる可能性は十分にあるが・・・

 

「サクラコさん、周囲に人は?」

『いえ、今は私だけです』

「・・・アンさんの正体は、ゲヘナの暁ミラさんです」

『っ!?』

 

それでも、ハナコはサクラコに運命アンの正体を明かすことを選んだ。

さすがに威力は絶大だったようで、電話の向こうでサクラコは少なからず驚いていた。

 

「今のミラさんは私たちの味方というより、先生の味方として動いている状態です。それと、幼馴染みであるゲヘナの風紀委員長のためにエデン条約の調印に手を貸しているというのもあるようです」

『そう、でしたか・・いえ、予想していなかったわけではないですが、まさかハナコさんに正体を明かしていたとは・・・』

 

やはりそうだったかと、ハナコは内心で軽く息を吐いた。

以前ミラが『正義実現委員会とシスターフッドの一部にはバレているかも』と言っていたことから、サクラコなら把握しているのではないかと考えたが、どうやら当たりだったようだ。

 

『そういうことでしたら、事態はよほど深刻なようです。シスターフッドも力を貸しましょう』

「ありがとうございます」

『ですが、条件があります』

「条件、ですか?」

『はい。どちらかと言えば、“約束”のようなものですが』

 

そう前置きして、サクラコは参戦するための約束をハナコに告げた。

だが、それはハナコからすれば安いものであり、

 

「わかりました、約束しましょう」

 

ここに、シスターフッドがとうとう表舞台に現れることが決まった。

 

 

* * *

 

 

ミラとイチカが粘っていると、アリウスの後ろから現れたシスターフッドが挟み撃ちにしたことでなんなく合流を果たした。

 

「運命アンさん、お待たせしました。それと、そちらは正義実現委員会の仲正イチカさんですね?」

「はいっす。一応、今はただのアンさんの友達としてここにいるっすけど」

「増援感謝します。数は?」

「ほぼ全戦力を」

 

第三者が来たということで、ミラとイチカは即座に猫の皮を被り直した。

先程まで本性を晒して暴れまわっていたなんて知る由もないシスターフッドの生徒は、少し心配そうな表情をミラに向けた。

 

「ですが、アンさんは大丈夫なのですか?病弱と伺っていますが・・・」

「たしかにそうですが、だからといって必ずしも貧弱であるとは限らないでしょう?」

(どの口で言うんすか)

 

キヴォトス最強が言うと図々しいにもほどがある。

とはいえ、一応は納得したのかシスターフッドは「そうですか・・・」と大人しく引き下がった。

 

「ここからは、私たちも共に戦わせていただきます。追加の弾薬もお持ちしました」

「ほんとっすか?助かるっす!」

「ありがとうございます。ですが、私の対物ライフルの分まで?」

「参戦する前に、ある程度戦況は見させていただきましたので」

 

シスターフッドの言葉に、一瞬さっきまでの自分たちの姿を見られていたのかと冷や汗をかきそうになる二人だったが、そこまで見れていなかったのか、あるいは見なかったことにしているのか、深く追求されなかったことにこっそり安堵の息を漏らした。

 

「でしたら、私は引き続きここから狙撃を続けます。皆さんは護衛をお願いします」

「わかりました。イチカさんもよろしくお願いします」

「はいっす!」

 

盤面は完全にひっくり返った。

アリウスとミカに決定的な一撃を与えるべく、彼女たちは最後の戦いへと臨んでいった。




アニメでイオリが思ったより盛られたおかげで、マジでバーサーカーイチカならアリウス相手に無双できそうな感じになりましたね。
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